谷崎潤一郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
谷崎潤一郎のマゾヒズム関連作品を集めた短編小説集。石を投げればマゾヒズム小説に当たりそうな谷崎作品の中から厳選された下記6作品が収録されています。
『少年』
少年がマゾヒズムに目覚める物語。永井荷風が絶賛したとのこと。性の目覚めとマゾヒズムの目覚めがほぼ同時に訪れる点が早熟な谷崎潤一郎らしい。
真っ白な右脚の脛を見せた光子の初登場に「この人が女王様だ」と思ったものだが(だいぶ谷崎の嗜好にやられてます)、弟の信一が最初のご主人様だった。やがて、夜の西洋館で覚醒した姉が女王様となる。
夜の西洋館に忍び込む濃密な描写が秀逸。西洋館で待つのは洋服の美少女。もちろん素足。まだまだ“洋服“は特別な時代です。
『幇間』
幇間を載せた花見船の描写がワクワクする。河原や橋の上の人びとを巻き込みながら船は隅田川を登っていく。
幇間三平に「惚れた女に指図されたい、馬鹿にされたい」という嗜好が多少あるのはわかるけれども、三平のは、マゾヒズムというよりただのお調子者の幇間気質なんじゃないかと思う。コミュ力があって潤滑油となれる現代社会でも重宝される性格ですね。
『麒麟』
谷崎のデビュー翌年の作。「孔子を主人公に書いてみました。漢文の素養くらい当然持ってます。」みたいな作品。
孔子が衛の南子夫人に太刀打ちできなかったって話で、南子夫人の被虐趣味に引き込まれたとか魅せられたという話ではないのに、何故この『マゾヒズム小説集』に収録されたのか、僕には分かりません。
『魔術師』
「少年」「幇間」「麒麟」とデビュー間もない作品が続いたが、これはデビュー7年後の大正期の作品。西洋やオリエント等々への憧れを絢爛な文章で並べ立てた幻想文学。「乙女の本棚」向きだなと思ったら、既刊でした。中公文庫版の「人魚の嘆き・魔術師」の挿絵が素晴らしいそうなので、今度見てみようと思う。
『一と房の髪』
大正期、震災後の作品。混血の男3人がロシアの亡命貴族の未亡人を奪い合い、震災で倒壊した建物の中で火の手の迫る中、決闘をするのだが、語り手の男は命が惜しくなり自分だけ逃げ出してしまう。
震災前の『魔術師』と連続で読まされると、「震災をキッカケに何かが変わってしまったんだろうな」と深読みしたくなります。
『日本に於けるクリップン事件』
「マーダーケースブック」にも収録されていたホーリー・クリッペンの事件を紹介し、「日本でも同様の事件が見つかったよ」と報告する変な構造の小説。クリッペン事件の動機を勝手に解釈して、マゾヒストの精神構造について熱く語る部分が面白い。ついつい説明したくなっちゃうんでしょうね。
本作は芥川龍之介と谷崎との有名な論争のキッカケにとなった作品らしいのだが、それはマゾヒズムとは別の話。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ■江戸川乱歩「鏡地獄」
既読を再読。
■谷崎潤一郎「人魚の嘆き」
未読のまま。
水島爾保布の挿画ありの中公文庫で読みたいので。
■小栗虫太郎「方子と末起」 ★
初読。まさことまき。
百合、スール、手紙のやり取りという少女小説、にして不思議の国のアリスモチーフ。
推理小説<恋愛小説。
■泉鏡花「妙の宮」 ★
初読。
たった4ページだが、なんでこんな風景を思い描いたのだろう? と。
■木下杢太郎「少年の死」
高原英理・編「少年愛文学選」で既読。
■坂口安吾「蝉―あるミザントロープの話―」
初読だが、混乱をそのまんま文章にした風情で、よくわからなかった。
Misanthrope はフランス語で「人間ぎらい」の意味。
■夢野久作「死後の恋」 ★
どこかで読んで、ポッドキャストで朗読を何度も聞いて、また読んだ。
グロテスクと美が結びついたらこうなる。
■芥川龍之介「疑惑」
初読。
まあまあ。
■小川未明「百合の花」
初読。
太郎。勇。独楽。泉。お花。百合の花。
言葉と絵で描く夢のような。
■中島敦「文字禍」 ★
再読、かもしれない。
いわゆる「ゲシュタルト崩壊」を、その概念が提唱されるもっと前に小説化している。
しかもある意味残酷童話的な話として。
これは面白い。 -
Posted by ブクログ
「梟書茶房」の、猫をテーマとした袋綴じ本をプレゼントで貰ったので読んだ。
谷崎のことをよく知らないんだけれど、「陰翳礼讃」「痴人の愛」等の作品から、美学の人だというイメージだったので、こういう大衆小説みたいなものも書いていたんですね、という感想。
猫をめぐる人間関係、ちょっと面白かったけど、少し感傷に浸ったところで、結局何も変わらないんだろうなこの人たちは。
リリーがいなかったとしても、結局は我が身はあんまり振り返らず、何となく流されて、人生の後半戦をふわっとそれなりに諦めながら生きていくんだろうな、と思った。
星としては3.8くらい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレナオミという女が周囲の男たちを翻弄する物語。
読者視点だと最初は「そんなことある?」とナオミに苛立ちを覚え、それに対する主人公の河合にも共感できずにいた。自分の人生やお金を無駄ごとに使う人なんて馬鹿げていると思っていた。しかし、最終展開に差し掛かり、なにかにた経験あるなと感じるところが多々あった。
「翻弄する何か」になすがままに翻弄されることは、第三者から見れば馬鹿げているかもしれない。でもその間の幸せや幸福は計り知れないものだと、私も確かに知っていた。それは単に異性や人ではなくても、何か身近なものにさえも共通する、誰しも感じる感情ではないだろうか。
河合は「ハイドゥハイドゥ」を心の底から求めており、それはきっと永遠の病だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ総題の漢字よし。
収集箱じゃつまらない、蒐集函なのだ。
カバーイラストも素敵。
新潮文庫nexというレーベルで、ヤングアダルトにこの作品たちを差し出した編集部、GJ!
■坂口安吾 桜の森の満開の下
既読を再読。
■芥川龍之介 影 ★
初読。
芥川といいえばドッペルゲンガーなのでそういうことかと中盤で思わせておいて、ラストなんと映画だった? 夢だった? というオチ!
しかもそれすら真実かどうか不明な放り出し方。凄い。
しかし、「歯車」でも感じたことだが、狂気に飲み込まれそうな感覚を、それでも作品化「しちゃえる」ことが、逆に悲劇だったのかもしれないと考えたりもした。
■江戸川乱歩 芋虫
既読を再読。
■泉鏡花 浮舟 ★
初読。
少年士官、袂の懐中時計が消えたと思いきや、遭遇した赤ん坊が持っている。
赤ん坊は落ちないよう橋に赤い帯で結ばれている。
という、それだけの話。
それだけなのに、耽美で禍々しい予感だけが、際立つ。
■折口信夫 身毒丸
初読。中公文庫で読み切れなかったのだ。
で、実際読んでみても、あまり文意が読み取れず。
俊徳丸伝説をもとにした謡曲や説教はもとより知らず。
中上健次や三島由紀夫文脈で名前を聞いたことがあるくらい。
wikipediaに、
>折口信夫は俊徳丸伝説から仏教的・教義的な要素を取り払い、近世芸能の原始的なかたちを再現することを意図して短編小説「身毒丸」を書いた(大正6年発表)。「身毒丸」は「しんとく丸」にこの字を当てはめたもので、主人公は先祖伝来の病を持つ田楽師の息子として描かれている。折口信夫は「しんとく丸は『俊徳丸』と表記されることが多いが、もともとは『身毒丸』と表記されていたのだろう」と語っている。
とあるが。
なんとなくホモホモしい雰囲気で、いいといえばいいのだが。
■小栗虫太郎 白蟻 ★
初読。
面白……かったかどうかはわからないが、なんだか凄みのある文章だった。
というのも、人里から隔絶された家族は全員狂って、野生に返っていると思いきや、実際は明朗な滝人という女。
明朗というか、小栗式衒学を織り交ぜる形で、木の根っこに対して延々語りかける、その絵面はもう狂人。
しかも子供はフリークスで、足元の草むらをザザザーッと這い進む、それを殺人の道具にしちゃう、という、もうドウカシトル話。
その背後には、夫が入れ替わっているのでは!? という疑念があるわけだが、その犯行理由が凡庸に思えるくらい、クルットル設定で、あー確かに「黒死館殺人事件」でもワケワカランが勢いは凄まじかったなと思い出した。
■谷崎潤一郎 刺青
既読を再読。
■夢野久作 瓶詰地獄
既読を再読。
■太宰治 駈込み訴え
既読を再読。
耽美幻想という函に入れられることで、別の見え方。
■夏目漱石 夢十夜
既読を再読。 -
Posted by ブクログ
乙女の本棚、谷崎潤一郎と夜汽車さんのコラボレーション。夜汽車さんの絵が、とても細かくて表紙から見入ってしまいました。透明感があったり、重厚感があったり、場面での使い分けが巧みで、とてもきれいでした。
物語は、女人禁制の比叡山に預けられ、山より外の世間を知らずに育った2人の稚児、千手丸と瑠璃光丸のことが、書かれていました。
2人が煩悩とどう向き合ったかが焦点の物語でした。煩悩と育ちに関係があるのか、気になりました。
前世でも煩悩に負けなかった瑠璃光丸が物語の最後にとった行動には、真の純粋さを感じました。(私のこの解釈でいいのか自信はないですが···)
この物語をどのように解釈すればいいのか、なかなか難しいと思いました。 -
Posted by ブクログ
乙女の本棚シリーズの一冊。
谷崎もこんな作品を書いていたんだね。
乙女ではない者からいくつか言わせてもらうと、まずは現代の読者が読むのに、難しい言い回しがある。なんとなく意味はわかるものも多いので、このままでもいいといえばいいのだけど、これは新字体にしたほうがいいのではないかなとか、ルビをふったほうがいいのではないかなとか、読んでいる間にちょっとだけ気が散ってしまう時間ができてしまったかと。
二つ目。表紙で魔術師の容姿を見せてしまうのはどうなのか。魔術師という言葉から受ける印象と、実際に魔術師を見たときのギャップも、登場人物の心理に関わっているはず。読者にもそのギャップを感じさせたほうがよかったように思うのだけど、表紙をこのような感じにしたいのは理解できる。乙女の本棚なんだもの。
三つ目。注や解説をつけないのはポリシーなのかもしれないけど、やっぱりなんかほしいのよ。この短編が谷崎の中ではどんな位置づけにあるのかとか、こういうところに気をつけて読むとより作品を楽しめるとか、次に読むならこの作品とか、そういうこと。
けっこう人生経験を積んだ私でも、読めない漢字がいくつかあったことは内緒にしておきたい。
表示されていない作品があります
セーフサーチが「中・強」になっているため、一部の作品が表示されていません。お探しの作品がない場合は、セーフサーチをOFFに変更してください。