谷崎潤一郎のレビュー一覧
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ネタバレ耽美とは何なのか未だ理解できていないが、収録作から思うに愛憎、背徳、情念、倒錯、フェティシズム、幻想、狂気etcが入り混じったものか。そこにタナトス≒死への衝動が加味された、名だたる文豪らによる10編。
「桜の森の満開の下」(坂口安吾)や「瓶詰地獄」(夢野久作)は本書のコンセプトをまさに体現している作品か。作家のフェチ全開「刺青」(谷崎潤一郎)、美しくニューロティックな幻想「夢十夜」(夏目漱石)、サスペンスからの意外な結末「影」(芥川龍之介)もそこに沿ったものかと。
"美"という点では泉鏡花の「浮舟」、折口信夫「身毒丸」なのだろうが、個人的には独特の文体含め作品世界にハマれず味わいきれなかったのが正直なところ。「芋虫」は愛憎や倒錯という点ではそうかもしれないが、乱歩の"耽美"な作品というなら「人でなしの恋」辺りでもよかったのでは。
上州の山間に住む逼塞した一家。落盤事故からの生還後変貌した夫に疑念を抱く妻の執念がやがて……という「白蟻」(小栗虫太郎)は異彩を放つ一編。終始陰鬱な情景描写、狂気を帯びた女性の独白と晦渋で読み辛い地の文が続き(一体何を読まされてるんだ……)という思いを抱えたまま一家の運命を見届けることになる。何となくだが平田弘史氏の画が非常にマッチしそうな気がする。ただし異形の息子だけは日野日出志風かも。
裏切者の代名詞として歴史に名を残す男の訴え「駆込み訴え」(太宰治)。ラストに男が名乗るが大半の読者は前半部で彼、そして"あの人"が誰なのか気付くだろう。敬愛を募らせた余りの独占欲からの憎悪。2000年前の裏切りの真相は最早知るべくもないが、収録作中で"愛憎"を明確に最も描いているのはこれかもしれない。
レーベルはライトノベル、YA向け中心の新潮文庫nexではあるが、「桜の森の満開の下」「芋虫」「瓶詰地獄」ら有名作品と共に「影」「白蟻」「駆込み訴え」などややマイナー?な作品も収録する凝った構成。10代のそれも早い内にこんなのを読んだらその後の人格形成に影響が出そうな気がしないでもない、が。 -
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古めかしい物好きの古い人が書いた文章だと思っていたが、読み進めると日本人なら誰しも説得感を感じる表現でなんだかそうだなぁと感じてしまった。
昼下がりの窓から入る光、少し薄暗い空間がなんだか好きだし、御手洗いは暗い方が確かに落ち着く。
ただ、欧州にもバーは薄暗い方が良いと感じる空間はあるし、どれがメジャーなのか、、という違いか。
他国に影響を受けて今の混交としている日本も好きだが、筆者の言う影響を受けずに独自に発展を遂げた日本の姿にも興味をそそられた。
初めて谷崎潤一郎さんの本を読んでいるが、色々と自分でも考察をしながら読み進めており、少しハマった。
この本には陰翳礼讃以外にも収録されているので、次の話も楽しみに読みたい。 -
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“フェティシズム”という括りで集められた6編の短編ですが、「刺青」「富美子の足」「青い花」以外はフェチと言うより精神分析の話のように思えました。
「刺青」
谷崎潤一郎のデビュー作。
初めて読んだのはおそらく中学時代。感想は当時とあまり変わらない。よく言えば様式美、悪く言えば頭でっかちな印象を与えるフェティシズム小説。
晩年の「瘋癲老人日記」まで足フェチを貫き通す大谷崎先生に大変失礼な感想だが、そう思ってしまったのだから仕方がない。
「悪魔」
後半は確かにフェティシズムの話なんだけど、前半の電車恐怖症とでも言うべき主人公の症状が気になってしまいます。今で言えばパニック障害?いや脅迫性障害?。なんか現代医学で治療を受けて欲しいような、、、
その強迫観念に後押しされて、後半主人公は一気にフェティシズムに取り憑かれます。対象は従姉妹の照子。
とは言え、やってる事は照子の鼻汁がついたハンカチを持ち歩き舐め回すというソフト?なもの。
やはりフェティシズムよりも、その発露の原因となった脅迫性障害のほうが気になりますね。
「憎念」
手代に折檻される丁稚の醜い鼻の孔を見た事をキッカケに、丁稚の小僧が虐められるところを見たくて見たくてたまらなくなってしまう坊ちゃんの話。幼少期の谷崎潤一郎の実家が裕福だったことから、実話?と勘繰ってしまう。成長と共にいじめの対象が女性に変わっていくのが興味深い。
「富美子の足」
絶対領域など足フェチの風上にもおけぬ。谷崎先生がこだわるのは踝より先、踵や甲、そして足指なのでございます。
「真直ぐな、白木を丹念に削り上げたようにすっきりとした脛が、先へ行くほ段々と細まって、踝の所で一旦きゅっと引き締まってから、今度は緩やかな傾斜を作って柔かな足の甲となり、その傾斜の尽きる所に、五本の趾、、、」以降6ページにもおよぶ富美子の足の描写がなんとも素晴らしいです。
なんでもこの作品、映画化されているらしいです。映像でこの谷崎の熱量を超えることは不可能にも思えるのだけど、はたしてどうなんだろう。
「青い花」
洋装というものはここまでフェティシュなものだったんですね。
「靴屋の店、帽子屋の店、宝石商、雑貨商、毛皮屋、織物屋、……金さえ出せばそれらの店の品物がどれでも彼女の白い肌にびったり纏わり、しなやかな四肢に絡まり、彼女の肉体の一部となる。――西洋の女の衣裳は『着る物』ではない、皮膚の上層へもう一と重被さる第二の皮膚だ。外から体を包むのではなく、直接皮膚へべったりと滲み込む文身の一種だ。」
大正時代に戻って、この高揚感を味わってみたいものです。
「蘿洞先生」
フェティシズム小説(と言うかSM小説?)として捉えるとなんとも物足りない。蘿洞先生と小女のプレイはラスト2ページにも満たずチラ見せで終わってしまう。金返せ!(笑)
だとすると、主題はその前の記者と先生のやり取りにあったのか?記者自身がコンニャク問答と言うだけあって、蘿洞先生は何を聞かれてもほとんど応えていない。私生活についても政治についても「う、」とか「あー」とか言うばかり。うーむ、答えないことに意味があるのだろうか。謎な作品。
なんでも「続蘿洞先生」という続編があるらしいのだが、、、 -
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【2025年1冊目】
二十八歳の時、私こと河合譲治は運命的な出会いをしてしまう。カフェでウエイトレスの卵として働く十五歳のナオミに、夢中になってしまったのだ。ナオミが希望するまま、音楽と英語を学ばせ、新しい家にまで引っ越した譲治。彼女を自分好みに育てる過程で、二人は夫婦の誓いを交わすが――。
源氏物語をちゃんと読んだことはないんですが、失敗した光源氏みたいな話やないかと思いました。贅沢の限りを尽くさせ、堕落しないわけがないというか。そこに天性の魔性さを遺憾無く発揮させたんでしょうね、という感じ。馬鹿だなぁという気持ちよりも、生物として、多分最初から負けていたんじゃないでしょうかという推測。恐らくは出会った時から。
解説も読もうかと思いましたが本文が高カロリーだったのであきらめました。新年一発目からいろいろと濃かったです。 -
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1931(昭和6)年から1935(昭和10)年に初出の作品集。
おなじ中公文庫で『盲目物語』のみが入ったのをずっと前に読んで持っているのだが、他の作品を含めて編み直し出版したらしい。
谷崎潤一郎の文章は極めて流麗で美しく、しばしば文章そのものがエロティックな妖しさをも帯びるのがとても好きだ。『盲目物語』はさらに、極めて恣意的な「ひらがな化」が試みられている。さっきは漢字表記だったのが何故かひらがなで出てきたりする。ひらがなばかりで読みにくい(文意が瞬間的に認知できない)ところがたくさんある。谷崎はここで、字面の視覚的なリズム書法をでも試みたのだろうか。しかし、ここまで徹底した作品は他に無さそうな気がする。
この作品集は谷崎のあの変態的な性のテーマが出てこず、歴史上の有名男性の影に隠れた女性を前面に出すという点で当時としては新しかったのかもしれないが、それでも歴史叙述のような面が多々あって、私には少々退屈だった。谷崎の小説としては。 -
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ネタバレ関西弁の会話が心地いい。
猫のリリーにデレデレの庄造と、それに振り回されながら庄造を取り合う品子と福子のお話。
もとはと言えば庄造のダメ男っぷりが根元なのだけれど、庄造って人は、何故か憎めない、のらりくらりの愛すべきへなちょこ 笑
品子の言葉を借りれば、
「子供を一人歩きさせているような、心許ない、可哀そうな感じ」
「そしてもともと、そう云う点にへんな可愛気のある人」
「妙にあたりの柔かい、優しい肌合があるものだから、だんだんそれに絆されて…」
なのだ。
作品冒頭にある手紙作戦が功を奏し、まずはリリーを手元に呼び戻すことに成功した品子。
これに釣られて庄造も呼び戻す算段だったけれど、リリーの世話をするうちに情が湧き、己を省みることになる。
「誰が悪かったのでもない、みんな自分が至らなかったのだ」
それでもやっぱりいつかは庄造とリリーと三人で暮らしたいと願っている品子。
リリーの様子が丁寧に描写されているからか、いつのまにやら私もリリーを可愛らしく感じながら読み進めた。
まったく、あっちへ行ったり連れ戻されたり、落ち着かないよねぇ、リリー。
リリーを中心に、福子も庄造もまた、様々な思いを心に巡らす。
ただ、庄造、品子、福子には意地やプライドもあって、皆共に素直になれないんだな。
こうなってくると他の周りの人でさえ信用ならなくなってくる。
作中、「どっちだす?なあ、どっちだすいな。」と問いただす似たようなセリフが、福子からも庄造からも発せられるのが印象的だ。
「○○と私、どっちが大事なのよ!」って、今も昔も変わらずよく聞くセリフ。
一匹の猫に振り回される人間を三者三様に描いていて、その様には面白味を含んだ悲哀さえ感じる。
ホントしょーがないなぁ。。。
この三人のドタバタは、この後も続いていきそうだ。
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