あらすじ
南京に住む憂愁の貴公子が、北国の冷艶にして水中の妖魔たる人魚に激しい恋をする「人魚の嘆き」、妖麗な魔術師に魅せられ欲望のままに半羊神と化す「魔術師」。大正期の耽美的な幻想譚二編。水島爾保布による美麗な挿画二十余点、カラー口絵二葉を完全収載。
〈註解〉明里千章〈解説〉中井英夫/前田恭二「水島爾保布小伝」
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Posted by ブクログ
谷崎潤一郎の、耽美的な短編2作。
どちらも大正6年(1917年)の作品。
発表当時の水島爾保布の挿画を完全収載。これが時代色もあり、妖艶な魅力で雰囲気を増しています。
「人魚の嘆き」
若くして莫大な財産を相続した主人公の若者は、眉目秀麗で優秀と、何ひとつ不足がなかった。
その貴公子、当初は仲間と遊蕩にふけったが、数年で飽きてしまった。
贅沢な屋敷に選り抜きの美女を集めて側室とし、日々その特技を披露させ、それでも退屈してしまう。
最高に美しいもの、世にも珍しいものを求め続けるのだったが‥
中国は清朝の時代、最盛期だった乾隆帝の次の皇帝の御世というあたりも、爛熟頽廃の気配を漂わせる設定ですね。
貴公子は人魚の噂を聞き、魅了されて、ついにオランダ商人から手に入れる。
この世ならぬ美しさをたたえた顔に長い髪、人ならぬ長い魚の尾。
憂い悲しむ人魚の望みをかなえるため、最後に‥
ビアズリー風の挿画は、人魚を曲線的に描いて、思いのほか肉感的でたくましい、野生を感じさせる姿が印象的です。
「魔術師」
遊興に気が高ぶり、高台から群衆の上に飛び降りる人までいる街。
高名な魔術師は中性的な美貌。社交界の貴人も裕福な男女も魅せられて、公園の舞台に熱中し、自ら危険な役割を果たそうとする。
現実には考えにくいが、だからこそ書いたのか‥
魔術師の力によって、その場で半羊神となってしまうという。怪奇な変容。
ほとんど誰も知らなかったような、難しい言葉をちりばめ、東洋西洋の神秘的なモチーフを練り込んでいく。
こんな作品を当時の人はどう受け止めたのだろうか。
モチーフは日本的ではないが、ある意味、歌舞伎や文楽の美麗さ残酷さと重なる面があるかも知れません。
結末には、愛を貫く筋が1本きらっと通っているので、そこが谷崎らしいというか、後味は悪くありませんよ。
私はエドガー・アラン・ポオが好きなので、その作品と相通じるものも感じました。
谷崎潤一郎自身は、言葉を選び抜き、とても苦労して書いた作品だが、後に読み返した時には、苦労と後々まで残る作品かどうかは別だと思ったとか。
耽美系の作品とはどのように生まれて、展開してきたのか、興味がわきました。
それゆえ、中井英夫の解説も、おおいに勉強になりました。
(26年5月31日)
Posted by ブクログ
今年の谷崎潤一郎。美しくてため息が出る。
てっきり食べられちゃうのかと思ったし(人魚)、公園前の乱痴気騒ぎが異常すぎる(魔術師)。
挿絵も多くてご褒美的な一冊。
Posted by ブクログ
初めて谷崎潤一郎の小説を読んだ。
美しい日本語と文章が印象深い。
以前読んだ小説のエピグラフに「魔術師」が引用されていて、とても気になり手に取ってみたけれど読んで良かった。
Posted by ブクログ
2作品とも、どこか絵本や民話のようなお話。この世のものとは思えない美しさに魅入られる人間。
旧仮名文字のまま収録されていて、今はほぼ使われていないような美しい言葉にどきどきする。注釈はあるが自分で意味を予測しながら読むのも楽しい。
また、水島爾保布の挿絵が美しすぎる。水島氏に関する解説も丁寧なのでとても良い。谷崎はやっぱりおもしろい。
Posted by ブクログ
挿画が目的で読みました。
100年以上前の作品を、当時の挿画そのままに出版している中公文庫に感謝。楽しめました。
半月ほど前に、別の文庫本で「魔術師」を読んだのがきっかけ。その際の感想は下記のとおりですが、読み直してよかった。表紙画、扉絵でもう気分が高揚します。ただ、挿画は「人魚の嘆き」の方が良かったかな。巻末に両作品の挿画を描いた水島爾保布の小伝が収録されているのも嬉しいです。
「人形の嘆き」「魔術師」ともに衒学的で独特の文体ですが、描かれた背景などは中井英夫による解説に詳しいです。
『魔術師』
デビュー7年後の大正期の作品。西洋やオリエント等々への憧れを絢爛な文章で並べ立てた幻想文学。「乙女の本棚」向きだなと思ったら、既刊でした。中公文庫版の「人魚の嘆き・魔術師」の挿絵が素晴らしいそうなので、今度見てみようと思う。
Posted by ブクログ
かなり良かった。丁装と挿絵が美しいだけでなく、日本語の美しさも際立っていた。「人魚の嘆き」「魔術師」どちらのお話も主人公が美しさに魅せられるお話なので、どこをとっても美しい本、という感じだった。
谷崎潤一郎は「痴人の愛」を読んだことがあったのだが、文体が古い(固い)割にスルスルと読めるのが特徴だなと思う。
実際には本の1/3程が註解と解説なのだが大満足だった。