あらすじ
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人気シリーズ「乙女の本棚」第17弾は谷崎潤一郎×イラストレーター・しきみのコラボレーション!
小説としても画集としても楽しめる、魅惑の1冊。全イラスト描き下ろし。
私の魂は磁石に吸われる鉄片のように、魔術師の方へ引き寄せられているのでした。
初夏の夕べ、恋人と公園へ行った私は、そこに小屋を出している若く美しい魔術師に出会った。
谷崎潤一郎の『魔術師』が、有名ゲームのキャラクターデザインなどで知られ、本シリーズでは萩原朔太郎『猫町』、江戸川乱歩『押絵と旅する男』、夏目漱石『夢十夜』、坂口安吾『桜の森の満開の下』を担当する大人気イラストレーター・しきみによって描かれる。
名作文学と現代の美麗なイラストが融合した、珠玉のコラボレーション・シリーズ。
自分の本棚に飾っておきたい。大切なあの人にプレゼントしたい。そんな気持ちになる「乙女の本棚」シリーズの1冊。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
2025/11/08
p.20
やや長い間、私は唯、無数の人間の雲の中を嫌応なしに進みました。行く手を眺めると、公園は案外近い所にあるらしく、燦爛としたイルミネエションの、青や赤や黄や紫の光芒が、人々の頭に焦げつく程の低空に、炎々と燃え輝いているのです。道路の両側には、青楼とも料理屋ともつかない三階四階の楼閣が並んで、華やかな岐阜提灯を珊瑚の根掛けのように連ねたバルコニイの上を見ると、酔いしれた男女の客が狂態の限りを尽くして野獣のように暴れていました。彼らの或る者は、街上の群衆を瞰おろして、さまざまな悪罵を浴びせ、冗談を云いかけ、稀には唾を吐きかけます。彼等はいずれも外聞を忘れ羞恥を忘れて踊り戯れ、馬鹿騒ぎの揚句には、蒟蒻のようにぐだぐだになった男だの、阿修羅のように髪を乱した女だのが、露台の欄杆から人ごみの上へ真倒まに落ちて来るのです。そうして見る見る野次馬のために、顔を滅茶苦茶に搔き挘られ、衣類をずたずたに引き裂かれて、或る者は悲鳴を放ちながら、或る者は絶息して屍骸のようになりながら、水に浮かぶ藻屑の如く何処までも何処までも運ばれて行くのです。私は、自分の前へ落ちて来た一人の男が、逆立ちになって二本の脛を棒杭のように突き出したまま、止めどもなく流れて行くのを見ていました。その男の足は、四方八方から現われて来る無頼漢に手に依って、最初に先ず靴を脱がされ、次にはズボンをぼろぼろに破られ、果ては靴足袋を剝ぎ取られて、打ったり抓ったりされるのでした。それから又、酒ぶくれに太った一人の女が、ジオヴァンニ、セガンティニの「淫楽の報い」という絵の中にある人物のような形をして、胴上げにされながら、「やっしょい、やっしょい」と担がれて行くのも見物しました。
「この町の人たちは、みんな気が違っているようだ。今日は一体、お祭りでもあるのかしら。」
と、私は恋人を顧みて云いました。
「いいえ、今日ばかりではありません。この公園へ来る人は年中こんなに騒いでいるのです。始終このように酔払っているのです。この往来を歩いている人間で、正気な者はあなたと私ばかりです。」
Posted by ブクログ
谷崎潤一郎の『魔術師』と素敵なイラストがコラボする、乙女の本棚シリーズ17巻です。
ヨーロッパから遠く離れたどこか…東京のような都で仲良く歩く「私」と恋人でしたが、恋人が公園へのデートを提案したことで物語の歯車が回り始めます。
「私」は町に公園があることを知りませんでしたが、そこに人々を魅了する「魔術師」がいることを恋人が語りだします。
広場を抜けて魔術師の幻惑を求める群衆が集まる小屋へ入る二人。
生きた蛇の冠を頭に巻き、ローマ時代のトーガを身に着け、黄金のサンダルを穿いた魔術師がそこにいました。
男性なのか女性なのかわからない、両性の美しさを持つ魔術師に「私」は…。
不可思議で美しい純文学を不可思議で美しいイラストが彩り、世界観を更に色濃く描く良書です。
Posted by ブクログ
現代語訳で絵まであり、絵は有名なデザイナーさんが描かれていて美しいです。最初は不思議な国に迷い込んだような不思議な感覚から最後は愛の物語だと受け取りました。
Posted by ブクログ
わからん
ちーーーーーっともわからん
ただただ美しい文章を書きたかっただけなんじゃね?と思ったりしました
だとしたらとても美しい世界観がとても美しい文章で綴られていると思いました
あれ?案外この感想って的を得てるんじゃね?
潤ちゃんどうなのよ?(馴れ馴れしい)
というわけで乙女の本棚シリーズ10冊目は谷崎潤一郎の『魔術師』でした
Posted by ブクログ
「乙女の本棚」シリーズ。谷崎潤一郎『魔術師』とイラストレーター・しきみ、編。
恋人と公園の魔術師の小屋を見に行って、二人して半羊神になっちゃった話。幻想的な小説。正直、よくわかんないけど。イラストがなかったら、全然理解できないかも。ただ文章はやはり美しくて、街の描写とか面白いよね。基本、昔の文学って、そういうのを楽しむもんだと思っている。
Posted by ブクログ
<乙女の本棚>シリーズの谷崎潤一郎第2弾。今作の絵師はしきみ。妖しい、妖しい。惹きつけられる。そして、狂おしい。これでは魔術師の意のままに操られてしまう。自分も魔術にかかったか。
Posted by ブクログ
乙女の本棚シリーズの一冊。
谷崎もこんな作品を書いていたんだね。
乙女ではない者からいくつか言わせてもらうと、まずは現代の読者が読むのに、難しい言い回しがある。なんとなく意味はわかるものも多いので、このままでもいいといえばいいのだけど、これは新字体にしたほうがいいのではないかなとか、ルビをふったほうがいいのではないかなとか、読んでいる間にちょっとだけ気が散ってしまう時間ができてしまったかと。
二つ目。表紙で魔術師の容姿を見せてしまうのはどうなのか。魔術師という言葉から受ける印象と、実際に魔術師を見たときのギャップも、登場人物の心理に関わっているはず。読者にもそのギャップを感じさせたほうがよかったように思うのだけど、表紙をこのような感じにしたいのは理解できる。乙女の本棚なんだもの。
三つ目。注や解説をつけないのはポリシーなのかもしれないけど、やっぱりなんかほしいのよ。この短編が谷崎の中ではどんな位置づけにあるのかとか、こういうところに気をつけて読むとより作品を楽しめるとか、次に読むならこの作品とか、そういうこと。
けっこう人生経験を積んだ私でも、読めない漢字がいくつかあったことは内緒にしておきたい。
Posted by ブクログ
谷崎潤一郎文学忌、潤一郎忌
1917年の作品
お耽美
美こそ至宝
夢か幻想か
魔術師の小屋ある公園
そこはエキゾチックな多国籍
集まる観客の人種さえもわからない
魔術師はあらゆる種族の美を併せ持ち
中性的な小悪魔的魅了
美しい者による洗脳
彼の美への生贄
自ら生贄となる者達
コラボはしきみさん
いーね!
谷崎潤一郎は、とにかく綺麗がお好きなのだ
Posted by ブクログ
浅草の繁華街と、本当にはないテーマパークのような存在のある世界観が、同じ乙女の本棚のシリーズにある江戸川乱歩の「押絵と旅する男」と似ている気がした。
この彼女の存在がすごく嘘っぽい。本当に彼のことを好きなの? 何で魔術師のところにそんなに行きたがるの? とよくわからない。そして、二人で魔術師のもとにたどり着き、すぐに魔術師に魅了されて半獣人にしてほしいと言い出す彼も彼だ。そんなに、今に不満足だったのだろうか。
この作品は正直、何を言いたいのかちっともわからなかった。ファンタジーは、世界観を楽しむものなのだと思うが、何か教訓めいたものがないと、私は物足りなさを覚えてしまうようだ。そのことに気がつけたのは収穫だった。
最後に、二人で半獣人になったのを見ると、彼女はやっぱり彼のことを好きだったんだと思える。けれど、蝶になった奴隷や、虎の敷物や燭台になった彼らは、魔術師の近くにいられて使ってもらえるなら人間でなくても幸せと言っていたが、ホントなのだろうか。人間のほうがよくないですか? と思ってしまった。
イラストが綺麗なのはとてもいい。人間としての生を手放してもいいと思わせてしまう魔術師の力の恐ろしさが、妖しく描かれている。
この話は、安易に手放しちゃいけないものもあるよ、人として生きられれば素晴らしくない? と教えてくれているのだろうか。
他の方の感想を知りたくなった作品だった。
Posted by ブクログ
乙女の本棚シリーズから、谷崎潤一郎さんとしきみさんのコラボ作品「魔術師」です。しきみさんのイラストは本当にいいです。今作は可愛い感じですね。
ストーリーはある恋人たちの話…。ある公園の一角に小屋を出している魔術師の妖艶な魅力により、どんなに愛し合う恋人達でも、その仲を引き裂かれてしまう噂を聞いた2人…。こんなに愛し合っているのだから、魔術師のされるがままにはならない…と、彼女は言いだしそれを確かめてみようと一緒に魔術師の小屋を訪れる…。二人の愛の行く末は??
今回はネタばれしません(^-^;)。前に読んだ「秘密」でもそうだったけれど、彼女はどこまでも健気で愛を信じているのに…なんで彼は??あちゃ…これ少しネタばれしたかなぁ!少し魔術師の元へ行くまでが長く感じしました。でも、どこまでも彼女の愛の清らかさが引き立つ作品だと感じました。ラストのページがすごくいいです。
Posted by ブクログ
呆気なく男性が魔術に墜ちてしまう。恋人の彼女の決断はあまりにも重い。彼女の気持ちを考えるとあんまりだ…とも思うけどこの結末の未来がそれで良かったと言えるかはわからないが彼女が望んだなら良いのかな…って何とも寂しいきもちになりました。
魔術師は罪深い。
Posted by ブクログ
乙女の本棚シリーズ。
或る怪しい公園に小屋を出した若い美しい魔術師に会いに『私』は恋人を伴って行く。
物語が唐突に終わるのでこんな幕の下ろしかた有りなの?と呆けた。
初めて谷崎氏の作品を読んだが耽美の一言に尽きる。
Posted by ブクログ
或る繁華な街区の果ての、物淋しい一廓に存在する妖しい見世物小屋では、魔術師による魔術を披露する舞台が公演されている。
そういうものに惹かれる好奇心旺盛な彼氏にくっついて、どこまでも添い遂げるつもりの彼女がいじらしくて可愛かった。恋してる乙女はたしかにこんな感じなのかもなぁ。
〈「わたしにはあなたという恋人があるためなのです。恋の闇路へ這入った者には、恐ろしさもなく恥かしさもない。」と云うでしょうか。〉
そうやって盲目状態のまま二人で永遠になれたら、それはそれである種の恋の完成なのだと思う。