浅田次郎のレビュー一覧
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供物と雪鰻とシューシャインボーイが、心に残った。
自分とは全く関係ない(わけでもない)台詞が、妙に突き刺さったり身につまされたりして、短い物語から読み解くものが多くておもしろい。
供物は、クソみたいな男のせいでしなくていい思いを死んでまでさせる酒乱クソ亭主。置いていかれた息子目線の物語を想像するとこれまた居た堪れない。
雪鰻の一文、赤紙一枚で引っ張られた、親も子も妻も恋人もいる、百姓やサラリーマンや、豆腐屋の店員や銀行員や、魚河岸の若い衆や市電の運転士や、大工や左官やカメラマンや学生だった。彼らはみな、それは悩み苦しみ、憎悪し懐疑もしただろうが、しまいにはささやかな納得をして、潔く死んでい -
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うさぎ追いしかの山、小鮒釣りしかの川〜
10代、20代にはもう無いのかもしれないが、50代以上には明確な故郷のイメージが存在すると思う。
そんなふるさとを母親を、実生活では持てなかった定年を越えた3人が、あるサービスを使って実現させた話。たった数回の訪問で、こんなにも偽母親を慕うのは、今の都会にでて、がむしゃらに突き進んできた我々が、どれだけイメージのふるさとを心で渇望していたのか。遠野物語をバックグラウンドにした、母親からの語りに、残されたものの悲哀がある。
「戦前は兵隊として戦場に、戦後は労働者として東京というブラックホールに連れ去られた」という一節が、心に刺さる。 -
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いよいよ清の歴史が大きく動き始めた。日本史で習った日清戦争はあくまで日本側の視点であったのだなと思わせられた。香港の割譲の話も、歴史的な事柄ではなくその背景にある互いの思いを知れば深く心に刻まれてより一層面白く感じる。
楊喜禎から見た日本感の箇所が印象に残っている。
中国の文化を血肉として近代国家にまでなり得た日本、そう考えるととてもすごいことなのでは、とも考えてしまう。
ラストの春児の自己犠牲の献身の精神、そして周りはそれをきちんと評価しているというところ、思わず泣けてしまうほどであった。いよいよ完結まで後一冊。じっくり読み進めたい。 -
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ネタバレ2巻までとは打って変わって物語の展開が激しい。にしても、役人、自衛官、ヤクザの組み合わせって、不可能を可能にするのか?と思ってしまうくらい、それぞれの経歴やコネクション(大概脅して盗むような感じだが)をフル活用して復讐を果たしてしまう。
びっくりだったのは、次期組長に推されたピスケンが、無事そこに収まるのかと思いきや、逃げ切ってしまう。今どきの小説にありがちな、みんな成功してハッピーエンドとはならず、ある意味それぞれが自分の道を探して動く途中で物語が終わる。続編がありそうに見えるし、期待したいが、たぶんこれがこの物語の正しい終わり方なんだと思う。とびっきり面白かったし、なんだか切ないけれど、そ -
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「終わらざる夏」を読んで以来の、浅田さんによる戦争文学。6編の短編から成る。どの作品も、視点や趣向は異なるが、共通しているのは、戦争に人生を狂わされた人たちの悲しみや苦しみを描いていることだ。
戦争さえなければ、幸せな暮らしを営めたはずなのだ。亡くなった人も生き残った人も本来なら背負わずとも良い十字架を背負わされた。その苦しみや悲しみに言葉も無い。
戦争という事象や、戦争を引き起こした当時の政府や軍部に怒りが湧いた。犠牲になった人々に心からの哀悼の意を表する。このような悲劇は二度と繰り返されてはならないのだと、反戦への想いを新たにした。 -
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四巻でも少し感じたが、
天切り松も、老いた感じ。時代が変わり、孤独を覚えた老人が、昔馴染みを訪ねて、古き良き時代を語るという印象があり、郷愁というか、時代の移り変わりに付きまとう寂しさの香りの印象が変わる。明治は遠くになりにけりではないが、大正、昭和も遠くなる。戦前にあった義理人情は、平成末期にどう伝わっていたのか。
千代子の話は、今の闇バイトやら、新宿公園の立ちんぼやらの話とも通底している気もする。余りにも社会とお国が信じられれぬ時代に、今なってきているのやも。
ごめんなと、誰かが国に変わっていってくれることで生きていけるという言葉の重み。
変わらぬ誠、変えてはならない真実が描かれているの -
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南部藩を脱藩し壬生狼=新選組に入隊した吉村貫一郎を中心に語られる、激動の時代における隊士の非業の生涯を描く時代小説の下巻です。
斎藤一の証言の続きから物語が再開します。
吉村貫一郎は本当に切腹させられたのか、どこかへ落ち延びたのではないか、と読者は様々な想像を巡らせていることでしょう。
しかし元新選組隊士や五稜郭での戦闘参加者などへの聞き込みで、徐々に紐解かれていく彼のその後。
多くの藩士たちから慕われていた吉村ですが、脱藩に加えて朝敵となり戻ってきたことは許されることではありませんでした。
新撰組隊士として戊辰戦争にて討死すべきであり、生きているなら切腹をしなくては南部藩全体が朝敵の嫌疑でお -
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南部藩を脱藩し壬生狼=新選組に入隊した吉村貫一郎を中心に語られる、激動の時代における隊士の非業の生涯を描く時代小説です。
満身創痍の吉村貫一郎が大阪の南部藩屋敷に現れるところから物語は始まります。
血と泥で真黒となった新選組の浅葱羽織を着た吉村を迎えたのは蔵屋敷差配役の大野次郎右衛門、そこで次郎右衛門は吉村に切腹を命じます。
この脱藩浪士である吉村は如何なる人物なのか、元新選組隊士など関係者への聞き込みというインタビュー形式で読み解く構成になっています。
聞き込みが進むに連れて人物像が明らかになっていきますが、語り部が話すものは本筋だけでなく脱線も多々あります。
しかしこの脱線したお話には恐ろ