太宰治のレビュー一覧
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太宰治は1948年6月13日に、玉川上水にて山崎富栄と入水自殺しました。
本作収録の3作は、太宰治の死後発表された作品です。
三作品それぞれ内容は大きく異なっているのですが、何れにせよ"死を前にして書いた"というには、あまりにもいつもどおりであると感じました。
晩年の芥川龍之介のような、読み手に作者の不安定さが伝わるような作品ではなく、一作品として楽しめる3作です。
そもそも太宰治の入水にも色々憶測があり、遺書も見つかっていることから自殺には違いないと思われますが、その死の間際の思いは不明、というかわかりようがないです。
愛人と入水しましたが、遺書には「小説を書くのがい -
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昭和57年9月15日 18刷 再読
太宰治中期の14編
戦時下の作品なので、各作品とも社会生活の貧しさや不便さは表現されているのですが、どこかコミカルであったりピリッとアイロニーを感じたり粒揃い。
女性の一人称で語られる作品が、深層心理まで描けていて戸惑うほど。これは、モテたでしょうね。
「きりぎりす」は、売れない画家に嫁いだ女性が、著名になっていくにつれ俗物的になっていくご主人に別れを告げる物語。この女性の気持ちは共感できる。とは言っても、好きなのは「ヴィヨンの妻」の底知れぬ強さ。
「日の出前」は日大生殺し事件をモチーフにした作品。太宰本人をも投影させ悲哀さが増されている。イヤミスの原型 -
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ネタバレ大庭が絶妙な運びで壊れていくのが悲しかった。堀木が普通だと思ってたのに、不意に見せた残酷さが衝撃だった。
大庭は生まれつき生きづらい性質かと思ってたけど、最後になってきっかけが明かされた…子供のときから辛い人生だったんだな…読み返すと、新たに気づく描写もある。女にも裏切られてたのか。みんなから好かれるような人が、抵抗する力もなく人間にすりつぶされたのがつらい。
表紙の大庭の悪人面は中身と違う気もするけど、悪い男ではあるな。
この世は辛いことが多すぎて、何もかもから逃げ出したい気持ちは私もあるな~、何もわからなくなるというか、周りを認識できなくなるのが救いというのもわかる気がする。
小説読んでな -
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「幸福クラブ誕生」の会での講演にしては暗くて地味な話をするのが面白い。中村地平との交友話だし、もしかしたら走れメロスのような友情論の類なのか。
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購入済み
ある小説で、「メロスを邪魔した黒幕は誰なのか」という話が出てきたので久方ぶりに再読。たしかに王はメロスが帰ってくるわけがないと思っているので邪魔するわけがない。未解決ミステリのような薄暗さを感じる。
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日中戦時下に書かれたとは思えない、不思議な明るさというかユーモアを含んだ作品が多い。
太宰治自身の経験にも重なるはずなのに、滑稽に心中失敗をえがいた姥捨、犬に嫌われる自信をもって実際犬がキライで生きているのになぜか子犬に好かれてしまいハッピーエンドな畜犬談、吹き出物に悩む肌自慢の妻の憂いと妻を思いやる夫のやりとりが素敵な皮膚と心、中国戦線から慰みで投稿される兵隊たちの小説を読みながら平穏な場所に住む自分の存在をおしの鳥になぞらえて自虐する鷗、百姓女に押し売りで買わされた薔薇が値段の割にはかなりの良い出来だと褒められ当惑する善蔵を思う、売れない画家の夫が不本意にも売れて俗物になりかえって没落を -
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読書力読書7冊目。
ちくま文庫の全集、太宰治です。全10巻。芥川同様、いろいろな本も読みながら、ゆっくり読んでいきます。
1巻の収録作品は以下。
晩年
葉
思い出
魚服記
列車
地球図
猿ヶ島
雀こ
道化の華
猿面冠者
逆行
彼は昔の彼ならず
ロマネスク
玩具
陰火
めくら草子
ダス・ゲマイネ
雌について
虚構の春
狂言の神
本書も発表順に収録されていますが、最初の『晩年』(「葉」から「めくら草子」までの15篇)は第一創作集であるため、初版本の編成順のまま収録したそうです。
おもしろく読んだのは、「道化の華」、「彼は昔の彼ならず」、「ロマネスク」 -
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随分長い時間を掛けて読みました。
「葉桜と魔笛」が大好きで、繰り返し繰り返し、10回以上読みましたが、何度読んでも飽きることがありません。
麻薬中毒と自殺未遂の日々からなんとか、平凡な小市民として生きようとする太宰の中期初め頃の作品集。
どれもこれも苦しんで苦しんで書いているのが痛いほど伝わるけれど、それが余計に滑稽で可笑しくて、多分太宰は苦しみながらもそこまで分かって、如何にも大真面目振って書いているのがやっぱり笑ってしまう。
「二度言った」「三度言った」って、もうええわ!って大真面目な彼に突っ込んでしまいそう。
しかしそれでも全編を通して太宰の本音や心情、故郷や母、姉への憧憬、愛、それら -
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ネタバレ声に出したくなるようなとても心地の良いリズム。
歌のよう。
「苦悩高きが故に貴からず。」で始まる序章、"神の焔の苛烈を知れ"
「 罰だ、罰だ、神の罰か、市民の罰か、困難不運、愛憎転換、かの黄金の冠を誰知るまいとこっそりかぶって鏡にむかい、にっとひとりで笑っただけの罪、けれども神はゆるさなかった。
君、神様は、天然の木枯らしと同じくらいに、いやなものだよ。
峻厳、執拗、わが首すじおさえては、ごぼごぼ沈めて水底這わせ、人の子まさに溺死せんとの刹那、せめて、五年ぶりのこの陽を、なお念いりにおがみましょうと、両手合せた、とたん、首筋の御手のちから加わりて、また、また、五百何十回目か -
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戦前から戦後にかけて活躍した日本を代表する文豪の一人、太宰治の短編集。
太宰治として作品を発表した最初期から、戦争が始まる前までに書かれた10篇が取り上げられていて、その中には、『富嶽百景』、『女生徒』、『走れメロス』と、読むべき名著が複数抑えられています。
なお、この10篇の短編が発表されるまでに間に、太宰治は女性を変えて2度の心中騒動と一度の自殺未遂を起こします。
また、私生活を川端康成に批判され第一回芥川賞を落選したり、鎮痛剤のパナピール中毒になったりと、周囲から見るとかなりお騒がせな時期でした。
ただ、その後、井伏鱒二の紹介によりささやかな結婚式を行い、甲府に移り住んでからは安定し、