太宰治のレビュー一覧
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戦時の文章
これはもう見事に、時局に迎合した文章である。余りに見事なので、太宰が心底から皇室に敬意を表している、とても単純素朴な人という印象を受ける。が、拙者のイメージの中の太宰は、もっと皮肉な人の筈なので、その齟齬がとても気持ち悪い。太宰は見事に素朴な人を演じきったのか、それとも拙者のイメージが間違っているのか?
「皇太子誕生で、兄の怒りから一時逃れられたぜ、ラッキー!」と読めてしまうのは、拙者の心が汚れているからであろうか? -
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物語風エッセイ
実際に起こった出来事のようだが、普通に小説としても読める。温泉で見かけた少女を、床屋でも見た。それだけのことを、これだけストーリーとして語れるというのは、やはり太宰は、骨の髄まで作家なのである。
ただの日常に対しても、自然と物語性を見出す。そういう風に生きられたら、なかなか楽しみが多いかも知れない。が、苦しみも多いのだろうな…… -
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原作もののファンタジーだが
よく書けていると言えるでしょう。どこまでが太宰の手柄か、となると難しいですが。
『聊斎志異』はどれも面白いから、リライトとは言え外れる筈もない。
強いていえば、自意識と美意識が過剰な主人公像が、太宰好みかも、というところでしょうか。 -
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吾輩は……
途中までは「気の利いた書きっぷり」が少し鼻につくかなと思ったけど、落とし所は善し。戦後直ぐの読み物としては、それなりに読者の心を癒やしたろうと思われる。
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Posted by ブクログ
・・・・・・っということで、太宰にしては珍しく、十分なる資料を参考にして書かれた小説である。
こういう小説も書けるのだと、彼の才能にいまさらながら驚かされる。
日本に留学していた魯迅の仙台時代の物語である。
彼を描くのに、彼と友人だった学生の思い出話として語らせている点がとても凝っている。
医学を目指していた魯迅が何で文学に転向したのか、その謎を丁寧に描いている。
本当の彼の内面に切り込みたいとすれば、こういう小説という形式が一番適切なのだと思わざるを得ない。
魯迅が文学に目覚める過程を書くことによって、太宰自らが抱く文学への自信と誇りを感じざるを得ない。
内容とは別に、当時の日本を取り -
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全部酒のせい
戦時中に書かれたものらしい。人心が荒廃して、卑屈になって、吝嗇になるのは酒のせいだという論旨。人々の醜悪・滑稽な振る舞いがいろいろ書かれているが、果たしてそれが他人事なのか、自分も含めてなのかは、定かではない。だが、軽蔑にせよ、自嘲にせよ、衛生上良くない考え方であることは確かだろう。酒のせいにしてはいけない。酒は、駄目を加速させることはあっても、駄目にすることはない。
が、読み物としては楽しく書けているし、戦時中の描写が貴重なので星4つ。読書は道徳講義ではないのである。