あらすじ
麻薬中毒と自殺未遂の地獄の日々から立ち直ろうと懸命の努力を重ねていた時期の作品集。乳母の子供たちとの異郷での再会という、心温まる空想譚のなかに再生への祈りをこめた「新樹の言葉」。“男爵”と呼ばれる無垢な男と、昔その家の女中で今は大女優となっている女性との恋愛譚「花燭」。ほかに「懶惰の歌留多」「葉桜と魔笛」「火の鳥」「八十八夜」「老ハイデルベルヒ」など全15編。(解説・奥野健男)
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表題作「新樹の言葉」が特に良かった。
舞台となった甲府を次のように表現している。
よく人は、甲府を「摺鉢の底」と評しているが、当たっていない。甲府は、もっとハイカラである。シルクハットをさかさまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた、それが甲府だと思えば、間違いない。きれいに文化の、しみとおっているまちである。
私は山梨出身で今は神奈川に移住して10年が経った。たまに帰ったときの甲府の衰退に寂しさを感じてしまうが、太宰の表現は子どもの頃に甲府に抱いた感覚を答え合わせのように思い浮かばせてくれる。
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昭和14年〜15年、太宰治三十〜三十一歳の時に書かれた小説、十五篇を収録。太宰治中期の作品群。
解説は奥野健男。
太宰治の魅力を堪能できる素晴らしい一冊でした。
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『秋風記』『花燭』など、どれをとっても身に刺さる、粒ぞろいの短編集。
ただ無垢であろうとし救済を希う聖職者の気風と、現実を生きる卑しい肉塊の自分との落差に苛まれる。
――人のためになるどころか、自分自身をさえ持てあました。まんまと失敗したのである。そんなにうまく人柱なぞという光栄の名の下に死ねなかった。
――所詮、人は花火になれるものではないのである。
(『花燭』より)
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小説と書き手が親密のようで乖離していることはよくよく承知なのだけれど、やっぱり読むほどに、どれもこれも太宰のことを書いているような気がして、好きでたまらなくなるのは、本当にいけないのである…
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明るい太宰、と言うと語弊があるかもしれないし、太宰らしい作品を好まれる方も多いかもしれないけれど、一度は読んで欲しい太宰の一面がこの作品集にはある。読んでいて思わず吹き出してしまうものや、頬が緩んでしまうものがここにはあって、彼の「道化」の真骨頂を感じずにはいられない。
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太宰治の「葉桜と魔笛」は
生きること、死ぬことに対する悲しみが
とても分かりやすく表現されている。
読みやすい。つまり、伝わりやすい。
そして優しい。痛々しいほど、優しい。
優しさとは何か。
優しさとは、こういう家族のことだ。
姉も妹も父も、それぞれに優しい。
家族愛の美しさは
「新樹の言葉」にも溢れている。
血のつながりではなく
乳のつながりが描かれている。
主人公が大人になってから
乳母の子供らと出会う。
この関係性がいい。
そして「偉くなりたい」というストレートな前向きさがいい。
作品全体に危うさがあるからこそ
明るい気持ちが、いっそう輝きを増す。
それから、この兄妹のために、という感情が強い点もまた
男が持つ良さなのだろうと思う。
偉くなりたい、と
○○のために。
この2つがあれば
やっぱり「いい男」になるらしい 笑
いつの時代も、それは変わらないのかも。
一見、この感情は、太宰らしくない気もするけれど
逆に、太宰だからこそ、これは外さない、
という感じかもしれない 笑
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感情を動かされる言葉が多すぎて、付箋だらけになってしまった。一篇目の出だし「くるしさは、忍従の夜。あきらめの朝。」…反則です。美しすぎて、痛くて、恰好良い。太宰さんの文章の力には、三島さんとはまた違った、なんとも濃ゆーいものがございますね。大好きです。
「秋風記」、「火の鳥」に好きな場面・文章がたくさんあるけれど、やはりここは「春の盗賊」を推します。いやあ笑った。太宰さんのユーモアセンスは凄すぎる、「十一時でした。」って…!笑笑笑
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好きになった作品の概要をメモ程度に
・新樹の言葉:乳母つるの兄妹との甲府での再会を描いた作品。
・花燭:気弱な男爵とかつての女中で現在大女優となったとみとの恋愛を描いた作品。
・葉桜と魔笛:老夫人と病気の妹の美しい回想を描いた作品。
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随分長い時間を掛けて読みました。
「葉桜と魔笛」が大好きで、繰り返し繰り返し、10回以上読みましたが、何度読んでも飽きることがありません。
麻薬中毒と自殺未遂の日々からなんとか、平凡な小市民として生きようとする太宰の中期初め頃の作品集。
どれもこれも苦しんで苦しんで書いているのが痛いほど伝わるけれど、それが余計に滑稽で可笑しくて、多分太宰は苦しみながらもそこまで分かって、如何にも大真面目振って書いているのがやっぱり笑ってしまう。
「二度言った」「三度言った」って、もうええわ!って大真面目な彼に突っ込んでしまいそう。
しかしそれでも全編を通して太宰の本音や心情、故郷や母、姉への憧憬、愛、それら全てが一種の煌めきのように散りばめられていて、読後感は非常に爽やかだ。
「火の鳥」は、未完であることが本当に惜しい。きっと代表作のひとつになっていたと思う。
「新樹の言葉」私小説のような物語は故郷や乳母、様々な人への太宰の愛情、思いが美しい文体で描かれていて、作品として秀逸。
「誰も知らぬ」どうして太宰はかくも女の心をあっさりと代弁してしまうのか。誰もが心に秘めて他言しないようなことを。
作品としては破綻していたりスッキリとしないものも含まれているが、それも含めてこの時期の太宰の決心のようなものが生き生きと迫る。
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太宰が麻薬中毒から立ち直り数多の佳作を残した初期から中期への移行期の短編集。意外なほど読み易かった。「葉桜と魔笛」が最高。物悲しくも美しい希望と余韻のある読後感だ。「新樹の言葉」は乳母の子供たちとの再会を想像して書かれたものだがこんな風に太宰は心温まる交流をしたかったのだろうな…と考えると切ない。「春の盗賊」はユーモアを織り交ぜつつ小市民的な生活と再び破滅に身を委ねたいという葛藤が伝わり強烈だ。「もういちど、あの野望と献身の、ロマンスの地獄に飛び込んで、くたばりたい!できないことか。いけないことか。」
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未完の『火の鳥』は、是非とも完結させてほしかった・・・これから面白くなりそうなところで終わってしまうのが残念です。
ロマンス好きな兄妹たちがリレー形式で物語を紡いでいく『愛と美について』
兄妹ひとりひとりの人柄と、物語がマッチしていて温かみを感じます。
一番心に残っているのは『葉桜と魔笛』
太宰お得意の女性の一人称小説なのですが
短い物語に関わらず、とんでもない完成度です。
太宰本人が主人公かな?と思われる他の作品とはえらい違いです。
心が洗われるような、素敵な話です。
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表題作、「老ハイデルベルヒ」「誰も知らぬ」あたりの佳作に、作品としては破綻の様相ながらも作者の葛藤が垣間見える一冊。この本とは関係ないけど、途中で気になって「黄金風景」を再読。何度読んでも素晴らしい。
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「I can speak」人生の一瞬間の様相をそっと美しく切り取ってきたよう。「葉桜と魔笛」姉妹父三人の心情が虚構を通じて優しく哀切に結ぼれ合う。「秋風記」絶望の中で愛する女に語られる言葉に自分を見つける。"僕には、花一輪さえ、ほどよく愛することができません。・・・それから、自分で自分をもて余します。自分を殺したく思います""死ぬる刹那の純粋だけは、信じられる"「新樹の言葉」焼けた家を眺める兄妹に再生への清々しい決意を見る。「花燭」再生への、含羞と、にも拘らずその上での覚悟を、感じる。「愛と美について」家族が連作していく物語、太宰の小説の巧み。「春の盗賊」市民的生活に対する太宰の相反感情。
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太宰治は短編を書く奇才ですね。僕のお気に入りの作品は
「新樹の言葉」「愛と美について」「火の鳥」「「兄たち」
ですかね。とくに「兄たち」という作品は感動しましたね。兄弟愛の話なんですよ、それがまあなんともうまく客観的に書いている。センチメンタルにさせないところがスゴイ手腕だと思う。
ただし「春の盗賊」だけは読み進められなかったね。残念。
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この本に収録されている、火の鳥が大好きです。女主人公の感情描写や成り立ちにの細やかな文章が良いです。
火の鳥は、途中で挫折して未完で終わっています。
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小説よりエッセイの印象。
エッセイというと人生の指南書みたいで好きじゃない。
太宰も暗くて好きじゃない。
毎回の王様のブランチのブックコーナーで勧められて
読む。
お!予想外に読みやすい。
最近、草食系男子という言葉があるけど、
喩えて言うなら草食系小説。草食系エッセイ。
指南書のようなおせっかいな感じもなく、
長編小説のような読まなきゃ!ということもない。
色んな短編が入っている。
太宰が人気あるのがわかるなって思う一冊。
もっと若い時に読みたかったな。
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昔、晩年の短編集を読んだけど
これは中期の短編集ですね。
文章の相性としては読みやすく感じたけど
内容のほうは、え〜ちょっとそれ
どうなん〜みたいなところ。
中では『葉桜と魔笛』に少しホロリ。
『新樹の言葉』も旧知の人の
子供にあたる兄妹との小さな酒宴が温かい。
『春の盗賊』も妙な展開だけど
なんだか可笑しみがあって好きでした。
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太宰治30〜31歳にかけての作品集。「秋風記」「花燭」が特に良かった。
(文学的価値があったとしても、)作者の全集ならともかく、未完の作品を収録することにいつも違和感を感じてしまう。
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人間関係の表と裏
「火の鳥」取り柄もない若い女性が男のために尽くそうと思い、寄り添うと不幸が訪れる。やがてそれは自分の甘えと知り、生きていくために女優になることを決意して一生懸命努力、自分の愛欲にも我慢を強いる。人への思いとは上手くいかないものだ、ましてや恋愛のような双方に思いがなければ上手くいかない。世の中も自分の思った通りには行かない、教えてくれるのは周りの人々の助言と自分の行動で社会を体験し気付くことなのだ。
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I can speak
懶惰の歌留多
葉桜と魔笛
秋風記
新樹の言葉
花燭
愛と美について
火の鳥
八十八夜
美少女
春の盗賊
俗天使
兄たち
老ハイデルベルヒ
誰も知らぬ
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麻薬中毒と自殺未遂の地獄の日々から立ち直ろうと懸命の努力を重ねていた時期の作品集。乳母の子供たちとの異郷での再会という、心温まる空想譚のなかに再生への祈りをこめた『新樹の言葉』。“男爵”と呼ばれる無垢な男と、昔その家の女中で今は大女優となっている女性との恋愛譚『花燭』。ほかに『懶惰の歌留多』『葉桜と魔笛』『火の鳥』『八十八夜』『老ハイデルベルヒ』など全15編。
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太宰が薬物中毒に苦しんでいた時期のセレクションのせいか、話がどうにもまとまらない作風が多い。その中でもやはり味わい深いオチの「葉桜と魔笛」は見事な傑作。時が経ち変わってしまった思い出の地の出来事を描いた「老ハイデルベルヒ」もいい。
Posted by ブクログ
表題作ほか14作品を収めた新潮文庫です。
どれも太宰さんが30歳から31歳頃のお話みたいだよ。
あえて印象深かった作品をあげるとしたら『美少女』かな…。
皮膚病に効くと言う温泉に行ったら、混浴の湯船のなかにすっごい美少女がいて、これまたナイスバディで「いいものを見た♪」ってゆ~お話。
味がありました(笑)
Posted by ブクログ
ヤク中と自殺未遂という地獄の時代から這い上がろうと懸命にあがいていたころの作品中。
なんか、まだ精神病んでるせいか、やっつけな作品が多い気がする;
『懶惰の歌留多』とか『火の鳥』は、完全に途中放棄してるでしょ。特に後者は完成していたら太宰作品のなかでも結構名作になったと思うのにな~もったいない。
いくつか印象に残った作品についてメモする・
『秋風記』 人妻Kと自称・不良少年の主人公が旅館で心中しようとする話。太宰ってこの手の自殺未遂もの多いよね。。自身の体験をもとにしてるんだろうけど憂鬱になってしまう
『新樹の言葉』 故郷で世話を受けた乳母の子供たちと異郷の地で再会する話。
「投げ捨てよ、過去の森。自愛だ。私がついている。泣くやつがあるか。」泣いているのは私であった。
太宰の、更生しようと一生懸命な姿勢がうかがえていじらしい。
『火の鳥』 大作を残そうとしたけどやっぱムリでした~的な、残念すぎる作品。でも個人的にはこれが1番好きかも。女優・高野幸代の物語。色々な男性のもとから、蝶のようにひらひら飛びうつろう女の話。
よく思うんだけど太宰って女性の気持ちを語らせたら右にでるものはいないと思います。女性よりも女性の心理を穿ってるというか。可憐だなあ。
『美少女』 銭湯?で出会った美少女の裸体に釘付けになる太宰・・・ロリコンやばいよ
『春の盗賊』 支離滅裂すぎ、一番やっつけ感ひどいww
『兄たち』 文学好きな仲良し兄弟の話。3番目の兄が亡くなる瞬間まで粋紳士風であったのは、遺された兄弟を元気づけるためなのか・・・
どうでもいいがこの短編読んでて“フキヤ・コウジ”なる挿絵画家の存在を初めて知った。高畠カショウとか大好きな私にはたまらない絵柄だった。
Posted by ブクログ
太宰が精神病院を退院し再起をはかろうとしていた頃の作品集。
今は太宰を読む時期ではなかったのか、あまり心に響かなかった。
1つ1つの短編のタイトルを見ても中身を思い出せない。
兄弟愛を描いた作品が多かった。
Posted by ブクログ
「愛と美について」「花燭」「I can speak 」が個人的に面白いと感じました。「愛と美について」は続編として「ろまん燈籠」という作品があるので、そちらもぜひ読んでみたいところ。
Posted by ブクログ
最初はなかなか進まなくて、少し読んではしばらくほっぽらかし・・・、
を繰り返していたのに、落ち込んでいた時に再び手にとってみたら、
あっという間に読み終えてしまった不思議な短編集。
自分にとって太宰の作品は、
心身ともに疲れた時、弱っている時に読んで、
励ましてもらうものなのかもしれない。
こちらに収録されている「葉桜と魔笛」って作品だけは昔から好きで、
それだけは何度も繰り返し愛読してきたが、
他の作品は、自分としてはどれも今ひとつぴんとこなくて、
本作よりずっとも好きな短編集は何冊もあるのだが、
ただ、そのような中にも心に触れる言葉はいくつか存在している。
「純粋を追うて、窒息するよりは、
私は濁っても大きくなりたいのである。」