太宰治のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
うーん、やっぱり太宰治はおもしろいなぁ。
著者中期の14の短篇を収録した本書では、どの登場人物も貧しくて自虐的な性格なため、正直読んでいてうんざりすることも少なくなかったのですが、それでも(むしろそれだからこそ?)全ての作品を楽しむことが出来ました。
とりわけ、クスッと思わず笑ってしまいつつ、最後はちょっとほっこりした「畜犬談」には著者のユーモラスな一面を感じ取れたり、「鷗」や「風の便り」といった作品からは著者の考えのようなものを学び取れたりしました。
しかし、強く印象に残ったのは最後の2編。「水仙」と「日の出前」です。どちらも後味の悪さが醍醐味かと。とりわけ後者のラストには人間の不気味さ -
購入済み
他の作家さんの漫画版「人間失格」を何作か読みましたが、これが一番面白いコミカライズだと思いました。
絵も非常に耽美で恐ろしく、太宰治の原作のまとう空気感が表現されていると感じました。
伊藤先生のさらなる日本文学のコミカライズを期待しています。
ドグラ・マグラとか? -
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『人間失格』
文章の構成がうまい。自伝的な部分はあるにしても、それだけでは単なる自意識過剰になると分かっているので、客観的な視点を持ち込み、そして、最後に一文で、人間の複雑さを表現している。
太宰治のことはそれほど好きではないけれども(行間がうるさい、というか、「俺ってすごくない?」という主張がうるさいので)、彼の文章のうまさは本物だと思う。
『グッド・バイ』
未完が惜しまれる。
10人くらいの愛人がいる田島でも、キヌ子には形なし。その喜劇性が面白い。
『如是我聞』
実際のところ、太宰治は頭の良い人だったのだろうと思う。だから、周りの人間が馬鹿に見えて仕方ない。
それに、いつの世にも、「権 -
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ちくま文庫
太宰治 全集 昭和17年〜18年の短編集。登場人物=著者と考えるなら 様々な太宰治が読める。明るい太宰、放蕩息子の太宰、何か待っている太宰、苦しいのに平気な顔してる太宰。
中でも 印象に残ったのは
*「待つ」何かを毎日 待っている主人公。何かは 神?赦し?
*「禁酒の心」「黄村先生」明るい太宰治は 苦しさの現れか?
*「水仙」は 天才の不幸を語っている
新郎=終わりの始まり。終わりの予感の中の生
*一日一日をたっぷりと生きていくより他はない。明日のことを思い煩うな
*このごろ私は毎日、新郎の心で生きている(昭和16年12月8日之を記せり。英米と戦端ひらく)
十二月八日=戦争 -
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戦時下の話が多かった。
表題作は私はあまり楽しめなかったが、他は結構好きなのがあった。
『恥』は笑えるような胸が苦しくなるような恥ずかしいような話。
『小さいアルバム』はところどころすごい笑ってしまった。この自虐、ギャグマンガにもありそうなレベルでどうしても笑ってしまう。
「私は今だってなかなかの馬鹿ですが、そのころは馬鹿より悪い。妖怪でした。」
「二匹の競馬の馬の間に、駱駝がのっそり立っているみたいですね。」
「かぼちゃのように無神経ですね。3日も洗顔しないような顔ですね。」
あたりが好き。自虐でこんないろんな言い方ができるのはさすがだなあと。
『佳日』も、白足袋がうまく履けない件は笑 -
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無糖のホットチョコレートみたいな1冊。苦さに苦さを重ねる中にほろりと甘く感じる一瞬があり、すっと溶けていく文体の滑らかさになぜだかほっとする。
マイチェホフの狂気を「斜陽」で思い出し、真の革命の意義を「おさん」で学び、「眉山」でやるせなさに涙して、待望の「人間失格」に取り掛かる。
人を針金入りのモールだとする。人を取り巻く社会(世間?)は常に渦を巻いていて、モールの体をうまく曲げれば、別のモールとひっかかることを繰り返し、渦の中心でずっと回り続ける事ができる。だけど自分が曲がらない、もしくは曲げる方向を間違ってしまえば、渦の外側へと容易に弾き飛ばされてしまう、そんなもんだと思う。
葉蔵は -
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「津軽」はけんちん汁みたいな一冊。地の物満載、郷土愛に溢れ、田舎出身のわたしにはどこか懐かしい味がする。
自分が生まれ育った故郷への愛情を幾千万人に伝えることのできる幸せを、太宰は果たして感じていたのだろうか。顔向けのできない愛する郷土の為に、太宰は情熱をもって仕事をしていたのだろうと推測する。
「人は、あてにならない、という発見は、青年の大人に移行する第一課である(40項)」
「『や!富士。いいなあ。』と私は叫んだ。富士ではなかった(132項)」
「親孝行は自然の情だ。倫理ではなかった(179項)」
登場人物の会話がなかなかにシュールでとても面白い。高尚な道化を交えるからこそ至言格 -
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江戸川乱歩、他『栞子さんの本棚2 ビブリア古書堂セレクトブック』角川文庫。
三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場した古今東西の名作集、第2弾。残念ながら今回も抜粋作品が多い。
江戸川乱歩の『孤島の鬼』『黄金仮面』『江川蘭子』は抜粋。全文掲載は『押絵と旅する男』と『二銭銅貨』の2編。中でも『二銭銅貨』は傑作中の傑作。この時代にこれだけのレベルの暗号ミステリが創られたとは信じられない。何度読んでも面白い。
小林信彦の『冬の神話』、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』『ハムレット』も当然の如く抜粋。
小沼丹の『黒いハンカチ』は江戸川乱歩と同じような系統の小気味良いミステリー。時代を感じつ -
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旬の秋刀魚みたいな一冊。肝の滋味あり、脂の旨味あり、食感の楽しさあり、太宰らしさが一番出ている文集では?と浅はかながら思った。
各文集にテーマがあるなら、ここでは「苦難」かな。「水仙」「正義と微笑」「花火」と、あたりまえの人生をあたりまえに送れない人達のほろ苦さがまざまざと描かれているけど、それはきっと太宰の心中を幾分は投影しているんだと思うし、滋味深いなと感じた。思えば、正義と微笑にある兄弟の絆は、太宰がとっても欲しかったものなのかもしれない。そんな軽い機構じゃないだろうけど、正義と微笑は太宰の理想を形にしたものにも思えてくる。
「これがあの、十六歳の春から苦しみに苦しみ抜いた揚句の果に