太宰治のレビュー一覧
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ちくま文庫
太宰治 全集 昭和17年〜18年の短編集。登場人物=著者と考えるなら 様々な太宰治が読める。明るい太宰、放蕩息子の太宰、何か待っている太宰、苦しいのに平気な顔してる太宰。
中でも 印象に残ったのは
*「待つ」何かを毎日 待っている主人公。何かは 神?赦し?
*「禁酒の心」「黄村先生」明るい太宰治は 苦しさの現れか?
*「水仙」は 天才の不幸を語っている
新郎=終わりの始まり。終わりの予感の中の生
*一日一日をたっぷりと生きていくより他はない。明日のことを思い煩うな
*このごろ私は毎日、新郎の心で生きている(昭和16年12月8日之を記せり。英米と戦端ひらく)
十二月八日=戦争の中の日常
*主婦の目線で綴った 太平洋戦争開戦の日の日記〜園子をお湯に入れるのが 私の生活で一番一番楽しい時だ
*僕には信仰があるから 夜道もなお白昼の如し
律子と貞子=姉と妹=マルタとマリア*三浦は 姉 律子を選んだ〜私は義憤に似たものを感じた
待つ*大戦争がはじまってからは 毎日、毎日〜待っている〜なごやかな、ぱっと明るい、素晴らしいもの
水仙*天才の不幸〜天才は 自分の力を信じられない〜凡才から与えられた不安
正義と微笑→微笑もて正義を為せ=苦しくても平気な顔してろ
*知恵の実を食べると 人間は笑いを失う
*これからは単純に、正直に行動しよう〜思わせぶりを捨てたなら、人生は意外にも平坦なところ
小さなアルバム*幸福そうな風景ですね。いつまで続くことか
花火*放蕩の兄→兄さんが死んだので 私たちは幸福になりました
帰去来、故郷=放蕩息子の帰郷
*人の世話にばかりなって来た〜のほほん顔 で生きてきた
*私一人が〜悪評高く、その日暮らしの〜ために〜気まずくなる
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戦時下の話が多かった。
表題作は私はあまり楽しめなかったが、他は結構好きなのがあった。
『恥』は笑えるような胸が苦しくなるような恥ずかしいような話。
『小さいアルバム』はところどころすごい笑ってしまった。この自虐、ギャグマンガにもありそうなレベルでどうしても笑ってしまう。
「私は今だってなかなかの馬鹿ですが、そのころは馬鹿より悪い。妖怪でした。」
「二匹の競馬の馬の間に、駱駝がのっそり立っているみたいですね。」
「かぼちゃのように無神経ですね。3日も洗顔しないような顔ですね。」
あたりが好き。自虐でこんないろんな言い方ができるのはさすがだなあと。
『佳日』も、白足袋がうまく履けない件は笑えるものの、戦争や、大隅君の性格などが絡まって切なくなる。最後は爽やか。
『散華』は非常に辛い作品。
戦地からの手紙の文言が心に刺さる。 -
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無糖のホットチョコレートみたいな1冊。苦さに苦さを重ねる中にほろりと甘く感じる一瞬があり、すっと溶けていく文体の滑らかさになぜだかほっとする。
マイチェホフの狂気を「斜陽」で思い出し、真の革命の意義を「おさん」で学び、「眉山」でやるせなさに涙して、待望の「人間失格」に取り掛かる。
人を針金入りのモールだとする。人を取り巻く社会(世間?)は常に渦を巻いていて、モールの体をうまく曲げれば、別のモールとひっかかることを繰り返し、渦の中心でずっと回り続ける事ができる。だけど自分が曲がらない、もしくは曲げる方向を間違ってしまえば、渦の外側へと容易に弾き飛ばされてしまう、そんなもんだと思う。
葉蔵は、道化を演じ自分を無理に曲げてまで渦の中心にいることを辞めて真っ直ぐになった結果、ひっかかりがどんどん外れ、すんでのところで渦の外に弾き飛ばされるのをひたすら耐えるような生活を送る。弾き飛ばされまいとなんとか新たに体を曲げてみるも、曲げる方向がわからず間違ってしまい、逆にひっかかりを外してしまう。弾き飛ばされる途中で何かにしがみつくことを繰り返しながら、苦しく陰惨な半生を葉蔵は生き抜いていったわけだけど、人間失格はその「自分を曲げる」ことへのアンチテーゼと、渦を巻く社会構造そのものを批判しているように感じる。
自分を曲げることは間違いで、嘘で、虚栄で、だから人は間違いで、嘘で、虚栄だと。まあ確かになぁ……ひっかかってないと俺なんか不安で不安で仕方がないから延々と渦の中心にいたいけども、そんな自分は嘘なのかなぁ…うーむ -
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「津軽」はけんちん汁みたいな一冊。地の物満載、郷土愛に溢れ、田舎出身のわたしにはどこか懐かしい味がする。
自分が生まれ育った故郷への愛情を幾千万人に伝えることのできる幸せを、太宰は果たして感じていたのだろうか。顔向けのできない愛する郷土の為に、太宰は情熱をもって仕事をしていたのだろうと推測する。
「人は、あてにならない、という発見は、青年の大人に移行する第一課である(40項)」
「『や!富士。いいなあ。』と私は叫んだ。富士ではなかった(132項)」
「親孝行は自然の情だ。倫理ではなかった(179項)」
登場人物の会話がなかなかにシュールでとても面白い。高尚な道化を交えるからこそ至言格言がまぁ生きる生きる。
続く「惜別」も太宰の大事業の1つ。そして個人的に太宰の凄さを改めて思い知った一冊。材料を元に自由に書き認めたとは言え、自分が同じようにこうして復元してもらえるのだとしたら、暗誦するまでこっそり読むと思う。人知れず。
「このように誰にも知られず人生の片隅においてひそかに不言実行せられている小善こそ、この世のまことの宝玉ではなかろうかと思った(263項)」
「文明というのは、生活様式をハイカラにする事ではありません。つねに眼がさめている事が、文明の本質です(273項)」
「人間の生活の苦しみは、愛の表現の困難に尽きるといってよいと思う(294項)」
周さんすげぇなあ。分かりすぎてしまうから生きづらく、知りすぎてしまうから悩んでしまう。天才が突っ走ったら誰も追いつけない。その苦悩と情熱の葛藤が苦々しくありありとこちらに伝わってきた。かの魯迅が過去日本にいたことすら知らなかった。今後読んでみたいな。 -
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江戸川乱歩、他『栞子さんの本棚2 ビブリア古書堂セレクトブック』角川文庫。
三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場した古今東西の名作集、第2弾。残念ながら今回も抜粋作品が多い。
江戸川乱歩の『孤島の鬼』『黄金仮面』『江川蘭子』は抜粋。全文掲載は『押絵と旅する男』と『二銭銅貨』の2編。中でも『二銭銅貨』は傑作中の傑作。この時代にこれだけのレベルの暗号ミステリが創られたとは信じられない。何度読んでも面白い。
小林信彦の『冬の神話』、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』『ハムレット』も当然の如く抜粋。
小沼丹の『黒いハンカチ』は江戸川乱歩と同じような系統の小気味良いミステリー。時代を感じつつも、描かれるミステリーの光景が目に浮かぶのだから、不思議。
寺山修司と木津豊太郎は数編の詩歌を収録。
太宰治の『駆込み訴え』と太宰のもう一つのペンネーム、黒木舜平で書かれた『断崖の錯覚』も収録。今どき太宰治を読む若者は果たしてどれだけ居るのだろうか。 -
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旬の秋刀魚みたいな一冊。肝の滋味あり、脂の旨味あり、食感の楽しさあり、太宰らしさが一番出ている文集では?と浅はかながら思った。
各文集にテーマがあるなら、ここでは「苦難」かな。「水仙」「正義と微笑」「花火」と、あたりまえの人生をあたりまえに送れない人達のほろ苦さがまざまざと描かれているけど、それはきっと太宰の心中を幾分は投影しているんだと思うし、滋味深いなと感じた。思えば、正義と微笑にある兄弟の絆は、太宰がとっても欲しかったものなのかもしれない。そんな軽い機構じゃないだろうけど、正義と微笑は太宰の理想を形にしたものにも思えてくる。
「これがあの、十六歳の春から苦しみに苦しみ抜いた揚句の果に、ぽとりと一粒結晶して落ちた真珠の姿か。あの永い苦脳の、総決算がこの小さい、寒そうな姿一つだ。(247項)」
……うーん苦い!滋味深い!
そして「帰去来」「故郷」で太宰文学の旨味のベースになっている、故郷青森とのつながりを書いている。何かにつけ厭世的で不器用な太宰さんの世界観は、青森で過ごした青年期に形作られているけど、いったい青森で何をやらかしたんすか。ほんと。とても気になるわ。敢えて調べないけど。
最後に「黄村先生言行録」「花吹雪」「不審庵」とコメディ3部作で〆。インコース速球2つからの外角スローカーブだな。体と脳全部持ってかれてルノアールで爆笑してしまった。
『突然、先生はけたたましい叫び声をあげた。「やあ!君、山椒魚だ!山椒魚。たしかに山椒魚だ。生きているじゃないか、君、おそるべきものだねえ」(中略)「これは、なんといったものかな?水族、つまり、おっとせいの類だね、おっとせいーーーー」全然だめになった。(341項)』
「あなた、こなた、夢に夢みるような思いにてさまよい歩き、ほとんど俗世間に在るを忘却いたし(親子どんぶり、親子どんぶり)(343項)」
「これは、私も最近ようやく気付いた事で、この大発見を諸君に易々と打ち明けるのは惜しいのであるが、(そうおっしゃらずに、へへ、と言いし学生あり。師を軽んずるは古来、文科学生の通弊とす)(364項)」
「腕に覚えの無い男は、どこやら落ち着かず、いやらしい眼つきをして、人に不快の念を生じさせ、蔑視せられてしまうものです。文学の場合だって同じ事だ(ぎょろりと速記者を、にらむのである)(365項)」
『二、三年前、本郷三丁目の角で、酔っ払った大学生に喧嘩を売られて(中略)…「わからんか。僕はこんなに震えているのだ。高下駄がこんなにカタカタと鳴っているのが、君にはわからんか」(368項)』
こんなのずるい。ツイッターに載せても40000000万リツイートぐらいもらえるはず。でもあユーモアがあるということは、それだけ作者に響くものを作る力があるってことなんだよな。感服です。ご馳走さまでした。
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5人兄弟のリレー小説という形式の表題作「ろまん燈籠」を始めとした短篇集。
「ろまん燈籠」はとある5人兄弟がリレー形式で小説を執筆するのですが、物語の序盤で其々の性格や好みの文学について等の前情報があるので、その知識を踏まえて読むと「こういう風に繋げるのか、何となくわかる」「性格出てるなあ」など感じながら読み進めることが出来て面白かったです。5人其々に個性があるので、小説自体がどのような結末へ向かうのかという楽しみもありました。
其々異なった文体でロマンチックであったり怪奇的であったりと、ひとつの物語で様々な表現を試みた太宰の手腕にも驚きました。
「みみずく通信」では私の地元の新潟市を訪れた際の出来事が描かれており、昔の火災で古町が大打撃を被りお堀も今は埋め立てられてしまいましたが、今尚あるイタリア軒が登場したり、かつては砂丘だった旧制新潟高校周辺や、その間には太宰と交流のあった同じ無頼派の坂口安吾の実家もあることを思い出し、新潟の歴史に触れることが出来て面白かったです。
基本的に戦時下の短篇集ですが、戦々恐々とした雰囲気や毒々しさもなく、いつも通りの太宰の自虐もユーモアがあって思わずクスッと笑ってしまえる軽快な短篇集でした。 -
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ラズベリータルトみたいな一冊。溢れ出る激情の果汁が、さっくりした文体に乗っかって至極の風味を醸し出している。言い過ぎか。
激情ってのはなんだろう。上手く言えないけど嫉妬、憎悪、恋慕、人への憧れかな。共感できるテーマが多く編纂されていて、新ハムレットもあるし初めて太宰治を読むなら全集4がオススメかも。
きりぎりす
ろまん燈籠
みみずく通信(特にラストの一文)
清貧譚
千代女
新ハムレット
風の便り
恥
面白いのが本当に多かった。
なかでも新ハムレットは、まさに激情型。憎悪と愛情の交差。ここまで人を罵倒できる表現があるのかってぐらいに誰もが誰もを憎み、愛し、敬い、妬む。本作実は読んだことないので読んでみたい。てかあのラストは何?笑
この全集においても「女というものは◯◯◯だから」と「小説家というものは◯◯◯だから」がよく見られた。風の便りの一節「作家は例外なく、小さい悪魔を1匹ずつ持っているものです。いまさら善人づらをしようたって追いつかぬ(377項)」など。太宰は結局、女性にもてたのかもてなかったのか、人の愛を求めていたのかいなかったのか。いずれにせよ社会的に魅力的な人間ではなかったんだろうな。
各篇の書き出しは毎回素晴らしいなと思うけど、ラストが素晴らしいものもあってよかった。
「私には、どこが、どんなに間違っているのか、どうしても、わかりません」(きりぎりす)
「みみずくの、ひとり笑いや秋の暮。其角だったと思います。十一月十六日夜半。」(みみずく通信)
などなど。
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お中元でもらう高級お茶漬けセットみたいな1冊。食べ応えのあるもの、懐かしい味のするもの、新しい味のするもの、20篇以上の特色あるバラエティがアソートされてるので、すすすっと読めるうえ、どれも本当に風味が豊か。読みやすさ、親しみやすさにホッとする、そんな1冊だった。
全集2よりも気に入った短編が多かった。
全集2では人の優しさや温かさに触れる主人公の心情変化に主眼が置かれたものが多かったけれど、女性にフォーカスしたものと、太宰自身が生活を省みる自伝のような作品が収録されている。別にそんな他意なく編纂されてるんだろうけど。
畜犬談
皮膚と心
女人訓戒
駆込み訴え
老ハイデルベルヒ
善蔵を思う
乞食学生
あたりが気に入った。なかでも
①溢れ出る愛と憎悪の激烈な感情がどういうわけか隙間なくきちんと収納されている「駆込み訴え」
②学生相手にムキになる大人に、なおのことムキになる学生の描写がいちいち滑稽で笑えるのに、なぜか甘苦い余韻の残る「乞食学生」
は面白かった。
あと「女は、一瞬間一瞬間の、せめて美しさのよろこびだけで生きているのだもの」がグッときた「皮膚と心」もいい。対象物にどうやって感情移入したらこういう視点で物事をストーリーにできるんだろう。決して太宰が女々しいようには見えないけど、女の決闘、女人訓戒など、男性が空想で書くにはあまりにリアルな作品が目立った。
あと最後に「走れメロス」ね。あれ別にメロス勇敢でもなんでもないわ。文学じゃなく歌で覚えてたからか、勇敢なメロスのイメージが粉砕されて久々に読み直して笑ってしまった。月曜AM中〆の資料提出を、土日やらないで始発で来てやる営業担当となんら変わりないじゃん。上長報告遅れたら考課に響くのに〆切信じて待ってくれたセリヌンティウス営業部長、こんなの美談にしてたら後々出世しないだろうなぁ。