あらすじ
疎開先の津軽の生家で書き綴られた、新しい自由な時代を迎えた心の躍動が脈うつ珠玉編『津軽通信』。原稿用紙十枚前後の枠のなかで、創作技巧の限りをつくそうと試みた中期の作品群『短篇集』。戦時下の諷刺小説『黄村先生言行録』シリーズ。各時期の連作作品を中心に据えて、それに戦後期の『未帰還の友に』『チャンス』『女神』『犯人』『酒の追憶』を加えて編集した、異色の一冊。(解説・奥野健男)
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登場人物や語り手の息遣いがすぐ側に感じられた。奇を衒った、技法に酔った、作者の独り善がりの創作ではなく、誤魔化しのきかない文章の巧みさによって、短編の世界に引き込まれた。
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好きなタイプの太宰作品が多い、良い短編集だった。
『一燈』、『庭』の雰囲気がすきだった。どちらも長兄とのエピソードなので、私はその2人の関係性が好きなんだろうか....
落ち着いていて、しおらしく、それでいてユーモアやあたたかさのあるこうした系統の太宰作品が好きだ。
『未帰還の友に』は取り残された太宰のやりきれないどうにも苦しい気持ちが全体に流れており、こちらも苦しくなる。「自分だけ生き残って、酒を飲んでいたって、ばからしい」なんて。
『チャンス』は前半の恋愛に関する御託が面白い。「『ふとした事』から異性と一体になろうとあがく特殊な性的煩悶、などという壮烈な経験は、私には未だかつてないのである。」と書いてあるからこちらが「まさか!嘘をつくな」と突っこむとすかさず次の行には「私は決して嘘をついているのではない。まあ、おしまいまで読み給え」などと書かれているから、してやられたと笑うしかない。本当にこのひとは読者と会話するのが呆れるほど上手い。
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執筆された時期が30歳過ぎとはいえ(自殺する数年前だったりわずか数か月前だったり)、やはりデカダン抗議・故郷津軽を描写させた太宰治はどうにもこうにも素晴らしい。嘘はじめに、あと戦中戦後の酒がのめない環境で酒ほしさにいろいろする行動もいかにも太宰。寄せ集めながら私は短編集もけっこう好きなので実は嬉しい。頑固で間の抜けた老人、黄村先生シリーズなんか私はとても気に入ったキャラなのでもっと創作してほしかった。雀は遊女との関係はかくあるべしという理想論なのか実話なのかあえて曖昧な所も太宰。ミステリー調の犯人と女神、新境地なのかもしれないが、太宰よりもほかの作家のほうが強いジャンルなので、この路線は太宰にはしんどいだろう。結語:太宰と津軽の相関はアタリ
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黄村先生のシリーズには笑った。
特に「花吹雪」がお気に入り。
それにしても、太宰を読むのは久し振り。
他の作品は学生の頃一通り読んだけど、何となく自分が太宰より歳上になって作品を読むとは思ってなかったから。
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中期の安定してい時期から死の間際までの太宰の短篇を収録。死の近づいた時期の作品「酒の追憶」はそれを感じさせないほどユーモラスである。連作「短篇集」の「ア、秋」は詩情豊かな作品だ。「秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。」なんてそりゃカブれます。「リイズ」がかなり胸キュン。女性にはぜひ読んでもらいたい。「黄村先生言行録」は風変わりな老人黄村先生の行動がおかしい。三編とも好きだ。「チャンス」は「恋愛はチャンスなんかではない。意志だと思う」に始まり据え膳食わない太宰がかわいい。太宰の短篇巧者ぶりが軽く楽しめる好著だ。
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ア、秋/女人訓戒/座興に非ず/デカタン抗議/一燈/失敗園/リイズ/黄村先生言行録/花吹雪/不審庵/庭/やんぬる哉/親という二字/嘘/雀/未帰還の友に/チャンス/女神/犯人/酒の追憶 2009/11
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疎開先の津軽の生家で書き綴られた、新しい自由な時代を迎えた心の躍動が脈うつ珠玉編『津軽通信』。原稿用紙十枚前後の枠のなかで、創作技巧の限りをつくそうと試みた中期の作品群『短篇集』。戦時下の諷刺小説『黄村先生言行録』シリーズ。各時期の連作作品を中心に据えて、それに戦後期の『未帰還の友に』『チャンス』『女神』『犯人』『酒の追憶』を加えて編集した、異色の一冊。
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こういう太宰治の作品もあるのかと、新しい発見になった本です。
面白くて、あたたかい感じがします。いくつか太宰治の作品を読んだ後に読むと、もっと楽しく読めると思う。
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黄村先生シリーズを初めて読んだとき、これ本当に太宰の作品?というほど新鮮な気持ちになった。それでもサービス満天のユーモアが溢れている。「酒の追憶」は太宰が自殺する3ヵ月前に書かれたと知って、最後の最後まで読者に対してユーモアを忘れなかったと思わせる。自分の作家道を貫き通した太宰に感服。
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太宰さんの戦後の短編シリーズを収めた新潮文庫です。
新潮文庫は文字が大きく、行間が広いので読みやすいのだ。
太宰さんって実はけっこう優しい人だったのかな…って思えるお話が多かったです。
太宰さん初心者よりも太宰さん中級者向けの1冊かな。
らじはもう中級者のつもりだけどね(笑)
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短編を中心としている一冊。一つ一つの話が区切り良く終わっているため、テンポよく読み進めることができた。
シリーズもので一番面白いと思ったのは、「黄村先生言行録」シリーズの山椒魚の話。語り手のである書生くんのように、黄村先生の行動から何かしらの教訓を得ようとしたわけではないのだが、読んでいるだけで思わずにやりとしてしまう。それだけでも、わたしにとっては価値があるお話である。「相変わらず登場人物のキャラ立てが上手い!」というのが、かなり率直な感想。もっと太宰の短編を読んでみたい。
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学生時代に太宰の本は一通り読んでいて、この「津軽通信」も読んだはずだけど、暇つぶしに再読。
表題作の「津軽通信」は故郷の津軽にちなんだ5つの掌編を集めた作品。特に「雀」は戦地での経験を経て、自らの中の加虐性にふと気づいてしまう様子を一文の無駄もなく描き切る。やはり太宰は戦中~戦後の作家であるという事実を改めて感じた。
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実家に疎開中に書かれた「津軽通信」(庭、やんぬる哉、親という二字、嘘、雀)、「未帰還の友に」「チャンス」を読む.肩身が狭く鬱々としているといいながら、「津軽通信」の諸作品に暗い影はあまりない.「やんぬる哉」は少し後の「親友交歓」を思わせるおもしろさがあるし、「雀」もオチがいい.「未帰還の友に」は戦後に生きること辛さを感じさせる.
他に黄村先生三部作「黄村先生言行録」「花吹雪」「不審庵」を読む.おもしろくないわけではないが、ちょっと作り過ぎでないか。
それにしても太宰のように自分の人生と小説の距離が近いのは辛いだろうな.
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「座興に非ず」「犯人」に、太宰のどうにも遣り切れない投槍の虚無と追い詰められた絶望の凄まじさを見る。「黄村先生」三部作は、戦時下の国粋主義を茶化した風刺小説、大笑い。