あらすじ
疎開先の津軽の生家で書き綴られた、新しい自由な時代を迎えた心の躍動が脈うつ珠玉編『津軽通信』。原稿用紙十枚前後の枠のなかで、創作技巧の限りをつくそうと試みた中期の作品群『短篇集』。戦時下の諷刺小説『黄村先生言行録』シリーズ。各時期の連作作品を中心に据えて、それに戦後期の『未帰還の友に』『チャンス』『女神』『犯人』『酒の追憶』を加えて編集した、異色の一冊。(解説・奥野健男)
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Posted by ブクログ
魅力たっぷりな短編集。
『犯人』がすっごい引きこまれる話だった。ハラハラした。志賀直哉はオチが見え見えだと言って作品を徹底的に否定らしいが、私はまったくオチが分かりませんでした。ただ森ちゃんとの関係性の瑞々しさが失われていくの寂し〜とか、犯行後の犯人の心理描写が生々しくてゾクゾクしたりしていた。「闇屋さん、闇におどろく」ってセリフを見て、やっぱり太宰は喜劇寄りな作風だよな〜と思った。虚しさを伴う自嘲めいた喜劇。これぞマイ・コメディアン。
太宰の小説は「ぐらぐらめまいした」みたく助詞を抜いた喋り言葉がときどき地の文に出るよね。『犯人』は喜劇でなくシリアス寄りの話だと思って読んでたから、このラフな口調がポンと出たのはびっくりした。太宰にとっては犯人も喜劇名詞なのかもしれない。
『ア、秋』タイトルおもしろ!
『花吹雪』太宰なりの十九箇条、面白かった。
『雀』、「雀じゃないわよ」って無邪気なセリフのわりに怪我がひどくてギャー!
『チャンス』には「恋愛、という新語」という一文が。たしか恋愛という言葉は明治時代に作られた言葉。150年くらいしか歴史がないのに、今日ではみんなが当たり前に使っている。不思議だよね。
「ひょんなこと」や「もののはずみ」を否定してるの面白かった。
Posted by ブクログ
好きなタイプの太宰作品が多い、良い短編集だった。
『一燈』、『庭』の雰囲気がすきだった。どちらも長兄とのエピソードなので、私はその2人の関係性が好きなんだろうか....
落ち着いていて、しおらしく、それでいてユーモアやあたたかさのあるこうした系統の太宰作品が好きだ。
『未帰還の友に』は取り残された太宰のやりきれないどうにも苦しい気持ちが全体に流れており、こちらも苦しくなる。「自分だけ生き残って、酒を飲んでいたって、ばからしい」なんて。
『チャンス』は前半の恋愛に関する御託が面白い。「『ふとした事』から異性と一体になろうとあがく特殊な性的煩悶、などという壮烈な経験は、私には未だかつてないのである。」と書いてあるからこちらが「まさか!嘘をつくな」と突っこむとすかさず次の行には「私は決して嘘をついているのではない。まあ、おしまいまで読み給え」などと書かれているから、してやられたと笑うしかない。本当にこのひとは読者と会話するのが呆れるほど上手い。