養老孟司のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
国際連盟から「今最も重要だと思う事柄について、一番、意見を聞きたい相手と書簡を交わしてください」という依頼を受けたアインシュタイン。
彼が選んだテーマは「戦争はなくせないのか?」そして、選んだ相手は心理学の大家フロイトだった。
彼らのやりとりを読みやすい文章で訳したもの。
★戦争をなくすために、今なにができるのか?
アインシュタインは国際的な機関が、国際的な紛争を絶対的な権威をもって判決し、決定を実行するようにできないか、と考えるも、現状では実現は困難だと考えています。
これまで、平和は実現できない理由は人の心(権力欲・利益を求める・本能的に憎悪に駆られて相手を絶滅させようとする欲求)にあるのではないか、では、人の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることは可能なのであろうか。とフロイトに問いかけます。
フロイトはアインシュタインが述べたことをたどりつつ、考察し、やはり戦争を確実に防ぐには、みんなが一致団結して、強大な中央集権的な権力を作り、利害対立の裁定を委ねるほか道はないとしています。そしてこの道へ進むには二つの条件がいると指摘しています。①現実に機関が創られること②裁定を押し通せるだけの力を持っていること。そして、国際連盟は②の条件を持っていませんでした。
また、フロイトはアインシュタインが主張した、人間の心自体に問題があるのではないかという説も賛成。
結論から言えば「人間から攻撃的な性質を取り除くことはできそうにもない」のですが、人間の攻撃性を戦争という形で発揮させなければ良いと述べています。
破壊欲動の反対の欲動、エロスを呼び覚ませば戦争を阻めるはず=人と人との間の感情と心の絆を作り上げるものは戦争を阻むはず、と。
もう一つ、戦争への欲求を間接的に克服する手段として、人間は指導者と従属する者とに分かれることに着目。これは生まれつき備わっている性質で如何ともし難いため、優れた指導層を作るための努力をすることを挙げています。
ここでフロイトは一つの問題を提起します。
どうして数多の苦難を甘んじて受け入れて生きてきた多くの人間が、それでも戦争だけは受け入れ難い!と思うのか?フロイトは文化による心身の変化が、平和主義者を心身から戦争を拒絶させるとのべ、この心身の状態と、将来、戦争がもたらすであろうとんでもない惨禍への不安が、戦争をなくす方向に人間を動かしていくと期待できるのではないか、と締めくくっています。
訳文も読みやすく、解説も丁寧で(養老孟司さんと斎藤環さんによる、これまた丁寧で興味深いもの)、短いながら濃い一冊でした。
これが書かれたのは1932年。ナチスドイツが勢力を拡大し、書簡を交わした二人の天才も亡命を余儀なくされた身でした。書簡の言葉から「言うほど簡単ではないけれど」という実感と、それでも、平和に向けて何ができるのか考えようとしている姿がうかがえます。 -
Posted by ブクログ
養老孟司(1937年~)氏は、東大医学部卒、東大大学院基礎医学博士課程修了、メルボルン大学留学、東大教授、東大総合研究資料館館長、東大出版会理事長、北里大学教授等を経て、東大名誉教授。専門の解剖学に加えて脳科学などの見地から多数の一般向け書籍を執筆しており、『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞(1989年)、2003年に出版した『バカの壁』は、出版部数400万部を超える戦後日本の歴代4位となっている。尚、現在までに「壁」シリーズとして、『死の壁』、『超バカの壁』、『「自分」の壁』、『遺言。』、『ヒトの壁』の計6巻を刊行し、シリーズ累計の出版部数は660万部超。
私は新書を含むノンフィクションを好んで読み、興味のある新刊はその時点で入手するようにしているが、今般、過去に評判になった新書で未読のものを、新古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊。(シリーズの中では『バカの壁』、『死の壁』を読んだ)
本書は、『バカの壁』以降「聞き書き」が続いた中での久し振りの「書き下ろし」で、養老先生が、最近の世界・社会は変だと感じる中で、何故そう感じるのかを筋書き立てて書いたもの、見方を変えれば、「ヒトとはなにか、生きるとはどういうことか」をまとめたもの(養老先生はそう言っている)である。
聞き書きの本は一般に理路整然としていないことが多く、本書は書き下ろしということで期待したが、やはり、所謂教養新書的ではなく、エッセイ的な書き振りなので、読後感は必ずしもすっきりはしない。
それでも、私なりの理解をラフにまとめると以下である。
◆通底するテーマは「同一性(同じ)」と「差異(違い)」の二項対立であり、それは、「意味・意識」と「感覚所与」、「理論」と「現実・事実」などと言い換えられているが、私の理解では、更に、「抽象」と「具象」、或いは「左脳的」と「右脳的」などとも言えるように思う。
◆そして、動物とヒトの決定的な違いは、動物は後者(差異)しか理解できないのに対し、ヒトは進化の過程で前者(同一性)も理解できるようになったということである。そして、現代のヒトは前者を追求するあまり(都会的な生活や情報のデジタル化はその典型)、すべてのものには意味がなければならないと思い込み、かつ、自分に理解できないものの存在を許さなくなっている。
◆前者を理解できることがヒトがヒトであることを特徴付け、その結果、言葉、お金、民主主義、宗教(究極は一神教)が生まれたのであり、そのこと自体を否定するわけではないが、一方で、前者と後者の乖離が、様々な社会問題における分離・対立を生んでいるのも事実であり、ヒトはもっと両者のバランスを考えて生きるべきである。
私は本書を読みながら、これまでに読んだ様々な本を思い出したのだが、例えば、ユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『サピエンス全史』では、ホモ・サピエンスがあらゆる生き物の頂点に立てた最大の要因として、「虚構」を認知・共有できるようになった「認知革命」を挙げているが、これは養老先生の言う「同一性(≒抽象)」という概念を獲得したことと同意である。また、現在の現代思想(=ポスト・モダニズム思想)は、「同一性」を重視した「大きな物語」を前提としたモダニズム思想のアンチテーゼとして、「差異」に着目した議論を展開しており、そのあたりは千葉雅也の『現代思想入門』等に詳しいが、これは、養老先生がもっと「差異」を意識すべきということと合致する。更に、山口周の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』では、今のビジネスにおいては、MBAのような画一的な知識よりも美意識が大事だと書かれているが、これは本書の中で、「アートは「同じ」を中心とする文明社会の解毒剤」と言っていることと繋がる。要するに、本書に書かれていることは、現在実に様々なところで注目・議論されているテーマなのである。
「同一性」の追求によって進歩してきた現代文明は、IT、バイオテクノロジー、プラネタリーバウンダリー、資本主義等、様々な意味において分岐点にあり、「差異」の重要性を再認識するべきという主旨に同意する。
(2022年12月了) -
Posted by ブクログ
ネタバレ養老先生は虫を観察して人間を考える。
山極先生はゴリラとともに体感し人間を考える。
地球上にいる生命の祖先はどのように生きたか、何億年単位で生命の先輩たちを調べたお二人が情報共有しながら、人間の立ち位置を整理した内容でした。
江戸時代にマタギによって根絶やしにされたサルの話しや、洗剤による鎌倉の川の汚染では下水道を整備して水がキレイになったら、元々居なかったフナを放流した話しなど、今の時代では信じ難い問題がなかったかのような日本なんですね。
日本文化は述語的な文化、西洋文化は主語的な文化。日本特有の生き方も考えさせられます。
ひとつ気になるのが、車社会は環境に良くないまではいいのですが、その代わりに水上交通と上空交通の提案は、結局、海の環境も空の環境も良くないのでは?と思いました。でもたくさん研究されてきた生き物については参考になりました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「バカの壁」ぐらいは読んでいるかもしれないが、内容が思い出せないのでもしかすると著者の本は初読みかも。
基本、超絶頭のいい人が、難しい抽象的な話をイメージで語る系のこの手のものは、ド文系の私が科学の難しい論文を読んでいるようで、ほとんど頭に入ってこない。この本も、途中の哲学的話題の部分は、話の外側の箱の形ぐらいしかわからなかった。
それでも、「この社会はほとんど反応だけしている」という部分には深く肯首。コロナ感染者増加!国葬反対!オリンピック!円安!といちいちメディアの情報に反応し、過ぎ去れば何の検証もせず、何事もなかったかのようにもとに戻る。これからの社会は、思考停止になり、反応だけを繰り返す社会になっていくのだろうか。