黒澤いづみのレビュー一覧
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母親を突き飛ばして死なせてしまった小学生の羽山萌果。
小学校ではおとなしく特に印象に残らないような少女だったが、家庭裁判所で悪態をつき施設でも何度も逃走するような問題児。
萌果の中にいるのは誰なのか。
佳奈の記憶では、自分が母親にされていた虐待を萌果にもして鬱憤をはらしていたが、萌果に「しんじゃえ」と言われてカッとなって萌果を突き飛ばし、死んだのは萌果。しかしいつの間にか死んだ萌果と佳奈は入れ替わっており、佳奈の体が死に、萌果の体の中で佳奈の精神が生きている状態になっている。
すごく不思議な話だった。
私は、いつか萌果の人格も表に出てくるのだろうと思って読み進めたが、最後まで萌果の人格は現れなかった。萌果は本当に死んでしまったようだ。
萌果の中には、佳奈の幼少期からのかなり詳しい記憶もあり、萌果が佳奈に影響を受けて人格が似てきているという状態ではなく、本当に佳奈になってしまったのだ。
肉体の死と、精神の死というのは、精神の死のほうが残酷のような気がした。肉体は死ぬことができても、精神に終わりはなく、死んだ精神がどこにいくのか分からない切なさがあるからだ。かわいそうな少女である萌果の精神は、どこに行ってしまったのか・・・私はそればかり気になった。
佳奈の「生き直し」ともいえる物語。自分に外見がそっくりな娘の体で、自分が殺すことができなかった虐待母を殺し、そして小学生として生き直す。パラレルワールドのようだ。
佳奈に大きな影響を与える「齋藤」という心理士が、性同一性障害で「生まれる体を間違えた」というのも、佳奈と萌果の精神と身体の入れ替わりを示唆しているようだ。
もし、佳奈が小学生の時に佳奈の母親を殺していたら、佳奈はこの本の通りに多くの人に出会い、つまずきながら生きていたのではないだろうか。第一の佳奈の人生とは異なる人生になっていたはずだ。
その先に萌果は誕生していないかもしれないが。ただ、最後まで読んで、私は佳奈に、萌果をもう一度生み直し、生かし直してほしいと、願ってしまった。
佳奈の精神が少しずつ自分の人生と向き合う様子は読んでいて圧巻だった。「更生」という言葉はほぼ使われていないが、すごく丁寧に書かれていて、「羊の楽園」のお話もすごく良い。やっぱりこの作者さんすごいと思った。 -
Posted by ブクログ
引きこもりがかかるという「異形性変異症候群」によりキモい虫の姿に「変身」した優一と家族の物語
将来への期待、世間に説明できる息子像、普通の家族という幻想
これらは息子が虫になったから失われたんじゃない
「異形」という分かりやすい差別化で「受け入れられるか」という試練として家族に降りかかる
人の価値は何で決まるのか
誰が決めるのか
人の体は食べたものでできているように、自分が成したことは未来に返ってくる
息子が虫になったのは、家族それぞれの過去の選択の結果
異形化はファンタジーだけど、家族の苦しさは現実そのもの
不気味でキモいけど切なくて優しい作品だった -
Posted by ブクログ
思わず「ジャケ買い」してしまった本作。
物語は、読み始めてすぐに、主人公の息子がグロテスクな異形へと変化してしまう『異形性変異症候群』を発症するところから動き出す。これは、ニートや引きこもりといった社会的弱者とされる10〜20代の若者たちが、ある日突然、異形の怪物になってしまう病気だ。
社会から「役に立たない」と見なされた若者が異形化していく世界を通して、引きこもりや家族の無理解といった現実の社会問題が具体的に浮かび上がってくる。単なるホラーにとどまらない、重厚な「家族小説」として非常に見応え(読み応え)のある良作だった。
ただ、中盤の家族会「みずたま」での活動シーンは、裏で何かが起こりそうな不穏さを醸し出しつつも、描写がやや冗長で中だるみを感じてしまった。しかし、息子を山へ探しに行き、夫との別居や春町との再会を経てからは物語がようやく大きく進展。終盤に入ると一転し、「人間に向いていない」存在たちの叫びが一気に噴き出すように描かれ、その強いメッセージ性が深く心に刺さった。