島田荘司のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ(上巻の感想からの続き)
そして吉敷。
この男はシリーズを重ねるたびに存在感を増しており、しかも言葉遣いも心なしか変わってきているようだ。登場当初は単なる刑事に似つかわしいダンディという設定以外、何の特徴もなかったが通子の登場、上司との軋轢、殺人課での孤立という状況変化を経て、その人と成りがヴィヴィッドに浮き上がってきている。
今回、刑事が冤罪事件を調査するという仲間の手柄を覆す裏切り行為を行うことをやってはならないことを知りながら行うことで、吉敷の刑事辞職という設定を持ってきたのはよかったが、最後の最後で救われることが自分的によかったのか悪かったのか判断がつかない。
刑事を辞めれば通子と暮らせる、しかし刑事をしなければ悪は倒せない、この二律背反の状況の中、自分としてはやはり辞職をして通子との暮らしを選択して欲しかった、吉敷の、例えば探偵としての第2のスタートを見たかったという気持ちがあり、これにはちょっと肩透かしを食らった感がある。
しかしよくよく考えてみると、一方では御手洗潔というエキセントリックな探偵を配しているので、もう1つの探偵物は不要なのだった。吉敷シリーズとこれからも付き合っていくことを考えれば今回の選択は正しかったのだ。
今回、この600ページ前後の上下巻では島田氏の語りたいテーマがかなり網羅されているように思う。
冤罪事件、組織改革、記憶もしくは脳に対する研究。
これらをモチーフに通子と吉敷のストーリーを仕上げる手腕は相変わらず凄まじさを感じる。人物を語ることに重きを置いたこともあり、不可能犯罪的要素は薄められてはいるものの、やはり最後で切断された首の問題、殺人現場の不具合を論理的に解明するあたりは島田本格面目躍如といった感じだ。
最後に用意された吉敷の鬱屈感を一掃する実の子との対面と警部昇格の知らせは盆と正月が一度に来たようなもので吉敷シリーズの第一部フィナーレを飾るに相応しい幕切れだった。
しかし、通子の業はまだ続く。恐らくはまたもや暗鬱な日々が二人に訪れることだろう。
だからこそ、中年を過ぎた二人に似つかわしい甘いやり取りもまた許せるというものだ。 -
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ネタバレ吉敷竹史シリーズの第一部完結編とでも云える本書、その中でもとりわけずっと謎めいた存在で登場していた元妻、加納通子との関係への総決算的作品となっている。
加納通子の生い立ちから述べられる本書は今までの『北の夕鶴2/3の殺人』、『羽衣伝説の記憶』、『飛鳥のガラスの靴』、そして『龍臥亭事件』全てを一貫して補完する形で、これらの作品の間に隠されたサイドストーリーを余すところなく、描いている。摑み処のない悪女といった感じの加納通子という女性が、今回ではじっくりと描かれる。その描写は、「業」と表現されるある種呪われた血が流れている途轍もない生い立ちを以って語られるが故に匂い立つほどの存在感を醸し出している。
この通子の物語は島田作品らしからぬあまりに世俗的な表現を多用しており、駅の売店やコンビニなどで売られている三流官能小説のテイストを備えており、正直辟易はした。
一方、吉敷側のストーリーは反りの合わない上司がある女性と食堂で話していることを偶然見かけたことをきっかけに、40年前の冤罪事件を自分の性に従い、解明しようとする物語である。
これは当時島田氏が手がけていた『秋好事件』の経験を活かしたもので、吉敷が冤罪事件の捜査で出くわす関係者の反応、やり取りは多分に自らが行った秋好事件の再調査での体験がそのまま反映されているのだろう。現実の世界での秋好事件が再審にならなかった無念をこの小説内で語られる恩田事件で晴らしているかのように感じた。
加納通子がこの恩田事件に冤罪であることを証明する決定的な証人であるという設定は結構盛り込みすぎだという印象が拭えなかった。
というのも今まで島田氏が語った吉敷シリーズ3作と御手洗シリーズ1作に関わっている通子がさらに40年前の冤罪事件にも関わっているというのがいかにも作り物めいていて一人の人物に設定を詰め込みすぎだろうという印象が強くなってしまった。
恐らく作者もその辺を理解していたのだろう、通子の生い立ちに費やした筆はかなりのもので今まで日本各所に点在していた通子についてそれらを結ぶ線を無理なく仕上げようと腐心しているのが解った。
最後に通子が鶏肉が苦手である理由がこの恩田事件によることだというエピソードはかなり秀逸で、これを持ってきたがために、通子が語られた当初から作者はこのストーリーを想定していたのではないかと思わされた。
(下巻の感想に続く) -
Posted by ブクログ
ネタバレ時代は昭和39年。クレセント錠とスクリュウ錠で閉ざされた密室というあたりに時代性を感じさせる。
鳥居の左右が、両側の建物に突き刺さっているシチュエーションは、何とシュールなのだろうと思っていたら、京都市の錦市場では、実際にこのような光景を目にすることができると知って驚く。
そのような状況を見事にトリックに昇華させた著者の手腕はさすがである。
そして、そのトリックがわかったと「ユーレカ」とばかりに駆け出して行った大学生の御手洗は若い!
事件のすべてが詳らかになっても、最後に残った難問は容易に解きほぐすことができないように思えたが、これも解決に導いた御手洗は、既に名探偵の片りんを覗かせる。
この物語のラストは、季節外れの、そして10年越しのクリスマスプレゼント。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久しぶりの御手洗シリーズ。
この間それなりに読書経験を積んだせいで、御手洗がカッコ良く見れなくなってたらどうしよう…と若干の不安があったんだけど、ちゃんとカッコ良くて嬉しかった。
派手で強引な真相で島田荘司らしいストーリー。
面白かった。
超有名俳優の息子にして『占星術殺人事件』の読者でもある青年が、鎌倉の独り暮らしの部屋にある日強盗に入られ、居合わせた父親の恋人と父親の秘書が殺されてしまう。太陽が消えこの世の終わりのような様相を呈する世界で、青年はふとこの二体の死体でアゾートを作ることを思い立ち実行する。するとアゾートが動き出し……という手記が、東大教授によって御手洗にもたらせる。
この手記は何を示すのか。教授は筆者の脳の障害を疑い、御手洗は実際に起こった事件だと主張する。
その実証のため、石岡は現地調査に派遣される。
死体を分断するシーンのとてもリアルな表記は確かに現実に起こった事件に思えるけど、夜だけの世界とか変わり果てた鎌倉の風景とかアヤシイ人間とか恐竜とか、さすがに現実としては説明できないでしょみたいな、これどう落とし前つけるんだ的な相変わらずの島田荘司ぶりだった。
渦の右巻きと左巻きには気づいたけど、まさかインドネシアまで飛ぶとは思わなかった。ここのところの御手洗シリーズは世界を股にかけてる。
9階程度のマンションじゃ階数は誤魔化せないだろうな(今ならタワーマンションにするだろう)とか、謎の死を遂げたサラリーマンの未亡人を襲った美青年は結局誰だったんだろうとか、いろいろ都合良すぎるところも含めて突っ込みどころ満載だったけど、大枠は面白かった。
手記の謎が一応合理的に説明されて、一応スッキリ。
あと、知的好奇心が一番で決して正義の側にいるわけじゃない御手洗のスタンスを堪能できて満足。
本来の形に組み戻された手記を読む時に自分の集中力が持たなかったのだけ残念だった。
(以下、京極堂シリーズにかぶれた人目線の感想)
久しぶりに読む御手洗は、榎木津と中禅寺を足して2で割ったような人物として私の前に立ち現れてきた。
他人を全く気にしないところと外見のカッコ良さは榎木津で、合理的な思考と丁寧な口調で他人を翻弄するところは中禅寺。
そして石岡君は、鬱じゃない関口(笑)。
特に御手洗の命で鎌倉を調査する石岡君は、榎木津に無茶振りされて現地調査させられる関口と、超シンクロしてる。御手洗に馬鹿にされて嫌味を言われるところも、中禅寺と関口の関係に置換可能。
畸形児とかバラバラ死体とか、エピソードにも京極堂シリーズのエッセンスが感じられる。
直接影響を受けたとまでは言わないけど、私何読んでるんだっけ?と思ったくらい混乱した(笑)。