田口俊樹のレビュー一覧

  • 日々翻訳ざんげ

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    おもしろくてイッキ読み。

    過去のご自身が訳されたものを再読して、それについて徒然なるままに語る、という趣旨の本なのだけれど、いろんな「やらかした」エピソードが告白されていて、その正直さ、飾らなさに驚くと同時に、すごく好感を持ってしまった。

    私はミステリはあまり好んでは読まないので、著者の訳された本はほとんど読んでいないのだけど、この本はちょっと変わった読書案内にもなっていて、いくつかは読んでみたいと思った。
    やっぱり本の解説はその本の翻訳者が書いたものが他を圧倒して秀逸だなと思う。翻訳って、精読中の精読だものね。

    トピックは翻訳技術よりも、その本を翻訳していた時の裏エピソードが多い。編集

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    2021年07月05日
  • ひとり旅立つ少年よ

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    「視線を交わしたその燃え上がるような一瞬、ふたりは一生分の思いを語り合った」
    「その犬の歩むところ」に続き二冊目のボストン・テラン。奴隷制度に立ち向かう内容それ自体も感動的なのですが、それを表現する著者(と訳者)の文章が深く心に入り込んできます。要所要所で出会う心打たれる文章を二度読みして味わいながら読みました。
    「眼にしたすべてのものが少年の一部となり、少年もそのすべてのものの一部になる」
    奇しくもこの本を読んだのは7月3日4日でした。

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    2021年07月04日
  • カーテン

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    ネタバレ

    エルキュールポアロ最後の事件に相応しい内容だった。
    これを読んでしまったらポアロとお別れするようで、中々読まずにいたが、大変面白かった。
    最後のポアロの決断には賛否両論あるかと思うが、彼の悪を許さない強い気持ちと、これから犠牲者を出さないために、禁断の手を用いたその覚悟に、私は拍手を送りたい。

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    2021年06月20日
  • 石を放つとき

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    「夜と音楽と」と「石を放つとき」
    短編集と新作中編、時間軸もまったく違うふたつの章からなる一冊。
    「まえがき」のおかげで
    自分がなぜマット・スカダー・シリーズに惹かれ、今も忘れられないのかしみじみ思い出し一気読み。
    ミックやTJに会えたのも嬉しいし、老いて尚、衰えぬマットとエレインふたりの関係には完敗…。
    相変わらずハードボイルドで最高でした。

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    2021年06月15日
  • ランナウェイ

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     家族、親子、夫婦、ドラッグ、暴力、ネット、メディア、拡散、殺人、失踪、新興宗教、携帯、遺伝子、etc. etc。現代のミステリーは、犯罪の内容も、手段も、情報も、捜査方法も、過去のそれとは大きく異なってきている。そのことを嫌というほど感じさせる作品。

     ハーラン・コーベンを読むのは実は初めてなのだが、本書を読む限り、本物の香りを芬々とさせる、濃厚なテイストの、誠実で間違いのない作家、と言うに尽きる。

     グリーン家という家族で構成されるユニットを、さらに父、母、兄弟、姉妹、という具合に、それぞれの関係を多角的に描きつつ、あくまでも主人公は長女を探す父サイモン、という設定で貫く。副主人公とも

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    2021年04月30日
  • 卵をめぐる祖父の戦争

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    映像化にピッタリの非常に面白いお話だった。
    コメディとアクションとシリアスとヒューマンドラマの配分が抜群で、どれもしびれるほど良い。
    残酷描写と下ネタに抵抗のない人なら100%お勧め。

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    2021年04月20日
  • 八百万の死にざま

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    アルコール中毒の元刑事、マット・スカダー。 今では伝手を頼ってやってくる依頼人からの仕事を受けながらのホテル暮らし。 別れた妻子への送金も滞りがちで、酒を断とういう苦闘を続けていた。

    売春婦キム・ダッキネンからの依頼は、ヒモのチャンスと手を切りたいということだった。 マットが交渉するとチャンスはあっさりと承諾したが、その二日後、キムは惨殺死体で発見された。 警察はチャンスを有力な容疑者として疑うが、チャンスはマットに真犯人を探し出してほしいと依頼した。 許可証もない探偵として、マットは調査を始める。

    変容してゆくアメリカ社会の中で、犯罪はどのように変わってゆくのか。 警官時代に、心ならずも

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    2021年04月11日
  • キス・キス〔新訳版〕

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    ロアルドダール3冊目の短編集だが「あなたに似た人」よりも完成度が高いと思っている。「女主人」「牧師のたのしみ」「ジョージイポーギイ」「ほしぶどう作戦」「誕生と破局」など皮肉で残酷で見事な結末のドンデン返し。最後の最後ですべてがひっくり返って景色がガラリと変わる。予期せぬ出来事を存分に愉しませてくれる全11編。

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    2021年03月24日
  • 神は銃弾

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    ドラッグ、暴力、SEX。
    欲望のすべてが、この穏やかな表現の下にうごめいている。

    欲望をつかさどる神はなんだ?
    伝統の神と、新参のカルト教祖が交錯する中、すべてをコントロールするのは銃弾だ。
     表現は静かで、映像的。暴力を表出させながら、深い愛を書いている。

     暴力が支配するカルトから更生を目指す女性と保安官が、誘拐された娘を救出に向かう。強烈な暴力のやり取りは、偏執的なカルト主宰者の来歴と憎悪が発端だ。反目しあう二人の間に、次第に通い合うものが育まれ、退屈させる間なく展開するストーリーに感慨は深まる。読後は充実感に包まれる。

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    2021年03月20日
  • 日々翻訳ざんげ

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     田口俊樹翻訳作品で自分の読んだ本を数えてみたら54作であった。特に翻訳者で本を選んでいるわけではないのだけれど、ぼくの好きな傾向の作家を、たまたま多く和訳して頂いているのが田口俊樹さんということであったのだと思う。特に、完読しているローレンス・ブロック作品は、ほぼ全作田口さん訳なので、ぼくのように読書歴にブロックのあの時代があったミステリー・ファンは、少なからず田口俊樹訳で読んでいることになるのです。

     他に田口訳作品でお世話になったところでは、フィリップ・マーゴリン、トム・ロブ・スミス、最近の(パーカーBOOK版になってからの)ドン・ウィンズロウ。いずれも大変な作家揃い。

     最近では、

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    2021年03月07日
  • 短編画廊 絵から生まれた17の物語

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    20世紀を代表するアメリカ人画家の一人であるエドワード・ホッパーの作品は、写実的だが郷愁を感じさせるタッチ。現代的な孤独感。描かれる人物の物憂げな表情。ありふれた構図なのだが何故か惹かれるものがある。
    そんな魅力に惹かれる作家も多く、この本の編者であり著者の一人が、これまたアメリカ探偵小説の雄ローレンス・ブロック。ホッパーの作品から発想された短篇小説を創り出すというアンソロジーの企画に賛同したのは、彼と交友関係のある多彩なアメリカ人文筆家達。
    18枚のホッパーの作品に、ブロックを含め、17人の作家が描く17編の短編は、ミステリー、サスペンス、ハードボイルド、スパイモノ、ホラー、ヒューマンドラマ

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    2021年03月07日
  • 最後の巡礼者 下

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     ノルウェイのミステリーといえばジョー・ネスポとサムエル・ビョルクくらいしか読んでいない気がするが、本書は「ガラスの鍵賞」他、北欧ミステリーで三冠を挙げた警察小説であるらしい。それも本邦初訳となる作家。それにしてもぐいぐい読める本とは、こういう作品のことを言うのだろう。

     2003年の猟奇的殺人事件を捜査するオスロ警察のトミー・バークマン刑事。1945年戦後に起こるミステリアスな殺人。1939年に始まるイギリス籍ノルウェー人女性アグネス・ガーナーによるスパイ活動の物語。これらが、場面と時代を変えて語られてゆく。最初はわかりにくいジグソーパズルの断片に見えるものが、次第に一枚の絵を完成させてゆ

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    2021年02月24日
  • 最後の巡礼者 上

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     ノルウェイのミステリーといえばジョー・ネスポとサムエル・ビョルクくらいしか読んでいない気がするが、本書は「ガラスの鍵賞」他、北欧ミステリーで三冠を挙げた警察小説であるらしい。それも本邦初訳となる作家。それにしてもぐいぐい読める本とは、こういう作品のことを言うのだろう。

     2003年の猟奇的殺人事件を捜査するオスロ警察のトミー・バークマン刑事。1945年戦後に起こるミステリアスな殺人。1939年に始まるイギリス籍ノルウェー人女性アグネス・ガーナーによるスパイ活動の物語。これらが、場面と時代を変えて語られてゆく。最初はわかりにくいジグソーパズルの断片に見えるものが、次第に一枚の絵を完成させてゆ

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    2021年02月24日
  • 飛行士たちの話〔新訳版〕

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    とても良くて、忘れられない本になりました。ジブリの「紅の豚」の原作の一つ。戦争が人を変えてしまうということのリアリティ、虚しさが静かに伝わってくる。最終話「あなたに似た人」は、やり切れなさを抱えて酒を飲む、その感情がひしひしと伝わってくる。

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    2021年02月20日
  • その犬の歩むところ

    購入済み

    重厚

    重厚なスリルと感動。
    かわいそうで顔をしかめてしまう箇所もあった。
    犬の善良さがひしひしと伝わる。
    残酷だけど下品さがない。
    素晴らしい本を読んだ。

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    2021年02月09日
  • 壊れた世界の者たちよ

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    ドン・ウィンズロウ初の中編小説集は、読み応えがあった。中編になるとなおさら、
    巧妙なプロットとしゃれたセリフが目立つ。過去の長編の登場人物たちが顔を見せ、後日談が語られるのもうれしい。

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    2021年02月04日
  • 石を放つとき

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    ネタバレ

    マット・スカダーの最新作。

    短編集と新作が入った一冊。
    良かった。

    最初のこの作品群を読んで育ったという読者の話も良かったし、
    何度も夜を過ごしたミックの店の最後の日の話も良かったし、
    昔のマットの話も良かった。

    新作はストーカーに追われる女性を
    警察とのつながりも、昔の仲間も、体力もない中で救うお話。
    ウーバーや携帯の地図アプリ、マップクエストを使いこなすマット・スカダーと、
    隔世の感がある中でも、
    マット・スカダーはマット・スカダーだった。

    そして、TJ!
    とても印象的だった登場人物のその後が、
    ほんのさわりだけでも知れて良かった。
    しかも、正規に入学したわけでもなければ
    学費も払

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    2021年01月29日
  • 石を放つとき

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     マット・スカダーはその後どうしているんだろう、と思ったことは一度や二度ではない。本書はそうした古いハードボイルド・シリーズのファンに応える今のマットと今に至るニューヨークを描いた、アフター・ザ・ハードボイルドといった趣の洒落た作品集である。

     最初の数作は、ブロックの短編集などでお目にかかった再録作品であるが、この際想い出すためにもすべてを読み返した。『窓から外へ』『夜明けの光の中に』『バックレディの死』今更ながら秀逸だ。美味なカクテルのようにパンチのきいた短編である。マットとともにニューヨークという都会をしっかり描いている気がする。

     新たに邦訳された短編群では、探偵になる前の警官時代

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    2021年02月22日
  • ゴーストマン 時限紙幣

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    一匹狼の銀行強盗の『私』は、何通りもの人間に変身し、自由に姿を消す『ゴーストマン』。5年前のしくじりで借りを作ったマフィアから、強盗に失敗し、120万ドルと共に姿を消した部下の捜索を強要される。期限は48時間。敵対するマフィアからも目をつけられ絶体絶命に陥っても、双方に決して主導権を渡さない『私』。5年前の失敗により、ゴーストマンとしての技をストイックに磨き上げた『私』が時折り見せる人間味が良かった。5年前のエピソードと交互に書かれているので、どのようにゴーストマンが完成されたかが分かる。エゲツない殺人方法がたくさん出てくる。決してクミンを一瓶イッキ食いはしてはいけない。

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    2021年01月24日
  • 石を放つとき

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    歳を重ねたマットに再び出会えたことに感涙。ぶっ飛びましたが、こちらも大人ですから動じません。ウィンズロウにしろブロックにしろ、老練の作品を読める至福に感謝。

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    2021年01月22日