田口俊樹のレビュー一覧

  • ひとり旅立つ少年よ

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     南北戦争前、詐欺師の父がだまし取った金を、騙した名目の通り届けようとする少年の話。

     タイトル通り「ひとり旅立つ少年」なんだけど、ゆく先々で助けられる。というか、少年というのはあまりにもか弱い。子供である以上、どうしても庇護が必要なのだ。
     そのあたりが、切ない。
     容赦なく、周りに振り回され、自分ではどうしようもできない、その過酷さが悲しい。

     <まるで白人に見える黒人>というものの存在を始めて知った。
     もう、こうなると真実なんて意味がないよね。
     
     その意味のない世界で、父と自身の罪を贖うために歩き続ける彼は、尊い。
     
     人間の尊厳とか矜持とか、そういうものを考えさせられる作品

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    2020年02月29日
  • 卵をめぐる祖父の戦争

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    レニングラード包囲戦という凄惨な戦争が舞台の小説。
    ユーモアに溢れるコーリャと、彼に振り回されるレフとの掛け合いに笑いつつも、戦乱による悲惨な情景描写に圧倒された。

    何よりも、作者のバランス感覚が素晴らしい。
    ユーモアの明るさと戦争の暗さを絶妙な塩梅で配分し、展開に飽きさせない構成。
    最後、読み終えてからプロローグを読み返しに戻った人が何人居るだろう?
    自分もその一人だ。

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    2020年02月07日
  • 卵をめぐる祖父の戦争

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    ネタバレ

    下品で笑えて切なくて辛くて怖くて爽やかな話だった。

    人肉食、地雷犬、足を切断される少女など、あまりにもひどい場面にばかり出くわすものの、コーリャの明るさとおちゃらけた物言いにだいぶ救われていると思う。
    下ネタが思ったよりすごい多かった。

    娘の結婚式で使いたいというそんな理由のために命懸けで卵を調達させにいくのもそもそもやばい。
    戦争の理不尽さや怖さがいろんなところから滲み出てた。

    コーリャのことを私も読んでるうちにどんどん気に入っていたので最期は唐突で悲しかった。
    けど、コーリャらしいといえばとても彼らしかった。

    名狙撃主のヴィカもいいキャラしてたし、終わり方は爽やかで読んでいてこちら

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    2020年01月19日
  • ザ・ボーダー 下

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    犬の力から始まり「息子たち」世代の話になる麻薬戦争、三部作最後。
    このシリーズを読むとメキシコについて、麻薬戦争の現状について詳しく調べたくなる。
    少し調べただけでもこの小説に書かれていることは決して物語の中だけのことではないとわかる。
    ラストの見解についてはびっくり。

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    2020年01月11日
  • ザ・ボーダー 上

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    シリーズ3作目。読み応えがあり前作より読みやすく感じるが面白さは相変わらず。
    カランが出てきたあたりで三部作を最初からまた読み返したくなった。
    上巻最後に出てきたニコが今後どう関わっていくのか気になる。

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    2020年01月04日
  • 卵をめぐる祖父の戦争

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    ネタバレ

    大傑作である.
    コソ泥として捕まったレニングラードの少年が,お調子者の脱走兵とペアを組まされ,卵を1ダース手に入れてくることを命令されるのだが,折しも900日にもわたった「レニングラード包囲戦」のさなかである.飢えに苦しむレニングラード市からドイツ軍の包囲網を突破し,どこかから期限までに卵を入手してこないと処刑されてしまうのである.
    青春小説で,冒険小説で,かつ,戦争小説であり,この世の地獄とも言える光景が何度も展開されるのだが,この二人のペアが対照的なキャラクターで,軽妙なやり取りが話にスパイスを利かせているおかげで,重苦しい雰囲気にはならない.
    人食い夫婦との対決,4人の囚われの少女との出

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    2019年09月09日
  • ひとり旅立つ少年よ

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    19世紀アメリカ。12歳の少年が殺された父親の罪を償うためひとり旅に出る。奴隷運動や黒人差別が強くあるなかで様々な人たちと出会い、別れを繰り返していく。優しさに触れ、これまでにしてきたことを悔いる。そして今の自分を肯定してくれる人たち。危険な目に遭いながらも強くあろうとする少年の心がとても印象に残る。自分の罪、赦し、そしてこれから。少年の失ったものと得たもののその全てが詰まっている。

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    2019年09月03日
  • 卵をめぐる祖父の戦争

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    良いとは聞きながら何となく読んでなかったのよね。たまたま古本で見かけたのでこれも何かの縁かと思って。
    岩波新書の「独ソ戦」読んだ直後に読むと何というか同じ時代、同じ場所をテーマにしてるのに視点の縮み方がスゴい。
    まぁ「900日包囲されたが、陥落することなく解放された」って一文の裏にはいろんなことがあるんやろうけど、これまた濃いわ。そしてオッさんは恋物語にすなおにキュンキュンするのである。いや、このラブストーリーはええよ。

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    2019年08月16日
  • ひとり旅立つ少年よ

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    ボストン・テラン『ひとり旅立つ少年よ』文春文庫。

    1850年代のアメリカを舞台に、12歳の少年チャーリーを主人公にしたロード・ノベル。

    有らぬ限りの苦難が主人公のチャーリーに襲い掛かる。その苦難を知恵と勇気で次々と乗り越え、一歩一歩目的に向かって歩むチャーリーの姿が健気で清々しい。

    詐欺師であるチャーリーの父親はチャーリーをダシに奴隷解放運動の資金と偽り、教会から大金を巻き上げる。大金を狙う二人組の男たちはチャーリーの父親を殺害し、チャーリーを付け狙う。父親が奪った大金を本来の奴隷開放運動のために活かすことを決意したチャーリーは苦難の独り旅へと足を踏み出すが……

    本体価格920円
    ★★

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    2019年08月15日
  • ザ・ボーダー 下

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     小説に圧倒されるというのはどういうことを言うのだろう。かつてドストエフスキーやトルストイの大長編作品群にぼくは確実に圧倒された。加賀乙彦の『宣告』に圧倒された。五味川純平の『戦争と人間』全9巻に圧倒された。船戸与一の『猛き箱舟』に、高村薫の『マークスの山』に、ジェイムズ・エルロイのLA三部作『ブラックダリア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイトジャズ』に圧倒された。劇画でいえば白戸三平の『カムイ伝』に圧倒された。手塚治虫の『火の鳥』に圧倒された。そういう圧倒的なパワーに打ち倒されるような感覚を失って久しい。敢えて言えばアンデシュ・ルースルンドの『熊と踊れ』二部作がその類いだったろうか。

     

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    2019年08月08日
  • ザ・ボーダー 上

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     小説に圧倒されるというのはどういうことを言うのだろう。かつてドストエフスキーやトルストイの大長編作品群にぼくは確実に圧倒された。加賀乙彦の『宣告』に圧倒された。五味川純平の『戦争と人間』全9巻に圧倒された。船戸与一の『猛き箱舟』に、高村薫の『マークスの山』に、ジェイムズ・エルロイのLA三部作『ブラックダリア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイトジャズ』に圧倒された。劇画でいえば白戸三平の『カムイ伝』に圧倒された。手塚治虫の『火の鳥』に圧倒された。そういう圧倒的なパワーに打ち倒されるような感覚を失って久しい。敢えて言えばアンデシュ・ルースルンドの『熊と踊れ』二部作がその類いだったろうか。

     

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    2019年08月08日
  • ザ・ボーダー 下

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    『犬の力』、『ザ・カルテル』の続編。前2作と比べて激しい戦闘シーンが少なめの上巻。それでも駆け引きや計画を練るところなんかは緊張感がある。麻薬戦争の終わりが見えないアート・ケラーの日々。現場に戻りカルテルを潰そうとする計画。今作も群像劇でたくさんの人たちのことが語られる。それぞれの思惑、欲がよりわかる。静かななかにも張り詰めたものがあり徐々に膨れ上がっていく。そして下巻に入り物語は加速していく。麻薬を通してアメリカの暗部がこれでもかと描かれ権力のために麻薬を利用し金を得ようとする。ケラー対アメリカのような構図。一人の人間が麻薬に溺れていくさま、悪に染まっていくさまには絶望を感じる。ラスト近くに

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    2019年08月01日
  • ザ・ボーダー 下

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    ドン・ウィンズロウ『ザ・ボーダー 下』ハーパーBOOKS。

    『犬の力』『ザ・カルテル』に続くシリーズ第3弾。完結編に相応しく、上下巻で1,500ページを超える超大作。読み応えが充分過ぎるほどある。

    壮絶、凄惨極まるメキシコの麻薬戦争はアメリカ国内へも連鎖する。このメキシコ麻薬戦争三部作を読むと、メキシコに対するイメージが大きく変わってしまう。また、アメリカがメキシコとの国境に壁を作ったのは麻薬の流入防止が理由の一つであろうとも考えたりする。

    腐敗したアメリカ政財界とメキシコの麻薬カルテルとが結び付き、アート・ケラーの命を賭けた麻薬カルテル撲滅の闘いは無駄となる。アメリカからの麻薬資金の流

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    2019年07月24日
  • ザ・ボーダー 上

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    ドン・ウィンズロウ『ザ・ボーダー 上』ハーパーBOOKS。

    『犬の力』『ザ・カルテル』に続くシリーズ第3弾。完結編。 上下巻で1,500ページを超える超大作。

    まるでノンフィクションのような麻薬戦争の実態。面白い。冒頭から麻薬の利権を巡る血煙と硝煙が漂う暴力と殺戮の世界が描かれる。人間の欲望は果てしなく、留まるところを知らない快楽への欲求が愚かな人間たちを麻薬の世界へと向かわせるのだろう。

    メキシコの麻薬戦争はアート・ケラーが望む結果とはならず、アメリカへのヘロインの流入は止まらない。麻薬の利権を巡り、次々と新たな麻薬カルテルの支配者が生まれていく。麻薬取締局の局長に就任したアート・ケラ

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    2019年07月22日
  • 卵をめぐる祖父の戦争

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    まるで凸凹コンビの卵をめぐる戦争の話。辛いこと苦しいこと、残酷な描写は当然あるけれど、友情や恋、そして全体を包むユーモアが決して悲壮なものにしていない。戦争の愚かさをやさしく訴え読後感はさわやかでもある。多くの人に読んで欲しい。

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    2019年07月08日
  • 短編画廊 絵から生まれた17の物語

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    楽しめた!
    知ってる作家も知らない作家も、1枚の絵から広げる想像力の半端なさをまざまざと見せつけられた思い。キング御大、ジョイス・キャロル・オーツ、ローレンス・ブロックなどはさすがの出来で、中でもジョー・R・ランズデールがダントツ。ウォーレン・ムーア、クリス・ネルスコットが発見だった。

    しかしそれぞれヴァラエティに富みながらも、全体としてはダーク寄りの傾向なのは、そもそもエドワード・ホッパーの絵の中にある「孤独感」「空虚感」の為せる技だろう。

    読む前、読みながら、読んだ後、何度もホッパーの絵を見返したことよ。

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    2019年06月24日
  • キス・キス〔新訳版〕

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    全11編からなる短編集。どのような落ちになるのかとハラハラさせるものもあり、皮肉なラストが多い。「女主人」「天国への道」「牧師の愉しみ」「ミセス・ビクスビーと大佐のコート」が好き。

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    2019年05月24日
  • その犬の歩むところ

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    ギヴ(GIV)という名の犬を巡る奇跡のような物語。テロ、戦争、災害等で疲弊したアメリカで、語り手である青年が気付く小さな、でもとても素敵なこと。数奇な運命に翻弄されながらも、誇り高く生きるギヴ。彼らを取り巻くやさしい人達。途中、何度も目頭が熱くなった。今は猫を3匹飼っているが、もともとぼくは犬派だった。やっぱり、犬もいいなあ……。

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    2019年05月22日
  • ダ・フォース 上

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    圧倒的な迫力の警察小説だ。あくまで現場にこだわり、汚辱にまみれながらも理想を目指す主人公デニー・マローンの生きざまは強烈だ。

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    2019年05月12日
  • キャプテンの責務

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    旅客や乗組員等、船内にいる人すべての避難が済むまで船長は船舶を
    去ってはならない。

    でも、ティレニア海で座礁・転覆したコスタ・コンコルディア号は
    さっさと船外に逃げ出して塩害警備隊から「船に戻れ。船にはまだ
    人がいる」と叱責された。

    コスタ・コンコルディア号のように座礁も転覆もしなかったが、船に
    乗組員全員を残したまま、船を離れた船長がいた。

    アメリカ船籍の貨物船マークス・アラバマ号は、ソマリア沖を航行中に
    海賊に拿捕された。リチャード・フィリップス船長は船と乗組員を守る
    為に、自ら海賊たちと共に救命艇に乗り込み、貨物船を離れた。

    2009年4月に発生したソマリア海

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    2019年02月06日