レニングラード、スターリングラード、「ソビエト連邦」を作った「革命家と独裁者」の名前を付けた二つの町と、革命、その後の戦争。
レニングラードはロシア帝国時代ピョートル大帝(一世)により建設された帝都で文学や音楽の豊かな文化都市。
大帝にちなんでサンクトペテルブルグと呼ばれていたが、革命時に首都のモ
...続きを読むスクワ移転とともに革命家レーニンの名がつけられた。
第2次世界大戦では2年半にわたるドイツ軍による徹底した包囲網と砲撃でロシア市民を含めた死者は100万人ともいわれるが、その大半が“餓死”という。
「市を消滅せよ」というヒトラーの命令と、市民を「人間の盾」として監視し弾圧を強める赤軍とのはざまで、なすすべもなくさまよう人々。
作中でも、市民の悲惨な状態がストレートに描かれている。
戦争をじかに体験した世代から薄れゆく世代への語り継ぎの物語として、こうした“聞くもおぞましい”現実を、若者二人の「ロードムービー」として描くことでバランスよく読者に語りかけてくる。
そこで「卵をめぐる祖父の戦争」というタイトル……優れた邦題である。
いっぽうのスターリングラード、ロシア帝国時代は南のタタールに備える要塞都市のひとつであったが革命戦争時に大きな戦いがあり、その後社会主義の象徴として工業化を進めた都市で、当時の独裁者の名がつけられている。
1942年8月から約6か月にわたる激しい攻防戦が繰り広げられ、同名の映画にもなっているが、この物語には関係ない。
ソビエト崩壊後の現在、スターリングラードは消滅(一部ヴォルゴグラードとして残る)し、レニングラードはふたたび「サンクトペテルブルグ」として生き残った。
……文明は滅びても文化は残る。