Posted by ブクログ
2017年08月15日
俗っぽいけど敢えて言いたい。
「やべえ、ちょー、おもしれえ!」
出来ることなら、文字のサイズを倍にしたいくらい面白かった。
以下、ブクレポ。
主人公のレフはある日、落下傘で空から落ちてきたドイツ兵の死体を発見し、死体からナイフを盗んだことから、窃盗の罪で投獄される。そして時...続きを読むを同じくして、戦線離脱の脱走罪で投獄されてきた赤軍兵士コーリャに出会う。
人の命など屁とも思わないスターリン体制下のソ連では、二人は死刑が確実。しかし大佐から、ある条件をクリアできれば自由にしてやる、との思いがけない言葉をかけられた。
その条件とは… 「卵を一ダース手に入れる」こと。
ナチスに包囲されたレニングラードは極度の食糧難に陥り、赤軍幹部と言えども卵を手に入れることができなくなっていた。卵を手に入れるには、もはやドイツによって占拠された地域にまで、もぐりこまなければならない。
二人は問うた。
「なぜ、卵が必要なのですか」
大佐は窓の外から池の上で優雅にスケートに興じる美少女を目で示し言った。
「娘の結婚式にはケーキが必要だろ?」
かくして二人は、大義のかけらもない任務を負い、命をかけた冒険に出発する。
二人の性格は正反対。レフは内気で言葉も少ない。腕っ節には自信がなく、女性と恋愛をしたこともなく、存在感のない少年。
一方のコーリャは女性経験が豊富で、細身だけれど格闘術に長けている。そしてなにより饒舌だ。口八丁手八丁。劣悪な食糧事情のため一週間も糞が出ないという体調不良でもカラ元気。とにかくじっとしていることと、黙っていることができない。下ネタ大好き。童貞のレフをからかうときは輪をかけて舌も滑らかになる。
二人の掛け合い漫才(というかコーリャが一方的に話してレフがぼそっと言い返すだけだけど)を読んでいるだけでも、この小説は面白い。
この小説のメインテーマは友情だ。性格がまるで違う男同士が互いに励まし合い、困難を乗り越えていく冒険小説だ。また、主人公のレフがパルチザンの女兵士に恋をしてからは、青春小説のようにもなる。好きな女の子の前で、いい格好をしようとして下手を打ち、悩み、落ち込み、それをコーリャが冷やかしつつも、力になる。
しかし彼らは死と隣り合わせの状況下にある。
彼らの命は卵一ダースより軽い。そして彼らの行き先には、人肉を食う夫妻がいたり、鶏一羽のために命を落とす幼子がいたり、ベイクドポテト一皿のために敵兵に春を売る女性がいる。飢餓による刺すような痛痒をしくしくと感じる。
巻末の解説にあったが、実際に幼い子供を飢餓から救うために、さらに幼い赤子を殺して、その肉を与えたということもあったらしい。
ドイツによるレニングラードの包囲は900日に及んだ。本文中に起こる数々の悲劇に似た現実は、きっとたくさんあったことだろう。
コーリャが饒舌な理由も最後には明らかになり、読んでて、もう、なんだか泣けてきてしまった。レフもコーリャは奇異な巡り合いだったけど、本当の友情を結んだ。そしてラストにはかすかな希望が見えた。
もう一度、俗っぽく、
「まじ、感動した!」
どちらかと言えば男性向きの小説だが、銃後の悲劇を考える上でも、良い作品だと思う。