池内了のレビュー一覧

  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集

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    明治生まれの物理学者による随筆集。科学者の目で自然や社会現象を見ている姿は面白い。金平糖ってなんで角を出して生長するんだろう。蓑虫はどんな心持ちで生きているんだろう。そんなふうに、ほんの小さな事象に目を留めて、立ち止まって考える。実験もする。するとそこから、自然の神秘が感じられる。もっと身近なことに目と心を開いていたいな、と思えた。

    「たとえ一本の草、一塊の石でも細かに観察し研究すれば、数限りもない知識の泉になるというのです。」p25

    こわいものがあることの幸福や、頭が悪いことの必要など、自分の価値観が揺さぶられる言葉もあって、読んでよかったと思った。

    「宇宙は永久に怪異に充ちている。あらゆる科学の書物は百鬼夜行絵巻物である。それをひもといて、その怪異に戦慄する心持ちがなくなれば、もう科学は死んでしまうのである。」p129

    「自然は書卓の前で手を束ねて空中に画を描いている人からは逃げ出して、自然のまんなかへ赤裸で飛びこんでくる人にのみ、その神秘の扉を開いて見せるからである。」p201

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    2026年07月28日
  • 寺田寅彦と現代――等身大の科学をもとめて

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    役立つ科学、経済論理に合った科学、国家主導の科学、科学の企業化など、筆者が言うように現代の科学は寅彦の時代の科学のあり方から大きく変容をしている。もちろん時代の中に埋め込まれているものであるから当たり前だが、本質的なものからのズレの大きさからの危機感を感じる。
    著者が提言している寅彦流の、「等身大の科学」や「新しい博物学」は文理融合的でありながら、基礎研究を大切にするであろうし、そう言った視点は現流の科学の方向性の行き過ぎをコントロールもするのではと感じる。
    誰もが考えるべき科学のあり方を、これほどわかりやすく説明されている本は珍しい。
    素晴らしかった。

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    2026年05月05日
  • 時間とは何か

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    時間は測り方、置かれた環境やどう過ごしたかで感じ方が変わる不思議な存在です。その不思議を多彩な事例で表してくれていて、眺めているだけでも楽しい本でした。答えを出してくれる内容ではありませんが、時間を計るには色々な物差しがあるんだなということを知ることができる一冊です。

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    2026年03月11日
  • なぜ科学を学ぶのか

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    科学というものの方法と思考、そして実際の成果といった基本的なことをかなりわかりやすく、ポジティブとネガティブの2面性も誤魔化さず書いていて誠実な本だが、原発問題に関してはやや思想が先行気味なところも見受けられる。長年科学入門を書いてきた著者だけありクオリティは安定しているが手癖で書いてしまったところもあるということだろう。科学に大事なのは知識量ではなく、科学的な精神そのものであるというのはとても同意。

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    2026年01月27日
  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集

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    電車の混雑についての考察
    必ず空いた電車に乗るために採るべき方法は空いた電車の来るまで、気ながく待つという方法である の始まりから電車混雑の律動、人生の問題への考察への流れが良い

    塵埃と光
    明きめくら

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    2025年11月08日
  • 疑似科学入門

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    科学の装いをした何か。それは私たちの心の拠り所であると同時に危険性を孕んでいる。それらを「疑似科学」と名付け、それについてどのようなものがあるのか、なぜ信じてしまうのか、どのような態度で対応するべきなのかを記している。

    中々に興味深く面白い点がいくつもあった。

    世の中が便利になり、考えることなくさまざまなサービスを受けられる時代になった。それは「お任せ」の精神を育んでいると筆者は言う。信用して「お任せ」すれば、細かなことには煩わされずに済むのが普通になっている。便利な世の中しか知らない、Z世代やα世代は考えることが少なくなっているのは事実そうだと感じる。分からないことがあればすぐ調べ、それは多くの場合信用できるが、信用してよいものかを考えることはどの程度行なっているのか。そして、考えることをしなくなるところに疑似科学が入り込んでくる。

    信じる行為のみを行うひとは面倒な考えることを放棄している。知識を詰め込む現代の教育は疑う余地はどの程度あるのか。子どもの頃から考えることを無視されているのかもしれない。「疑う」という行為がいかに大切か、子どもの頃からその機会が与えられていなければならない。

    人間は合理性を自然のうちに学ぶのだが、非合理性は矛盾と向き合うことによってのみ会得できるからだ。178

    また本書の結びに
    「疑似科学と断じる私の方が疑似科学だと言われかねないと覚悟している。」200
    とある。疑似科学を論じるからこそ、この言葉がなければ本書は読む価値がある。

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    2025年10月22日
  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集

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    中谷宇吉郎の『雪は天からの手紙』を読んだので積読していたこちらも。
    明治生まれの物理学者・寺田寅彦による随筆を、天文学者の池内了が編集したもの。
    茶わんの湯気や昆虫の思考、金平糖のトゲトゲから植物の不思議な構造、満員電車、妖怪、災害…などなど、身近にわんさか転がってる科学のタネがどんどん出てきます。
    自分、こんなに観察しがいのある物に囲まれていたんだなと再認識。
    夏目漱石との関わりも深く、漱石作品の登場人物のモデルにもなっているそう。

    中でも「線香花火」は好きなエピソード。火をつけてからどんどん姿を変える線香花火は魅力的だし身近だし、研究するのにお金もかからない。寺田寅彦はいろんな人に「線香花火の研究やりなよ!」とオススメするのですが誰もやらない…ちょっとなんでなん!的な、若干スネている文面にニヤニヤ。
    ここで『雪は天からの手紙』を思い出し「線香花火」を読んでみると(誰も研究をやらないので)「自分のところでやらねばならぬと寺田先生が癇癪を起こされた」とあって笑ってしまいました。

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    2025年10月14日
  • 雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集

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    物理学者・中谷宇吉郎による数々のエッセイを、天文学者である池内了が編んだもの。
    1960年代の中学・高校の国語の教科書には、彼のエッセイが多く採用されていたと解説にありました。
    生い立ちから学生時代、恩師との出会いや実験物理学者としての研究などなど、幅広い内容で飽きません。
    その研究も、雪の結晶から飛行船の爆発事件、線香花火から立つ卵、はたまた透視や念写といったものまでとにかく盛りだくさん。
    寺田寅彦や湯川秀樹とのやり取りもおもしろい。人柄が想像できます。
    冬の北海道での疎開生活を描いた「イグアノドンの唄」は、子どもたちと過ごすお父さんの一面。
    辛い状況でもワクワクできる物語の力、それを裏付ける発見の数々。そして愛らしくて悲しいイグアノドンの唄。
    「生きる者はどんどん育つほうがよいのだ」という言葉が沁みました。

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    2025年10月14日
  • 重さと力 科学するってどんなこと?

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    「なぜ自分には重さがあるのだろう」という疑問を入口に、重さと力について考えを深めていく。

    「この世界にあるすべての物が、その重さぶんの力で、いつも引っぱりあいをして」いるというニュートンの万有引力の法則に楽しく出会えるし、そこから「科学する」とはどういうことなのかを学ぶことができる本になっている。

    「科学する」ー疑問にはじまり、仮説をもって想像し、実証という手つづきをへて、法則を打ち立てるーことの大切さを伝えると同時に、この本自体が「科学する」構成でつくられている点が魅力的だった。

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    2025年10月09日
  • 疑似科学入門

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    科学でない事物をまるで科学であるかのように見せる、いわゆる「疑似科学」を概説した新書。

    多岐に渡る得体の知れない疑似科学をざっと分類・体系化し、分かりやすくまとめている。大きくは下記の3種。

    第一種
     科学的根拠のない言説によって人に暗示を与えるもの。
     占い系、超能力・超科学系、疑似宗教系など。
    第二種
     科学的装いをしているが実体がないもの。
     永久機関、ゲーム脳・スマホ脳、マイナスイオン、健康食品、クラスター水、波動など。
    第三種
     科学的証明が困難な複雑系で、疑似科学と真正科学のグレーゾーンに位置するもの。
     地球温暖化への温室効果ガスの寄与、電磁波公害など。

    感想として、情報が氾濫する現代において、人は「科学っぽいもの」を熟慮・検証なしに信じてしまうリスクが高いことを再認識しました。
    情報提供側の責任も当然ありますが、とくに環境、健康、美容関係において、一部の企業や専門家から出される情報に、安易な専門用語が濫用され、何となくで鵜呑みにしていることが多いのだと思います。

    また、筆者(池内)は、専門家・評論家の意見について、部分的には正しくとも、専門外の範囲が含まれる問題では曖昧になってしまうことを述べています。「評論家の言うことは信用すべきではないと、評論家の池内が言った」という締めの言葉には皮肉も含めたユーモアセンスを感じました。

    教育の現場で問題になった「水からの伝言」、そもそも科学用語でもない「マイナスイオン」など、世の中に多くのニセモノが氾濫していることを前提に、見極める目を持ちたいものです。

    ただ、一方で現実的な話としては、たとえ効果との因果関係が不明であっても相関関係さえ明確であれば、世の中では受け入れられるという面もあります。

    ちなみに、過去、「特許出願済み」が謳われた某商品で、公報を調べると、中身はお粗末でとても特許審査に適う科学技術ではなかったということがありました。今は何でも簡単に調べがつくので、消費者も賢くなって騙されにくいはずと信じたいです。

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    2025年10月05日
  • 物理学の原理と法則 科学の基礎から「自然の論理」へ

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    古典力学や電磁気学、流体力学から量子力学、相対性理論まで一通りの概念に慣れていると、読むとハッとする気付きがあった。

    ・原理や法則は理論の前提だが、実験や観測に裏付けされている。
    光速度不変の原理、等価原理。
    ニュートンの運動方程式、マクスウェルの電磁気法則。
    ・ネーターの定理より、対称性(変換に対する不変性)があれば不変な物理量、つまり保存則が存在する。
    空間の並進より運動量保存則。空間の回転より角運動量保存則。
    時間は一様よりエネルギー保存則。

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    2024年12月14日
  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集

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    寺田寅彦が書いたエッセイと言うことで期待して読んだが面白いもの。1割後はほどほどという感じでした。ちょっとついていけない部分があった。

    2回目読み直した。1回目は星2つかなぁと思ったが、読み直すととても良い文章だなと思った。科学者ならではの視点でいろいろな現象を捉えており、「これは研究対象になるのでは」と言う表現が何度も出てきた。一般の人からすると、やっぱり少し変わってる人とも見えるだろう。でも、科学者とはそんなものなのかもしれない。

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    2025年09月17日
  • 疑似科学入門

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    2008年4月に発行された本です。私が手にしたのは2018年に印刷された第17刷でした。

    筆者は疑似科学を3つに分類しています。
    第一種疑似科学は、人の欲望や悩みにつけ込み、科学的根拠のない言説によって人に暗示を与えるもの。
    第二種疑似科学は、科学を援用・乱用・誤用・悪用したもので、科学的装いをしていながらその実体がないもの。
    第三種疑似科学は、「複雑系」であるがゆえに科学的に証明しづらい問題について、真の原因の所在を曖昧にする言説で、疑似科学と真正科学のグレーゾーンに属するもの。

    何事も自分でしっかりと考えて、人の話を鵜呑みにしないことが大切だと思いました。

    カール・ポパーは、科学が有するべき要件として「反証可能である」ことが第一、「こうやれば仮説や法則が成立していないと証明できる」方法の提案が必要だ、と主張しているそうです。
    まさしく、このことがとても大切だと思いました。

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    2024年05月31日
  • 雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集

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    石川県を旅した際、行きたかった雪の科学館。今回は日数的に難しかったので次回の楽しみとし、中谷宇吉郎先生のエッセイを読むことに。ユーモアとウィットに富んだ内容に驚いた。気に入ったエピソードの一つは、摩擦電気の実験をしているY君が正しい実験結果を得るためにビーカーや皿を全部氷で作っていて、実験が成功したら「ひとつ氷のコップで葡萄酒の乾杯くらいはしても良いかもしれない」と。なんだこの洒落た感じは!季節の表現も詩的で素敵。「6月、大学の楡の梢に郭公が鳴き始めるとまもなく…そして白い日傘が、よくあざやかな緑の芝生の間に見かけられるような日がしばらく続く。それにもいつの間にか気がつかないようになると、もう夏休みである。セルの感触を乾いた肌に楽しんでいるうちに、夏休みになってしまうのは、少し贅沢なようであるが、…清々しい札幌の夏を、できるだけ長く享楽することにしている。」

    出てくる人物が、湯川秀樹先生、寺田寅彦先生などこれまた錚々たるメンバーである。湯川先生が歌を読んだり、美しい字を書かれたりすることも書いてあった。「…皆が心得ておくべき事は、湯川さんはノーベル賞をもらったから、偉い学者なのではなく、偉い学者だったから、ノーベル賞をもらったのだ、ということである。」
    長岡半太郎vs寺田寅彦の回も興味深かった。学界における地位と権威のある長岡先生に対しても歯に衣着せぬもの言いで意見する寺田先生。大勢の弟子たちの前で手ひどくやっつけられても、感情的に激昂することも全然なかったという長岡先生。大物!皆が「寺田先生も偉かったが、やっぱり長岡先生も偉かったなぁ」という意見に頷く。

    「ケリイさんのこと」の章では、老婆とケリイさんの言葉や人種を超えたコミュニケーションがすごく良かった。「言葉は一言も通じなかったが、言葉などはいらないもので、あの老婆が言いたかった事は、全部わかった。そして、思っていることもすっかり読みとれた。日本人の『言うこと』が、あれほどよくわかったことは、今までになかった」

    一番好きだった章は「米粒の中の仏様」。十勝岳の針葉樹がいかに生長が遅く、大切にしなければならないものであるかということを山番の老人が言っていた。「この老人の目には、山奥の木の生命が、まるで国家の生命のように見えるらしかった。内閣がどうなろうか、対英米問題がどうなろうが、この老人にとっては、雪に枝を垂れた針葉樹の密林が亭々としてそびえている間は、日本の国は安泰だと思われるように見えた。」火燵で丸くなって眠るミミー、その仔猫の命名者である子供たちは絵本の切り抜きに夢中になっている…こんなにも美しく、未来永劫大切にしていきたいことが、1938年に書かれていたわけである。

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    2024年01月20日
  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集

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    息子が大きくなったら読ませたい本リストの上位です。どのエッセイも日常からの気付きに溢れていて、学びの本質を知ることができる一冊。

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    2023年09月04日
  • 疑似科学入門

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    今なお存在しているのが「相対性理論は間違っている」とする人 たちである。研究会を組織し(会誌まで発行されている)、アインシュ タインの特殊相対性理論を否定し続ける人たちの集団だ。おそらく 世界中で1000人はいると思われるが、自分たち自身が問違って いる(論理の誤解、計算間違い、思い違いなど)にもかかわらず、飽きず に主張し続けている。

    実際には、各社ともマイナスイ オン効果を厳密に実証しておらず、根拠は至って薄弱であった。 イナスイオンという言葉が客の気を惹きつけられることに目を付け て、こぞって売り出したのが真相だろう。事実、マイナスイオン効 果はあっても微々たるものでしかなく、本質的に意味がないことが 判明している"。そのことが科学者によって明らかにされるにつれ マイナスイオンを謳った商品は減少してきたようだ。

    例えば、最近宝くじの一億円以上の当選者が五〇〇〇人を突破し たという宣伝があった。ちょっと聞くと、実に多くの人が幸運に恵 まれたと錯覚するから、自分も宝くじを買おうという気になってし まう。しかし、これは戦後六〇年の間の全ての宝くじの当選者数を 足したもので、数だけ聞かされると大きいが、長い期間の積分なの である。その間に恐らく何十億という人が宝くじを買ったであろう ことは省かれている。あるいはまた、人生を一〇〇年と言うか、 万六五〇〇日と言うか、三一億五〇〇〇万秒と言うか、さてどれが 一番短く感じられるだろうか。

    実数を比較するだけでは間違うことになる。同じような例で、子ど もを虐待する母親の実数の三分の二は実母で、継母は三分の一しか いなかったというデータを発表し、「実母の方が危険」と書いた新 聞記者がいた。児童相談所に届けのあった数の比がそうであったた めだ。しかし、虐待をしていない母親の数を比べると圧倒的に実母 の方が多い。すると、割合から言えば継母の方が虐待確率は高いの である。実数と割合を区別せず、事実を逆様に報道したのだ。

    日本の一年間の自殺者が三万人を越えていて、実に深刻な事態に なっている。しかし、せっぱ詰まった感じを与えないのはなぜなの だろうか。これを、小さな都市の全人口が消えてしまうとか、東大 の全学生がいなくなるとか、東京ドームの観客がすべて死んだとい うふうに表現すれば、その深刻さが少しは実感できるかもしれな い

    情報を得るにしても「お任せ」の態度ではないだろうか。テレビや新聞、そして今や インターネットから情報を得ることが多くなっている。しかし、果たしてその情報が正 しいと言えるのだろうか。むろん、私たちは独力ですべての情報を収集して真偽を確か めることができないから、それらのメディアに頼らざるを得ない。であるからこそ、 いっそうメディアの言うことは眉に唾をつけて受け取らねばならないのだ。複数のメ ディアを比較したり、メディアでは報じられない事実を探ったりする努力が必要なので ある。

    最近、親の小中学校への見方も変わりつつあると言われる。家庭ですべき躾や日常 生活で獲得すべき知恵も、全て学校で教えることを要求する親が増えているようなの だ。教育の「お任せ」化である。果ては、親の勝手な都合を先生に押し付けて平然とし ているらしい。それでは先生の身体がいくつあっても足りないだろう。事実、家庭から の無理難題に耐えられず心身のバランスを崩す先生が続出している。普通、学校と地域 と家庭が力を合わせて子どもを見守らないと教育効果が上がらないと言われる。しか し、地域は都会化の進行で分断されて機能しなくなり、今や家庭も学校に「お任せ」し てしまう体質になって、学校だけが教育の場になってしまった。それでは学校も悲鳴を あげるしかない。

    科学の修練には積み上げが必要であり、それには長い訓練の時間を要する。基礎的な 学習から自立まで、数年間の訓練を経なければならないからだ。ところが、インター ネットによって「瞬間」で世界とつながることに馴れると、時間を使う営みが時代遅れ に見えてしまう。疑いを持ち、考え得るすべての可能性を検討する時間を無駄とみな し、直ちにシロ・クロの決着を明確につける方を高く評価する。そうでなければチャッ トができないこともある。それは疑似科学との相性が良いことを意味している。インタ ーネットが現代科学の粋でありながら、科学の否定ともつながっているのは皮肉なこと である。

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    2023年07月14日
  • 親子で読もう 宇宙の歴史

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    宇宙といってもとりとめもなく、どこから話したらいいのか。迷っている時にこの本に出会った。お父さんと子どもたちとの会話形式で、非常に読みやすい。親子で読もうというのがぴったり。夏休みに一緒に読むにも最適の一冊ではないだろうか。

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    2022年07月12日
  • 雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集

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    エッセイ集なので、軽く読めるかと思いきや、専門的な内容。筆者自身が体得されている「科学の愉しさ」が文章から滲み出ている。科学的な物の見方の入門書として最適。
    特に「立春の卵」での「少なくてもコロンブス以前の時代から今日まで、世界中の人が間違って卵は
    立た無いものと思っていただけのこと」で「今日にでもすぐに試してみることが大切である。」から、筆者の科学に対する姿勢がわかる。
    また「イグアノドンの唄」での子どもに伝説の怪物がどこかで、ひそかに棲息しているのかもしれないと語りかける姿から、科学者としてのロマンを感じました。
    とても人間味のあるエッセイでした。

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    2025年10月18日
  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集

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    1世紀前に書かれた科学者のエッセイとしては親しみやすくも、現代に置いても老若男女に響く種々の命題を見つめている。
    満員電車の話などウィットに富んだ考察は面白く、津波への警鐘は、人々の意識が危機に対して依然として識者からは弛緩したものに写っているのか。

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    2022年01月09日
  • 「自由」の危機 ――息苦しさの正体

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    忖度か、同調圧力か、権力の逸脱か。最近、表現の自由が失われつつある風潮がある。26人の研究者、作家、芸術家、ジャーナリストが自由について考察し、声をあげる。

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    2021年11月03日