いしいしんじのレビュー一覧
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ネタバレ「一万円選書」の本の中で、店主のいわたさんが紹介していた本。
とても温かいハッピーエンドのラブストーリーで、童話のような感じだが読みやすかった。
タイトルのトリツカレ男とは、そのまんまの意味で、すぐに何かにとりつかれてしまう男ジュゼッペの話。
オペラ、三段跳び、外国語、昆虫採集、サングラス集め…次から次へとりつかれるとそれに夢中になってしまう男が、ペチカという少女に出会い…という話。
レストランの主人やツイスト親分をはじめ街の人たちもなんだかんだ言いながらジュゼッペを温かく見守っていて、その関係性がいいなと思った。
周りにどう言われようと、何かに夢中になれるということ自体が幸せなんだろうなと -
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作品紹介・あらすじ
1話5分でわくわくできる、本にまつわる18のストーリー。
森を飛びかう絵本をつかまえる狩人、ほしい本をすぐにそろえてくれる不思議な本屋、祖父がゆっくり本を読む理由、書店のバックヤードに隠された秘密……。
青春、恋愛、時代小説から、ミステリにファンタジーまで、「本」と「本屋」をテーマに豪華執筆陣18名が集結! 本の世界の奥深さが短いお話の中にたっぷり詰まっています。1話5分でわくわくできてどこから読んでも面白い、本にまつわるショートショート・アンソロジー。
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本にまつわるショートショート18編を集めた短編集。
僕は梨木果歩さんの作品目当てで購入。
ホロリとさ -
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◼️ いしいしんじ「ぶらんこ乗り」
不思議な天才、弟は今夜もブランコに乗り、動物の話を聞き、物語を紡ぐー。
いしいしんじは先日初めて「トリツカレ男」を読み、児童文学での奇想に惹かれ、えもいわれぬ文芸的な説得力を感じた。さて、今回はー。
姉のわたしは小学4年生。1年生のあのこ=弟がいて、画家の母、額縁を造る父、元女優で子どもにも厳しい祖母と暮らしている。他界した祖父は高名な画家で母のところには画壇関係の出入りがひっきりなしにある。
ある日弟は雹が喉に当たったのが元で普通の声が出せなくなり、筆談するようになる。近所にいた毛が半分抜けた犬を拾ってきて「指の音」と名付けたあのこは、家の木の上に -
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【2025年36冊目】
素数にとりつかれた父と、音楽にとりつかれた祖父。誰よりも身体の大きなぼくは、ねこの鳴き真似が上手く、「ねこ」と呼ばれている。ある真夏の夜、ぼくはリズムよく鳴らされる不思議な音を耳にする。それは麦ふみクーツェの足音だった。
大人向けの童話のようなお話、もしくは絵のない絵本、という表現が自分の中でしっくりくる一作でした。連作短編集というわけではないと思うのですが、章ごとにタイトルがつけられていて、ゆっくりゆっくりと物語は前に進んでいきます。
ありそうでなさそうな、ちょっぴりファンタジーも入ったお話。読み聞かせしたくなるようなリズム感。もしかしたら、Audibleと相性が -
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ネタバレある日金属バットが頭に当たった夏実は、人の吐く息が目に見えるようになる。そんな彼女のコロナ禍の日常、事件、悩みながら決める進路などのおはなし。色とりどり、形も様々にあらわれる息が素敵。息をしているとはつまり生きていることとおんなじであって、息のかたちを見られている側はどこか深いところに触れられるように感じてしまうがために夏実が急にモテモテになってしまうという事件が面白かった。古代ギリシアでプネウマ(息)が生命のもと、命そのものとされていたのを思い出す。私たちは自分でも知らぬうちに常に命のかたちを吐き出していて、それがちぎれては世界に満ちているなんて、なんてロマンティックなんだろうか。
3章の展 -
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新型コロナが蔓延した2020年~2023年にかけて、人は人の吐く息というものに対して異様なまでの嫌悪感を抱いていたように思う。
「飛沫」や「エアロゾル」という言葉自体にも強烈な忌避感があったのではないだろうか。
著者は、コロナ禍の人々の息遣いを、それとは真逆の色とりどりで生き生きとしたものとして描いている。
見境なく周囲を疑っていたあの頃、もしこんな風に人の息遣いが見えていたらもっと穏やかな気持ちで過ごせたのではないかと考えてしまう。
主人公の夏実を取り巻く大人も皆魅力的。
京都が舞台なのも少し時間の流れ方が違う感じがしてくつろいだ気持ちになれる。
ただ最後の方の夏実と母のエピソードが唐突 -
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不思議な作品である。
幼い弟を主人公として、幼い姉の視点で描かれた、残酷な現実を生き抜くこどもたちの物語。
弟は、物語の序盤で、声を失う代わりに、声なき者の声を聞き、届かぬ声を届ける力を得る。出だしから否応なしに運命を背負うところは、もののけ姫のアシタカを連想した。
弟は声なき者たちの声を、ものがたりにしてノートに書き付けた。道尾秀介『ノエル』みたいに、そのものがたりがスパイスになり、姉目線の文体と相まって、この作品に不思議な空気感をまとわせている。
姉は何の能力もない、弟を助けることもできないしその余裕もないけれど、弟は姉がいるからこそ、その力でふたりを守っている。松本大洋『鉄コン筋