いしいしんじのレビュー一覧

  • トリツカレ男(新潮文庫)

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    同じ作者の「麦ふみクーツェ」が好きすぎて、他の話がなかなか読めなかったのを、この本なら作風が似ていそうなので、えいやと購入。
    確かに、音楽的なリズムや、一部の風物、おとぎ話のようで感動的なストーリーなど、「クーツェ」と共通するところが多かった。
    冒頭の「おーい、ジュゼッペ」の繰り返しから、演劇やミュージカルを思い描いて書かれた感じがする。実際に劇団キャラメルボックスの舞台にもなっているとのこと。
    何かに手を出しては興味の対象が移り変わってしまう主人公ジュゼッペが、その時々で真摯に生きたために報われていく筋書きは、もしかしたらどこかに作者の人生が投影されているのかもしれないし、そんなことはないの

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    2023年09月24日
  • トリツカレ男(新潮文庫)

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    何かにとりつかれるように日々を過ごせることは、良くも悪くもそのことに以外を考えずに過ごせそうで良いな、と思った。素晴らしい結末にカンドーした

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    2023年01月09日
  • ヒミツのヒミツの猫集会

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    色んな猫写真集を眺めてきたけど、後ろ姿の写真に「これいい!」って感じたのはたぶん初めて。
    背表紙になってる草むらに飛び込む茶トラの躍動感ある後ろ姿もいいけど、路地の薄明かりの中で歩く影のような後ろ姿や寄り添いながら歩く二匹の後ろ姿も良き。
    完全に心の栄養剤的な一冊です。

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    2022年06月02日
  • 麦ふみクーツェ(新潮文庫)

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    読むのに時間がかかりましたが、読み終わってしまうのが惜しいような、長編大作でした。
    ファンタジーが好きなので私にはとても面白かったです。どんな本とも似ていなくて、独特でしたし、登場人物が、際立っていました。

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    2022年04月24日
  • ぶらんこ乗り(新潮文庫)

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    とても良かった。
    全体的にふわふわとした独特な世界観で、浮遊感を感じる作品だった。平仮名が多く、一見児童書のような優しさがあるけれど、もっと覗いてみれば、切なくて哀しい孤独感が漂っている。
    言葉にするのが難しい作品。そっと寄り添ってくれているような優しさと、ふっと遠くへ行ってしまうような怖さを同時に感じた。

    「あっち側」と「こっち側」、弟が何度もそう表現することで、明確にその世界が分けられているように見えるが、私はそれにより、その世界の境界がどんどん曖昧になっていった。それは私にとって怖くもあり、温かくもあった。

    弟は声を失い(実質的には)、しかし動物と話すことができる。その「動物と話す」

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    2022年06月28日
  • ぶらんこ乗り(新潮文庫)

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    ネタバレ

    でも大丈夫。大丈夫って私にはわかる。
    だって、ぶらんこは行ってはもどりする。
    はるかかなたへ消えたようでも、ちゃんとまっしぐらな軌道をえがき、ちょうどいい引力に従って、もといた場所にもどってくる。

    それに、忘れちゃいけない。

    弟は世界一のぶらんこ乗りだ。

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    2022年03月01日
  • ぶらんこ乗り(新潮文庫)

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    え、めちゃくちゃ良い小説…。全く知りませんでしたすみません…。
    喪失、祝福、死者との対話…色々と考えるものがありました。
    途中で挿入される物語も面白く一気に読ませる魅力があります。
    カバーも素敵。
    次は「プラネタリウムのふたご」「麦ふみクーツェ」を読もうと思います。
    素敵な世界を体験させてもらいました。

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    2022年02月02日
  • 悪声

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    これは、唯一無二の物語。

    時間、空間を自在に行き来して語られる。
    なかなかストーリーをまとめることが難しいタイプの物語ではある。

    主人公の「なにか」は、仏声寺に捨てられた赤ん坊。
    普通の人間のように十六歳まで育っていくのに、寺の庭のコケの声が聞こえ、音が目に見え、美しい歌声を持つ、普通の人間ではない存在だ。
    彼は流れ者の僧侶「お寺さん」の唱える経の中で、無数の生き物の生死を体験する。
    そして、奇縁で結ばれた少女「あお」(お寺さんのふたごの弟、タマの娘)を救うため、固有の姿・形を失い、仏声寺に封じられた「悪声」、音そのものとなっていく。

    たぶん、十代の頃とか、いや、十年前に読んでいたとした

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    2022年01月16日
  • プラネタリウムのふたご

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    心に深く沁み入る言葉、大事にしたいことがたくさん詰まった小説だった。
    登場人物の、真正面から物事を受け止める姿や素直な心、優しさに、涙が溢れて止まらない場面が多々あった。
    星の見えない土地のプラネタリウム。手品。それは 心を和ませたり心を打ったりすることができるもの。だれでも、現実ばかり見て生きていたらかさかさに渇いて何の面白味もない人生になってしまう。まやかしや偽物でも、本物以上のきらめきを人の心に灯すことができる。大切な誰かと一緒に見たり体験したりしたすばらしい出来事は、その後自分の人生を豊かにするだけでなく、いつまでも心の中で自分の支えとなって暖かく残り続けるんだと思う。生きていれば辛

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    2022年01月10日
  • ある一日

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    恐らくは作者自身の、ある夫婦の出産の一日。日常からはじまり陣痛を経て出産へ至る過程が、実に濃密にでも淡々と描かれています。独特の言葉遣いや、こちらとあちらを行き来する文章に圧倒されながら、ずんずんとお腹の底から力が湧き出てくるかのような気持ちにさせられます。

    視点は夫から妻へ、妻から夫へと移り変わり、そして生まれて来る子の視点へと繋がります。それは生き物の持つ道であり、土地が結んだ道でもある。
    最後にバースプラン(どのように出産したいかを記したもの)が提示されるのですが、それを読むと今まで通った道をもう一度振り返りたくなります。何とも力に満ちた物語でした。

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    2021年12月12日
  • よはひ

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    ネタバレ

    いろいろな短いお話がつらなる短編集。いしいさんの本はいつもそうだが、言葉や「おはなし」が自由に飛び跳ねていて、読んでいるうちにその世界にどんどん引き込まれ、手を引かれて自分も解き放たれるような気がする。
    この本のテーマは、「いま」は今だけではなく、過去も未来も、場所も人もすべてがつながっていて、全部をひっくるめて「いま」なのだということだ。そして、それは「おはなし」なのか「ほんとう」なのかすら問わない。手を変え品を変え、そのことが繰り返し語られる。いしいさんの本全体に通底したテーマでもあると思うが、この本は息子さんのピッピくんが「おはなし」を通してそれを体得するためにあるような本で、いつにもま

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    2021年12月01日
  • 麦ふみクーツェ(新潮文庫)

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    一気に読み切ってしまいました。同じリズムで流れていても、音楽は先へ先へと進んでゆきます。変わらないことを抱えながら(あるいは信じながら)、自分に出来ることを黙々と続けることが大切なんだなぁ、と改めて気づきました。
    僕たちはみんな「クーツェ」なんですね。

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    2021年09月25日
  • 且坐喫茶

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    衝撃を受けた。
    作者の圧倒的な感受性の強さ、そしてその表現力に。
    茶を通しての出逢いと気づきがエッセイ風に描かれているのだが、高尚な論説文を読んだかのような深みがある。ぜひ他の著作権も読みたいと思わされる一冊だった。また、最後まで詳しく描かれなかった「先生」の話もぜひ読みたいと思った。

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    2021年02月08日
  • 麦ふみクーツェ(新潮文庫)

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    ネタバレ

    いしいしんじさん読むの4つ目。「トリツカレ男」「プラネタリウムのふたご」「ぶらんこ乗り」。
    どれも世界観と文章がとても好きなんだけど、これ読んで確信した。ストーリーが自由に進んでいくようで、実はものすごーーーく緻密に構成されてるんだよ。印象的な途中のエピソードや何気ない小道具が後からバチバチバチって嵌っていって物語の中で意味を持ってくる。それが凄いの。鳥肌。
    いやオムレツのエピソードに不意打ちされて涙がぶわってなりましたよ…あんなのむりだろ…うう…

    クライマックスで、すべてがつながってひとつの音楽を奏でる、暗闇の中での観客たちがそれぞれの音を鳴らす、ホッチキスやはさみやおもちゃの合奏。生きて

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    2020年10月18日
  • プラネタリウムのふたご

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    ネタバレ

     村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』をもっと童話チックにした作品。だれかと一緒にだまされ同じ夢を見ることが、いかに人生を豊かでおもしろいものにするか、ということが手を変え品を変え実演される。手品に、まじない、言い伝え、それからもちろん小説も。目の見えない老女が家出した亭主の名をかたって書いた自分宛ての手紙を、その内実を察しながらも素知らぬふりして朗読をつづけるタットルや、「泣き男」がプラネタリウムに映してみせた見せかけの星に魅了される村の人たちや、タットル扮する熊をいつまでたっても撃ち逃してしまう猟師たちや、テンペルになりきったタットルに騙される「栓ぬき」とおなじように、一読者として私も存

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    2020年08月27日
  • ぶらんこ乗り(新潮文庫)

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    いしいしんじさん、「トリツカレ男」と「プラネタリウムのふたご」以来久しぶりに読んだのです…
    あーもー、これは好きなやつだなあと最初の3ページくらいでわかる…。
    小川洋子さんとも通じるんだよねえ。こう、静かな語りとどこか外国の童話のような世界。なんていうか、黒電話を使ってて、出窓のある洋館に住んでいて、肉屋で夕飯用の肉を買うような。
    賢い弟とそれを見守る姉、両親、おばあちゃん、犬の家族。
    母は画家、父は額縁職人。それぞれ個性的だけど愛し合って暮らしている家族。

    いやほんとね、前も思ったけど、いしいさんの物語は繊細なだけにこう、薄氷の上に立ってるような危なっかしさが漂ってるというか、いつ大きな不

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    2021年09月17日
  • 悪声

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    ネタバレ

    すごく密度が濃い。きちんと、読んだ、とは到底思えない。
    この小説自体がうたみたいなもので、読むというより原始的な、もっと感覚的な体験という気がする。
    自分の中に感応するところが出てくるたびにかちんかちんとスイッチが入って、からだの中にぶわっと感情と記憶の波がまき起こる。タマさんのサックスみたいに。電車の中でぽろぽろ泣いてちょっと恥ずかしかった。
    「全身にひびきわたる鐘みたいな」歌、音楽にそういう領域は確かにある、と思う。音楽のなすがまま意図しない心の奥の奥まで揺さぶられて、しまっていた記憶も思いも溢れてしまううた。
    その深いところで、自分の現実と夢を行きつ戻りつしながら、みんながつながっていく

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    2019年12月19日
  • ぶらんこ乗り(新潮文庫)

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    自己で声をうしない、動物たちのことばを理解することができるようになった弟と、彼ののこしたノートに記されているいくつもの物語をたどる姉をえがいた作品です。

    著者はしばしば、「物語作家」ということばで紹介されることがあります。本書でも物語の美しさにひたる歓びを読者にあたえてくれますが、それだけではなく、いろいろな読みかたに開かれている小説です。

    本作は、死んでしまった弟がのこしたノートを姉が受けとることからはじまります。そこに記されている物語は、弟が動物の語る声に耳を傾け、聞きとったものとされています。そして本書の終わりのほうでは、飛行機の事故に遭いもはやこの世にはいなくはずの両親からの手紙が

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    2024年03月15日
  • 麦ふみクーツェ(新潮文庫)

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    この著者の童話の世界観と言葉のリズムが好きである。

    いいこと?わるいこと?
    とクーツェはうたった
    みんなおなじさ、麦ふみだもの。

    録音された音楽も、ごくたまに生演奏をうわまわる。ただし音楽家であるためには耳なりがするほど生演奏にふれること。どんなひどい演奏であっても、生の楽器演奏には、音楽家のための栄養がわずかながらそなわっているからだ。

    独立した特殊な事件など、この世には何も起きていないような気がしてくる。クーツェの言ったように、大きい小さいは距離の問題。

    それらの嘘によって、街のみんなには楽園の風景が見えた。おおきな代償を支払いはしたけれど、みんなの手に、なにひとつ残らなかったわけ

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    2018年10月18日
  • プラネタリウムのふたご

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    プラネタリウムの解説員である「泣き男」は、村で水死した女があとに残した双子を引き取って育てることになる。
    双子には、太陽の周りを三十三年周期で回っているテンペルタットル彗星から、テンペル、タットルと名が付けられる。

    勝ち気で活発なテンペルは、村にやってきたサーカスの一座についていき、やがて世界的な手品師として、旅から旅の暮らしを送るようになる。
    対する穏やかなタットルは、村に残り、郵便配達員として、また父の仕事を手伝ったりして暮らしている。
    中身は対照的でも見かけがそっくりなこの双子は、「熊」に関わってそれぞれの運命を歩んでいく。

    いしいさんの作品には、いろいろなものが詰まっている。
    身体

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    2018年10月14日