いしいしんじのレビュー一覧

  • げんじものがたり
    大きなオフィスの給湯室で古参のおばちゃんから聞くゴシップのよう。軽い語り口やけど要所はピシッと締めてくるところがニクい。

    なんせ「光君」が引くほどチャラい。振り回される女子たちがみんなかわいそう。なのに一気読みできるくらい、ありえへんほど惹かれるのはなんでなんやろ。

    メチャクチャ才能あるメチャク...続きを読む
  • ヒミツのヒミツの猫集会
    色んな猫写真集を眺めてきたけど、後ろ姿の写真に「これいい!」って感じたのはたぶん初めて。
    背表紙になってる草むらに飛び込む茶トラの躍動感ある後ろ姿もいいけど、路地の薄明かりの中で歩く影のような後ろ姿や寄り添いながら歩く二匹の後ろ姿も良き。
    完全に心の栄養剤的な一冊です。
  • 悪声
    これは、唯一無二の物語。

    時間、空間を自在に行き来して語られる。
    なかなかストーリーをまとめることが難しいタイプの物語ではある。

    主人公の「なにか」は、仏声寺に捨てられた赤ん坊。
    普通の人間のように十六歳まで育っていくのに、寺の庭のコケの声が聞こえ、音が目に見え、美しい歌声を持つ、普通の人間では...続きを読む
  • プラネタリウムのふたご

    心に深く沁み入る言葉、大事にしたいことがたくさん詰まった小説だった。
    登場人物の、真正面から物事を受け止める姿や素直な心、優しさに、涙が溢れて止まらない場面が多々あった。
    星の見えない土地のプラネタリウム。手品。それは 心を和ませたり心を打ったりすることができるもの。だれでも、現実ばかり見て生きて...続きを読む
  • ある一日
    恐らくは作者自身の、ある夫婦の出産の一日。日常からはじまり陣痛を経て出産へ至る過程が、実に濃密にでも淡々と描かれています。独特の言葉遣いや、こちらとあちらを行き来する文章に圧倒されながら、ずんずんとお腹の底から力が湧き出てくるかのような気持ちにさせられます。

    視点は夫から妻へ、妻から夫へと移り変わ...続きを読む
  • よはひ
    いろいろな短いお話がつらなる短編集。いしいさんの本はいつもそうだが、言葉や「おはなし」が自由に飛び跳ねていて、読んでいるうちにその世界にどんどん引き込まれ、手を引かれて自分も解き放たれるような気がする。
    この本のテーマは、「いま」は今だけではなく、過去も未来も、場所も人もすべてがつながっていて、全部...続きを読む
  • 且坐喫茶
    衝撃を受けた。
    作者の圧倒的な感受性の強さ、そしてその表現力に。
    茶を通しての出逢いと気づきがエッセイ風に描かれているのだが、高尚な論説文を読んだかのような深みがある。ぜひ他の著作権も読みたいと思わされる一冊だった。また、最後まで詳しく描かれなかった「先生」の話もぜひ読みたいと思った。
  • プラネタリウムのふたご
     村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』をもっと童話チックにした作品。だれかと一緒にだまされ同じ夢を見ることが、いかに人生を豊かでおもしろいものにするか、ということが手を変え品を変え実演される。手品に、まじない、言い伝え、それからもちろん小説も。目の見えない老女が家出した亭主の名をかたって書いた自分...続きを読む
  • 悪声
    すごく密度が濃い。きちんと、読んだ、とは到底思えない。
    この小説自体がうたみたいなもので、読むというより原始的な、もっと感覚的な体験という気がする。
    自分の中に感応するところが出てくるたびにかちんかちんとスイッチが入って、からだの中にぶわっと感情と記憶の波がまき起こる。タマさんのサックスみたいに。電...続きを読む
  • プラネタリウムのふたご
    プラネタリウムの解説員である「泣き男」は、村で水死した女があとに残した双子を引き取って育てることになる。
    双子には、太陽の周りを三十三年周期で回っているテンペルタットル彗星から、テンペル、タットルと名が付けられる。

    勝ち気で活発なテンペルは、村にやってきたサーカスの一座についていき、やがて世界的な...続きを読む
  • 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵
    純粋に面白く読めました。
    説教節、曽根崎心中、女殺油地獄、菅原伝授手習鑑、
    義経千本桜、仮名手本忠臣蔵
    それぞれ有名な作品ですが、しっかり読んだことが
    今までなかったのですが
    現代語訳で非常に読みやすく一気に面白く読めました。
  • 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵
    能も狂言も人形浄瑠璃も見たことないので、
    実際にどのような”動き”をするのかは全く想像するしかないのですが。

    後書きでは「舞台での人形は本当に死ぬ。首が飛ぶ、崖から落ちればそのまま動かなくなる」とありそれを想像しながら読むと心に迫ります。

    【「能・狂言」新訳:岡田利規】
     能「松風」
    磯に立つ一...続きを読む
  • プラネタリウムのふたご
    「手品師の舞台は、演芸小屋や劇場にかぎらない。私たち手品師は、この世のどんな場所でも、指先からコインをひねりだし、カードを宙に浮かせ、生首のまま冗談をとなえつづけなければならないのだ。いうなれば私たちはみな、そろいもそろって、目に見えない六本目の指をもっている。手品師たちのその見えない指は、この世の...続きを読む
  • 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵
    どれも訳が素晴らしく、非常に楽しめた。特に能・狂言では現代的な表現がちりばめられていて、思わず笑わずにはいられなかった。
    作品の中では説教節の「かるかや」。説教節といえば「小栗判官」や「山椒大夫」を想起するけれど、かるかやもこれらにおとらず壮絶かつ深い内容であった。
  • プラネタリウムのふたご
    号泣。

    そして、私は星のギリシア神話を買いました。


    やっぱりいしいしんじさんの物語はいいです。
    「ファンタジー」って言ってしまうとその一言で片付いてしまうんだけど、なんというか、この世の地面から少しだけ足が浮いている感じ、この感じがたまらないのです。
  • ある一日
    園子の出産場面、最後の手紙でボロボロ泣いてしまった。
    本を読んで泣いたのは『西の魔女が死んだ』以来だと思う。

    最初の方こそ、登場人物2人の視点があっちにいったりこっちにいったり、ハモやうなぎの話をしたりで読みにくい小説だなぁ、と思ったけど、読み進めるとそれらが全て『生まれる』ことや『生命のエネルギ...続きを読む
  • プラネタリウムのふたご
    フォロワーさんからオススメして頂いた、初いしいしんじさん。

    「でも、それ以上に大切なのは、それがほんものの星かどうかより、たったいま誰かが自分のとなりにいて、自分とおなじものを見て喜んでいると、こころから信じられることだ。そんな相手が、この世にいてくれるってことだよ」

    泣き男が言ったこの台詞が、...続きを読む
  • プラネタリウムのふたご
    人からおすすめされて。
    ひらいてすぐ、文調や世界観が児童書っぽくて、なんだか懐かしい気持ちになりました。
    話を読み終わって、この物語に一貫したなにがしかの「おもいをとげる」ものがあったか、というと、そういったものはとくにないように思います。この物語に明確なゴールはありません。ただ、ふたごに終止符が打...続きを読む
  • プラネタリウムのふたご
    生きることの切なさや、優しさを感じさせてくれる。

    大人向けの童話のような雰囲気の文章の中に、時々、鼻を摘まみたくなるような生臭さがあったり、読まなければよかったと胸が裂かれたり……。

    でも、最後には、読んでよかったと温かなため息を吐ける話でした。
  • 白の鳥と黒の鳥
    いしいしんじ氏を表現するなら、

    「絵のない絵本」



    毎回言ってきたけど、
    この本は、その集大成と言っていい。

    チープなファンタジーがたくさん散りばめられた、短編集。
    昔話などの伝承文学や絵本などは、残酷がつきもの。
    この本に収録された数々の物語も、たくさんの残酷が埋め込まれている...続きを読む