あらすじ
「予定日まで来たいうのは、お祝い事や」。にぎやかな錦市場のアーケードを、慎二と園子は、お祝いの夕食にと、はもを探して歩いた。五年前には、五ヶ月でお腹の赤ちゃんの心音が聞こえなくなったことがある。今回は、十ヶ月をかけて隆起する火山のようにふくらんでいった園子の腹。慎二と迎えたその瞬間、園子に大波が打ち寄せた――。新たな「いのち」の誕生。その奇蹟を描く物語。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
恐らくは作者自身の、ある夫婦の出産の一日。日常からはじまり陣痛を経て出産へ至る過程が、実に濃密にでも淡々と描かれています。独特の言葉遣いや、こちらとあちらを行き来する文章に圧倒されながら、ずんずんとお腹の底から力が湧き出てくるかのような気持ちにさせられます。
視点は夫から妻へ、妻から夫へと移り変わり、そして生まれて来る子の視点へと繋がります。それは生き物の持つ道であり、土地が結んだ道でもある。
最後にバースプラン(どのように出産したいかを記したもの)が提示されるのですが、それを読むと今まで通った道をもう一度振り返りたくなります。何とも力に満ちた物語でした。
Posted by ブクログ
園子の出産場面、最後の手紙でボロボロ泣いてしまった。
本を読んで泣いたのは『西の魔女が死んだ』以来だと思う。
最初の方こそ、登場人物2人の視点があっちにいったりこっちにいったり、ハモやうなぎの話をしたりで読みにくい小説だなぁ、と思ったけど、読み進めるとそれらが全て『生まれる』ことや『生命のエネルギー』や、その逆にあるであろう『死』に繋がっていたのだなぁ、と感じる。
京都の街を舞台にしているのも、伝統行事や錦市場の色が作品にすごく良いスパイスになっていると思う。
Posted by ブクログ
前半ははもとまつたけを食べる2人が印象的。
そして園子さんの出産シーン。私もつい3ヶ月前に体験したのが誇らしく思えるぐらい、神々しくて、奇蹟に近い営みなんだと思わせてもらえた。
母親目線だけでなく、これからまさに産まれ出ようとする胎児の目線で書いてある文章はものすごかった。手に汗を握るぐらいドキドキした。
また読み返したい。
Posted by ブクログ
読み進めていくうちに、タイトルの「ある一日」を実感してハッとした。
1つ目は、この小説が一日ちょっとの出来事であること。
いしいしんじの言葉巧みな描写が、「ある一日」にこれほどの読み応えを与えている。
そして、もう1つは当たり前だけど「ある一日」の過ごし方は人それぞれ違い、どこかで違うドラマが起こっているということ。
登場人物以外の時間の存在を認識することで、「ある一日」の奇跡をより感じた。
記憶はないけど、何故か「いきもの」に共感する傍ら、
読者としてこの奇跡に純粋に感動できる、そんな物語です。
Posted by ブクログ
いしいしんじの作品は最初にトリツカレ男をよんでいたので文体の違いに最初は戸惑いつつも、次々と目まぐるしく映る景観が流れてくるような不思議な文章で中盤くらいから癖になっていた。
自分は性別が男な為、慎二の立場で出産の立会いの場面を読んでいたがなかなかにハードというか、、想像を絶するのだろうという臨場感がひしひしと感じた。
Posted by ブクログ
園子さんの出産を私小説として描いている。
ごはん日記のファンなので、やはり事実は日記として読むのに敵わないのだが、
出産の描写は未経験者にはとても恐ろしく、かつ、尊い。
園子さんのバースプランが巻末に載っているのもよかった。
高齢出産ということもあり、いろんなひとに希望を与えるとおもう。
Posted by ブクログ
もうすぐ出産を迎えるわたしに友人が贈ってくれた一冊。
いしいしんじという人は神様みたいだ。出産するのは自分ではなく妻なのに、ましてや胎児でもないのに、陣痛の苦しみ、胎児がこの世に生み出される瞬間の思いを、ものすごく鮮明に、詩的に描いていて、凄い。まさにいのちの誕生の奇蹟。