恩田陸のレビュー一覧
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これは「鎮魂」の物語だ。
だがそもそも鎮魂とは誰のためのものなのか?という話でもある。
物語に限らず製作物とは、そこに誕生させた時点で、それ以上のものではなくなる。その意味で、あらゆる可能性を持っていた状態から有限のものに成り下がると言えるのではないか。誕生させた時点で無限にあった可能性と未来を放棄したこととなるからだ。
となれば、これは一種の喪失なのではないか。
自らにあった無限の可能性を切り売るのが製作活動…と捉えるならば、この物語は有限である存在としての自分を受け入れるための(無限の私を死なせたことへの)喪の作業、正に「鎮魂」の物語と言えるのではないだろうか…。
「私」にとってはあ -
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『…おまえたち呪われた一族は、おのれの血ぬられた歴史から報復を受ける時が来たのだ。おまえたちの黒い薔薇の館は、万聖節の朝、西の館の亡霊と共に暗い池に沈むだろう。聖なる魚』
あなたは、こんなことが書かれた手紙を受け取ったとしたらどうするでしょうか?
いやいや、呑気に”どうするでしょうか?”なんて言っている場合ではありません。これは紛れもない『脅迫状』です。いち早く警察に連絡しないといけません…。
はい、まあそれは確かにそうですが、なんだかこの文章とても変です。『ものすごく時代がかった手紙』です。『おまえたち呪われた一族』なんて表現、現実世界では聞かないですよね。こんな表現、小説の中に登 -
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『七月に流れる花』ですっきり解決したかと思うと、本作で「夏の人」の正体が深堀され、林間学校の謎も明かされと、さらに面白かった。
恩田陸作品の現実離れしているものの、ファンタジーとまではいかない独特の雰囲気が楽しめる1作だった。
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夏流城(かなしろ)での林間学校に初めて参加する光彦。毎年子どもたちが城に行かされる理由を知ってはいたが、「大人は真実を隠しているのではないか」という疑惑を拭えずにいた。到着した彼らを迎えたのは、カウンターに並んだ、首から折られた四つのひまわりの花だった。少年たちの人数と同じ数――不穏な空気が漂うなか、互いに疑心暗鬼をつのらせる卑劣 -
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懐かしくなるようなどこか哀愁漂う田舎の夏の描写と、林間学校の招待状が渡され、意味もわからず「夏の城」に閉じ込められるという物語の不思議さに魅了された。ラストも良かった。
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坂道と石段と石垣が多い町、夏流に転校してきたミチル。
六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。
終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。
思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城―夏流城での林間学校への招待状が残されていた。
ミチルは五人の少女とともに、 -
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どれも面白かった。「冷凍みかん」、「深夜の食欲」、「淋しいお城」が特に好き。
「淋しいお城」が『七月に流れる花』の予告編とのことなので、本編も読む。
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葬式帰りの中年男女四人が、居酒屋で何やら話し込んでいる。彼らは高校時代、文芸部のメンバーだった。同じ文芸部員が亡くなり、四人宛てに彼の小説原稿が遺されたからだ。しかしなぜ……(「楽園を追われて」)。ある共通イメージが連鎖して、意識の底に眠る謎めいた記憶を呼び覚ます奇妙な味わいの表題作など全14編。ジャンルを超越した色とりどりの物語世界を堪能できる秀逸な短編集。 -
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何かが終わる時、そして始まる時に現れるだろう不思議な存在、喪失と希望をアンビバレントに語るもの…で、あればこそ美しくも在るのだろうか。
それを作り出すのもまた人の心の有り様如何か。
喪失に片寄れば陰鬱な物の怪、希望が強すぎれば閃光を纏った破壊が産み出されるような気もする。
このアンビバレントな不安定に耐え、そこに居続けれる場合のみ、美しいものとして産み出されるのかもしれない。例え身に宿る不運がどんなものであったとしても。
しかしそれにはあと人間が2人と、不思議な動物が1匹必要とのこと。やはり人は一人では、この不安定には耐えられないのだろうな。