【感想・ネタバレ】夏の名残りの薔薇のレビュー

あらすじ

この殺人事件は真実なのか、それとも幻か!?
沢渡三姉妹が山奥のホテルで毎秋、開催する豪華なパーティ。
不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。はたして犯人は――

沢渡三姉妹が山奥のクラシック・ホテルで毎年秋に開催する、豪華なパーティ。
参加者は、姉妹の甥の嫁で美貌の桜子や、次女の娘で女優の瑞穂など、華やかだが何かと噂のある人物ばかり。
不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。
これは真実なのか、それとも幻か!?
巻末には杉江松恋氏による評論とインタビューも収録。

「『夏の名残りの薔薇』は本格ミステリという「閉じる」小説形式のルールを遵守しながら、同時に「閉じない」モチーフを小説内に定着させるという、極めて曲芸的な目論見によって書かれた作品である。(中略)小説内の犯人が目論んだ計画とは別に、作者が小説内で狙った仕掛けについても注意して読み進めなければならない――。」
(解説・杉江松恋)

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Posted by ブクログ

大好きな本です
各々の登場人物の中にある想い、嘘、幻想…。その3つが全て混じり合い、一つの物語を作りあげる。

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2025年07月27日

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ねるまえにちまちま読む。一章ごとにどきどきながら眠りにつき、変な夢を見た。つまり寝る前に読む本ではない。
演劇のように絵が浮かぶ、古いホテルの数日間で繰り広げられる、事実とは。しんじつとは。のはなし。
音楽のことはよくわかりませんが、不協和音を聞いた時みたいな不穏な気持ちが襲ってくる恩田陸の醍醐味小説。つぎは一気読みする。

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2024年08月12日

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中学生の時に初めて読んで、それから何度読み返したか分からない。本当は何が起こっていてどれが時間なのか飲み込まれる感覚が面白い。大好きな作品

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2024年06月23日

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ネタバレ

何だろう、ぐるぐるするような話。 限られた空間なのに登場人物が多い。主役の三姉妹は作り話を披露して、楽しんでいる?のか…お茶会、は恩田作品にはよく出るワードで、好きな場面でもある。各章で最後に死ぬ人物が変わる。そして、最後には全てをそれぞれが明らかにしていく。桜子が辰吉に言ったのは本当だったのか。こういう、何だか、何だろうって思ったままの話が好きだ。何回も読みたくなるし、ずっとわからないままでいたい。毎回印象が変わるのもたのしい。桜子の世界に入れる人がいつか現れるのか。個人的には時光が好き。

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2022年10月02日

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2025年1冊目『夏の名残りの薔薇』(恩田陸 著、2008年3月、文藝春秋)
雪に閉ざされたホテルで巻き起こる“不連続殺人事件“を描いたミステリー。
章ごとに語り手が入れ替わり、しかも認知する現実が各々で奇妙に食い違うという「藪の中」形式を取っている。その上、「去年マリエンバートで/不滅の女」という映画のテキストの断片が端々に挿し込まれるので、読んでいて眩暈を覚えそうになる。
この構造がそれほど上手く作用しているとは思わないが、幻想的な世界観は良い。

〈去年、ここでは本当に何も起きなかったんでしょうか〉

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2025年01月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

もー!わかってるのに、めっちゃ面白い!気になる〜〜!となって一気読みして最後放り投げられるっていういつものパターンにはまりました。わかってるのに…。
でもまた何度でも繰り返してしまうの。そういう中毒性が恩田作品には確かにある。

昔読んだ時は学生で、なんというか…日本文学!として真面目に読んでたけど
大人になって読み返すと少女漫画っぽくてちょっと笑ってしまった。
エッセイを読むと恩田さんは強く少女漫画に影響を受けているとのことでなるほど。

でもなんていうんだろ、恩田作品て脚本ぽくて演劇ぽくて、キャラクターと設定がすごく魅力的だから否応なしに惹かれてしまう。
特に導入がもう…!読むっきゃない!という抗いがたい設定なんだよねーー!

そして読んでいて強く感じるのが、日常にとけるミステリー、謎を愛してやまない気持ちというか。
ふと気づいてゾッとするような小さな違和感、風景にまぎれているほつれ、それをねえ、って誰かに話したくなる物語として読みたくなる、そういう衝動。
そこにすごく共感して、わかるー!と楽しく夢中になってると最後にハイ、さよならーとぶん投げられてしまうという。
ここまでめっちゃくちゃ楽しかったけど、この散りばめられた謎、伏線どうするの…?あれ…もう残りページないけど…ま、まさか……でおしまい!笑
そんでいやなんでよーー!?ともんどり打つことになる。毎回!でも好きなんだよー!泣

本作にしても構造は最高に面白いしお得意の老女姉妹でてきて姉弟のキャラクターも魅力的、そして舞台は古い瀟洒なホテル!
絶対面白い!サイコー!やったー!と読んでいくとやっぱ途中からだんだんぼやけてそのままラストで煙に巻かれてしまうのよね。
恩田作品て登場人物が途中でとけていってしまう感覚がある。
最初は際立って確立した人々なのに、話が進むにつれてストーリーに引っ張られてキャラクターの輪郭がぼやけてしまう、書き手の恩田さんが見えてきちゃうというか。いいんだけど!

でも物語の立ち上げ方、こういうお話を書きたいって構想を広げていく鮮やかさが天才的で、
それをいつまでも見ていたいって思っちゃうんだよね。
なので大満足。恩田作品でしか得られない読後感を摂取できて満足しました。

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2023年11月10日

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ネタバレ

何が本当で何が嘘なのかがわからなくなります。
結局はそれぞれの記憶による物語なので、読者の信じたいものを真実とするしかないのかなと。
ただこの小説は真実が何かはあまり大事ではなく、その過程に至る登場人物の語る言葉が大事だと思います。
読書の醍醐味でもある、各登場人物の紡ぐセリフを存分に楽しめた。

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2023年08月12日

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ネタバレ

 こういう「閉じない」恩田陸にハマってしまうと、普通の結末がある小説だと期待外れに思ってしまう時期があったなあと思い出す。

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2021年09月12日

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光文社新書の「文学こそ最高の教養である」を読んでいたら「去年マリエンバートで」が出てきて、そういえば恩田さんがこの映画から話を書いていたなーと自宅本棚を探して引っ張り出した(笑)久しぶりに読み返したらほとんど覚えてなくていろいろ楽しかった。

これは、たぶん「去年マリエンバートで」の内容がわかってないとピンとこないんだろうな、と思いつつ、私も映画見たことないのでアレですが、フランス文学であることと大まかなあらすじを頭に入れたら、あのラストはストンと腑に落ちた。恩田さん風にいうなら「閉じた」感じ。
少しずつずれて重なるこの感じがたまらなく好きだなぁ。恩田さんっぽくて良い。

巻末にインタビューがあるのが最高。ほんとめちゃくちゃ本読んでるんだよなぁ。私もガツガツ読みたい。

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2021年05月12日

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ネタバレ

山頂に聳え立つホテルを貸し切って毎年開かれる豪奢なパーティ。主催者の老三姉妹は秘密を抱えた客たちの前で、見事な作り話のアンサンブルを聞かせるのが恒例となっている。ホテルのなかで閉じた人間模様が繰り広げられ、変奏するごとに異なる人物が殺されていく。読者は誰が夢みた死を見せられているのか。ロブ=グリエの映画脚本を大胆にカットバックさせる手法で書かれた、幻想的で妖艶なミステリー。


面白い!常野物語が期待はずれだったのを挽回してくれた。恩田さんはあまり評判を聞かないタイトルのほうが好きかも知れん。
一番の収穫はアラン・ロブ=グリエの『去年マリエンバートで」原作およびアラン・レネ監督の映画を知れたこと。ヌーヴェルヴァーグの難解映画として有名らしい。理解できずとも画面を見ているだけでうっとりできる作品だ。
大量のロブ=グリエの引用と共に"協奏"される本作も、映画と同じく表層のみがあり過去という奥行きを失った登場人物たちによる殺人劇が何度も繰り返される。三姉妹の語りが全体を繋いで、個々の人物が自分の知り得ることを語り、"死ぬべき人物"を選びだして物語的に殺すという構成が演劇的で楽しく、辰吉や時光などキャラクター全員に死の順番が回るまで続けてほしかった。竹本健治『匣の中の失楽』然り、こういう語り直しやパラレル設定が好きで解決篇はどうでもよくなってしまう(笑)。
引用の多さはちょっとズルく感じるほどだが、そのスタイルの大きな違いによって、恩田文体の俗っぽさというか偽物性みたいなものに客観視点が加わっていて良かったと思う。
恩田さんらしくて好きだったのは沢渡三姉妹のキャラ造形。3人で協力して作り話をする老女たちの愛憎関係は、桜子たちの恋愛なんかよりよほど強い力をもっている。だからこそ語り手側として彼女たちを召喚しなかったのがよかった。先に死んだという兄たちの話が桜子と時光の関係と重なるのかと思ってたので、そこは拍子抜けだったけど。
ひと月くらい集中的に恩田作品を読み、わかったのは、文体がゆるいときと締まっているときの差が激しすぎること。明らかに書き飛ばしているときの重複情報の多さは私には我慢ならない。また、演劇的な手法で書かれたものは好きだなと思った。本作は大きく括って『中庭の出来事』タイプの作風だが、軽くて洒落た読みごこちになっている。

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2021年02月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

山奥のクラシックホテルを舞台として、ある企業の創業者一族やその関係者が腹を探り合うミステリー。

華麗で有能で悪趣味な人々と奇妙な幻想が調和して、耽美な雰囲気を醸し出していた。
「変奏」によって結末の違うストーリーが繰り返されて、読んでいる間は狐につままれたような気持ちになったけれど、どれが本当でどれが嘘か、どれが現実でどれが妄想か分からないミステリアスな部分がこの本の魅力となっていた。
作家の匙加減で幾通りにも枝分かれしていくのが面白い。テーマ性があり、クラシック曲や映画の脚本の引用などよく練られた一冊だった。

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2020年05月15日

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うん。うん。恩田陸だね~
この、誰かが死ぬ結末を、回避して次の章が始まる流れ、面白い。
途中に挟まれる文章が、最初ウザかったんだけど、ちゃんと機能してたね。

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2018年09月01日

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再読6回目。
真実とは、事実とは、記憶とは、本当のこととは...? 自分の知っていることや記憶していることをどこまで信用していいのだろう、と考えさせる1冊。
結末はちょっと想定外だったけど、まあ好きな感じです。

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2017年12月24日

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ある旧い豪奢なホテルでの数日間。三姉妹とその血族、旧知の友人たちが織り成すパラレルワールド。真実はどれなのか。嘘と真実の境界線はあるのか。

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2016年04月18日

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ネタバレ

自分にとっては二度読み必須。

最初は他者から目線と、当人目線でこうも受け取る印象が違うのか、と驚き
終章を読んで、改めて再読するとおぼろげではあるが
自分なりにテーマを見出し、惹かれ、浸れるように。
一方で
恩田氏のこういった作品は、カチリ と一つにしたり、枠にはめたりして読まなくてもよいのかな、とも思う。
分析せずゆったり雰囲気に浸るのも読書の醍醐味かと。。

巻末の杉江松恋氏の他作品を並べての 見解にも大分助けられる。

巻末に恩田氏のインタビューが載っているのだが
小学生で『そして誰もいなくなった』を読み(自分は高校生だったが難しく感じた)、今現在も年間200冊「しか」読めない恩田氏の書く作品は
RPGでいうレベル15の状態なのにレベル150、ひょっとしたら1500の敵に挑むようなものなのかな、と。
恩田氏の作品を面白いと感じられるようになる為には
作品の読む順番が重要で、レベルアップしつつ挑まなければならないのかも、と己の力不足を認識。。


気になった箇所
『人間はつまらない真実よりも面白いフィクションに金を払う。世の中の人間は、真実など誰も必要としていない。嘘でも楽しませろ。自分をミステリアスに見せろ。謎めいた人間の方が、人は興味を抱くし尊敬の念を抱くものだ、と。』

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2016年02月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マクベスの魔女の如く印象的な三老女を筆頭に、腹に一物も二物もありそうな登場人物がぞろぞろ。バートラムホテルを思わせる舞台で錯綜するストーリーが結末までうねる。
お見事でした。

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2014年11月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最近、月一で読んでいる恩田氏の作品。

今回の作品、結構ドラマドラマしているな、というのが印象ですかね。

・・・
内容をザックリ言うと、夏の人里離れた高級ホテルで繰り広げられる群像劇、といったところ。

一代で財を成した沢渡グループが運営するホテル。先代の娘たち(と言っても既に60過ぎ?)三人がホステス(招き主)となり、ゲストたちと交流するというもの。
奇怪な事件が起こったり、身内の不実が暴露されたり、過去の不祥事が明らかになったり。

人里離れた格式高いホテルは「密室」であり、まさに用意された「舞台」。そして事件は起こるべくして起こる、そんな予定調和さえ感じさせます。

・・・
本当に申し訳ないのですが、私が小説読むというのは、言わば消費しているだけなんです。

だから感想なんて、端的に言えば面白かったか面白くなかったか、誤解を恐れずに言えば、実はそれだけ。

今回の作品は、その二分法でいえば面白かったに入りますが、これをもう少し砕けば、ドラマ的だなあ、とか、全部で6章あるもすべて異なる人物での一人称語りである点が面白かった、とかまあそんなもんです。

・・・
ところが、巻末の杉江松恋さんの解説がこれまた細かい。

恩田氏作品群のカテゴライズから始まり、そのうち本作はこれこれに属する、だとか、「記憶」というワードをテーマにして他作品と本作品との共通点を探ったり、あるいは「祝祭」というワードをキーに、恩田氏の作品にビールを飲むシーンが意図的に表れると主張したり、と。

おそらく、好き・ファンだ、というエネルギ―が、作品群に共通点を見出したり、分類することに喜びを感じさせたりするのでしょうが、文字通り作品の「消費」者としてはなんか軽い気持ちで申し訳ない、とちょっと済まない気にすらなりました(笑)

まあでも、恩田氏の作品は結構読んだので、改めて恩田作品ロードマップを見返した気分にもなりました。

・・・
ということで一カ月ぶりの恩田氏の作品でした。

ホテル、密室、事件、ということで舞台映えしそうなエンタメでした。丁度夏のホテルが舞台ですので、残暑がきついこの時期、お休みでホテルに滞在される方など是非いかがでしょうか。

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2024年09月07日

Posted by ブクログ

風景描写が細やかでそれだけで不穏で不思議で不可侵な空気が伝わってくる、独特な恩田陸ワールド作品でした。あ〜、恩田陸!って感じでなんとも言えない雰囲気が堪らなかったです。

何が本当で何がウソ(幻想)か分からないまま、第6変奏まで行ってしまいました(笑) 読み終えて少し読み返して全部を理解、スッキリ終えられて満足です!恩田陸さんが引用した「去年マリエンバードで」ぜひ読んでみたいと思いました。

積読になってる「三月は深き紅の淵を」と「黒と茶の幻想」も早く手をつけたいところです。

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2023年03月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【目次】主題/第一変奏/第二変奏/第三変奏/第四変奏/第五変奏/第六変奏
あとがき-二つのマリエンバートの狭間で
心地よく秘密めいた恩田陸 杉江松恋
恩田陸スペシャル・インタビュー(聞き手・杉江松恋)

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2023年01月21日

Posted by ブクログ

“「夏の名残りの薔薇」の構成について考えていた時、一つの主題を繰り返して微妙に変化させていく、という形式だけは決まっていたが、いよいよ書き始めるという時になって、何かこの小説には核になるものが欠けているような気がしてならなかった”と、この作品執筆の経緯を語られる恩田陸さん。

この世には数多の小説があり、それを日々生み出される作家さんの存在があります。私たちの手元に届くのは、当然にその完成品である商品としての小説です。制作途上のものが届くことはありませんし、また見たいと思っても、作家さんの頭の中を覗き見することもできません。そんな小説が私たちの手元に届くまでを分かりやすく書いた作品に額賀澪さん「拝啓、本が売れません」があります。散々に赤入れされた校正稿を見ることができるなど、なかなかに興味深い、小説が出来上がるまでの舞台裏を見せてくださいます。

しかし、そんな風に私たち一般読者が小説執筆の舞台裏を見ることは普通にはできません。どんなことを思ってこのような構成になっているのか、それを構成した作者の考えを知ることができれば小説への理解は深まると思います。また、作品によってはその構成をどうしても理解できない、この場所にどうしてこのようなものがあるのかわからない、そんな異物感に苛まれる読書は精神衛生上もよくはありません。そんな時、その構成の真意を作家さんから聞いてみたくもなります。

私はこの3年間で600冊以上の小説ばかりを読んできました。その際に心がけているのは、そんな作品制作の舞台裏をインターネット様のお力をお借りして、可能な限り調べることです。私のレビューにそんな調査に基づく作家さんのお考えを引用することが度々あるのはそういう理由によります。

一方で、作品制作の舞台裏が〈あとがき〉に記されているとしたら、それは一番分かりやすいとも思います。また、普段、〈あとがき〉を書くことの少ない作家さんがわざわざ〈あとがき〉を書いてまで何かを説明されるとしたら、そこにはその作品を読むにあたっての注意事項的意味合いも出てくると思います。

さて、そんな〈あとがき〉に、このレビュー冒頭のような一文が記されている作品がここにあります。『薔薇』という言葉を作品名に度々用いられる恩田陸さんが書かれたこの作品。非常に複雑な構成に、読書を途中で投げ出したくなること必至?なこの作品。そしてそれは、『去年起きたことと、去年起きなかったことを確かめたいんですよ』と語る登場人物の言葉の中に、まさかの真実の存在を見る物語です。

『桜子さん、時光さん。どちらへ?』と呼ばれ振り向いて天知繁之の姿を見るのはこの章の主人公・湊時光。『伊茅子さんのお茶会にお呼ばれしているんです』と答える時光に『私はさっき。未州子さんのお茶会に行った』と天知は返します。『大学の先生』という天知との会話を切り上げ、伊茅子の元へと向かう二人。そんな中、『雨は横殴りになり、既に雪混じりになっていた』という外の様子を見た桜子は『これで嵐の山荘よ。血の雨が降るわ』と不吉な言葉を語るのでした。『隆介の仕事はどうだい?』と『茶托に茶碗を載せながら尋ね』る伊茅子に『順調ですわ』と返す桜子。そんな桜子に『あの子にはお豆腐くらいの脳味噌しかないけれど、あんたを貰ったのは上出来だったね』と続けます。苦笑する桜子も『冷静で辛辣な女』だが、『実の甥をここまで言う伊茅子』を『辛辣さ』に『輪を掛けて』いると思う時光。そんな時光に『このところよく名前を見かけるわ。ご活躍のようね』と訊く伊茅子に『恐縮です。最近は評論の仕事が多いから、よく見るような気がするだけですよ』とにこやかに返すと、『あんたも立派な文化人の一人』と語る伊茅子。そんな伊茅子は、『だから、そろそろ、いい加減にしたらどうだい?』と言います。『いい加減というのは?』と訊く時光に『あんたたちの関係さ』と『煙草に火を点け』語る伊茅子に時光と『桜子は反射的に顔を見合わせ』ました。『何をおっしゃるの…時光はあたしの弟ですよ』と言う桜子に『だから、余計まずいだろう。結婚してからも実の弟とずっと関係を持っていると世間に知れちゃ』と言う伊茅子は『あたしを騙し通せると思ってるのかい?』と『鋭利な視線』を向けます。『実は、隆介に相談を受けてね』と続ける伊茅子は、『あんたが早晩隆介に物足りなくなるだろうことは予想がついてた…』と自身が早い段階で二人の関係に気づいていたことを説明します。そして『よそに男を作るよりも、これは悪い』と断言する伊茅子に『僕たちに、どうしろと』と、そう答えることで『自分たちの関係を認めたことになると分かって』いながらも訊く時光に、『毎年ここに来て二人で過ごすのを楽しみにしてることは知ってるけど、今年でそれもおしまいにしてもらいましょう』と語る伊茅子。そんな語りに『耳元でカチリ』と、『誰かが銃の引き金を引いたのを聞いたような気がした』時光。『桜子は私の毒なのだ。やめられない毒。禁断の甘い毒』と思う時光。そして、伊茅子の元を出た二人の前に一人の男が階段を降りてくる姿が見えました。『その男を驚愕』しながら見る二人。それは『ここにいるはずのない、彼女の夫』の姿でした…と展開する、時光が主人公となる〈第一変奏〉。妖しい雰囲気満点の中に物語の舞台が朧げに浮かび上がる蠱惑的な物語でした。

“沢渡三姉妹が山奥のクラシック・ホテルで毎年秋に開催する、豪華なパーティ”、”不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。これは真実なのか、それとも幻か?”と内容紹介にうたわれるこの作品。そんなこの作品のレビューには、”わけがわからない”、”頑張って読んだが理解できない”、そして”途中で断念”といった低評価のレビューが溢れています。実のところ、私も読書中、何度もこの作品を手にしたことを”なかったことにしよう”という思いに苛まれました。600冊以上の小説を読んできた私ですがどうしても合わない作品というものは今までにもありました。“アルコ&ピースのオールナイトニッポン”を取り上げた佐藤多佳子さん「明るい夜に出かけて」です。”アルコ&ピース”って誰?、深夜ラジオは全く聴いたことがないという私には、それが分かった前提で展開する物語に全くついていけない苦悩の中に、やはり”なかったことにしよう”と何度も戸惑いましたが、どうにか読み切り頑張ってレビューも終えました。一方で、この作品で私が読書を”なかったことにしよう”と思った理由は、読み解くのがあまりに難しいと感じたからです。その理由は、この作品の特徴でもありますのでそんな三つをあげてみたいと思います。

まず一つ目は、 アラン・ロブ=グリエさん「去年マリエンバートで/不滅の女」からの夥しい引用がなされている点です。もちろん、天沢退二郎さんと、蓮實重彦さんによる和訳ではあり、『舞台となるのは、とある大きなホテル。宏大な、バロック風の、一種の無国籍的な宮殿』と始まる引用は、物語本編の舞台となる『このホテルは山奥の吹きさらしの斜面に建っていることもあって、堅牢な造りになっている。見た目は巨大な山荘という趣きで…』というホテルとの雰囲気感の重なりを類推させもします。この作品の巻末には恩田さんの作品としては珍しく〈あとがき〉が添えられています。”大学に入った年の夏”に映画「去年マリエンバートで」を見たという恩田さんは、この作品の構成を練る中で”この小説の核には、「去年マリエンバートで」を据えるべきである”という考えに至ったことを語られています。小説の中に小説が登場する、いわゆる”小説内小説”は、私が最も愛する小説の形式で今までも数多くの作品に接してきました。恩田さんの作品でも「三月は深き紅の淵を」や「木曜組曲」などがそれに当たります。”小説内小説”が登場する場合、その内容が本文中にどの程度触れられるかで読み味も、その意味合いも全く異なってきますが、この作品は上記の通り、元の作品から大量に引用がなされています。また、それは実際にこの世に存在する作品であり、全編を読もうと思えば入手もできます。その点でこれも上記した通り、本編の物語との絶妙な関係性が物語を作っていくであろうことは痛いほどわかります。しかし、そんな引用が非常に難解だという点が読書の足を引っ張ります。結果、自己防衛本能が働き、私の場合、引用部分はほぼ全て読み飛ばしてしまったというのが結論です。この点、レビュワーとしては失格だと思うのですが、投げ出すよりはマシと考えた次第です。

次に二つ目は、各章で主人公を務める人物は変わっていくのに、全て『私』と始まり、文体も人物による描き分けがなされていないという点があげられます。各章の主人公を整理しておきます。
・〈主題〉: 不明
・〈第一変奏〉: 湊時光、桜子とは実の姉弟にも関わらず、『許されざる関係』にある。
・〈第二変奏〉: 田所早紀、『丹伽子の娘』であり、『舞台俳優』の瑞穂のマネージャー。
・〈第三変奏〉: 沢渡隆介、桜子の夫。伊茅子の甥。
・〈第四変奏〉: 天知繁之、大学の先生。『どことなく浮世離れした、外国人めいた風貌の男』
・〈第五変奏〉: 沢渡桜子、隆介の妻。時光とは実の姉弟にも関わらず、『許されざる関係』にある。
・〈第六変奏〉: 辰吉亮、『高級会社のディーラー』で隆介は顧客、桜子と関係を持つ
物語には、これら各章の主人公の他に伊茅子、丹伽子、未州子という沢渡三姉妹と、丹伽子の娘の瑞穂が登場します。そもそも実の姉弟が『許されざる関係』あるという時点で強烈な設定の物語ではありますが、それぞれの章に語られる内容がどうも頭に入って来づらいという特徴があります。全て『私』と語られるところが余計に混乱を招きもします。

そして、最後に三つ目は、視点の主が語る物語が要領を得ないということです。これは、時光のこんな語りに表されてもいます。

『誰もが、記憶を改竄し、自分の身に起きたこと、かつてあったであろうことを日々自分の中で作り続けているんです。あったかもしれない逢瀬、出会っていたかもしれない恋人を探している』。

そう、それぞれの章でそれぞれの主人公が語る物語には、虚構が入り混じっていることがわかります。『嘘をつくのは、何かを隠蔽するためであることが多い』という中に、さまざまに語られる物語。この登場人物が死んだと匂わされたり…と展開する物語は読者を混乱必至に陥れてもいきます。それは、もちろん恩田さんが意図したものであることは間違いありません。上記二つ目の記述の中で、各章の章題に『変奏』と入っていることに気づかれたと思います。クラシック音楽を愛する方にはお馴染みの”変奏曲”をイメージさせるこの言葉。”一つの主題が様々に変奏され、主題と変奏の一つ一つが秩序を保つように配列された楽曲”というクラシック音楽の”変奏曲”のように、この作品では、冒頭に置かれた〈主題〉に提示された内容を元に各章の中でホテルで繰り広げられるさまざまな人間模様を視点を変えながら描いていきます。そんな〈主題〉には、こんなことが書かれています。

『私は、あのホテルに向かっている。あの贅沢な監獄には、三人の女が待っている。嘘つきな女たち… だが、本当に罪深いのはあの中の一人だけであることを私は知っている』。

そう、”変奏曲”は冒頭に提示されたテーマをさまざまに変化させながら『変奏』していきます。この作品では、この引用に基づいて、『本当に罪深いのはあの中の一人だけ』を追っていくことになります。

以上、私がこの作品でわかりづらいと感じた点を整理してみましたが、ここまで書いて一つ気づいたことがあります。こんな風に自分自身で、読後にその内容を整理したことで、作品の見通しが随分と良くなった!ということです。なんだ、そういうことかという自己完結する結果論。ということで、これから読まれる方には、私の上記整理を是非ご参考にいただければと思います(笑)。

そんなこの作品ですが、上記した複雑な構成の中に描かれていくのは、”ミステリー”な物語です。桜子と時光という実の姉弟の『許されざる関係』にどうしても気持ちが引かれてしまいますが(笑)、本論としては、このホテル近くで『女性の変死体が見つかった』という事実の裏側に隠された真実を求める物語です。上記の通り、非常に分かりづらい物語構成は〈第五変奏〉まで続きます。それが、〈第六変奏〉へと至り、急に見通しが良くなると同時に、急ピッチで結末へと物語は駆け抜けていきます。そんな中に登場するのが、『封筒を見た時は、デジャ・ビュを見ているような気がした』という一文に登場する『デジャ・ビュ』という言葉です。『記憶を引き出す時に脳が勘違いをして、初めての記憶をかつて経験した記憶だと錯覚する現象』を指すこの言葉は、恩田ファンにはもうお馴染みの言葉です。恩田さんの作品でこの言葉が登場しない作品があるのか?というくらいに、まるで恩田さんの署名のように登場する『デジャ・ビュ』。そんな決め台詞が物語を引っ張る〈第六変奏〉は、それまでの章とは異なり、それまでの物語の一年後が描かれていきます。ある人物によって解き明かされていく謎の数々。モヤモヤとした物語がうっすらとはいえ晴れていく様は読者に安堵の念を抱かせます。そして、改めてそこから見える登場人物たちの色濃い血と血の関係性。それぞれがそれぞれを憎んでいる一方で愛してもいるという複雑な関係性の登場人物たちが繰り広げる”ミステリー”な物語。そもそも引用された”小説内小説”をほぼ全て読み飛ばしてしまった読後には、全体をキッチリ読みこなされた方の到達点には到底届きませんが、それでもぼんやりとした物語像がイメージされる中にどうにか読み終えることができた満足感がそこにはありました。

『要するに、彼女たちは作り話をするのが習慣なのだった』という沢渡三姉妹が山奥のホテルで開催するパーティーの舞台裏で巻き起こる変死事件に隠された真相を追うこの作品。「去年マリエンバートで」という映画作品からの夥しい引用の中に、本編との重なり合いを意図して書かれたこの作品。『檻の中で待ち受けている、嘘つきな女たち…本当に罪深いのは ー それはいったい誰なのか』という真実を追い求めるこの作品。

私にとって、恩田作品49冊目となる一冊で、途中で投げ出しそうになるのを何度も堪える読書をまさか経験することになろうとは…と恩田ワールドの奥深さを改めて体感することになった、そんな作品でした。

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2022年12月07日

Posted by ブクログ

【2022年78冊目】
章が変わるごとに絶妙に変化を見せるストーリー。何が真実で、虚構で、過去で、未来なのか、混乱したまま物語は終焉までひた走ります。

頭の切り替えがなかなかに難しかった。物語と本筋では関係ない引用が多々あったのも混乱を引き起こす呼び水の一つだったかなと。

地に足がつかない、なんとも奇妙な小説でした。

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2022年11月27日

Posted by ブクログ

構成が面白い
読み初めは誰が語り手なのかどういう状況で話が進んでいるか理解がしにくいが読み進めていくうちに理解でき、面白さが増す

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2021年07月27日

Posted by ブクログ

山奥のホテルで、大富豪の三姉妹から招かれた人間だけが参加できるパーティー。
そこで起きる殺人事件。
おぉ!どうなる!と思いきや、次の章ではその殺人は無かった事として話が進む。
何とも不思議な小説。

映画のような世界観だなーと思っていたら、本当にある映画のオマージュ作品なのだとか。

訳がわからないなりに、雰囲気は楽しめた1冊。

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2019年10月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

元ネタの映画を観たことがないと、だいぶ退屈な小説。アラン・レネは…ヒロシマ・モナムールは観たことあったんだけどな…観たらまたパラパラ読み直そうかなと思う。

話の構造は面白いし、こういう小説もアリだと思う。私も過去をねつ造することがあるし、そのことが小説になってて興味深かった。ただ、雰囲気のせいもあるのか、物語の世界には没頭できなかった。

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2019年03月12日

Posted by ブクログ

富豪の三姉妹が催す毎年のパーティに集まる人々は、
どこか裏があって……という話。

当初の関係とは違う裏の関係が徐々に明らかになり、
そして起きる殺人事件。

とりあえず最後まで読んで一応の解決はみたけれど
「だからなんなんだ」という感じでもやもやした。

よく考えると、毎回恩田陸先生の本は

あらすじ :いいやん!
読みやすさ:いいやん!
落ち   :うーん

ってなる気がする。

あと話の合間に、実際の映画のストーリーが挟まれるんだけど
「どうせそこまで意味ないんだろうなー」って斜め読みしたら、
案の定そこまで意味はなかった。

たぶんその分削ったら1/3は薄くなるなぁという感想で終わった。

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2017年12月05日

Posted by ブクログ

ホテルものは好きなので借りたのだが、
最初にうち、合間に入る違う話がよくわからず、飛ばして読んでしまった。
章ごとに、人ごとに違う視点違う現実がある。

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2017年04月09日

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ネタバレ

ある企業の創業家である3人姉妹が山奥のホテルで催すパーティーの顛末を参加者たちが語る物語です。

最終章すらも変奏であることに代わりなく、真相が読者に任せられるとんでもない物語ですが、物語の構成は早々に読者に示されており、大きな逸脱がないにも関わらず、最後まで引っ張る技はさすがです。

また私のような不注意な読者が後になってその企みに気づくと、作者に対する恐ろしさは倍増と言えます。

技巧的な作品であるため充足感は低めですが、背徳的なテーマを始め人の欲望や願望が散りばめられ、妖しさに満ち満ちた魅力的な作品でした。

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2017年02月26日

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富豪の姉妹が山間のホテルに親しい人を集めて数日に渡って催されるパーティー。でたらめな話の中に、何かしら真実が匂わされ、事件が起こりそうな兆し。
三姉妹の作り話とともに各章の語り手が異なり、当然それぞれ異なった見解を語る。その語り自体も何処までが真実で何処までが作る話なのか思い込みなのかわからない。
恩田流藪の中。

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2017年02月02日

Posted by ブクログ

今まで読んだ小説の中でも、かなり変わった構成だと感じました。
正直、ちゃんと理解できたかは微妙です(・・;)

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2023年11月26日

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「夏の名残りの薔薇」恩田陸

ノスタルジックロマンス。アンバーホワイト。

いかにもな設定の山上のクラシックホテル(!)で繰り広げられる、虚偽と幻想の愛憎群劇?だいぶ恩田文学でてます。
ナニガシカを秘めた男女達が集まって過ごす数日間、という時間的にも空間的にも限定された物語は良くも悪くも気が滅入る感覚、自分は結構好きです。
あまし青空の下で読む本ではないかもですね(笑)

随時引用される『去年マリエンバードで』というフランス文学が、
恩田さんがこの物語を記述する上での色になったんだろうなあってのをひしひし感じるんですが、
悲しいかな原典全文を読んでいないヘタレ読書としてはいまいち興にのれなかった。。すみませんって感じです。

個人的には『木曜組曲』より残ったなあって感じでした。(3)

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2019年01月16日

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