野中郁次郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ知識創造企業の続編というか完成版というべき本。
海外の研究者が書く、企業研究・経営系の本より、やはりしっくりくる。取り上げられている企業が、本田やトヨタ、JAL、エーザイなど見知った企業のため、それも理解の助けになる。
ワイズカンパニーになるためには、ワイズリーダーが必要であり、それは必ずしもCEOだけではなく、ミドルマネジメント層も大事だ、というのは実感にあっている。
特に大企業では、経営目標の数値自体は、上から降りてくると思いますが、実際に、アイデアを出すのはミドル層が多いと思います。イノベーションを起こすために、知識に加え、知恵と実践が重要です。
ただし、こうなんというか熱い感じの現場の話は、盛り上がるけど、「不夜城」とブラック企業の境がとてもあいまいな気がする。
広い意味で、成功すればそれが正解なのだろうが、火中の栗を拾うとはいえ、取り返しのつかない失敗により、そのまま消えていった企業やプロジェクトもあると思われ、成功した企業のみの研究だと、生存バイアスがかかっているよなーとも感じた。
繰り返しになるが、プロジェクトX的な、燃える展開は面白いですけどもね。
<気になった点>
・未来の創造では自社が儲かりすればよい、という発想はやめなければならない。公益の追求でなければならない。
・(本田宗一郎)「現場」「現物」「現実」の三現主義。社員は直接的な経験を通じて、問題解決やイノベーションに役立つ有益な知識を得られる。
・前著の要点は、知識創造がイノベーションをもたらす。本書では知識の実践がイノベーションを支える、ということ。
・宗一郎は、身体的な感覚によって得られた暗黙知をすべて統合することで、バイクの状態を見抜いたのである。(→ここ!いっぽ間違えれば詐欺か怪しい宗教団体だが、正解を見つけてしまうと、カリスマになる。うーむ)
・本質を見抜くためには、個別のことの中から普遍的な「真理」をつかみ取ることが求められる。普遍と個別をつなぐには、主観的・客観的な考えを概念化して、みなが分かる言葉にするとともに、意欲を掻き立てる野望やビジョンとして表現する能力が必要になる。
・トップが実現したいと望むことと、現場が実際に直面していることの間に横たわる矛盾、つまり理想と現実のギャップの解消に努めているのが、ミドルマネージャーである。
・①エピテーメー・・・なぜを知る、②テクネー・・・いかに知る、③フロネシス・・・何をすべきかを知る。 -
Posted by ブクログ
独ソ戦やバトルオブブリテンにおける趨勢の転換、ベトナムのフランスからの独立やアメリカとの戦争におけるベトナムの戦い方、イラク戦争におけるアメリカ軍の戦い方の変遷といった実例を通じ、戦略、そして知略やリーダーシップについて分析している。野中氏が35年生まれで、一番若い麻田氏が80年生まれと、かなり年代にバラエティのある4人の著者が章別に分担執筆しているが、内容・文体はよく統一されている。
内容は多岐にわたるが、ヒトラーも気まぐれなだけでなく戦争経済を考えて戦略を練っていたこと、スターリンも兵站や補給の重要性をよく理解していたこと、米軍は正規軍どうしの戦闘ではベトナムでもイラクでも常に強力であったこと、トランプ政権を(一時的に)支えたマティスやマクマスターといった軍人が湾岸戦争や対イラク戦争の前線で活躍していたことなどが印象に残った。
知略の本質を考察する終章は、事例を展開するそれまでの記述に比べると抽象的かつ難解であるが、「失敗の本質」の出版以降、戦略に関する数々の考察を繰り返してきた著者たちの現在の到達点と思えば、繰り返し読んで理解に努めることは意義があると思われる。 -
Posted by ブクログ
三宅陽一郎氏の『人工知能のための哲学塾』を読み現象学に興味を持ち、国内における現象学の第一人者である山口一郎氏と、日本を代表する経営学者である野中郁次郎氏との共著である本書を購入。
本書は第1部で山口氏による現象学、第2部で野中氏の代表理論であるSECIモデルを中心とした経営学が解説される2部構成である。
一見関連性のない哲学(特に現象学)と経営学を、1冊の本でどのように結びつけて述べられるのか期待と不安を抱きながら読み始めたが、冒頭、中盤(第1部と第2部の間)および終盤に山口氏と野中氏との対談が挿入されていることで、哲学を専門に学んだことのない自分のような読者にとっても理解が助けられた。
現象学は「現象学的還元」「判断停止(エポケー)」「志向性」「明証性」「生活世界」「ノエシス/ノエマ」「本質直観」「相互主観性」等々、フッサールによって定義づけられた理解し難い用語が多いが、本書において山口氏は、身近な事例を平易な言葉を用いて解説し、現象学の難解な専門用語を可能な限り厳選した上で論考を展開しているため読み手を飽きさせない。
また野中氏のパートでは、第1部における現象学の内容を受ける形でSECIモデルと現象学の関係性に言及しつつ、実際の企業の事例を紹介しながらSECIモデルを主観と客観の循環として説明しているところが興味深い。
実存主義の流れから生み出された現象学と、実学と言われる経営学が、本書のサブタイトルに使われている"共感の哲学"という言葉で結び付けられるということは、経営学を専門として研究している身としては非常に示唆に富むものであった。
現象学特有の「直観(直感ではない)」や近年の経営学で取り上げられる「動態経営論」といった、本書のタイトルで用いられている言葉をより深く理解するにはそれぞれの分野の専門書を読む必要があるが、経営学に新たな視座を設けてくれる本書は、巷間溢れているビジネス系書籍にはない刺激を読者にもたらすであろう。 -
ネタバレ
決断と責任と空気
この本を読みながら感じたことは、決断と責任と空気について、自分も慎重に考える習慣をつけたほうが良いということだ。
特に忖度というか、場の雰囲気(空気)との付き合い方について、自分はどう向き合うべきかを考えさせられた。 -
Posted by ブクログ
「知識創造企業」の25年ぶりの続編という位置付けで、おそらくは野中さんの最後(?)の主著、集大成という感じかな?
「知識創造企業」(1996年)以降の研究をまとめたということだけど、もともと英語ででたものを日本語に翻訳したというものなので、この25年の間の野中さんの本をある程度読んできた日本人にはデジャブ感のある話が多いかな?
集大成的な本としては、「知識創造企業」(1996年)とこの「ワイズカンパニー」(2020年)のあいだには、「流れを経営する」(2010年)という本がある。この「流れを経営する」からの理論的な進化という意味ではそこまで明確ではないかな?
また、「流れを経営する」で、取り扱われた事例とのダブりもある気がする。「流れを経営する」をみると、英語版をベースにしたけど、いろいろ事例の入れ替えなどもしたとあるので、もしかすると英語圏の読者にとっては新しい事例を多く含む内容なのかもしれない。
いずれにせよ、日本の読者には、知っている話しが多いと思うけど、現時点での野中さんの考えの全体が1冊でわかるのはいいな〜。
とくに、知識・知恵の実践にフォーカスがあるためか、リーダーのあり方というところの説明が充実している。これもまた、「流れを経営する」と重複した内容が多いが、野中さんの言いたいことがより明確になった印象。
個人的には、10年くらい前に野中さんからきいてよくわからなかった「リーダーはマキャベリズムも必要」という言葉の意味もようやくわかったかな?
ここで言われているのは、時と場所、コンテキストによっては平時のルールも乗り越えて、柔軟に変化していくことみたいな話し。
わかってみると、それって本当にマキャベリズムなの?という疑問が湧いてくるのだが、野中さんによると「目的は手段を正当化する」というのは俗流の理解とのこと。
もうちょっと違う言葉のほうがいいと思うが、とりあえずはキャッチーということでいいのかな? -
Posted by ブクログ
偉大な本。帯には「経営学の世界的名著『知識創造企業』著者両氏による四半世紀ぶりの【続編】」と書かれている。これは必ず読まねばならない本だと購入。
『知識創造企業』は20年前にビジネスマン人生がはじまるにあたって会社から入社前研修キットの中に入っていた本で、読んだ当時もそうだが昨今のVUCAの時代で昨年読みなおして(時代が変化しても読み継がれるべき本だと)物凄く感銘を受けた本。
失敗の本質、戦略の本質もそうだが野中先生の本はその時の出会いから直観の経営とか含めていくつか読ませていただいている。自分の社会人人生で最も影響を受けた先生と思っている。
さて、本書の内容としては、『知識創造企業』25年の歳月を経たところからの、SECIモデルの発展形、SECIスパイラルモデルというところが研究のメインとなってくるところであるが「知識創造から知識実践への新しいモデル」との副題のあるとおり、アリストテレスが提唱した「フロネシス(実践知)」という概念に向けて日本の読者でも理解のしやすい多数の日本企業の事例でもって検証している。(フロネシスは「何をなすべきかを知る」知識、という記述もあった)トヨタやホンダ、JALやファーストリテイリングといったところから、最近ではあのトースターのバルミューダまで事例に含まれていて興味深い。
そうそう、前書もそうだったのだが、日本人のお二人が記載された本なのに訳となっていて、英語版を先に出版後の日本語版という位置づけ。日本語版あとがきには「多くの日本人が本書を読んで、一緒に腕まくりして、これからの新しい時代の「生き方」について議論を深めていただきたい」とある。
『知識創造企業』がいかにすごい本だったかを表現する部分も冒頭にあったのでその部分も含めて抜粋しておく。 (本書そのものが著名な書籍の引用抜粋も多いので抜粋の抜粋になっているところもありますが… :原注と参考文献だけで50ページ以上あります)
==========
ⅰ 2013年、英国の経営学の学術誌『ナレッジマネジメントの研究と実践(Knowledge Management Research and Practice)』では、『知識創造企業』が2003年から2012年までの10年間において、ナレッジマネジメント分野で最も引用された文献だったことが紹介された。同じ年、日本のビジネス誌「週刊ダイヤモンド」の「100年後も読み継がれるべきベスト経営書」では第一位に選ばれた。
P68 今、どういう行動をとるか次第で、どういう未来が生まれるかは決まるということである。ハイデガーの考えに従うなら、未来の可能性を最大限に高められるよう、「いま・ここ」を生きることこそ、知識実践の理想的な方法になる。
P313に2005年6月のスタンフォードで行われたスティーブ・ジョブズの伝説の卒業式スピーチもあったが割愛
P376 従来のマネジメント理論では、組織設計や、報奨制度やルーティンや、組織文化の設計を通じて矛盾の解消がめざされる。ワイズカンパニーでは、矛盾は克服されるべき障害とは見なされない。むしろ逆に、知識の創造と実践に不可欠のものとされる。ワイズリーダーは矛盾を受け入れるからこそ、成し遂げるべき善を見失うことなく、状況に応じた最善の判断を下せる。
P406 そして、その末に行き着いたのは、『原理原則』ということでした。すなわち『人間として何が正しいのか』というきわめてシンプルなポイントに判断基準を置き、それに従って、正しいことを正しいままに貫いていこうと考えたのです。
嘘をつくな、正直であれ、欲張るな、人に迷惑をかけるな、人には親切にせよ…そういう子どもの頃に親や先生から教わったような人間として守るべき当然のルール、人生を生きるうえで先験的に知っているような『当たり前』の規範に従って経営も行っていけばいい。
人間として正しいか正しくないか、よいことか悪いことか、やっていいことかいけないことか。そういう人間を律する道徳や倫理を、そのまま経営の指針や判断基準にしよう。
P438 本書『ワイズカンパニー』の刊行につながった研究は、次のように要約された。
「情報から知識へ、知識から知恵へと考えを進化させてきた野中は、人間的なリーダーシップの必要性をますます強く訴えている。それはよりよい社会を築くために人間の独創的な能力を役立てるリーダーシップである。『ビジネス界にもっと人間中心の経営という発想や実践が求められる時代だ』と野中は指摘する」
P459 生き方としての経営では、自社が何を象徴するか、どういう世界に生きたいと思うか、そのような世界をどのように実現するか、どういう方向に進むか、どういう未来を築きたいか、どういうレガシーを残したいか、どのように社会に貢献できるかということが考慮される。よりよい未来を実現できるのは、自分たちにどういう使命が与えられているかを理解し、ひたすら正しく生きようとし、終わりのある一生の中で常に自分を磨き続けるときである。
P461 SECIは組織モデルだったが、共通善という概念が組み込まれたことで、社会モデルになった。知識創造とは、組織と社会との絶えざる相互作用であり、対話である。したがって知識の創造や実践は、組織の物理的・社会的な境界線内に限定されるものではない。
P469 本書では、その知識を絶えざる実践を通じて知恵(wisdom)にまで高めることの重要性と、その知恵を獲得・活用するための方法を示した。実践を積み重ねていくと、実践知が得られる。なおも繰り返していくと、実践知が豊かになり、次第にスケールが大きくなる。企業の枠を超えて社会までも巻き込んでいく。
==========
また何年も読み返そうと思う。 -
Posted by ブクログ
イノベーションを成功している企業を「共感」というキーワードから読み解く試み。
・日本企業は分析過剰、計画過剰、法令遵守過剰の三代疾病に陥っている
・VUCAの時代においてはこれまでの分析的思考だけでは生き残れないのであり、共感を軸にした物語り戦略をとっていくべきである
・顧客への共感、社員への共感を元に「あるべき姿」を分析的思考ではなく飛ぶ仮説として描き、辿り着きたい場所からの逆算思考で発想するべきである
・この発想は論理的三段論法ではなく、「目的(何を目指すのか)→手段(どのような手段が必要なのか)→実践(その手段を用いて行動に移す)」とつなげる実践的三段論法と呼べる
・物語り戦略にはプロット(筋書き)とスクリプト(行動規範)がある
・スクリプトは訳せば脚本、台本であり、演劇の主人公が場面場面において脚本にしたがって演技するように、スクリプトは蓄積した経験やパターン認識にもとづいて、無意識のうちに心と身体に刷り込まれている思考や行動にまつわるルールのようなもの。つまり、ある特定の文脈や状況において、「こういう場合はこうする」と暗黙知になった行動規範。
・物語(ストーリー)は複数の出来事(WHAT)を並べて記述したものであり、物語り(ナラティブ)は複数の出来事の間の相関関係(WHY)に即して語るもの
・WHYにこそ当事者の主観や直観が表れ、WHYこそが人々の共感の源泉となり、物語りのプロットの軸となり、人々の行動のスクリプトにも結びつく
・物語り戦略はアートとサイエンスの綜合
ビジョン・ミッションとバリューを物語りにおけるプロットとスクリプトと読み替えるような視点。元々ビジョン・ミッション・バリュー自体が定義が統一されていない曖昧なものなので、ストーリーという観点から捉え直すのはわかりやすいと感じる。
事例と解説を交互に行なっていくスタイルは体系的ではないもののそれなりに分かりやすい。
ただ、最後のまとめでユニクロやセブンイレブンを事例として持ち出すべきではなかったと思う。それでの事例もそれなりに有名な企業が多いとはいえ、取り上げているのは企業内の特定の状況における特定のプロジェクトだったからこそ説得力があったのに、これまで散々さまざまな戦略論で分析され尽くしたユニクロやセブンイレブン、富士フイルムの全社戦略を最後に出してしまうことで、結局これまでの戦略論から見せ方を変えただけなのではという印象が強くなってしまう。
VUCA時代における新たな戦略としての説得力を増すのにその事例出す必要ある?と最後に冷めてしまう。
最後はもったいなかったものの全体的には面白味を感じる本ではあります。
もう少し触れていると良かったと感じるのは「アートとサイエンスの綜合」が重要なのである、ということ。最近アートの強力さを論じるものが多いし、これまで軽視されすぎていたからしょうがないと思うけど、だからと言ってアート一辺倒でうまくいくのではなく、あくまでサイエンスとの両輪で走るべきなのにサイエンスが無視されすぎる場面があるように感じるので。