新しい世界の資源地図
エネルギー・気候変動・国家の衝突
著:ダニエル・ヤーギン
訳:黒輪 篤嗣
米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家である、筆者が地政学的見地から、超大国の動向を解説した大書
20,21世紀は、エネルギーという軸で、世界は動いていて、気候変動や、国家間の衝突を誘発している
本書は二つの軸から語られている
国家(経済力、軍事力、地理的条件、戦略、野心、偶発的出来事と不足の時代)
エネルギー資源(石油、天然ガス、石炭、風力、太陽光、書く)
この二つの要素が絡まる地図は、絶えずダイナミックに変化し続けていて、バンデミックなどの不測な事態を含めて、世界に深刻な混乱をもたらしている。
この新しい地図を読み解くのが本書の目的です
世界を支配しているエネルギー大国、米国、サウジ、ロシアが今後どのようにかわっていくのか
■米国
シェールガス
天然ガスの可採埋蔵量は、急増している
電力の天然ガスに占める割合は、17%⇒24%に変化
いまや米国には、有り余るほどの天然ガスがある
2014⑫には世界5位の埋蔵量を誇り、米国は世界の主要な石油プレイヤーに返りざきを図った。
北アフリカ、英国東方沖でも天然ガスが発見されたために、欧州は米国の潜在的輸出先ではなくなった
米国は膨大な貿易赤字を理由として、韓国にLNGを多量購入させるための長期契約を結ばせた
化石燃料に反対する人々は、まず、パイプラインの設営に反対している
米国のエネルギー問題は、シェール革命と環境保護活動と衝突である
米国はシェールを確保してからも、原油の輸入を止めていない
中東のひんしつの低い重質油を生成するような設備を保持しつつ、軽くて品質の高いシェールで外貨を稼いでいるのだ
パワーバランスの変容、ロシアは米国のシェールガスを批判し、欧州市場に与える影響を憂慮した。
現在余剰生産能力の大半はサウジにあり、生産量の調整弁の役割をになっている。サウジは、世界の石油の「中央銀行」とよばれている
シェールガスの地政学的影響
・イランの2015年の核合意
・欧州の天然ガス市場の多様化
・中国への天然ガスの輸出
・エネルギー分野は、米国、サウジ、ロシアの3者のうごきが地政学の中心となる
・シェール革命がもたらした、バジェノフ層の石油採掘技術は早晩世界に広がることとなり、ロシアをはじめ世界各国が注目している
■ロシア
ロシアは世界三大産油国の1つ
歳入の40%以上が、エネルギ関連から得られている
ロシア政府が、ガスプロムをはじめ、大半のエネルギー企業の株を保有している
ウクライナは、ロシアに天然ガスのパイプラインの通過料を課していてそれが、大きな収入源になっていた。当時80%の天然ガスがウクライナを経由して、欧州に輸出されていた
ウクライナへの西側への接近が、ロシアにとって、エネルギー問題を含めた直接の脅威と映った。しかもウクライナにとってロシアに未払いの代金が、数十憶ドルもあり、ロシア政府はこれ以上の譲歩ができなくなっていた。ロシアは、ウクライナを経由するパイプラインの管理を、自ら実行すること、パイプラインは、重要の資産なのである
ロシアは、ウクライナ以外にポーランド経由でドイツに天然ガスを輸出するパイプラインを敷設した
ドイツのエネルギーに占めるロシアの割り合いは、33%に達していた。
米国はロシアから欧州へのエネルギー供給については、神経質に反応し、輸出と止めようとしたが、欧州の反発をまねいた。
米国とロシアの不幸、ウクライナ問題が浮上したときに、スノーデンのロシアへの亡命が判明し、オバマ政権は、急遽プーチンとの首脳会談を中止した。
ロシアは、ウクライナに対して、保有していた核兵器の返還と引き換えに領土保全を確約していた。が、それもウクライナ政府がロシア寄りであるという条件下であった。ウクライナの西側への接近は、エネルギー問題にせよ、軍事的な問題にせよ、ロシアが容認できるものではなかった。
ロシアで、ガスプロムの競合会社が出現した。サハリンのLNGがそれである
東方シフト、欧州から基軸を中国に移すというロシアの戦略である。
ハートランド、ロシアの中央アジアへの進出をいう。もともとソ連邦であった、中央アジア諸国のうち、アジェルバイジャンとカザフスタンは、産油国である。
ハートランドは、米中露のバランス外交を行っている
■中国
中国の外貨準備は、3兆ドルにおよび、うち1兆ドルは、米国債が占めている
2014年に米国を抜いて、中国がGDPでトップに立っている
軍事費は、米国6340億ドルに対して、2400億ドルで世界2位、サウジ、ロシア650億ドルであり大きく隔たる
中国の台湾問題には、軍の投入も辞さない姿勢を懸命にしている
南沙諸島、南シナ海は危険は海と認識されている。水産物資源が集中しているからだ。
その問題は3つ
①南シナ海にうかぶ小さな地形はだれのものなのか
②南シナ海の海域は公海なのか、中国領の一部なのか
③EEZとは、航行を規制する権利があるのかないのか
マラッカ海峡を通過するリスクを中国も感じていて、それをマラッカ・ジレンマという
南シナ海には、石油天然ガスが眠っていると想定され、中国は高性能のリグで調査をしているが、米国と衝突している
中国は、イラク、クウェートと同様の1250億バレルを予想しちえるが、掘ってみないとわからない
中国にとって、コンテナ船は、鄭和の大船団以来、宝の船である
中国がグローバル経済と、世界貿易の地位を獲得できたのは、コンテナ船があってこそであった
米中対決は南シナ海でおきている、相互の駆逐艦が40mまで接近する事故がおきていて、以来、日豪、欧州諸国が加わった海のパトロールが続いていて、上空でも、米中の哨戒機が飛び交っている
加えて、台湾だ。米国の台湾への傾斜は、両者の戦略的対立を読んでいる
米中ともに、西太平洋からは退場しないため、危険海域は不安定になりつつある
一帯一路は、現代の絹の道、海の道である。中央アジアのエネルギー資源へのアクセスに関する高速道路の役割を担っている
また、中国北西部の安全保障に面でも重要である
一帯一路は、外側から見ると、中国の西進膨張であり、ユーラシア大陸橋と呼ばれている
■中東
サイクス・ピコ協定 列強のオスマントルコの分割
ケマルがトルコ領をアレッポの近くまで押し戻した
油田の発見、イラク等
エジプト ナセルは、サイクス・ピコ協定を破棄して、中東に新たな地図を描くという野望があったが、イスラエル戦争でついえた
中東の基軸は、サウジと、イランの戦い
湾岸戦争の真のねらいは、イラクがねらっている、サウジ、クウェートの石油権益を保護することであって、イラクを民主化することではない
アラブの春は、湾岸協力会議の各諸国に脅威をもたらした
サウジアラビアはイエメンを含めた出兵を行い、事態の鎮静に努めた
イランの革命防衛隊の目的は東地中海まで安全保障の領域を拡大する、だ
イスラエルは、沖合に巨大ガス田があるのを発見した(⇒ガザの紛争と直結)
サウジの石油価格政策に対して、米国は、イランの石油輸出一次解禁を含めた処置でゆすぶった。再度の禁止の際、イランは反発して、核武装にいたっている
2019年サウジ東部の石油精製説設備に火災が発生、当初は事故かと思われたが、ドローンと巡航ミサイルによる破壊攻撃だった。イエメンの過激派の行為とされたが、背後にはイランか、イラクのシーア派の地域からである疑いもあった。このことにより石油は急騰した。
サウジは中東の盟友であり、それは、聖地メッカの保有とともに、膨大な石油による収入を基礎にしている
石油価格が高いうちはよかったが、低迷をはじめてから収入は減少に転じ、世界の石油離れの可能性に直面している。
サウジをはじめ、湾岸協力会議諸国は、石油からの依存の脱却と経済の多様性、民間部門の成長などをめざしている
■自動車
電気自動車の登場は、石油産業に対する大きな脅威だ。石油需要の35%は、車によって占められている。
電気自動車のコア技術は、電池である、いかに効率のよい、電池を開発できるかにかかっている
電気自動車については、中国がその先頭を走っている
自動運転技術
段階的に自動運転化を図る方法、衝突回避、加速制御、などの要素を一つ一つ順番に導入していくというものだ
■気候
エネルギー転換による排出量の増加と、脱炭素
温室効果ガスの排出量は史上最高となっていて、いかに抑えるか、COP21にての調整が行われているが、先進国の現状維持に加えて、成長している国々の排出量の増加もあり調整が進んでいない
ゆえに、気候変動リスクは増大する一方だ
CO2の排出国は、中国、そして、米国で、全体の41%を占める
グリーンディール、緑の党などの運動が起きている
再生可能エネルギー、風力、太陽光、いずれも中国のウエイトが高い
現状を打開する技術、小型原子炉、炭素回収、水素
石炭の火力発電所は減少、新規はない(米国)
石油と天然ガスはプラの材料、こちらも減少している
結論
世界経済の規模は拡大しているが、多くの課題がある
グローバル化の潮流はナショナリズム、ポピュリズムの再燃で逆風にさらされている
今後、人工知能と、機械学習、自動化のイノベーションにより、全職種の仕事に変化が生じる
世界のサプライチェーンのネットワークは、変化を迫られている
エネルギーを支配しているのは、米国、ロシア、サウジの3国だ
気候をめぐる困難な課題で、緊張が高まり、分裂が進む国際秩序においては、国家間の衝突も備えることができる妨げである
エピローグ
水素を基軸においた循環型
風力や電気自動車に使用するレアアースは、95%が中国が占める
コバルト、ニッケル、リチウム、銅なども循環型経済に不可欠である。
4人の亡霊
鄭和 歴史的な権利
フーゴー・グロディウス 海洋の自由
アルフレッド・セイヤー・マハン 米中の軍拡競争
ノーマン・エンジェル 米中衝突のコスト
紹介されている書
・砕かれた平和 ヤーギン
・石油の世紀ー支配者たちの攻防 上下 ヤーギン
・市場対国家ー世界を作り変える歴史的攻防 ヤーギン共著
・キッシンジャー回想録中国 上下
目次
序論
第1部 米国の新しい地図
第1章 天然ガスを信じた男
第2章 シェールガスオイルの「発見」
第3章 製造業ルネサンス
第4章 天然ガスの新たな輸出国
第5章 閉鎖と解放 -メキシコとブラジル
第6章 パイプラインの戦い
第7章 シェール時代
第8章 地政学の再均衡
第2部 ロシアの地図
第9章 プーチンの大計画
第10章 天然ガスをめぐる機器
第11章 エネルギー安全保障をめぐる衝突
第12章 ウクライナと新たな制裁
第13章 経済的苦境と国家の役割
第14章 反発 -第2のパイプライン
第15章 東方シフト
第16章 ハートランド -中央アジアへの進出
第3部 中国の地図
第17章 G2
第18章 「危険海域」
第19章 南シナ海をめぐる3つの問い
第20章 「次の世代の知恵に解決を託す」
第21章 歴史の役割
第22章 南シナ海に眠る資源
第23章 中国の新たな宝の船
第24章 米中問題 -賢明さが試される
第25章 一帯一路
第4部 中東の地図
第26章 砂上の線
第27章 イラン革命
第28章 湾岸戦争
第29章 地域内の冷戦
第30章 イラクをめぐる戦い
第31章 対決の弧
第32章 「東地中海」の台頭
第33章 「答えはイスラムにある」 ーISISの誕生
第34章 オイルショック
第35章 改革への道 ―悩めるサウジアラビア
第36章 新型ウイルスの出現
第5部 自動車の地図
第37章 電気自動車
第38章 自動運転車
第39章 ライドヘイリング
第40章 新しい移動の形
第6部 気候の地図
第41章 エネルギー展開
第42章 グリーン・ディール
第43章 再生可能エネルギーの風景
第44章 現状を打開する技術
第45章 途上国の「エネルギー展開」
第46章 電源構成の変化
結論 -妨げられる未来
エピローグ -実質ゼロ
付録 ー南シナ海に潜む4人の亡霊
謝辞
用語一覧
ISBN:9784492444665
出版社:東洋経済新報社
判型:4-6
ページ数:600ページ
定価:3200円(本体)
2022年02月10日