宮本輝のレビュー一覧
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「夢見通り」という商店街に暮らすアクの強い人物を描いた群像劇仕立ての連作短編です。
第1章は、30歳で通信教育の仕事をしながら詩人になることを夢見る里見春太の物語です。彼は、美容師の光子にひそかな恋心をいだいているものの、歳のわりに純情な彼は、自分の想いを伝えることができません。その光子は、ヤクザあがりで女好きの噂のある肉屋の辰巳竜一に、拾ってしまった宝石箱の処分を依頼したことがきっかけで、少しずつ竜一に魅かれていくことになります。古川文房具店の一角でタバコ屋を営む、身寄りのない77歳の伊関トミは、立ち退きを求められて孤独をかみしめながらも、春太のやさしさに触れて、最後は死んでいきます。
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キーワードは「貧しさ」でしょうか。
本書の舞台は大阪道頓堀川。鈍く光る川面で生活する登場人物は、その誰しもが何かしらの「貧しさ」を抱えています。もちろん「貧しさ」とは、金銭的なそれに限りません。離散する宿命を抱えた武内は金銭的には余裕があるのに、とても貧しくみえる人物ではないでしょうか。そんな「貧しさ」を抱えた道頓堀川の住人のなかで、ヌードダンサーのさとみが邦彦の前で一心不乱に踊る姿がやけに印象に残っています。「私なんか、毎日、頭が変になってるわ」というさとみの言葉。この「貧しさ」が小説内に留まるものではなく、普遍的なものとして、いたく心に染み入ります。
ところで、まったく悲哀に満ちた作品なの -
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じっくりじっくり読んだ。飛騨の森は温かな結界がはられ、すべてを包み込んでくれる「海」だったのだ。人には、地上で生きていくものには森はかけがえのないものなのだなぁとしみじみと思った。森がそばにない私は山を欲し、通勤途中にある自然公園にときめくのだな。地上で生きる多くのものに森はかけがえのないものだのだ。
希美子さんが「木にも心がある」というようなことを言っているけれど、そのとおりなのだろうと思う。我が家のベランダの小さな鉢につめこまれた2本の木は、我が家の前にアスファルトに囲まれながら並んでいる大きな木は何を思っているのだろう。
ぬくぬくした室内でまどろみながら、この物語にひたれる幸せ~! -
Posted by ブクログ
欲しかった本の隣りにあり、タイトルと装丁に一目ぼれして購入。
阪神大震災が起きた時、私は小学生だった。東日本大震災もそうだと思うが、大きな大きな震災を目の当たりにし、大きく人生が変わっていく人が想像を絶するほど大勢いたのだろう。この物語の主人公の希美子さんもその一人。家族の形が変わり、住まいも奥飛騨へと変わる。そんな簡単なことではないとは思いつつも、奥飛騨の森に囲まれた山荘が生活の拠点になるなんて、なんて羨ましいのだろう!!傷ついた人たちがゆっくりゆっくり再生していくことがこの物語の神髄なのだろうけど、私は奥飛騨という場所で生活していくこと、森の描写にうっとりしてしまった。森は、木々は、たく