宮本輝のレビュー一覧
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戦後間もない頃の昭和、大阪という土地柄を色濃く感じました。
道頓堀川の濁りのように、一人一人の人生にも何かしらの濁りがある。道頓堀川界隈に暮らす人たちの人生の営みが描かれていました。
歓楽街の猥雑でがちゃがちゃした感じは、うるさいのになぜかホッとする部分もあり、読みながら一人一人が抱える“苦難”や“人生の営み”みたいなのものを感じて、しんみりした気分になりました。
個人的に、ちょっと性的な描写が多いなぁという気がしたけど、それも含めてこの作品の味わいになっている。
喫茶店店主の武内、武内の息子・政夫、住み込みで働く邦彦。また、彼らに関わりのある人たち。
他作品でも感じたけど、宮本輝さんの作 -
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宮本輝さんと言う作家はなぜこうも人間の生きていく悲しみを描いていくのだろう。
その文章が胸に沁み、浮かび上がる人間の優しさを感じながらもやっぱり読後感は淋しい。
泥の河
原作よりも映画を先に観ており、底辺に暮らす人とその底辺よりも少し上という感じの人々の思いやり優しさに感動したものだった。
原作を読んで映画の方は少し表現の仕方に違いがあると感じたが両者が私に与える心の震えは同じようなものだった。
水上生活者の喜一が信雄の家に招かれた時に誇らしげに軍歌「戦友」を歌う。
聞いた信男の父晋平が「うまい、ほんまにうまいなあ」と褒める。
なぜだろう、この文章を読んで私は涙が溢れ出た。
喜一の父親は戦争 -
Posted by ブクログ
ネタバレ宮本輝さんは最近気に入りつつある、丁寧語で統一された文体、丁寧で細やかな人たち
舞台はまた裏日本、暗い怪しい影のあるような雰囲気
ある女を追いかけてという筋だが、結局出会えないままに話が終わる。真相が明かされるのも探偵の結果ではなく1人の人間にたどり着いたためという。中々ない幕切ではなかろうか、その方がロマンチックでもありまたリアルでもある、切符1枚が記憶の拠り所なんて夢のある話
また話の途中でそれとはわからぬままに何度もすれ違っているという点も僕には新鮮でその不確かさなどにリアルな魅力を感じる
再読する
かしわぎでの最後の夜はないままの終焉でも良かったのではという印象もすこし。月光の東が -
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平成元年以来の20数年ぶりの再読です。
あることをきっかけに2005年以降、宮本輝さんを遠ざけていました。しかし元々は好きな作家の一人だったのです。私のHPで宮本輝を検索すると感想付きが数冊と感想無しが大量に出て来ます。感想付きは2000年以降に読んだ本、感想無しはそれ以前の所有本ですから、2000円年以前はかなり嵌って読んでいた作家さんだったことが判ります。
映画化されているのでご存知の方が多いはずですが競走馬の物語。
賭け事には興味がなく競馬を知らない私でも引き込まれるのは、これが愛憎とか宿命とかが絡む人間の物語だからでしょう。良くある優しいばかり、登場人物が全て善人の物語ではありません -
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読書力養成読書、11冊目。
なんだろう、この、読むにつれて少しずつ少しずつ、じわじわと心に染み込んでくる、コクとうまみ。
始めはあまり好みじゃないかもと思いながら読んでいたのが、いつの間にか抜け出せなくなっていて、気がつけば懸命に生きる主人公に喝采を送っていた……。こういうのって、もしかしたら、これこそが、優れた文学作品というものなのではないかと思いました。
主人公の井領哲之は大学留年中。死んだ父が残した借金のために、母と別れて大阪の大東市にあるアパートに住んでいます。この物語は、このアパートで過ごした哲之の1年間を描いています。
哲之は、やくざの取り立てに怯えながら、恋人陽