宮本輝のレビュー一覧
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主人公の聖司が日本の伝統発酵食品をまとめる本を作る中で色々な人や物や考えに出会う話。
話の中で、その時は最悪だなと思う事が後々いい事に繋がるという場面がいくつかあった。今の自分の立場はどちらかと言うと悪いと思うが、それが後々プラスになったらいいなあと思った。
物語の中に登場する発酵食品は、どれも作り出すのに年単位の時間がかかる物だった。いい物を作り出すのには、とても時間がかかる物だと実感したし、それは人間も同じじゃないかと思った。効率的にやる事は重要だが、コツコツ時間をかけて発酵食品のようにじっくり仕上げて行くのも同じく大事だと思う。
最後に、今回も登場人物や土地の描写がとても良かった。新宮の海辺で日向ぼっこしたくなったし、甲陽園の坂にも行ってみたくなった。
2022年3月 -
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ネタバレ未読だと思って久しぶりに宮本輝作品を手に取ったら、2015年に既に読んでいたようだ。
軽井沢の別荘番の息子として生まれた久保修平は、別荘の持主である布施家に対する羨望と憎悪から、その心の裡に次第に狂気を育てていく。“姉妹の麦わら帽子は、卑下と憎悪のふたつの感情をぼくにもたらせてきた。(p.56)” 布施金次郎と、自らの母・姉との間の淫靡な関係を知った彼は遂に、布施金次郎を殺すことを決心する…
まさに愛憎劇と呼びたくなる、官能的で、怪しい物語。17歳の修平の、視野狭窄さ、自分の思い込みに徐々に囚われていく様が恐ろしい。軽井沢に立ち込める「霧」も、舞台装置として非常に効果的に働いているように感じた。“霧が出てくると、頭痛が始まり、体中の力が抜け、口をきく気力すら失うのだった。(略)すべての人間の中にひそんでいる魔…。外にあるものではなく、内に宿している魔に活力を与える媒体は、ぼくにとっては、あの軽井沢の霧であった。(p.47)”
避暑地の「猫」というのが何を意味しているのか結局よく分からなかったが、ポーの『黒猫』のような、魔性の象徴ということだろうか? -
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「善き人たちのつながり」
あとがきにあるこの言葉につきる物語でした。
余りにも良いことばかり?なので、どこかに落とし穴が?とうがった読み方をしていた自分を反省…
少しも後ろめたいことをしたくないという気持ち、その思いに正しく生きていきたいという気持ちは、自分が生きる上で大切にしたい事と一緒だなと思った。
とはいえ、実際にそこまで正しく真っ直ぐにはできていないから、ついついうがった読み方をしてしまったのだろうな。
更年期、今までの自分、これからの自分を考える主人公には共感できる部分もありつつ、やはり、男性が描く女性という気も。可愛らしすぎて、嫉妬を感じてしまっただけかなぁ…いや、実際、幸運に恵まれて、また新しい世界に飛び込むことになった、主人公は羨ましい限り。
歳をとっても、希望の持てる物語でした。
夫や、周りの人たちの深みに改めて気づくシーンがあったけれど、本当にそうだなと。他者への尊敬の念と、善く生きるということを改めて考えるきっかけになった。
あと、京都に行きたくなります… -
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ネタバレなんでしょう、これは。
読者アンケートの結果が悪くて、連載を打ち切りになったのでしょうか。
上巻は、ちょっと上手くいきすぎな感はあったけれども、震災から立ち直るための居場所づくり(主人公である希美子や、彼女が引き取った少女たちの)は地に足がついたものだった。
親の愛情に恵まれなくて、自分勝手だったり、気が短くて飽きっぽかったりした少女たちを、仕事を与えることで生活習慣や一般常識を多少とはいえ身につけさせた。
しかし下巻にきてその流れは失速。
希美子に山荘を遺した老女の人生の謎を追う方が主眼になっていて、10人もの少女を預かっているのに、その書き分けもほとんどできていない。
実の息子二人はもっと影が薄い。
小学生の息子と、未成年の少女たちを預かっておきながら、下関に行ったり吉野に行ったり。
その間家の様子を気にかける風もない。
そして、これが作者は書きたかったのだろうけれど、戦後、日本の教育の不毛のせいで、古き良き日本が失われてしまったこと。
それを取り返すには教育を変えねばならないことが、これでもかと主張される。
その説に全くの反対ではないけれど、登場人物たちがあまりにも声高に主張すると、こちらとしては引いてしまう。
結果、阪神大震災はただのネタ振りとなり、希美子の家族は単なる賑やかしとなってしまった。
だって少女たちが成長するところを書いていないんだもの。
数々の伏線が回収されないまま放置
上巻が面白かっただけに、残念でならない。 -
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恥ずかしながら、私は社会人になるまで生活で苦労することは一度もなかった。
哲之の母が、幸せだと思いながら眠りたいと願う場面で思い出すが、私は実家で両親家族に守られて幸せだと感じて眠る毎日を送っていた。
私はたった4年間だが、親元を離れ海外で働き、守ってくれる者などいない生活を送った。
住んでいた家は天井がぼろぼろと剥がれてヒビが入り穴が開き、湯船はなくトイレとシャワーが一緒になった浴室があり、お湯が出ないことも多々あり真冬も水を浴びていたこともあった。
ベッドも古く中の骨が折れており、寝心地がいいとは言えない。南国だったが冷房は古過ぎて効かず、電気代が高いため稼働は1時間のみ。職場は違法労働が当たり前。毎日7:15-17:30が定時で休憩なしの肉体労働。残業はほぼ毎日。22時退勤の日もあった。
ぬくぬく育ってきたお嬢様は、そんな生活が過酷であった。意気揚々と日本を出たにも関わらず尻尾を巻いて帰って来たとは思われたくない、自分で選んだ道に後悔したくないと意地を張り、日本の友人には苦労を隠して成果だけを報告していた。
日本に帰国してからまた実家のベッドに入って毎晩眠っている。
最初は、こんなにも楽をしていいのか幸せを感じてバチが当たらないかと恐怖を感じ、眠れない日々を送った。
しかし今はどうだろう。また幸せだと感じながら眠っている。慣れとは恐ろしい。
親に感謝するのと同時に、家族は人生で一度も苦労をした事がないと気付き、血が繋がり一生味方でいてくれると分かっている人たちである家族であっても、私の考えや経験を同じように知ることはできない。
気付いた時には孤独感があった。
ラング夫婦が息子に犯したこと、息子からの復讐。
陽子の父が哲之に注ぐ偏見の眼差し。
哲之も陽子をいつか束縛してしまうのではないかと自らを疑う場面。
どれも私の人生で感じたことのある感情や環境であった。
誰しも生死を共にして生き、「欲」が束縛を生み、人を幸福にも不幸にもする。それを知っている人に、この本は刺さる。
哲之が幸せになろうと力強く生きていく姿と、キンちゃんが釘打ちにされても生きようとする姿は、そんな人に生きるエネルギーを与えてくれただろう。 -
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ネタバレ流転の海シリーズを読んだあとなので、どうにもリアリティのなさが気になる。
いきなり酔った勢いで初対面の女性たちと同居を決めるかね。
新築のマンションに。
さっさと荷物を搬入するなんて、怪しさしかない。
そして、借金をしてまで行う善行というのは、どこか違うと思う。
そりゃあ医者になれればいいだろうけれど、本人は無職で勉強だけして、生活費や学費のすべてを同居の3人が借金してまかなうというのは、いかにも無理。
結局いろいろ破綻するし。
親の生命保険を解約してまでお金を要してもらった挙句、彼女からお金を返してもらおうとは思わないって、バカなの?
彼女だって大人なんだから、借りた金はきちんと返してこそ、次に進めるってもんじゃないの?
それから、好きな人ができた後も、結婚するまではベッドを共にする。
それが誠意って、誰に対しても誠実じゃないじゃん。
10代の若いカップルの行動は、若いからなあ…と納得もできるけど、主たる4人の行動が最初から最後まで納得できませんでした。 -
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映画を見終わったような読後感の一冊です。
アメリカに住んでいた叔母・菊枝が日本旅行中に亡くなり、突如莫大な遺産を相続することになった小畑弦矢。
諸々の手続の為、ロサンゼルスにある叔母の家に向かいますが、そこで27年前に死んだと聞かされていた叔母の娘・レイラが行方不明だと知らされます。
レイラは生きているのでしょうか?そして生きているとしたら何処に?そもそも何故、死んだとされていたのでしょうか・・?弦矢は探偵のニコと共に謎の解明に乗り出します。
・・と、あらすじだけ見るとミステリのようで勿論その要素もあるのですが(“探偵”も登場しますしね)、描かれているのが宮本さんだけに、やはり“ヒューマンドラマ”が軸となっている印象です。
主人公の弦矢は、アメリカの大学院でMBAとCPAを取得していて、英語はペラペラ、計算もスラスラの秀才なのですが、すごく気さくないい奴です。
一緒にレイラの謎を追う探偵のニコも、ちょっとクセはありますが頼りになるオジサンで、この二人の関係性も心地よいですね。
レイラの謎の真相は結構深刻で、これを27年間抱えてきたかと思うと壮絶なものがあります。
でも、物語としてそんなに重さを感じさせないのは、弦矢の人柄や、菊枝叔母さんの庭の花々の美しさ、そしてストックされていた菊枝さん手作りのスープの美味しそうな描写が癒してくれるからかな、と思います。どちらも丹精込めて作られたもので、それらを弦矢が受け継いでいく・・そんな未来が見える終わり方が素敵ですね。
そして、本書の舞台となっている、ロスの高級住宅街・ランチョ・パロス・ヴァーデスを一度訪れてみたくなりました。 -
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2000年作品。上巻の感想でも触れましたが、著者の作品は、よく読んでいます。芥川書作家、芥川賞審査委員という経歴とは想像できないウィットに富んだ会話や優しい関西弁に親しみを感じております。著者の作品には、いつも「宿命」と言うものが扱われます。その宿命に抗い生きる主人公たちの姿に私はいつも共感します。そして人間が「魔が刺す」という事。この作品も、この2点が出てきます。上巻を読んで、少しサスペンス仕立てのところに珍しいなあと感じたのですが、なるほどなあと唸りました。それから、やっぱり文章が綺麗ですねえ。また、読み返す時があるかもしれません。わたしにとって、著者の作品にはハズレはないです。蛇足ですが、最近の作品には少々説教じみたところが感じられるような気がします、私的な感じですが。