宮本輝のレビュー一覧
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2000年作品。上巻の感想でも触れましたが、著者の作品は、よく読んでいます。芥川書作家、芥川賞審査委員という経歴とは想像できないウィットに富んだ会話や優しい関西弁に親しみを感じております。著者の作品には、いつも「宿命」と言うものが扱われます。その宿命に抗い生きる主人公たちの姿に私はいつも共感します。そして人間が「魔が刺す」という事。この作品も、この2点が出てきます。上巻を読んで、少しサスペンス仕立てのところに珍しいなあと感じたのですが、なるほどなあと唸りました。それから、やっぱり文章が綺麗ですねえ。また、読み返す時があるかもしれません。わたしにとって、著者の作品にはハズレはないです。蛇足ですが
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何と言っても装丁TAKORASU「植木街」
何かが届きました。
響きました。
落としどころもよかった。
ラスト皆が骸骨ビルに。
36枚の絵と80ページノートのコピー。
パパちゃん、テッちゃん=阿部轍正
亡くなってからの物語
茂木のおじちゃん=茂木泰造
骸骨ビルで育てられた戦災孤児の面々。
チャッピー
ヒデトくん
ナナちゃん
サクラちゃん
トシ坊
夏美
ヨネスケ
幸ちゃん
マコちゃん
峰ちゃん
ヤギショウ
比呂子ねえちゃんの『みなと食堂』
『エデンの仔猫』『和楽之湯』
料理、本、能
『史記』読みたくなり、漢詩についても。
宮本輝ミュージアムの『骸骨ビルの庭 登場人物紹介』
何度もみて、 -
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ネタバレ老いらくの恋ではなかったのか。
一時の気の迷いで家族と距離を置かれてしまう、67歳松坂熊吾。
それはそれで切ないなあ。
仕事も、他人の世話を焼いているうちはいいのだが、自分の商売となるといつも足元をすくわれて左前になってしまう。
愚かだと言えば愚かだ。
毎度同じ過ちを繰り返す。
それが性分だとしても、学習しなさすぎる。
ただ、この時代の男として松坂熊吾が卓越しているのは、家族の危機には必ずその場に立ち会っていることだ。
身体が弱くて何故か怪我しがちな伸仁の、命にかかわるとき。
学校で伸仁が教師に理不尽な目にあわされていた時。
熊吾は頼れる父としてその場に居合わせた。
今回は房江。自らが蒔 -
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ネタバレ何度同じ失敗をするのか、熊吾は。
太っ腹で人情家でもあるけれど、最後の詰めがいつも甘い。
若いうちはまだやり直しもできた。
だけどもう65歳。
体力も、残り時間も、そんなに残されていないのだ。
伸仁のために生きる、と決めていたんじゃないの?
なのに、糖尿病についても、すぐ油断する。
房江もそうだ。
通信教育でペン字を最後まで習いきったのはえらいと思うが、家族に隠れて飲む酒がどうしてもやめられない。
あんなに伸仁が嫌がって、酒をやめてほしがっているのを知っているのに。
だけど、房江は麻衣子と交流を深めることで、新しい道が開けていくような気がする。
心を開いて話ができる人がいるというのは、 -
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ネタバレこの巻では松坂家の周囲で何人もの人が亡くなった。
また、蘭月ビルで伸仁と仲良くしていた敏夫と光子の兄妹が、母の再婚相手と一緒に北朝鮮へ行くことになった。
幾つもの別れがあったせいか、全体的に『静』な印象が強い。
熊吾自身は管理人生活は期間限定ということもあって、早く中古車販売の仕事にめどをつけたいのだが、住込みで駐車場の管理人をやっている以上、時間のやりくりが難しい。
いつも分不相応な規模の事業計画を立てる熊吾に対し、身の丈に合った事業からスタートすればいいと思う房江。
今回は房江の言うことを聞いて、小さな中古車販売店からスタートしたのだが、それでも2足のわらじは大変だ。
加えて、どうも熊 -
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ネタバレ富山での生活に見切りをつけ、大阪に戻ってきた熊吾一家。
しかし、信頼していた部下に金を持ち逃げされた事実は、熊吾の信頼までも失うことになり、夫婦は水道も電気も通っていない空きビルに暮らし、伸仁は熊吾の妹の家で両親と離れて暮らすことになった。
この、伸仁が暮らす蘭月ビルという2階建ての集合住宅が、今回のメイン舞台と言っていい。
ひと癖もふた癖もあるような住民が暮らす貧乏長屋は、伸仁の格好の遊び場であり、そこの複雑な人間関係は、伸仁の心の成長になにがしかの影響を与えたと思う。
そこに南北にわかれた朝鮮の人たちの思惑があり、一言を言い間違えれば命の危機が訪れるような緊迫感がある。
資金のすべてを -
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ネタバレ大阪での仕事に行き詰まり、心機一転富山で出直そうとする熊吾。
しかし、実際に富山に行ってみると、共同経営者の優柔不断さが気に入らず、妻子を残したまま一人大阪に戻ってしまう。
確かに事業を興すにはある程度の思い切りの良さが必要なのだろうが、ここにきて熊吾は運から見放されたかのように、やることなすことが上手くいかない。
人と金とのタイミングがことごとくずれている。
占い師の態度といい、なんだかこのまま坂を転げ落ちていくような不安に襲われてしまう。
ただ、困窮しているとはいえ、寿司屋で寿司を食べ、タクシーを使い、困っている人には金を渡してしまう。
遂に房江は自分の着物と指輪を質に入れるまでになる -
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ネタバレ著者の初期を代表する「川三部作」の三作目。昭和42年、高度成長真っ只中の大阪道頓堀川が舞台。両親を亡くした大学生安岡邦彦は、喫茶店リバーで住み込みで働きながら大学に通っている。リバーのマスター武内鉄夫は、かつて玉突きに命を賭けていたが足を洗い、息子の政夫が玉突きにのめり込んでいるのを快く思っていない。玉突きで生計を立てていきたい政夫はかつて伝説の玉突き師だった父親に勝負を挑む。
「泥の河」では小学生、「螢川」では中学生の視点から世の中を見つめていたが、「道頓堀川」では主人公が大人で人生の悲喜こもごもの当事者になっている。
邦彦は大都市に暮らす人々をどこか覚めた目で見つめている。就職先を決める