宮本輝のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ関西中古車事業連合会を再興し板金塗装会社を東尾に売り渡して大阪中古車センターの商売に専念しようとしたが、東尾の商売の失敗による失踪でまたもや窮地に立たされる熊吾。
さらに森井博美との愛人関係を断ち切れぬまま房子にばれてしまい、自暴自棄になった房子は自殺未遂を図る。
これまで幾多の幸不幸、喜び悲しみが繰り広げられてきたが第八巻にして最悪の展開に。しかしそんな中でも伸仁はしっかり自我を確立したくましく成長し、房江は本来の自分を取り戻す。熊吾は反省しながらも相変わらず自分の生き方を貫く。
いよいよ最終巻を迎える物語。明るい結末を願いたい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ第三部に入っても、面白さの勢いは止まらない。
なんでだろうなあ。
松坂熊吾の波瀾万丈の人生は確かにおもしろいけれど、ではジェットコースター小説なのかというと、そういうわけでもない。
プロットに落とし込まれた伏線が…というのでもない。
松坂熊吾という人物は確かにおもしろい人物だけれど、キャラクター小説ではない。
短気ゆえの失敗ばかり繰り返すから、成長物語というわけでもない。
だけど、一度読み始めると、読み止めるのが本当に難しい。
なににそんなに引きつけられるのだろうなあ。
大きなストーリーのうねりに身をまかせながら、熊吾の生き様を眺めているのが心地よい。
第一部や第二部に比べて、熊吾の暴力が格段に減ったのは嬉しい。
そして、病弱だった伸仁が、いや今でも弱いけど、意外とはしっこいやんちゃ坊主に育ったのも楽しい。
熊吾は小学校低学年の伸仁に麻雀を教えたり、競馬を教えたり、キャバレーに連れていったりと、親としては相当破天荒なことをしてのけるけれど、嘘をついたり弱いものをいじめたりなどをさせないことは徹底している。
熊吾60歳。
南宇和から大阪に戻ってきて始めた商売は、大成功したと思えば大打撃を受け、結局巻の最後は中華料理屋と雀荘ときんつば屋と立ち食いカレーうどんやの親父。
少し舞台が小さくなったような気がするが、年のせいか?
それともこれからまた巻き返すのか?
小説を読む楽しみを、存分に味わえた一冊。
子どもの頃の読書はいつもこんな感じだったよなあ。 -
Posted by ブクログ
第9巻が発刊され全編完結と聞き数年ぶりに再読し始めたが、複雑な人間関係がわからないのであらためて最初から読み直すことにした。
終戦後、裸一貫になり自動車部品販売で再起を図る松坂熊吾。五十歳にして子供の伸仁を授かり、妻の房江と共に家族を守り抜いていこうとする長い長い物語。
熊後は、最初は粗暴で野卑な人物という印象であったが、読み進むにつれ人情熱く懐の深い男として魅力あふれる人間となり、また不幸な生い立ちを持つ妻の房江も芯の強い女性ということがわかる。
第1巻は熊吾が闇市から立ち上がり、辻堂という青年を右腕にして進駐軍物資の横流しで事業の再興を図り動き始める。知人や部下に裏切られたりするなかで割烹を取り仕切る房江と出会い一人息子の伸仁を授かるまでの過去の成り行きなどを知ることができる。
最後は軟弱に生まれた伸仁の成長のためにすべてを捨てて熊吾の故郷である南宇和へ帰るまで。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ【「自伝に戻って来た?小説」、遂に完結!】
宮本輝「野の春(流転の海 第九部)」新潮文庫
宮本輝が34歳で書き始めた「自伝的小説」が、物語を進めるに従ってだんだん「自伝」を離れていった、と作者本人が振り返る作品である。2018年に発刊された単行本の文庫版が今月売り出されたのて、文庫しか読まない僕もようやく手にした。
最終巻にふさわしく主な登場人物が一通り現れ、主人公松坂熊吾はそれまでやって来た複数の事業を整理し、妻・房江はホテル・多幸クラブの食堂での仕事を軌道に載せる。ひとり息子・伸仁が二十歳を越え、五十で彼を持った熊吾なりに責任を果たしたという思いに浸るが、(僕にとっては)まさかの結末を迎える。
「自伝からどんどん離れていった」はずの小説だったが、熊吾の長い語りや、病院のやたらと詳しい描写(僕には作者の批判とも読めるくらい詳しい)など、作者の本当の想いや気魄が相当こもっている気がした。その意味でこの物語は、最終巻にして「自伝に舞い戻って来た」感じさえするのである。
戦後すぐから万博直前にかけての大阪の街の細かい描写、そして物語の最後でようやく僕が幼稚園に入るかな?という時代背景(「駅前第一ビルと第二ビルがもうすぐ建ち始める」んやそうです)なども含め、9巻通して僕には忘れ難い作品になった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ五十歳をすぎてようやく授かったわが子は非常に身体が弱かったので、大阪での事業を処分して、故郷愛媛の南宇和に戻った熊吾。
それから2年、伸仁は健康になり、妻の房江もまた田舎の生活になじんでいるようで、このまま南宇和で生涯を過ごしてもいいと思いはじめる熊吾。
しかし、そこに現われたのが、子ども時代の熊吾との相撲のせいで片足に一生残る障害を負った「わうどうの伊佐男」だ。
特別に残虐な極道となった伊佐男の執拗な嫌がらせに、不穏な空気が全編に渡って漂う今作は、しかしなかなか読みごたえのあるものだった。
一年の間に熊吾の周辺にいくつもの死が訪れる。
それは悪いことが起きる予兆のようでもあり、運命の動く転換点のようでもある。
主人公である熊吾は、器が大きく、先見の明があり、情に篤い人間であるが、反面、短気で暴力的な面もあり、一言では言えない複雑な人物造形はとても魅力的である。
第一部で、学のないのがコンプレックスと言っていたが、その割には古典や漢文の造詣も深い。
今は、一人息子の伸仁を無事に成人させることが生きる目標となっている。
南宇和では人々は貧しく、狭い人間社会の中で、息苦しかったり足を引っ張りあったりもするが、最終的には助け合わねば生きて行けないのだ。
熊吾はそれを踏まえながら、故郷の人々に金を貸し、力を貸し、知恵を貸す。
そのことがまた、新たな物語を創り出していく。
いろんなことにけじめをつけて、時間は熊吾がまた大阪に戻ってくる。
波瀾万丈な物語はまだ続く。
仏教では法華経以外の経では、二乗とと女人も成仏を説かなかったのだそうだ。
女人はさておき、二乗とはインテリのこと。
なぜ二条は成仏できないのかについての熊吾の見解。
”インテリは、他人のことに無関心なやつが多い。他人のために自分の心を傾けたり、他人の苦労を思いやって、何かを行動するっちゅうことがない。いっつも傍観者で、そのくせ屁理屈を並べて、自分よりも知識のない人間を腹の底では見下しちょる。まあ、つまりエゴの塊みたいで、そういう手合いは成仏できんちゅうんじゃ。”
最近はインテリじゃなくてもそういう手合いはいるなあ、と思った次第。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ敗戦2年目の大阪を舞台に、戦前の事業や財産を取り戻そうとする松坂熊吾の物語。
とはいえシリーズの第一部であるのに、熊吾は既に50歳。
今後は徐々に息子の伸仁の話にシフトしていくのだろうけれど、とりあえず今はまだ赤んぼなので。
豪快で男気があって人を見る目に長けている熊吾だが、短気で嫉妬深く暴力に訴えるところが欠点。
身近にいるとちょっと厄介かもしれないけれど、読者としていうならばとても魅力的。
疎開していた故郷の宇和島から大阪に戻ってみれば、自社ビルには闇市が入り込み、勝手に商売をしている。
まずそれらを立ち退かせ、商売の糸口をつけなければならない。
昔世話をした人に裏切られたりしながらも事業は成功するのだが、ようやく生まれた息子が虚弱で、結局再び宇和島に戻ることになるところまで。
しかし過去の出来事や生い立ち、家族のあれこれなどを絡めながら語れる物語は、複雑でありながらも読みやすい。
っていうか、すこぶる面白い。
「このままで終わると思うなよ」と思いながら本を閉じた。←誰に喧嘩を売っているのか(笑) -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・夢見通り
・燕の巣
・時計屋の息子
・肉の鏡
・十八回目の逃亡
・宝石箱の中
・帰り道
・白い垢
・波まくら
・洞窟の火
大阪の下町(っていうの?)にある、夢見通り商店街に住む人々が織りなす人間模様。
ちょっぴりビターが濃い目だけど、人々は鬱屈を抱えながらも強かに、あっけらかんと生きている。
子どものころから盗みグセがあり、一度も万引の現場を取り抑えられたことのない時計屋の息子。
貯めた金で駆け落ちをするが、妊婦の彼女を養う術は、高校生の彼にはなくて…。
性と暴力の衝動を抑えることができず、学生のころから問題行動ばかり起していた元ヤクザの肉屋の兄弟。
心を入れ替えて真面目に働いていても、近所の人たちの見る目は変わらない。
刺青を消そうと決心した理由は…。
特に秀逸なのが、かまぼこ屋の2階に住んでいる里見春太。
通信教育の営業をしながら、詩集を出版することを夢見ている。
誰から褒められることもない詩だけれど、平易な言葉にどれだけ心を込められるかを考え続ける。
真面目で、不器用で、間が悪くて、いつも報われない。
だけど彼を見ていると、どういうわけか人生それほど悪いものじゃないなあと思えてくる。
幸せなんて簡単な言葉では言い表せない、何とも言えないぬくもりがこの町にはある。
ヒリヒリとした痛みももれなくついてくるけれど。 -
Posted by ブクログ
ただでさえ同居人(+犬)の多い城田家にハンガリー人のボラージュがやってきて…留学の3年間の出来事は、よくありそうな家族のエピソード。派手さは何にもない。でも心に染み渡るようなほろっとした感覚。
個人的には福造のセリフにくすっと笑わせられるものが多かった。おもろいじいちゃん。
どんなにゴールが近くても「よし、これからだ」と気を引き締める。これは大事にしていきたいと思った。それと、悪い気持ちを胸に石を掲げ叩きなくすという考え方。教訓めいたものもすんなり入ってきた。
家族写真、撮りたくなったなあ。
35年も前の話なんだけど、今読んでも面白かったよ。