宮本輝のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
宮本輝さん、初読みです。
穏やかで良質な小説を読んだなという感じがした一冊でした。家族間で晩餐会を開くということに驚きましたが、他は衝撃的な出来事が特に起きないのが、かえって新鮮でした。
叔母夫婦が留守の間、中国の四合院作りの家のうちの一棟、倒座房に住むことになった綾乃。彼女の祖母を中心とした物語でした。
その祖母が90歳の記念に晩餐会を開くことになり、その準備を手伝うことで綾乃が祖母の教え子と出会い、祖母の教師としての一面を知ることになります。そして語られた過去で祖母の生きてきた歴史を知ります。
この祖母の徳子おばあちゃんが、凛として気遣いもぬかりなく、とてもすてきな人でした。戦争を経て、自分の生き方を見つけた後に邁進した姿の結果が、この晩餐会に現れていました。そしてこの家族の一人一人がとても魅力的な人たちでした。特に弟の春明は憎めない人でした。
晩餐会は徳子おばあちゃんの一世一代の催し物で、その本格的なことに驚きました。どれもが一流で豪華でした。特に料理は味わえないようなものだったので、興味津々でした。
『よき時を思う』というと、過去の思い出かと思いましたが、そうではありませんでした。今このとき、そして未来へとよき時が起きてくると感じさせてくれた小説でした。そしてこの先が気になり、まだ読んでいたいと思わせるところが、宮本輝さんのすごいところなのかもと思いました。
-
Posted by ブクログ
宮本輝の流転の海シリーズ第四部。
時は昭和20年年代末、大阪の事業に失敗した主人公は再起をかけて人づてに家族と北陸に移る。が、そこでも物事は順調とはいかず、妻子を置いて大阪へ戻る。慣れない土地に残された妻子は、水が合わない場所での生活に四苦八苦する。
「子供からおとなへと急速に移行していく際、人相や体型だけでなく、精神も型崩れを起こす。肉体は放っておいても成長するが、精神の型崩れには手当てが必要だ」
「おとなになるっちゅうのは、自分の胸に秘めちょくことが増えるっちゅうことでもあるんじゃ」
「ひとりの人間の心の領域というのは、じつに広大なものです。氷山の一角という言い方がありますが、海面 に出ている氷山は、海底に沈んでいる氷山の数百分の一に過ぎないのと同じように、自分なり他人なりが見える心の部分はその氷山の一角よりもさらに何倍も小さいのです。隠されている部分がいかに大きいかを人間は自分で知ることさえできません」
子どもを持つ身と、こころに深く刺さるセリフが多い。 -
Posted by ブクログ
灯台は近づくよりも、ある程度距離を保って観る方が良い。それは家族など身近な人々も同様かもしれず、日常生活で見えなくなってしまっているそれぞれの想いや価値観など、実は非日常に身を置いて語り合うことで見えてくる部分があるものだ。
房総、伊勢志摩、青森、そして出雲と子どもたちや親友の隠し子といった相手と巡りながら、亡き妻の残した灯台に関する謎が解き明かされていく。灯台は海側を遠くまで照らすことが役割であり、足元や陸側は思いの外暗いものだ。実際に灯台に近づくプロセスで怪我をしたり、その距離感を測っていく流れが主人公の人間関係のメタファーとして機能している。
板橋区の仲宿商店街という馴染みある地元が舞台であり、また各地の灯台を巡る旅先いくつか行ったことのある場所なので、親近感を持って読み進められた。一方で各人のセリフは説明口調が多くて難解に感じられるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
宮本輝の流転の海シリーズの第三部。
戦後の復興期の昭和20年代の大阪。愛媛の田舎を離れ事業を起こそうとする中年男性家族のフィクション。全てが順調な人などおらず、何かしらの負い目、十字架を背負っている登場人物たちが織りなす含蓄ある台詞の数々。
「人間というのは、つまるところ、矛盾だらけの奇っ怪な心にひきずり廻されるものなのだ」
「人間、転げ落ちだしたら、あっとういまや。俺らは、そんなやつらを食い物にする稼業なんや」
「俺は物事をいつでめ中途で投げ出すという性癖ぎある(中略)子供が、おもちゃに飽きるように、積み上げてきた積み木を崩して、別の物へと走って行く…」皆が貧しかった時代ながらも何とか前を向いて生きようとするエネルギーを節々に感じる物語。 -
Posted by ブクログ
宮本輝さん著「灯台からの響き」
著者の作品は数十年前に「優駿」「青が散る」は読んだ事があるが最近は全く読んでいなかった。
最新作の「潮音」は複数巻の作品で久し振りに読むのには重いと感じ、比較的最近の読み易そうなこちらの作品を選んでみた。
物語は読書家である主人公康平の未読の本「神の歴史」の中に一枚のハガキが挟まっている所から始まる。何十年も前に妻に届いた際、何も知らないと言った灯台がイラストされたらハガキ。その妻は2年前に病気で亡くなってしまっている。
何故このハガキを亡き妻はこの本の中に挟んだのだろうか?
重たくはないが先が気になるミステリー風なタッチで描かれていく物語だった。
その灯台の謎を求めながら主人公康平は妻が亡くなってしまってから止めていた時間を徐々に動かし出す。
とにかく構成が見事だった。
家族というサブテーマを遠くから灯台の灯りでスポットを当てながらの進行に感じられた。
弱冠オチが弱く感じられたがそれは道中が素晴らしかったから感じてしまったものの気がする。事件らしい事件も起きないがそれが日常の暮らしの中で営まれるもののような気がしてリアルさが引き立っていた。
そして舞台である板橋区中宿商店街。
自分の経営する居酒屋もそこから数分の大山商店街に隣接するところのため、凄く親近感が募る。良く知ってる場所、土地が出てくる度にイメージが鮮明に描けるため自分には凄く馴染み易かった。
本当に久し振りの宮本作品。
昔読んだ作品の再読も含め「錦繡」等の未読の名作も読んでいこうと思っている。