宮本輝のレビュー一覧
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何とまあ、あっさりと。。。
最後まで、、最後の最後まで、人間は人間のまま、ちょっとしたことで過ちをする。
熊吾の伸仁への言葉。何の意図から出てきたのか。よくわからん。
房江も伸仁も、何故あんな親父を再び受け入れることができたのか。
訳がわからぬ。
ただ、この長い小説は、色んな局面の光(時代、人、天災、裏切、病気、色欲)に照らされて浮かび上がる様々な熊吾の反射を描くことで、熊吾という人間がどういう人なのかを知っていくものなのかも知れない。
前巻で、女房を殴る根拠が明かされ、そしてこの巻では、人を助けることや実は頑固さがないことなどが描かれ。。
今の自分にはそんなところしか、味わえない。
何故青 -
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ネタバレ何とも言えぬ。何をしてるのやら。
時代のせいにして、運のせいにして。
偶然のせいにして。
何に出会うか、何が起こるかは、時代や偶然、周りの環境、出会う人々、自分の特質により大きく変わるが、最終的に何を選ぶのかは自分の意思。
腋の甘さ。
房江回復と自分の本質の出現。落ちていく熊吾。
未だ許してもらえると思っていた熊吾のアホさ加減。
最後のシーンで骨身に沁みたようだが、果たして次の最終巻ではどうなるのか。。
伸仁はどうこの事態を捉えたのか。その内面の動きは読み取れず。
どこに向かうのか、どこに辿り着くのか。今また、混沌に放り出された感覚。
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読み終わったあと、なんとも豊かな幸福感に包まれました。
とくに徳子さんと玉木シェフの関係。
教師時代の教え子だった玉木少年は、幼くして両親が離婚し、母についたものの、その再婚相手から「お前はいらん」と目の前で言われ、祖父母に育てられる。
さらに少年は重度の吃音で、どれほどの思いで生きてきたのだろうと思わせる。
徳子さんは玉木少年はが中学を卒業すると、住み込みで仕事ができる京都のレストランへ世話をする。その際、法華経に登場する妙音菩薩が吃音でありながら、釈迦の教えを広めたことを紹介。それを御伽噺ではなく、身をもって読んだいきなさいと励ます。料理の世界で刻苦勉励し、やがてはフランス、エリゼ宮のスー -
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なんとも言えない。簡単な成長物語としてのビルドゥングスロマンではなし、時代小説のようなものでもなし、ましてやエンターテイメントでもなし。人間が剥き出しに描かれている様に感じるものの、良いとか悪いとか、主題が何か、今の自分には判然としない。
紆余曲折、毀誉褒貶の人間模様。人間の多様面と厚さ、深さ、複雑怪奇さを感じる。人間の矛盾、弱さ、汚さ、儚さと、苛烈さ、酷薄さと、強さ優しさ、潔さと。美と醜が渾然一体となって、混沌のままに呈示される。どちらも人間の本質なのか。
正に海。掴めない。
ただ、その中でも、幼子を前にした父親を人間として見る感じる描写は、自身の父親もそうであったかもと思わせてくれて少 -
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戦後間もない頃(高度成長期くらいか)の阪神地区(主に海側)の下町を舞台とする短編集。生まれ育った環境との「地縁」と、人間の「性(さが)」を強烈に描いた作品。
その日暮らしが精一杯の少年時代・少女時代を過ごした登場人物たちが、大人になって昔を思い出したり、再会したりする話。当然、大人になるまでの間に、彼らは人生の辛苦を舐めているのだが、まだ10代前半くらいの段階で世の中のいろいろな場面を知ってしまうのである。
彼らは子供の頃に、日雇い労働、イカサマ詐欺師、水商売、ギャンブルなどなど、さまざまな職業の大人たちを見て育つ。仕事内容だけならまだしも、お金の使い方、ドロドロした人間関係、窃盗・嘘・恐喝な -
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ロダンはいう「石に一滴一滴と喰い込む水の遅い静かな力を持たなければならない」
水には、そんな力強さがある。
志乃子は、「私は水の流れに乗って、それに身を任せて今日まできたと思っていたが、そうではないのだ。流れとともにかたちを変え続ける水に沿って生きてきて、今日の自分というものを得たのだ。どんな尖った細い難所でも、水はそのかたちになってくぐり抜けていく。私も水のかたちと同化して、微笑みながら難所をくぐり抜ける」
志乃子には、春のひだまりのような柔らかさがある。
志乃子は、ヒビが入った古備前の壺を見て、5万円で購入する。それが、実際には300万円で売れたのだ。志乃子には、本物を見分けるセンス -
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自分の学生の頃から名前は知っていたけれど、宮本輝の本は初めて読んだ。
大変読みやすい文体、内容であることに驚いた。
大阪弁の会話のなんと心地いいこと。
解説に書いてある通りになってしまうけれど、普段から村上春樹ら「都市生活者のための現代文学」みたいなのばかり読んでいるせいか、こういう少しじめっとした地味な小品がとても沁みる。
物語に奇を衒ったようなところはなく、社会性や思想性もないけれど、心に沁み入る文章である。軽いタッチの文体でありながら、結核療養、精神病院等の描写が出てきて、生命の儚さ、人生の切なさを感じさせる。
この、深い・難しい問題を考察するような小説でないのに、じっくり感じ入るよ