宮本輝のレビュー一覧
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表紙の裸婦絵は高山辰雄でとても印象深い。
表題作「幻の光」ほか短編3作を所収で、どれもしっとりとした雰囲気の中で人間の情念を丹念に描いた作品になっている。
「幻の光」は前夫の自殺した理由をわからず空虚にさまよう心を抱えながら再婚し、奥能登曾々木で暮らす主人公が、前夫に語りかけることで自らと対話するというスタイルをとる。兵庫尼崎での貧乏で暗い少女時代から、前夫との生活の中での会話、曾々木での安定した生活という人生の流れの中で、様々なエピソードが繊細な描写で深い余韻を残してくれる。すうっと消えていった祖母の話や大阪駅で見送ってくれた知り合いのおばちゃん、曾々木で蟹を獲りに行って遭難したと思われたおばちゃんの話が特に印象深い。ともすれば生死のはざまで生きてきた主人公が、冬の日本海の荒波の中で前夫の死を見つめ直し、現在の夫の前妻の影に嫉妬できるまでに再生できたところに安堵した。死へと向かう光が生と結びついている描写が妙に納得感があった。
「夜桜」は、若い頃にゆとりがなかったばかりに離婚したことを後悔し、息子を事故で喪ったばかりの主人公の自宅に、奇妙なお願いに登場した見ず知らずの青年との、ある1晩の物語。ややもすれば長く住んでいると見落としがちな光景に、ちょっとの幸福感を共有できた心温まる物語となっている。
「こうもり」は、少年時代の出来事と不倫プチ旅行を行っている現在とをパラレルに行き来しながら何ともいえない主人公のいたたまれなさを表した作品。少年時代の友人?との冒険的行動が印象深い。
「寝台車」は大阪から東京に出張することになった主人公が、現在の商談経緯と少年時代の心に突き刺さる思い出を振り返りながら、情感に浸る作品。寝台車というロートルな情景で思い返される記憶の湧き起こりが印象的な物語になっている。
どの作品も、喪失感を抱える主人公たちが「プチ旅行」「現在と過去」などを背景に、心の暗部を見つめながらも明日に向かって生きる、人間の生死のはざまに漂う思いを優しく包み込んでくれるような感じがする。 -
Posted by ブクログ
短編集が、好きだ。
村上春樹の「象の消滅」「レキシントンの幽霊」にはじまり、
辻仁成「千年旅人」、堀江敏幸「雪沼とその周辺」・・・どれも素敵で、
印象に残っている。その作家の作風とユーモアに溢れていて、
ひとつひとつの文章に「その人らしさ」が感じられるからだ。
そして、宮本輝。
彼の本はちゃんと読んだのは初めてである。「蛍河」は買ったものの
読めていないのだ。
素敵な、キレイな文章を書く人だと思った。
そしてどの舞台も関西なんだよね。身近な光景。
大阪の猥雑な雰囲気とそこに見え隠れする哀愁、人情・・・
9つのどの作品も「生」「死」「人生」を感じさせる。
それぞれの人物が背負ってきた過去があり、物語の終わりには彼らの未来を考えさせられる。
何気ない日常の、でも特別な一コマが、綺麗に抜き取られていると思った。そういう意味で「雪沼とその周辺」とか、「パークライフ」とか、「スティル・ライフ」の好きな私の嗜好をくすぐった。
すごく好きです。彼の作品、もっと読みたいな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの長い小説を読み始めて、さっき涙を流しながら読み終わった
ステラというタクシー運転手の
「楽天家でなきゃあ、こんな厄介なことばかりの、悪人だらけの世の中を
生きていけるもんか。人生なんて挫折して当たり前じゃないの。
うまくいくほうが不思議なんだっていうふうに、あたしはいつのまにか
考えるようになったのさ。だから、あたしは、いいことがあったら、
ああ、よかった、よかったって手を叩いて喜ぶんだ。悪いことが起こったら、
まあ世の中、こんなもんだって口笛吹いて、おかしくもないのに笑ってやるのさ。」
シギィの「おそらく、人間とは、ひとつの欠点の消滅によって新しい美徳が
生じるというのではない。欠点は欠点のままに、その人のちょっとした
心の作動によって美徳に生まれ変わる」というところで
きっと前は泣かなかっただろうと思いながら、静かに涙が出てしょうがなかった
初めて読んだ時は、娘の麻沙子の年より若かったのに
いまは母親の絹子の年にちかくなっていて、
それでも同じように、いや、違う形でも
こんなに心に響く小説を読めることがとてもうれしい
この物語のあと、麻沙子のお父さんはどうしたんだろう
長瀬は、オダは、どうしたんだろう
いや、きっと笑っているよな なんて思いを巡らしている