あらすじ
人は精がのうなると、死にとうなるもんじゃけ――祖母が、そして次に前夫が何故か突然、生への執着を捨てて闇の国へと去っていった悲しい記憶を胸奥に秘めたゆみ子。奥能登の板前の後妻として平穏な日々を過す成熟した女の情念の妖しさと、幸せと不幸せの狭間を生きてゆかねばならぬ人間の危うさとを描いた表題作のほか3編を収録。芥川賞受賞作「螢川」の著者会心の作品集。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
『生と死』
どんな環境におかれようとも、わずかな幸せを求めて懸命に生きようとする力
そんな力も、理由もなく突然訪れる『死』の前では無力だ
『死』に向き合いながら生きていく人の儚さを、淡々とした語りの中で感じざるを得ない
Posted by ブクログ
私にとって、宮本輝さんの作品は全て星5つです。特に、関西を舞台にした作品は、好きです。柔らかい関西弁、綺麗な文章。この短篇集は、いずれも死というものについて書かれていますが、読み終わると何か救いのようなものを感じることが出来ました。
Posted by ブクログ
関西に所縁のある四編。土地の知識があるのでより満喫できた気がする。
・『幻の光』何て言ったらいいものか。なぜそんな言葉を言ったのかわからない、なぜそんな行動をしたのかわからない、という主人公ゆみ子の支離滅裂がわかりすぎて辛い。
・『夜桜』宮本輝の小説のよさって、人が生きているところなんだろうなと思った。こういう話を作ろうとか、こういう主張をしようとかではなく、登場人物が息をしたことによって物語が生まれている。
・『こうもり』こうもりの記憶。こうもりのようだった頃の個人的な記憶と重なった。
・『寝台車』他者のなかを通り抜ける心地よさ。これは他の話にも共通するけど、物語のなかを通り抜ける気持ちよさがある。入るだけじゃなくて、ちゃんと抜けてくる。だから前を向ける。光になる。
Posted by ブクログ
表紙の裸婦絵は高山辰雄でとても印象深い。
表題作「幻の光」ほか短編3作を所収で、どれもしっとりとした雰囲気の中で人間の情念を丹念に描いた作品になっている。
「幻の光」は前夫の自殺した理由をわからず空虚にさまよう心を抱えながら再婚し、奥能登曾々木で暮らす主人公が、前夫に語りかけることで自らと対話するというスタイルをとる。兵庫尼崎での貧乏で暗い少女時代から、前夫との生活の中での会話、曾々木での安定した生活という人生の流れの中で、様々なエピソードが繊細な描写で深い余韻を残してくれる。すうっと消えていった祖母の話や大阪駅で見送ってくれた知り合いのおばちゃん、曾々木で蟹を獲りに行って遭難したと思われたおばちゃんの話が特に印象深い。ともすれば生死のはざまで生きてきた主人公が、冬の日本海の荒波の中で前夫の死を見つめ直し、現在の夫の前妻の影に嫉妬できるまでに再生できたところに安堵した。死へと向かう光が生と結びついている描写が妙に納得感があった。
「夜桜」は、若い頃にゆとりがなかったばかりに離婚したことを後悔し、息子を事故で喪ったばかりの主人公の自宅に、奇妙なお願いに登場した見ず知らずの青年との、ある1晩の物語。ややもすれば長く住んでいると見落としがちな光景に、ちょっとの幸福感を共有できた心温まる物語となっている。
「こうもり」は、少年時代の出来事と不倫プチ旅行を行っている現在とをパラレルに行き来しながら何ともいえない主人公のいたたまれなさを表した作品。少年時代の友人?との冒険的行動が印象深い。
「寝台車」は大阪から東京に出張することになった主人公が、現在の商談経緯と少年時代の心に突き刺さる思い出を振り返りながら、情感に浸る作品。寝台車というロートルな情景で思い返される記憶の湧き起こりが印象的な物語になっている。
どの作品も、喪失感を抱える主人公たちが「プチ旅行」「現在と過去」などを背景に、心の暗部を見つめながらも明日に向かって生きる、人間の生死のはざまに漂う思いを優しく包み込んでくれるような感じがする。
Posted by ブクログ
初めて読んだ宮本輝の本。学生の頃。
これをとてもよい本だと思えたことが、なんだか大人になったような気がしたもんだ。
確かに暗い。でもそれがよい。
この暗さに乗っかる関西弁がものすごく響く。
Posted by ブクログ
愛する者に理由も分からず先立たれた女性の嘆きを描く表題作ほか3編が収録された短・中篇集。
いずれも、「死」や「喪失」が、方言とともに哀しくもしっとりと心に染み入る、そんな作品。
50年近く前の作品ですが、その時代の空気や情景が浮かぶような、読みやすい作品でした。
Posted by ブクログ
たまたま表題作の映画化(是枝ちゃんでしたか!)の再上映の予告編を見て手に取りました。
演歌の世界なのか、解説ではその論評でしたが、そんな感じはしなかったかな。単に当方が演歌を分かっていないだけかもしれませんが、自然と混じりあった人間の暗さとそこにほのかに見える光、という感じでウェットでもなく、かといって能天気でもない佳作だと思いましたけれども。
Posted by ブクログ
人の死と官能がいいタイミングで出てくる。
意外と表題作よりその後の作品の方が好きだった。
解説の「画面は全体に暗色なのに、表面というより底の方から、どこからともなく一種の明りがうかびあがってくるような絵にぶつかることがある。」この通りの一冊だった。
Posted by ブクログ
やっぱり宮本輝は天才だなあ…生きていくために必要な情念とか生命力についての言葉が重すぎる。これだけの結論を出すには、一体何人の人生と向き合ってきたのかね…
唯一苦手な点があるとすれば、人が死にすぎる、失いすぎる点かも。でも宮本輝の悲劇って最終的には幸せな方を向いてる気がするので、嫌いにはならない。底なし沼ではない。ただ、その分逆に生々しくて残る傷が深いから、体力のある時に読みたい作家かも…
Posted by ブクログ
「人間は、精が抜けると、死にとうなるんじゃけ」前夫の死をずっと忘れられず、たびたびの生死の間を見聞きし経験したことも思い出しつつ、奥能登に生きる女の独白。細密な文章が心のひだに絡んでくる。他3編。2019.11.8
Posted by ブクログ
何の理由もわからないまま、愛する人を自殺という形で失った女の不安定な心情。
喪失感や虚無感、自責の念・・・
短編を書ける作家こそ一流作家だと思う、そんな短編集。
Posted by ブクログ
短編集。表題作は映画になったらしい。
子連れで再婚し特に生活に不足はないが、不意に鉄道自殺で亡くした前夫のことや、出奔して生死不明の祖母のことが想いだされる中年女の話「幻の光」。
息子を亡くし、離婚した夫と再会した豪邸に住む女が、得体の知れない若者に一夜の宿を提供する「夜桜」など、過去に親しい人を喪失した体験を現代から照射する、しかも事件とは関わりにない第三者の介在によって、というかたちがとられている。
この著者の女性は男性に都合がいいと言えばそれまでなのだが、たくましく勤勉な人が多く好感がもてる。情緒を追うたくみな文体もよい。
ただし再読したくはない。
Posted by ブクログ
短編集は、あまり読まないが、
気楽に読んで、また新しい発見をしたようにも思える。
あんたが突然線路のうえを歩いているうちに、
列車にひかれてしまった。
自殺だった。
あんたがなぜ死んだのかよくわからない。
まだ子供も小さいのに。
そのことを引きずって生きてきた。
奥能登の曽々木というところに再婚にいった。
海の描写がうまくできている。
(再読)
幻の光
奥能登の海で 海を見ながら
自殺した 前夫のことを思い出している。
25歳という 若さで 自死を選んだ夫。
なぜ 死んだのだろう という問いかけが 巻き起こってくる。
海は きらきらと輝いているときもあり、
うねりのある くらい海にも変身する。
独り言のような物語。
自分の中の心象風景が 宮本輝のタッチで
うまく描き出される。
夜桜
高級住宅街の一つの家には 大きな桜がさいている。
そこから、神戸の海も見ることが出来る。
別れて住んでいる 綾子は 子供がいたが
交通事故でなくしてしまった。
そんな彼女のもとに 青年が来て。
こうもり
高校時代の ランドウという男の思い出。
洋子と京都の詩仙堂にいく。
脈絡のない物語。
寝台車
一緒に乗った老人が すすり泣いていた。
そこから ぷかりと浮かぶ カツノリ君と
おじいさんの医者を思い出した。
Posted by ブクログ
生きていることと死ぬこと、幸せと不幸せ。現在と過去。
相反するものを、巧く微妙に織り込みながら書かれていて、全体的には何かすごく哀しげやのに、その中にもほのかな明るさを感じる。
一緒に収録されている夜桜もオススメ。
最初から真ん中くらいまでは、何てことないけど最後の数文の巧さは、さすが宮本輝。
満開の桜を上から見下ろす若い男女と、下からポロポロ散って行く様を眺める主人公の対比がまさに人生を描写しているよう。
女に生まれてよかったとしみじみします。
Posted by ブクログ
表題作は、自殺した夫に対して淡々と話しつづける女の話し。幼いころに突然姿を消した祖母。線路の上で自殺をした夫。人間の心の奥底にあるものを蝕むものとはいったい何なのだろうか。
Posted by ブクログ
記憶の中の出来事は、どれほど臨場感があっても幻影の現実でしかない。
当時の感情と現在の感情が交じり合い、広い視野を得ながら結局なにも変わらずに過ぎていく時。
なんかわかったようなわからないような事いいたくなっちゃう短編集。
Posted by ブクログ
「幻の光」は1979年に単行本、1983年に文庫化された短篇集で、表題作ほか3編収録
久しぶりの宮本輝さん
未読タイトルとの出会いという新潮文庫のフェアに見事にハマった一作
「幻の光」
能登の漁村を舞台に、夫を突然の自殺で喪い、
悲しみと息子を連れて再婚した女性が過去と向き合いながら新しい生活に向き合っていく姿
“愛する男を失った女の美しすぎるため息”
(こんなコピーがついていたらしい)
秘めていた本心を打ち明け 次の幸せへと向かう
「夜桜」
一度の浮気を許せず、離婚した女
若くして息子を失い、新婚夫婦と知り合ったことで、人生の選択の是非を問う
「こうもり」
泥の河と似た色合い
「寝台車」
子供の頃溺れ死にかけた少年が、大学生の時寝台車から落ちて亡くなる
救われたかと思った命の途中下車のような人生に
想う
宮本輝さんは、昭和中期くらいまでの女性の心情がどれもお上手
現在だと多少社会が変化しているけれど
それでもしっかりと読ませてくれます
Posted by ブクログ
しおり欲しさに、新潮文庫の100冊に選ばれている「幻の光」を読んでみました。
「錦繍」とはまた違った切なさが心に残る一冊です。
ある日突然、自ら命を絶った夫。
原因もわからず、残されたのは妻と子どもだけ。
夫の死から三年が経っても、妻はその理由を模索し続けます。
あれこれと思い返してみても、はっきりとした答えは見つかりません。
なぜなら、答えを知っているのは、もうこの世にいない本人だけだからです。
人は、中途半端で終わったことが、ずっと心に残る生き物だと思うのです。
たとえば、仕事でも何でも、完結していないことって、頭の片隅に残って、ふとした時に思い出してしまうじゃないですか。
人の死もそれと同じ。
答え合わせができないからこそ、忘れようと思っても忘れられない。
再婚して別の家族と新しい生活を送っていたとしても、ふとした瞬間に、亡くなった夫のことを思い出してしまう。
四六時中思い出すわけではなくても、なぜか、どこまでも面影がついてくるのです。
それはもう、呪いのようにすら感じられます。
そんな“呪い”を解いたのは、民雄(現夫)のこのひと言だったのではないでしょうか。
「人間は、精が抜けると、死にとうなるんじゃけ」
私は、「人はお役目があって生まれてくる」と聞いたことがあります。
この“精が抜けた”という状態は、そのお役目を果たしきった状態なのかもしれません。
つまり、夫が命を絶った理由は、何か一つの明確な原因があったわけではなく、ただ“精が抜けてしまった”のだと。
この言葉が、主人公の心に変化をもたらしたことは間違いありません。
それまで宙ぶらりんだった思いが、やっと自分の中で区切りをつけられたのだと思います。
亡き夫の魂と距離を置くのではなく、共に抱えて生きていく覚悟ができた――そんなふうに感じました。
感想を書くために読み返したのですが、不思議なことに、一度目よりも二度目の方がじんわりと胸に沁みてきました。
あんなに短い文章なのに、なんて深いのでしょう…。
Posted by ブクログ
先日、映画館で「幻の光」が「能登半島地震 輪島支援 特別上映」と冠され、1995年の公開から29年の歳月を経て、デジタルリマスターにて上映されるということを知り、鑑賞して参りました。
本作が宮本輝さんの作品であること、映画化されたこと、主人公の女性を演じられている俳優のお名前くらいは知っている程度の認識でした。ストーリーや舞台として能登が登場すること、また監督を是枝裕和さんが務められ、これが長編映画デビュー作であったことなどは今回知ることとなりました。
古き日本の風景に「あるもの」を纏わせた絵画のような美しい映像に圧倒される映画でした。
そして、ぜひ原作も読んでみよう、と手に取った次第です。
生まれ育った尼崎で結婚し、初めての子供が生まれて三ヵ月目に夫が突然亡くなってしまった記憶を胸奥に秘め、奥能登の板前の後妻として平穏な日々を過ごす女性の内面の葛藤を描いたお話です。
主人公、ゆみ子の前夫は、本当に唐突に亡くなってしまいます。状況としては、電車の運転士が言うには、線路の上を電車の進行方向を向いて歩いていて、急ブレーキも空しく轢かれたと。
先ほど、映画の説明の中に思わせぶりに書いた「あるもの」というのは、はっきり記すと「死の陰」のようなものです。衣類にも(子供の衣服までも)寒色を多用し、尼崎でもそうですが、舞台が能登に移った後も、日本海の荒波が、墨色の曇天が、風景が「あるもの」を纏っているようで、そう感じるからこそ、スクリーンに余計なものをそぎ落とした陰翳のような美しさがある気がしました。小説の活字からもそういった趣が溢れ出ます。
希死念慮、という言葉があります。文字通り「あるもの」に惹かれる思考・感情を指す言葉なのかな、とぼくは解釈しています。
知り合いに言われたことがあります。
「あるもの」にすっと惹きつけられる瞬間は誰しもにある、その程度の違いこそあれ。
主人公はずっと、なぜ前夫は「あるもの」に惹かれてしまったのか考えます、そのことがもしかしたら喪失からの混乱や悲しみの日々を支えていたのかもしれません。
でも、主人公の生きる世界は大切な人を喪ったことで変わってしまったのだと思います。
冬の朝の目の覚める冷たい空気をぴしゃりと肌に感じるような、そんなお話でした、説明が下手くそですね、ごめんなさい。
映像の記憶が、活字を目で追う補完をしてくれて、今作は先に映画を鑑賞したのが吉と出た気がします。
そして、おそらく、この映画の再上映の企画が発表された後、能登に豪雨による災害が起こりました。
被災地にどう向き合うか、そして未知の災害が自身に降りかかった時の準備を考えようと改めて思います。
本書は、ほかに3作、短い物語も収録されている短編集ですが、表題作が群を抜いて存在感を放ちます。
本格的な冬の訪れの前に心身共に暖かくして読んでいただきたい一冊です。
Posted by ブクログ
決して特別な才能を感じるわけではない。物語の構成、文章のリズム、そして登場人物の感情。そのどれをとっても、ごく平凡な才能だ。しかし、その性質による全体の安定性は、確かに人の心に打つものがあると思った。
Posted by ブクログ
人は精がのうなると、死にとうなるもんじゃけ
とは、作中の言葉であり、不可思議な死に対するひとつの解釈である。
短編集。全編を通して、誰かの死が、深く或いは無意識のうちに主人公の思考に絡み付いていた。
貧しく、決して華やかではない日常の中で、漠然とした不安、答えの見えない感情が、何気無い瞬間、ふと胸中を過ぎる。
その源泉を探ると、それは、けじめをつけていない過去の出来事であり、それが誰かの死であったりする。
死というものに、答えを与えることは、誰にだって難しく、いつだって解らないものだということ。
平凡な日常を切り取り、平凡な人の不安定な心のうねりを通じて、読み手に教えてくれたような気がする。
宮本輝の純文学は、読みやすい。