宮本輝のレビュー一覧
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発酵という目に見えない微生物の営み。琵琶湖の鮒酢、鹿児島県枕崎の鰹節など伝統的製法で発酵食品を造る人々。「待つ」という行為、「時間」というものによって生み出されるもの。こうした事を通して主人公・聖司は仕事とはいかなるものかを学び人間的成長を重ねていく。
一方、祖母が死の間際に繰り返していた「ヒコイチ」という言葉の謎?それと、聖司が母親のお腹の中にいるとき、不慮の事故で亡くなったとされる父の事や毎月2万円、死ぬまで32年間送りつづけた男が背負ってきたものがあぶりだされていくと同時に、その男の娘との出会いや美佐緒という人妻との危うい恋愛模様も描かれて物語は展開していく…。
発酵、熟成とい -
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豪華限定本をつくるフリーの編集者・船木聖司は、松葉という人物から日本の伝統的な発酵食品を後世に残すため非売品で五百部の依頼を受ける。
そして、丸山澄男という女好きで小々癖のある料理研究家と友人のカメラマンの協力のもとサンマの熟鮓、醤油などの取材を敢行する…。
登場人物の会話、ほとんど軽妙な大阪弁だす。糠床の造り方のレシピを初め、グルメ本のようにお役立ち的な部分もあり( ..)φメモメモ。また阪神淡路大震災の記憶も呼び覚ますシーンもある。
死というものは、生のひとつの形なのだ。この宇宙に死はひとつもない。こんな書き出しで始まるこの物語は、発酵食品を素材とした人間の生死と絆、愛を描いた壮大 -
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ネタバレ半年にわたる長旅が、ついに終わってしまいました。
麻沙子が母を追いかけドイツまでやってきてから、もうこんなに長い時間が経っていたのですね。
本を読みながら私も一緒にドナウ河を旅した気分になりましたが、その土地その土地で出会った人々の人柄にとても心温まりました。
旅先の素敵な出会いに乾杯!
東欧の共産主義事情も初めて知りました。
ちょいと怖いなぁと思いましたが、ブダペストに行ってみたくなりました。
どの街も素敵なんですけどね!
最後は、ただただスリナの朝日を見ていたい…。そんな思いに駆られました。
半年間、本当に色々なことがありましたが、この朝日をみるべく旅をしていたような気がします。
絹子の -
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冒頭が素晴らしい!
「蛇行する無数の川は銀色に光っていたが、どうかしたひょうしに、もつれた赤い糸みたいに染まって、麻沙子は、川が地球という生き物の血管であることを、朦朧とした精神のどこかで妙にはっきりと感じた。」
ドナウの旅人は、4人の男女がドナウ川に沿って旅をする物語ですが、この冒頭を読んだ瞬間に、この旅はとんでもない旅行になるんだろうと思いました。
後半あたりから、その「とんでもない」旅であることが徐々に分かってくるのだけど、読み進めるにしたがって、自分の血液がドクッ、ドクッと身体全体に流れるのを感じました。
恋愛物語でありながらサスペンス的でもあり、人物描写に非常に優れた -
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タイトルに惹かれて読みました
2人の男女がマンションの1室で同居するっていう設定が凄く好きです。
なんとなく、憧れません?笑
きっと4人の間に何か起こるんだろうなぁ…と思っていましたが、やっぱり色々ありましたね。
自分を犠牲にしてまで他人を助けようとする4人。
一見お人良しに見えるけれど、なんとなく虚しさを感じる。
与志くんと愛子、ロバと曜子の関係も、お互い愛し合っているようで実は不安定。
結末としてはあれでよかったのかなぁ?
と煮え切らないものがありますが、最後の1文でしっくりきました。
寂しいような虚しいような、だけど楽しくなかったと言ったら嘘になる4 -
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タイを舞台した宮本輝の作品。人間のありとあらゆる感情や営みをタイという得体の知れない坩堝の中に注ぎ込んだかのようなストーリーとその文体や行間からあふれ出る混沌は、やはりタイの空気を肌で感じたことのある人間のみが創造しうるものであり、そこに宮本輝氏独自の感性が加わり、妖しく訴えかけてくるものがある。「とめどない夢精の感覚」という言葉にまとわりついて、あのむせ返るような熱気やらパクチーの匂いやら柔らかなタイ語の響きやらその他いろいろのものが渾然一体となり一瞬で私の眼前に鮮やかに蘇る。複雑怪奇なのかごくありふれたものなのかさえもはや判然としない人間模様を描いたこの不思議な物語はタイという坩堝の中で不
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宮本輝の文章が好き。日本語の美しさを感じる。
大袈裟でなく、遜ってもいない。自然な日本語。
子供が出来たら、ぜひ宮本輝を読ませたいと思う。
この作品の舞台は大阪の十三。
登場人物の身の上話が、すべて語り口調なので、文章の中にも大阪弁が多く出てくる。
中にはズルイ奴、人の顔色ばかり伺ってる奴、オネエなどなど、色んな個性が集まっているけれど、主人公のヤギショウさんの語り口が、それを緩和して、まとめている感じ。
ラストまで、「どうなるんだろう・・・」というドキドキを引っ張りながら、登場人物たちの個性を浮き彫りにし、最後には親代わりとなったパパちゃんと茂木のおじちゃんの人となりを集大成として描く。 -
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ネタバレうむむーーー!
そうなのか。
きっかけが必要だっただけなのかな。
骸骨ビルを巣立った孤児たちと、ご近所さんや主人公や、それぞれの戦後〜現在に繋がる人生が、それぞれに際立ってて、うーんなんだろう‥
その時その時を必死で生きていた連続が、現在につながってるんだなって。
じゃぁ、「現在」を生きてる私はどうなのかなってちょっと自分を顧みた。
「未来」になって私が年をとった時に、あの頃(つまり今)のことを悔いなく思い返すことができるかなぁと。
パパちゃんの内面は、難しかった。
戦地での語り(聞いた話だけど)の場面は、あれは、私が想像してどうこう言える話じゃないんだろうな。
結局、夏美が自ら嘘だっ -
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「待つ」という時間が、若者たちの心を鍛えていた時代を、私はなにかしらとてもありがたいものとして思い出している」 (あとがきより)
なんだか色々と衝撃的な本でした。タイトルと表紙的に、もっと穏やかなものを想像していたんですが、こんなに人間の内からエネルギーが溢れている小説は久し振り。「幸せになったる」という、憂鬱をエネルギーとした野心・・・暑苦しいという領域を通りこしてしまって、燦然と輝いている。
これは「生きて」いるのではない、「棲息」しているに過ぎないのだ-親の残した借金を抱え、鬱屈とした生活を送る主人公。どんなときも彼を傍らで支えてくれる完璧な恋人の存在に束の間の幸福を感じ、きっと共