宮本輝のレビュー一覧
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九つの短編
トマトの話
トマトをほしがったけれども そのトマトは食べられることなく
吐いた血の海に 転がっていた。
映像的に 鮮やかな赤が 思い浮かぶ。
死んだオトコに 手紙を託されたが なくしてしまった。
そのオトコの手がかりになるはずだったが。
みとるものや 親戚もなく 知り合いもなく 死んだオトコ。
眉墨
ガンであることがわかった 老いた母親が
熱心に 眉墨をひく。
オンナとしての矜持を まばゆく見つめる息子。
流転の海の 母親 の姿が だぶる。
力
小学校に通学するのに 心配する母と父。
ハラハラしながら 尾行する 母親。
流転の海では 父親が 尾行したはず。
五千回の死
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「青春をテーマにした」と言ってしまうとかなり薄っぺらい感じがするが、こうとしか言いようがないだろう。大学時代を懐かしく思わせる、非常に良い小説だった。
振り返ると大学には自分とは違う、色々な人たちがいた。全てを部活に捧げる人、見ててイライラするくらいちゃらんぽらんな奴、将来に向けて資格試験に取り組む人、大学には全く来ず気付いたら会社を興していた社長…
自分は18歳から22歳の間、何をして今に至っただろうか。違う大学に行っていたら、違う言語を勉強していたら、何か熱中するものがあったら、今はどういう人間になっていただろうか。
はっきりした考えは無いが、何かすべきことをしてこなかったような感覚に -
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約束の冬(上) 宮本輝(著)
人と人の間で、コミュニケーションする。
その中で、約束 がある。
人は、生きている間に、どれだけの約束をするのだろう。
親との約束。
恋する人への約束。
愛する人との約束。
子供との約束。
物語の中に巡らされる約束。
留美子は、少年から、10年後に 結婚しようという
ラブレターをもらった。
その奇妙な申し出をした少年は 誰なのか
そのことが,10年の月日が流れることで 明らかになっていく。
留美子には、妻子あるオトコと 恋愛していた。
そして,そのオトコは 妻子と別れ
留美子と結婚すると言っていた。
そのオトコは言う「ボクは必ず約束を守る」と。
し -
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甲斐典子は、若い夫をガンでなくした。
フランス料理屋 アヴィニオン をひきつぎ、
4年間 一生懸命働き 軌道に乗せ,売上も伸ばした。
典子は 白い家を書いた 青年画家に 恋するようになり
もう一つは アヴィニオンを のっとりしようとする人たちが
巧妙に 進めようとした。
画家が成功するのは 努力や実力も必要であるが
あわせて、運や巡り会いも必要である。
そんななかに、いらだつ 青年 雅道。
典子は その青年とどうつきあえばいいのか?
そして 夫が残した アヴィニオン をどうするのか?
30歳半ばを超えて 今後の身の振り方に悩む。
40歳までの目標を つくってみるが どうもしっくりこない。 -
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なぜ、いまごろ 宮本輝をよむのか
いまの私の 感性に 一番あっているようだ。
どろどろとした 人間の感情の絡み付き合いが
とても、いいのだ。
政夫が 父親 武内鉄男 と 玉突きで 決闘する。
政夫は 夫を捨てた 鈴子 と一緒についていった息子。
鈴子は どうしようもない 占い師についていったのだ。
そのために 鉄男は なぜか許せないところがある。
戻って来た鈴子は ギヤマンのみどりの色に じっと見入った。
占い師が書く 海は いつもみどりだった。
鈴子が戻って来た時に 鉄男は鈴子を蹴った。
そのことで、鈴子は腎臓をいためたと思い込む。
鉄男は 息子の政夫が 玉突きで 生きようとすること -
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バンコクの熱くけだるく、
肌にねっとりとしてからみつく湿度、
人々の生活の猥雑な風景、
午後の昼寝のようなまどろみ。
人間のもつありとあらゆる感情。
こまごました 生きるための所作。
騒音。クルマの渋滞そして騒音。
甲高いニワトリの鳴き声。
沈んでいくような空気。
濃い緑の樹が 伸びきって 空間を占有する。
洗濯物がほしてある。
赤ん坊の泣き声,子どもたちの元気な声。
得体の知れない 混じり合ったにおい。
よるになると漂う エロティックな風。
じっとしているのが 嫌になるほどの空気。
妖しく,ほほみかけられる微笑。
何かに,誘われ 追い立てられるような ざわめき感。
すえた、酸っぱい -
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若い男と出奔した母親を追いかけて、ドナウへ向かった娘とその恋人4人の旅を追ったお話し。色々な出会いを経て、ドナウの果てへとたどりつく。人物描写がとてもよくて、母親の絹子の変化が特に興味深かった。娘の麻沙子は若干こんな人いるかしら?な日本語を話してたけど、知的な美人ぷりを発揮していて、私も真似して思わず声に出してせりふを読んでみた・・・。
話の筋はわりと予想ができる感じだった。ドナウ川ってなんでか常に死のイメージがつきまとっている気がする。日本人はドナウを舞台にした小説が好きなのは気のせいかな。そんなこと言ってる私も一度は行ってみたい気がする。 -
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内容紹介(上巻)
生れる仔馬が牡馬でありますように。風の申し子のように速く、嵐みたいに烈しく、名馬の天命をたずさえて生れますように……。若者の祈りに応(こた)えて、北海道の小さな牧場に、一頭のサラブレッドが誕生した。オラシオン(祈り)と名づけられた仔馬は、緑と光の原野のなかで育ち、順調に競走馬への道を歩みはじめるが、それと共に、登場人物ひとりひとりの宿命的な劇(ドラマ)が、幕を開けた――。
内容紹介(下巻)
母の肉は子の肉、子の骨は母の骨なり……。いのちの哀しさ尊さに突き当りながらも、虚無と喧噪のなかで人間の業(ごう)から逃(のが)れられない男たち、女たち。だが、そういう彼らも、いつしかオラ