北方謙三のレビュー一覧
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長い長い物語が終わった、とも、物語は終わらない、とも言える。
血沸き肉躍ったままで話を終えることはできないのだから、そっと目を閉じるように終わりを迎えるのかと思っていた。
その予想はおおむね外れてはいなかったけれど、でも、史進はさすがだ。
「死ねないなら、生きるしかない」
本来は守るべきはずの国という形を拒否した梁山泊の兵士たちは、守るべき形を持たない彼らは、本当に志のために命をかけて悔いはないのか。
何十万もの兵士の誰もが悔いなしと思っているとは、わたしにはちょっときれいごと過ぎて信じきれない。
無駄に消耗戦を続けるくらいなら、敵の将軍の暗殺を致死軍にさせたらいいじゃないのと思うくらい大勢の人が毎日毎日消耗品のように命を奪われていった。
もちろん梁山泊はそんな卑怯なことはしない。
正義のためには手段は問わないというのは危険な考えだ。
でも、梁山泊の考える正義のために喪われる名もなき兵士たちの命のなんと多いことか。
死ねない史進は、林冲や李俊や穆弘などの名のあった人たちだけではなく、名もなき人たちの分も生きるのだろう。
そして名もなき大勢の史進たちが歴史を作るのだなあと思った。 -
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同時多発的に戦端が開かれる。
元々ウツウツと考えがちな項充と、李俊に置いていかれたことで生きる意味を考え続ける狄成。
真逆な二人だけれど、息はピッタリ。
やるべきことをやらねばならない。
そして今、それができるのは自分たちだけなのだ。
そしてついに史進が動く。
え?え?どういうこと?
猛烈な引きの強さで最終巻へ続く。
ところで、今更なんだけれども、岳飛伝というには岳飛弱くない?
部下のほとんどを失いながら、瀕死の状態から奇跡の復活って、それ何度目だよ。
秦容は無敗を続けているけれど、岳飛はまたまた敗走。
ふたりで連携しながら北上してきているはずなのに、南宋に入ってからはほとんど連絡も取っていない。
伝書バトや長駆隊をもっと使えよ!
個別にはもちろん全力を尽くしているはずだ。
命がかかっているのだからね。
だけど戦の全体を見渡した時に、秦容や岳飛だけではなく、張朔や呼延凌を、致死軍を、どうやって動かせばダメージを小さく、効果的に勝利を得られるのかを考える人がいない。
聚義庁の働きが見えてこない。
多分、だれかが引っ張って国を動かすのではなく、一人一人が考えて動くことで国が成り立っていくということを書きたいと思うのだ。
けど、多くの名もない人々が、わけもわからないうちに死んでいくのを見ていると、誰か何とかしてよ!と思ってしまう。 -
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ここにきて瀕死の重傷を負う岳飛。
しかしそれでも死なない岳飛の生命力の強さよ。
もう結構いい年のはずだけど、看病してくれた若い女の子といい仲になっちゃって…。
緊張感を持て!と言ってやりたい。
あっちでもこっちでも最終決戦に向けての緊張が高まるなか、あえて日本に向かった張朔のその後が気になるが…。
でも、一番読みごたえがあったのが、宇梶剛士の解説。
たった6ページの中に、大水滸シリーズへのあふれる愛があり、人生への深い洞察があり、物語の向かう先への思いが込められている。
そして最後の一行。
“しかし、褚律(ちょりつ)が放っておけない……。”
全く同感。 -
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ついに岳飛・秦容軍と南宋軍、梁山泊軍と金軍の間に戦端が開かれた。
が、戦闘シーンはあまり多くない。
身辺整理を始めた顧大嫂、十三湊で日を送る李俊、病の気配濃厚な秦檜(しんかい)。
物語の終焉の気配が濃厚になってきた。
秦容は”古いものは、終らせる。”と考えている。
その古いものとは、国家の形なのかもしれない。
民衆の生活を圧迫する帝政、官僚組織。
しかしそれは突き詰めると、軍隊も重荷となりうるわけで、その辺をどう処理していくのか。
”宋を倒す革命の小説だった『水滸伝』。国家を建設する小説だった「楊令伝」。そして、『岳飛伝』は登場人物たち、それぞれの人生を照らし出す小説。”
解説・吉田伸子の文章に、しみじみその通りだなあと思い返す。
登場人物の人生を照らし出す『岳飛伝』でここ最近一番輝いていたのが李俊。
もう、こんなに格好いいじーさん絶対いないって!
”このうえなく、面白かった”
人生をそう振り返ることができたら、それは最高に幸せじゃないか。 -
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まずは全7巻に及ぶ歴史小説を読み終えた達成感が凄い。紀元前の中国を生き抜いた男達の生き様という熱い塊が胸の中にドシンと落ちてきたような感じがする。
国があって、民がいて、争いがあって政治があって。時には厳しい自然に晒されても尚、信念を持った人は生を貫くのだという力強いメッセージが込められている。ハードボイルド小説(と言われている?)ってものに手を出したのは多分これが初めてだと思うんだけど、自分が普段読んでるような本に出てくる言葉遊びなんてものが一切なく、簡潔かつ事象だけを綴り続ける骨太な文章は圧巻の一言……めちゃくちゃ著名な大先生の本捕まえて何言ってんだコイツって話なんですけど、思ったままの感想なんです。
巻を追うにつれて読み終わる間隔が短くなっていったのは、そういうことでしかありません。想像もできないくらい遙か昔の時代のお話かと思いきや、現代に通じる訓示みたいなものが詰まった魅力あふれる作品でした。
ちなみに、羊の肉と鹿の肉がめちゃくちゃ食いたくなる。ジビエだ。 -
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1巻から2巻、2巻から3巻と、読み終わるまでの時間がだんだん短くなってきた。それだけ物語にのめり込み、ページをめくる手が加速しているということで。さっさと仕事終わらせて、帰りの電車の中で早く読みたい……なんて気持ちになってしまうほどに。
1巻の感想で、「キングダムが面白くて史記に手を出したらえいせい違いだった」みたいなことを書いたんだけど、高校の頃友達と遊んでいた三國志Ⅷにいにしえの武将として登場する霍去病が出てくる話だったと知ってちょっと嬉しくて。当時、「名前からして病弱そうなヤツだな……」とか思ってたんですけど……うん……。というわけで4巻へGO。 -
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多分南宋が一番充実していた頃になるのだろう。
南北に敵がいる状態とはいえ、金国は梁山泊軍との激戦直後で南宋まで攻めてくる力はまだないだろうし、岳飛達に対しては五万もの兵を置いてにらみを利かせているし。
一度梁山泊軍に大敗させられた南宋水軍は韓世忠を外して立て直したし。
皇帝には権威を与えても権力を与えていないので、秦檜の思う国造りの完成は時間の問題だと思われた。
その時、岳飛と秦容が手を組んで北上を始めた。
というど真ん中のストーリーはさておいて、今回は李俊が格好良かったなあ。
「俺は、李俊殿にもっともっと長く生きていただきたいのです」と泣く張朔(ちょうさく)に「人は、死ぬ。いつか、必ず死ぬ」と言って、沙門島の奪回にでかけて行くんだよ。
「おまえは、泣きながらこの任務を俺に与えてくれた、張朔。だから俺も、ひとつだけ約束しよう。死に場所は求めぬ。新しく生きる場所を求めるために、闘おう」
くう~、格好いい!
それに引き換え、燕青(えんせい)に振られた仕事は、70歳を超えた燕青がやらねばいけない仕事だっただろうか。
だって体術だよ。
もっと若い使い手はその後一人も現れなかったの?
宣凱(せんがい)や王貴(おうき)が燕青にやらせることを決めたとは思えないし、納得いかない顛末だった。