北方謙三のレビュー一覧
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ネタバレ金国、南宋、そして岳家軍はそれぞれ痛手を乗り越え、新たな体制を作りつつあるが、梁山泊だけが、方向性を見いだすことができずにいる。
第三世代の王貴、張朔はそれぞれに梁山泊とは離れたところに自分の居場所を見つける。
機が熟したとき、呉用は聚義庁に主だったものを集める。
全てを率いる存在としての頭領を欲する秦容や呼延凌に対して、それぞれの志を持ち、それぞれの考えを持ったものの集合としての梁山泊を解く第一世代のジジたち。
それは、すべてを楊令に押しつけてしまったことへの悔恨だった。
「林冲殿さえ生きていれば、楊令殿が頭領などということは、絶対に許さなかった、という気がする」と泣く曹正に、ついつられ -
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ネタバレ百年に一度の大洪水で水に没した梁山泊。
突然の楊令の死に呆然としつつも、機能を回復しつつあるものの、今後の方向性を出せる者は一人もいない。
楊令亡き後も今までどおりの仕事をしながら、新たな指導者を待つ古い世代と、新たな道を模索する若い世代。
史進が「じじい」呼ばわりされるくらいなのだから、もう本当に世代交代の時なんだと思うけど、最初から読んできた身としては少しさびしい。
楊令の死は岳飛の勢いも一時止めた。
その間に着々と国の体制を整えていく南宋の秦檜(しんかい)と、整えきれない金国の兀朮。
それぞれのスタートラインが示された第一巻。
“自分のことは、自分で決めろとは、どういうことなのだ -
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ネタバレウジュと岳飛の闘いがし烈を極めていくが、南宋と金の講和のために中断。あくまで岳家軍として「抗金」を掲げる岳飛。国内の安定のため軍閥を解体し南宋軍に組み込む方策を図る宰相・秦檜。互いの理念と志は交わることなく確実に破局が近づきつつある。
一方、梁山泊では呉用が静かに最期を迎える。
当初の堅物・嫌われ者から寨の陥落・方朧の乱を経て覆面の名参謀に変わっていったなかなか興味深く目の離せない存在だった。
そして「岳飛を救え」という遺言。
今後、岳飛と梁山泊をどう結びつけていくのか。史実と創作の折り合いをどうやってつけていくのか。次巻からの展開が楽しみだ。 -
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ネタバレ『楊令伝』を読み終わったので、一区切りの公式読本。
年表と人物事典が良かった。
あとは読者との質疑応答も面白かった。
書評や対談はいろんな発見があってためになる。
しかし編集者からの手紙は、いらないなあ。
もちろん著者と編集者の間に手紙のやり取りがあっていい。
でもそれを本にする必要はない、というより、はっきり言って邪魔。
1953年生まれの編集者の、軽薄ぶった文体が気持ち悪くてダメだった。
『水滸伝』では世直し(革命)が、『楊令伝』では国造りが描かれた。
『岳飛伝』は、人物を描くのだそうです。
十二巻を書き終えた段階では、李俊以外の第一世代は全員生き残ると著者は言っていたらしい。
け -
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ネタバレああ、そうきたか。
主人公の名のついた『楊令伝』
彼が脇に回るわけはない。
そして、生き続ける限り、彼は物語の主役を張る男だ。そう生まれついている。
だから、楊令の命の終わりがこの作品の終わりだと予想していた。
だけど、全然死ぬ気配はない。
梁山泊の大きな柱が1本、また1本と倒れていっても、彼が倒れる気配は最後までなかった。
それでもことが起こってみたら、ずっとそこに答えはあったような気がする。
楊令よりずっと年下の秦容が「生意気を言いますが、おれは同情していました」と言った。
楊志が命をかけて守った息子であることから、梁山泊を背負って立つ男の運命を生きることになってしまった楊令。
ひと -
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ネタバレ李媛と李英の姉弟は報われないなあ。
彼らに対する聚義庁(しゅうぎちょう・梁山泊の中枢)の態度は、絶対に間違いだと思う。
厳しくするべきところを厳しくしないで、正論を黙らせた。
彼らの父、李応を好きだったんだよね。私。
いいところのお坊ちゃんだったけど、そんなことを鼻にかけずに、地味で目立たない重装備部隊の仕事をやっていたところが。
実直で。
だからそんな李応の子どもたちが、努力を認められることこともなく終わってしまったことが非常に無念だ。
李英は、登場当時は本当に優しい青年だったんだよ。
それが、同輩たちにどんどん先を越され、ついには部下にまで追い越され、焦ったあまりにやるべきことを間違え -
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ネタバレひとつの目的のために、大勢が心を一つにして立ち向かう。
そんな時代を過ぎてしまった梁山泊は、もう一枚岩ではない。
国を造る。
いうのは簡単だが、思い描く国の形はそれぞれ。
楊令に託す国の形が、自分勝手なものになってきたとき、梁山泊の未来に暗雲が立ち込めてくる。
まるで哲学の書のように、「国とは?」を考える人物たち。
国とは、民衆を守るための強い軍隊と考えた岳飛は、守ってきたはずの民衆から反乱を起こされる。
国とは、民衆から搾り取った税金で潤っていくものと考える旧宋の生き残りたち。
国とは、民族の独立のためにあるものと考えた女真族の国・金。
国とは、民衆が安寧に暮らせる場所と考える楊令。
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ネタバレ今回の展開はちょっと納得いきません。
ネタバレになるけど、いいかしら。(ダメなら読まないでね)
梁山泊は交易による莫大な利益によって、民から多額の税を徴収しなくてもすんでいる。
そのため梁山泊の商隊を軍が護衛している。
李媛が指揮する商隊を護衛していたのは弟の李英が率いる隊だった。
姉弟の父は、重装備部隊の隊長だった李応。
梁山泊には二世の将校が結構いる。
その中で、なかなか結果を出せない、上に引き上げてもらえない李英は焦っていた。
そんな時商隊が金軍に襲われて、李英は積み荷を守ることよりも、手柄を立てることを優先してしまった。
手柄を立てる=敵を打ち取ることが、積み荷を守ることだと思い -
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ネタバレ漢たちが命を散らしていく。
出奔した李英が見せた意地にも近い漢らしい死に様。
そして呑んだくれで憎まれ役・戴宗の渋く散っていく。
戦場のど真ん中から決して動かず雄々しく果てた郭盛。
さらに張横、童猛、阮小二と梁山泊を陰から支えてきた者たちも。前作からの古参たちがそれぞれの誇りと不器用な生き様を刻み付けるよう死んでいく。
そして史進の愛馬・乱雲も主人を庇い倒れる。死にきれなかった史進、主人の苦しみを理解しながらも身を呈して守った乱雲。この愛馬との絆も「水滸伝」の魅力。胸を締め付けられる。
いよいよ次は最終巻。梁山泊、南宋、そして金。この戦いにどんな終局が待っているか。そして楊令と岳飛の決着は? -
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ネタバレ童貫を討ったことにより、戦いは一度終結する。
宋をめぐる思惑は、あちこちに不穏のたねを残しているけれど、楊令はこれ以上梁山泊を大きくするのではなく、民が安心して豊かに暮らせる国づくりを考える。
ここからみんなが幸せになっていければいいのだけど、そうはならないのが哀しいところ。
侯真は失うために人生を生きているような気がして不憫。
花飛麟のような感じで生きていくのかしら。
戴宗はもう使えないのではないか。
宋江と出会ったばかりの頃の戴宗は、懐の大きな人だったのに、今は何よりも心が老いて、小さく凝り固まってしまっている。
それなのに肉体の衰えがほとんどないせいで、心の老いに気づくことができない