北方謙三のレビュー一覧
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今まで志を持たないと言っていた李俊が、志を秦容に語るようになるなんて。
”「自分が思った通りに、生きて生きて、生ききる。人間が志を全うするというのは、そういうことだ。替天行道の志は、人間らしく生ききることを、ただ言葉にしたのだと、俺は最近、思うようになった」”
長老と呼ばれる李俊と史進に隠れて目立たないけれど、呼延凌もそこそこ歳をとっていたんだなあ。
思えば彼の今までの一番の見せ場は、穆凌(ぼくりょう)から呼延凌になった時だったのかもしれない。軍の総帥にしてはあまりにも見せ場がなかったし。
梁山泊はもう、軍のいらない姿に変わろうとしている。
西遼や西夏、日本、秦容達のいる小梁山、さらには南宋の秦檜も、目指す国のありようが同じ方向を向いてきたのだから。
戦うのではなく、溶け合っていくのか?と思ったところに蒙古の存在。
ああ、歴史は変えられないよねえ。 -
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北では呼延凌とウジュが対峙し、史進がウジュの首を狙う。
そして南では南宋と岳飛・秦容連合軍が対峙し、岳飛が辛晃の首を狙う。
いつの間にか、敵の首をとってさっさと戦を終わらせることが目的になっていて、ちょっと驚く。
”民の営み。地図に描かれた広大な地域にいる、すべての民の営み。それが、利害もなにもない、もともとあった梁山泊の志に繋がる言葉ではないのか。”
宣凱と王貴の考える梁山泊の在り方。
土地ではない、政ではない、ましてや王家の血筋ではない国の本質。
それが民の営みだと言われればそうなのかもしれないけれど、あまりにも物流や交易に傾きすぎていて、経済さえ守られていたら民は幸せだというのだろうかと考えてしまう。
今まで一度も好きだと思ったことのない蔡豹(さいひょう)の来し方をしみじみ思う。
親の愛って重すぎると呪いになる。
呪いが解けたから愛情を持てたのか、愛を感じたから呪いが解けたのか。
彼の人生の収支はプラスになったのだろうか。 -
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秦容の甘藷作りがどんどん広がり、ついには10万人が住めるほどの村(村!?)にまで話が広がる。
いちいちスケールが大きいところが中国だなあ。
金国と南宋はついに手を結び、戦争の気配は濃厚になってくる。
梁山泊も少しずつ戦いの準備を始め、ついに韓世忠率いる南宋水軍が王貴の船団に攻撃を仕掛ける。
人が集まると争いが起きるとは言うものの、梁山泊や小梁山のように自給自足ができ、他を羨まないような生き方をもっと広められないものかと思う。
岳飛と秦容が対南宋ということで手を結ぶ。
しかし、農作業や村づくりを主としながら交代で調練をする秦容のめざすものと、あくまで軍隊であることにこだわる岳飛のめざすものは決定的に違う。
連携できるが合流はできないというのは、そういうことだ。
物語の流れて行く先が見えてきたような気がする。 -
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遂に最終巻。全巻から続く梁山泊滅亡戦の1冊。が、どうも色々とイマイチ。まず尻切れトンボ感が否めない。青蓮寺の李富や聞煥章はこれといって最後まで何もなく、李逵のあまりに呆気無い死、そして宋江のヒネリのない最期。19冊も読んできて、こんなフツーのラストではちょっと物足りない。さらに、最終巻になってあまりに巨大化した楊令の存在。北方水滸伝を別の方角から面白くさせた登場人物であることは認めるが、ここにきていきなり主役級の大活躍を披露していて、あまりにリアリティがないというか、幼稚臭いといってもいい展開。宋江の死に寄り添ったのが楊令であるというアレンジは、明らかに続編『楊令伝』を意識したものとしかおもえず、どこか興ざめだ。出来ればこの最終巻での楊令の活躍は、林冲に演じて欲しかった。出来れば呉用の最期なんかも読みたかったな。まぁいずれにしても、水準を遙かに上回る傑作ではあっただろう。久しぶりに睡魔と闘いながら、本に没頭したように思う。でも『三国志』の方が、あらゆる面で上質なようには感じた。
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さすが主人公だけあって、どん底から這い上がるのが早い。
南宋と秦容の土地の間に岳家軍が駐留するということは、岳飛は南宋と戦うことになるのだろうか。
大きくなりすぎた梁山泊の交易は、少しその形態を変える。
拠点を縮小し、常に物が動いているように。
南宋は日本との交易の道を探る。
そして南宋の水軍は徐々にその力を増していく。
今回は韓成の話が良かった。
死ぬことで幸せになるという方臘(ほうろう)軍の生き残りを調練して、童貫戦で梁山泊の切り札として人の盾を作った韓成。
それは、韓成としてもやりたくなかった作戦ではあったのだが、それでも大勢の人間をただ死ぬためだけに戦場に送り出したことの免罪符にはならない。
ずっと自分を許せなかった韓成は、梁山泊を出て、西域に赴く。
西遼に従わない部族を、武器を持たない韓成が命がけで説得する。
”「おまえ、戦がいやだと言い続ければ、ほんとうに戦がなくなると思っているのか?」
「なくなるものか」
(中略)
「たえず、血は流れ続ける。歴史が、それを証明している。しかし、戦をやめようと声を上げるのは必要だ、と俺は思っている。」”
北方謙三が書きたかったのは、これか、と思った。
好戦的な部族に、戦う武器を持たず、殴られ、蹴られても、話し合いを求める韓成。
何か月も何か月も。
やさぐれているように見えた韓成は、ずっと自分を許せず、認めることができなかったんだとわかる。
この先梁山泊は、今まで以上に貿易に傾いていくのだろう。
その時呼延凌(こえんりょう)率いる梁山泊軍はどうなるのだろう。
自然消滅?それとも玉砕?
どちらにしろ、歴史の表舞台から消える日は近づいてきている。