北方謙三のレビュー一覧

  • 楊令伝 十四 星歳の章

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    「上等だ。梁山泊軍は、伊達じゃねえんだ。どこの軍とやり合ったって、勝てる。そして天下を取れる」
    「意味があるのかなあ、それが」
    「なんだと?」
    「いや、私の任務は、病人を診たり、怪我を治したりすることですから。いつも、相手はひとりだけです。天下を見渡している余裕など、ありませんよ」
    「志が、あるだろう」
    「自分の場所で、懸命に闘う。志を考えれば、私がやるべきことは、それです」
    「安道全や薛永はな、最後まで梁山湖の湖寨に留まった。命を懸けて、志を貫いたのよ」
    「医師や薬師の場合、生き延びた方が、その後の役に立つ、と思います」
    「おまえ」
    「無論、安道全殿も薛永殿も、立派に志を貫かれたと思いますが」
    「ぶちのめしてやろうか、小僧」
     
    二十歩の距離で、急所に当てれば、確実に相手を殺すことができる。
    修練は、積んできた。こういう飛刀を李英が遣うことを、誰も知らない。
    李英は、板から小刀を抜いた。板はもう、穴だらけである。時には、突き通ってしまうこともあるのだ。三日で、一枚は使う。使いものにならなくなったら、焚火に放りこめばいい。
    頭を下げた。上げながら、三本打った。狙った通りのところだ。また抜き、距離を取り、頭を下げた。

    人が、故郷を思ったり、血を意識したりする年齢が、あるのだろうか、と楊令は思った。自分の故郷をどこと言えばいいのか、楊令にはよくわからない。

    「難しいことを吐いて、なんになる。冗談は冗談でいいじゃねえか、冗談に踊らされているのも、また人間さ」

    「なんのための、狼藉か訊こう」
    「誇りのため。『替天行道』の誇りのため。俺は、誇りを傷つけられた。それは、雪がねばならん。身をもって雪ぐのが、男というものだ」
    「笑止な。おまえは、串刺しになって死ぬのだぞ」
    「もとより、生きようとは思っておらん。ただ、おまえに合う機会を、待っていただけだ」
    「無駄であったな」
    「身は、鉄の板で守れよう。鉄の板では守れぬものを、おまえはなにも持っていない」
    「串刺しで、すぐ死なせるのは惜しい。命乞いをするほど、苦しみと恥辱を与えてやろうか」
    「おまえのような男に、俺の志が穢せると思うのか」
    そうだ、志に生きたのだ。不器用で、失敗ばかりした。小心で、周囲の目をいつも気にしていた。それでも、志に生きたのだ。それを見失ったことは、一度もない。
    短かった。もっと闘いたい、という思いはある。しかし死は、古い友が訪ねてでも来るように、ある日そばに立っているのだ。
    「見ておけ。これが、梁山泊の漢の、死にざまだ」

    「俺は、雷光のようだ、としばしば思うことがある」
    「へえ。俺は、自分が千里風だとは、まるで思いませんが」
    「同志みんなと駆けているはずが、なぜか遥か先行し、一騎だけで駆けている」
    四刻の疾駆のあと、のんびり歩くのが、雷光は気持よさそうだった。馬首を並べた秦容が、楊令の顔を見ている。
    「たまには、並んで駆けてくれる者がいる。それが、今日わかった」
    「はあ」

    それが、見定められたわけではなかった。ただ、感じた。感じることが、戦場では武器になる。鈍れば、斬れなくなった剣を振るっているようなものだ。

    「よく、頭領がつとまったもんだな、楊令殿。あの若さで担ぎあげられて」
    「ひとりきりだった。いまふり返ると、そう思う。同志がともにいる。いつもそう思おうとしてきたが」
    「同志はいたさ。死んでいった、梁山泊の同志がな」
    「そうだな」

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    2013年01月24日
  • 血涙(上) 新楊家将(ようかしょう)

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    楊六郎と楊七郎が楊業の跡を継ぎ、前回の大戦で痛手を負った楊家軍の再建を目指すが、大戦前の状態まで取り戻すのに相当な苦労をする。全盛期までにはまだまだ至らないが、耶律休哥に太刀打ちできるのはやっぱり楊家軍の人間だけなんだなと思った。
    上巻の最後の方は、石幻果の記憶の片隅に触れるような出来事が起こり、そろそろ記憶を取り戻すと思っていたが、記憶が戻った瞬間の衝撃は思ってた以上のものがあった。石幻果となって過ごしてきた人生が全て否定されたような、石幻果になる前の人生が否定されたような。記憶を取り戻した時の戸惑いがなんとなく解る気がする。
    今後の石幻果と耶律休哥と六郎、七郎、九妹の動向が気になる!どのように話が進展していくのか楽しみ!

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    2013年01月24日
  • 血涙(上) 新楊家将(ようかしょう)

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    楊業第四男はこういう形で登場しますか。上巻最後で記憶が戻り、さてこれからどうするのか、ってのは物凄く気になるところ。新楊家将ってサブタイトルながら、ヤリツキュウカが魅力的で、半分くらいは遼の目線で描かれているのも素敵。上下巻だけじゃなくてもっと読みたいけど、これからクライマックスにかけての盛り上がりに期待大。

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    2013年01月20日
  • 楊令伝 六 徂征の章

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    ネタバレ

    楊令伝第6巻のポイントは、壮絶な方臘の乱が終息し、いよいよ梁山泊と宋禁軍との全面対決が近づいてくる時期のこと。

    嵐の前の静けさの中で、扈三娘と聞煥章の因縁がここで甦ってくる。前記水滸伝のエピソードがここで活かされるとは驚きである。聞煥章にとって、この結末は望んで得たものではないか。

    童貫が子午山の王進を訪ねるエピソードも印象深い。戦いの最前線にいる者と、山中でひそかに己を鍛え上げる者との静かな対決。迫力がありました。

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    2012年12月22日
  • 楊令伝 十五 天穹の章

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    ネタバレ

    どうしても、東日本大震災時の津波を想像してしまい、辛くなりました。

    宣賛と武松、せつない。

    楊令なんて、悲しすぎるー。最期まで、孤独で悲しい。
    岳飛に救って欲しかった・・・。

    やっぱり北方だなあーと思う。甘く、ない。
    あーあ。
    救えなかったことも踏まえ、の岳飛伝移行
    なのでしょう。
    とっても続きが気になる終わりかたは、さすが!
    ・・・でも収拾つかなかったね。

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    2012年12月13日
  • 楊令伝 十三 青冥の章

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    終焉に向かっている感がひしひしと。
    岳飛が大変!の巻とも言えるかも。

    それにしても、焚火を囲んで語り合ってしまうって・・・
    〃漢と書いて男と読む〃だな、この人たち。

    前巻同様、李英め、余計なことするなー!と思う。

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    2012年12月12日
  • 楊令伝 十五 天穹の章

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    ネタバレ

    ついに完結。
    あまりの戦上手であり、個人戦も無敵、性格的にもあまりに完璧な設定にしてしまった主人公は、父親と同様に青蓮寺の残党の奸計によって最期を迎えるしかなかったのかもしれない。次代の好敵手として成長してきた岳飛は未だ敵わず片腕を失ってしまう。楊令の志は岳飛に受け渡されたのか?ともかくこれで長い物語が輪を閉じた。「水滸伝」の英雄たちも多くが死に絶え、二代目たちは逞しく魅力的な人物に育ってきた。この物語は次作「岳飛伝」にどのように連なってゆくのか楽しみである。

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    2012年11月22日
  • 新装版 活路(下)

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    高鳥源太と直井圭介の立ち合いがよかった。
    最後の一角と竜行の立ち合いもよかった。
    北方謙三の時代小説にはまりそう。

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    2012年10月28日
  • 楊令伝 十三 青冥の章

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    絶えず悩む岳飛。梁山泊を認めたくないと思いながら、結果は自分の方が劣っていた。そして、それを認め梁山泊の街並みを見に行く。そして、揚令達と会い語る。語りだしても相容れない二人。お互いに違いすぎる考えがある。ただ民への気持ちは二人とも変わらないのに。

    また13巻では、蕭珪材と岳飛がお互いの兵を死なせたくないために、一騎打ちをする。
    名勝負で最後に分けたのは運なのか。天命なのか。
    戦の描写が一番心躍る。本能がそうさせるのかな。

    揚令の台詞。
    「やるべきことを、やる。ひとつずつだ。それが積み重なって、国というものはできてしまう」
    何でも目の前のことを一つずつやることが大切なのだろうか。

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    2012年10月21日
  • 楊令伝 十五 天穹の章

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    最終巻を手にして読み始めるまで誰が死んでくのかどうなってくのか、怖くてたまらなかったけど、ついに読んだ~。うわあ~~~ん。
    ついに終わってしまったあ~。長かったあ~。途中で読むのにつかれてつらいときもあったけど、ホントはホントに大好きでした。

    終わっちゃった。けど大好きな史進がいなかったらここまでこれなかったかも。北方先生ありがとう~涙です。

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    2012年09月23日
  • 楊令伝 十五 天穹の章

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    ネタバレ

    こんな最終章、想像以上でした。
    呉用の覚悟、李父の暗殺、公孫正の死
    大洪水
    南宋とくに岳飛との息詰まる戦い
    金の裏切り、宣賛の死
    そして・・・

    思わずハードカバーの岳飛伝1巻を買ってしまいました。

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    2012年09月11日
  • 楊令伝 十五 天穹の章

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    楊令伝もついに完結です。 フィクションであるのは知りつつ、余りにも生き生きしたキャラクターの生死に引き込まれました。 続編の岳飛伝を文庫本で読むのは数年先ですが、待ち遠しいですね^^

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    2012年09月11日
  • 楊令伝 一 玄旗の章

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    6巻まで読んで文庫の発行が追いつかなくなったので一旦ペンディングしてましたが、全巻出揃ったのでもう一回最初から読み直し。

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    2012年09月07日
  • 楊令伝 十 坡陀の章

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    梁山泊を国にしようと長いこと戦ってきた金大堅と李俊の会話

    「梁山泊という国を、わしは見ることができた。おまえ、昔、こんなことを考えてみたことがあったか」

    「考えはしたさ。ほんとうにできると思っていたかは、別としてな」

    「そりゃ、考えたことにはならんな。わしは考えたり夢見たりしたが、ほんとうにできるとは、考えていなかった。」

    梁山泊を国とした揚令は考えたのだろう。それが夢物語ではなく、実現するものとして。自分を信じて。

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    2012年08月23日
  • 楊令伝 十五 天穹の章

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    とうとうクライマックス。今回は、最後の局面に向けてどんどんヒートアップして、って感じじゃなかったから、いったいどうやって物語を結ぶんだろ?って思いながら、ひょっとしてガクヒ伝でもまだヨーレーは登場する?とかまで考えてたけど、最後はそうでしたか。チョーガイのパターンで。異様にあっけなく思えたけど、その後、最後の見せ場としてガクヒとの一騎打ちが用意されてたから、読後感はかなり良くなった。ヨーレー→ガクヒへのバトンタッチの場面としても素晴らしいと思ったし。これでまた、次のガクヒ伝読むのが凄い楽しみになりました。
    あと、やっぱり最終巻だけあって、今回はいつも以上にたくさん逝きました…特に水滸伝からの古株、どれだけ死んだんだろ。悲しかったのはやっぱりコーソンショーとブショーで、あとリフもとうとうか…って感じでした。

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    2012年08月23日
  • 楊令伝 九 遥光の章

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    遂に揚令と童貫の決戦のとき。

    そして決戦後、揚令の思い
    「どれほどの人間が死んだのだ。それほど、死ななければならないことだったのか。」

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    2012年08月15日
  • 楊令伝 十四 星歳の章

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    岳飛伝が刊行されて、楊令伝が残り1巻になり、ここで幻王を討てという言葉が出てくるのは、寂しい気もする

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    2012年08月08日
  • 水滸伝 十九 旌旗の章

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    1巻で「えっ!?」とのけぞってからこの最終巻まで、ずーっと魂を揺さぶられ続けました。
    読み終えたのは4年前でそろそろ『楊令伝』を読むにあたり、また読み返したいなぁと思っているのですがなぜか躊躇してしまう自分がいます。
    粗筋が分かっていながらも、またぐわんぐわんと魂を揺さぶられるのが怖いのかもしれません。

    2020.9.20再々読

    『岳飛伝』を読むにあたって読み返しました。
    梁山泊そのものと言える存在でありながら、今まで茫洋として掴み所のなかった宋江が強い光を放つ最終巻。
    誰よりも弱いけど強いその姿に心を揺さぶられつつ、ここまで楽しませてもらった水滸伝の幕引きに例えようのない寂しさを感じました。

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    2012年08月03日
  • 楊令伝 八 箭激の章

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    常に激戦。

    楊令が笛の音を聞きながら
    「どこかで、俺は心を切り落とされたのだと思う。心の一部をな。それを、なんとかして取り戻そうとしてきた。取り戻せはしない。それが、わかってきた。切り落とされてなくなったところに、別のものが生まれれば良いのだ、といまは思える。」

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    2012年07月28日
  • 楊令伝 十四 星歳の章

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    いよいよ物語も佳境って感じで、各国がこぞって大きく動き出した。その趨勢ももちろん気になるけど、それよりもやっぱり目がいってしまうのは、漢たちの死に様。今回もたくさん死んでしまったけど、インパクトのあるラストシーンが多かった印象。リリツ、タイソー、カクセーの最期はインパクト大だったし、特にリリツの行為には、鳥肌立っちゃいました。
    あと一巻。どんな大団円が待ち構えているんでしょうか。

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    2012年07月25日