桜木紫乃のレビュー一覧
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昭和54年、銀行で起こった立てこもり事件で4人を殺したのち射殺された男は、自分は異常ではないという言葉を残した。犯人死亡によりその動機も何もわからない事件を掘り下げる取材を行う新聞記者の海原は、犯人の花川と同い年。その世代独特の生きづらさに共感しつつも、なぜ花川が凶行に至ったのかを追求するため、花川の半生を深掘りしていく。重厚な読み心地の作品です。
実際にあった事件を題材にした物語ですが、大きな事件であるにもかかわらず事件自体についてはほぼ語られていません。あくまでも主題は花川の人生であり、しかし彼の動機がいったい何だったのかということも謎のまま。読者の想像に委ねられている印象が強いです。
戦 -
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1979年、大阪で起きた「三菱銀行人質事件」。犯人は行員・警察官の4人を射殺し、裸にした女子行員を人間バリケードにして42時間立てこもった末、突入した機動隊によって射殺されます。本作は、事件後、犯人像を明らかにすべく新聞社の記者たちが、犯人の生い立ちから犯行に至るまでを調査する姿を描いたフィクションです。
なお、本書のタイトル『異常に非ず』は、犯人が語った「オレは精神異常やない。道徳と善悪をわきまえんだけや」という言葉に由来し、作中に登場するノンフィクション本の題名でもあります(実際に出版された書名は『破滅―梅川照美の三十年』)。
どうもこのタイトルに引きずられ、本作の主人公は犯人・花川清史( -
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釧路の高校を卒業してすぐ、年の離れた男と駆け落ちした順子。
彼女はいつだってひたむきで、時に危ういほど直情的に突き進み、そして今、貧しさのなかで「とても幸せだ」と言う。
この物語の凄みは、順子本人の波乱万丈さ以上に、彼女と交わり、揺さぶられていく女たちの「様々な生き様」のリアルさにある。
順子の眩しいほどの「幸せ」に触れたとき、彼女たちの心に去来するのは、純粋な祝福だけではない。羨望、蔑み、嫉妬、自己嫌悪、そして自身の抱える生活の歪み…。
順子というひとつの強い光によって、彼女たちの隠したかった孤独や葛藤が、容赦なく照らし出されていく。
満ちては欠け、時に歪んだ軌道を描く月のように、彼女たち -
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大変な労作で面白かった。
あの異常犯罪の犯人の「真実」の物語ではない。もちろんノンフィクションを下敷きにしたフィクションなので「真実」には辿り着けない(辿り着かない)のは当然ではあるが、主人公は犯人の母と、情人と、取材する記者たち。
社会に媚びる生き方しかできなかった人間が社会に復讐をする、という大きな骨組みの上にに、母の情、愛人としての情、そしてその情にこそ真実が隠れていると迫る記者の思いが物語として語られる。
息も継がせぬ勢いで様々にゴツい情念が次から次へと現れて、それを書き切った筆者の凄さに感服するとともに、作者の世界観を顕現させるのに「良いネタ」を見つけたなあ、と思ったのが正直なとこ -
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ネタバレ桜木紫乃氏、「ホテルローヤル」「蛇行する月」を読み、筆力のある作家、と思っていました。さて税込2,750円の長編、どんな本に仕上がっているのか…
題材は、昭和54年、1979年に起きた、銀行人質立てこもり事件。当時私は高校生か…この事件、テレビ中継や新聞報道で内容を知ったはず。Focus、Fridayが創刊するのは1980年以降で当時はまだ存在していない。
本書では事件そのものにほとんど触れない。焦点は、犯人の花川清史の母、内縁の妻、の目線を主に、なぜこの男が犯行に至ったのかをゆっくりと描き出す。
作中、描き出す側としてこの事件のノンフィクションをまとめる記者とその上司も重要な登 -
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ネタバレ釧路の高校で同級生だった女性たちのその後の人生を追う小説。
それぞれの章が清美、桃子、弥生、美菜恵、静江、直子と全6章から構成されているが、いずれの話にも登場する『順子』という女性がいる。この『順子』が主人公の章は無いのだが、それぞれ物語の話題として登場するのだ。
順子は高校卒業後に就職した札幌の和菓子屋の20歳も上の旦那の子供を孕んでしまい、東京に駆け落ちするが、彼女はどんな貧乏な貧相な状況でも『私は幸せだ』と言い切る。
6章のうちの4章(清美、桃子、美菜恵、直子)は順子の同級生。
残りの2章、弥生は和菓子屋の捨てられた妻であり、静江は逃げた順子の母親の立場での物語。
人はいま自分が幸