シリアスな人間ドラマでありミステリであり、素直に面白い小説だった。
とある事情により幼い頃から知っている、父親ほどの年齢のラブホテル経営者・喜一郎と結婚した女・節子。彼女は元上司である澤木と結婚前から交際していて、結婚後も途切れてはいなかった。
夏のある日喜一郎が交通事故に遭い昏睡状態に陥る。看病
...続きを読むが続く日々の中、節子は短歌会の仲間である倫子が抱える家庭の事情に巻き込まれる。
そして喜一郎の事故から数日後、節子の実家であるスナックで爆発事件が起き、一体の女性の遺体が発見される。
“身体は繋がっても、心が繋がることはない”そういう孤独が漂う小説。
節子はその生い立ちから気が強く男に頼ることはない性格で、人と群れることを好まず、どこか醒めている。
澤木はそんな節子に惹かれて、彼女が結婚した後も彼女の助けになりたいと思い続けているのに、芯の部分では通い合うことが出来ない。身体では求め合って繋がっても、節子の本心はいつまで経っても見えない。
一歩踏み込むことを躊躇うのはお互いを思うからなのだけど、その一歩の足りなさが二人の大きな距離になっているのが切ない。
様々な面倒事に巻き込まれた後、節子がした選択。起こした行動が、ミステリの大筋になっていく。
肉欲、暴力、嘘、怨恨、様々な想いが渦巻いているのに作品自体の温度は低い。
実家がラブホテルだったという作者の桜木さんが、ラブホテルという場所に対して思うこと(恐らく)が登場人物の言葉を介して表されたりしていて、そこもまた興味深かった。
この小説に出てくる“ローヤル”というラブホテル。桜木さんが直木賞を受賞した小説も「ホテル・ローヤル」だけどまたそれとはまったくの別物らしく、次に桜木さんの小説を読むならこれだ、と思った。
節子の生き様を見ていると、女とは恐ろしい、と思う。業の塊で、欲深くて。
でもそういう部分を偽らず格好つけずに「私は私」というスタンスで生きる様はとても潔い。
そしてこの小説の中で一番恐ろしいのは、ある幼い子ども。女は幼い頃からやっぱり女なのだ。そんなことを思った。