桜木紫乃のレビュー一覧
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凍てつく北海道を舞台にした6話の短編。
どれも陰鬱としてラブストーリーなんてお気楽には言えないけれど、これは間違いなく愛の物語。
雲一つない空であっても、そこには黒く立ち込める雪雲しか見えない。そんな中で必死に生きて行こうとする主人公たちの諦めや足掻き、再出発が決して美しくはない人間くさいドラマで描かれている。
男性作家の場合…どうしても男性にとって理想の女性、こうあって欲しいという視点が否めない…男性作家さんごめんない。反して女性ならではの傷付く言葉や扱い、惨めさが現実味を帯びて胸を付く。
風土や環境はどうしたって変えられない。郷に入れば郷に従えと言うように従えないものは生きづらい。都会では -
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エッセイを読んでから、まずはデビュー作へ。
男と女の関係を描いた文学を、これまであまり読んでこなかった。それよりも物語の題材の面白さが優っていた。
桜木さんの小説を読んで、小説に男女の関係を盛り込むことは、人が生きている部分の、全部を描いていただけなのでは・・・と思った。その描写はリアルであるが、ときには幻想的だ。それぞれの人が生きていく哀しみが透けて見えた。
北海道に暮らすようになったからだろうか、気候も、時間に移ろう景色の様子も、海霧や流氷のことも、ここに出てくる人たちも、リアルに迫ってくる。その分、入り込んでしまう。他の土地に暮らしていたら、また違う印象を持つのだろうか。私が読んだ北海道 -
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あと一つ手を伸ばし、幸せを掴もうとする人達の物語。
北海道の日本海側、昼は空と海、夜は月と星しかない小さい島の診療所の医師美和。まっすぐで奔放な美和、安楽死事件をおこし、離島に飛ばされてきた。ここでも島の男性と逢瀬を重ね村人の知るところとなっている。
連作短編で、友人医師鈴音、関わる人達と話は進む。
個人的には、亮太と詩織の「おでん」が好みだった。亮太は真面目でいい人だが、女性には縁が無い。偶然目の前に詩織が転がり込んでくる。別れたのか、と思える終わりかた。が後半の連作で結ばれたことがわかる。良かった。
全体に、思わぬ方向に明るく進んだ。暗さから明るさへイメージが逆転した感が強かった。
余命宣 -
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あなたはプロポーズの台詞を覚えていますか?
その機会がまだなら、どんな台詞を言いたい、言われたいですか?
一生に一度の決め台詞。それは一生に一度だからこそ、大切な、重みのあるものだと思います。そんなプロポーズにもいろんな台詞があります。”僕と幸せな家庭を作りませんか?”、”世界中の誰よりもあなたのことを愛してます”、そして、”これからもずっと僕の隣にいてください”と、それはカップルの数だけ答えがあります。一生に一度の決め台詞だからこそ、一生忘れられない言葉で思いを伝える、それがプロポーズです。そんなプロポーズの言葉として、こんな台詞を語った男性がいたそうです。
『僕の妻になれば生活に汲々 -
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ネタバレ評価は4.
内容(BOOKデーターベース)
「東京に逃げることにしたの」釧路の高校を卒業してまもなく、二十以上も年上の和菓子職人と駆け落ちした順子。親子三人の貧しい生活を「しあわせ」と伝えてくる彼女に、それぞれ苦悩や孤独を抱えた高校時代の仲間は引き寄せられる。―わたしにとって、本当のしあわせとは何か?ままならぬ人生を辿る女たちが見いだした、ひとすじの希望。生きることへの温かなエールが胸に響く物語。
それぞれの女性は個々に精一杯生きていて・・・それはそれで良いが、順子を見てあ~だこ~だ言う神経に今一共感できず。長い年月を経て最後には皆それぞれに幸せをつかむって事なんだろうが・・・ -
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高校を卒業した後、勤めていた和菓子屋の入婿である職人と駆け落ちしてしまった順子。彼女の高校時代の部活仲間の女性4人、順子の母親、駆け落ち相手の妻だった女性の6人をそれぞれ主人公に据えた連作短編集。
駆け落ち生活は楽ではなく、生活に追い立てられる日々であるが、駆け落ち相手と息子の3人で暮らす順子は、小説の中で、自分は幸せだと、いつもはっきりと言う。順子自身が主人公になる短編は書かれておらず、そのような順子と関わりを持つ6人の気持ちを描いた小説だ。日々の暮らしが精一杯で幸せなのだろうか、と思うが小説の中では本当に幸せなのだという設定になっており、順子と接する、決して自分を幸せだとは思っていない6人 -
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なにか小説を読まねば……という焦りに駆られて本屋に赴き、タイトルを見た時「それ」ってなんだ?と思って手に取った一冊。結果、興味を持った点が物語を通じて明確に、かつ鮮やかに表現されていて楽しめた。
10~20代がメインの青春モノが好きな自分にとって、序盤の方は登場人物の年齢層からして大人向けというか好みではないかもしれないな~と思って読み進めていたけれど、中盤以降からスラスラと進めたのは作者の筆力に引っ張られたからだと思う。
ここでは内容を書かないけど、二次元を偏愛している自分にとっては笑っちゃうんだけど他人事じゃない共感ポイントを持った人物が途中で出てきて、その人を取り巻く物語を読んだ時に「こ -
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誰でも大なり小なり隠しておきたい物事があるものだ。
「墓場までもっていく」つもりの秘め事は人の頭の中、あるいは心の中にのみ容れられ、封をされ、取り出されることなく朽ちるのを待つことになる。
棄てたくても棄てられず、ただ放置するしかないもの、あたかも宝箱の中身のように大切に保管されるもの、事象によってそれは様々だとは思うが、ゆっくり風化させるという向き合い方もあるようだ。
いずれにせよ記憶にのみ留め置くことを選択した場合、関わりのある人が死んだり、忘れてしまった場合はその事象は消え去ってしまう。
消えゆく記憶に向き合って、大切に思い出し、ただもちろん口外せずに、その消せない記憶に別れを告げていく