ボリュームのある作品だったが最後まで引きつけられた。
主人公 岡本啓美は「光の心教団」の引き起こした渋谷駅での毒ガス散布事件に関わった人物として指名手配される。
逃亡を続けた17年…
設定が現実にあったオウム真理教のテロ事件に似ているが、
本作はあくまでもフィクションである。
そのぶん、物語は大
...続きを読むきくうねる。
啓美がそもそも入団したのは、バレエ講師である母の呪縛から逃れるためだった。
教団が引き起こした事件もぐうぜんその場に居合わせた啓美が首謀者 貴島についていく羽目になり、一般信者はなにも知らなかったのだ。
その場ですぐに出頭すればちがう人生が待っていたはずなのに、助けを求めることを知らない女は逃げる道を選んだ…
皮肉なものでバレエが嫌で逃げたのに、逃げるための助けになったのはバレエで培った体作りであり、時折なんの救いもなかった教団の教えが虚しくよぎる。
この物語は逃亡者 岡本啓美だけの物語ではない。
彼女を裏で支える女たちの話でもある。
みどり。啓美を助けた、父の再婚相手。
その娘 すみれ。
夫・父親からのDVを受けながらも、母子で夢のバレエの道を進めるよう入念な計画を立てて実行する。
じっくり時間をかけてDV男を社会から排除するよう仕向けていく。
それを知っても啓美は自分の実の父に同情すら浮かばない…むしろ自分と違い素質をもったすみれのこれからに期待を抱く。
鈴木真琴。啓美と貴島を匿いながら、告白本を出版しようと企てたフリーライター。
自分の身の上を貸し出して、祖母の梅乃と暮らさせた。スナックの常連たちは啓美を梅乃の孫として疑いもしない。
東京に暮らすフリーライター名のまことと連絡をとりつつ、「鈴木真琴」を生きてきた。
長い月日を経て梅乃の最後も看取り、血のつながりもない二人なのに分身のような関係が出来上がる。
あの日起こった事件で一変する。
ライターまことの狂気に震え上がる…
そしてそれに同調した真琴(啓美)も怯むことなく、やるべきことをこなしていく…
これが、逃亡を続けるふてぶてしさ、他の人間になりすまして生活する大胆さを持った人間たちなのだ。
女たちは図太く、狡猾に、堂々としている。
それぞれの人生を生きるのだ。
どんな名前になろうとも、死ぬまで人生は続く。
秘密の共有で、つながりは一層深く、
しかし、いつ裏切られるかも分からない不安。
一人では堕ちていけぬ、道連れのこの先。
これは「ヒロイン」というタイトルのダブルネーミングなのかもしれない。
ただ一人愛した男 ワンウェイ。
「片道切符」という意味にも取れる名前が、その先を暗示させる。
裏の世界に生きる者はどこまでも影がつきまとう。
ようやく世間でいうところの「幸せ」、働いて寝て食べて、となりにいっしょに生活する男がいる…そういう暮らしにたどり着いたはずなのに、まとも=ふつうの、度胸のない男では綻びは隠しきれない。
幸せの証として撮った記念写真。weddingの文字。
ラストまで読んだら、プロローグをもう一度読んでほしい。