桜木紫乃のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ北海道の雪のようにしんしんと仄暗く心に積もってくような小説だった。どの主人公もどこか暗い過去を抱えていて、読んでテンションの上がるものではなかったけど、さまざまな人生を肯定してくれる感じ。
ひとりワルツ:いつまでも恋する乙女の自分に溺れて娘のことを見れてなくて都合いい母に終始苛立ち。
渚のひと:本当に苦しくて読むのに精神が削られた。圭一は最低の息子で、両親が仕送りのために切り詰めた生活をしていることに気付けていないのも、外の豊かな生活に慣れちゃって色んな感覚が生家からズレていっているのも、本当に嫌だった。とてもリアルで、何より自分にも近しいところがあると感じてしまったから。本当に好き勝手生きてきて、倹約家な両親に今すぐ感謝しないと、と思う。
「かあさん、うちってワイングラスとか、なかったっけ」「わたしたち、普段こんな高級なお酒飲まないもの」「高級ってなんだよ。こんなワイン、高いうちになんか入らないよ」 圭一が笑いながら自分のコップに赤ワインを注ぐ。育子はそっと夫を窺った。息子が注いでくれたワインを見ている。圭一が「乾杯」と言ってコップを持った。夫婦ふたりとも、息子につられて赤ワインを目の高さに持ち上げた。
隠れ家:後段の話であさひがお店を開けたのだとわかって安心した。この小説の語り部の中でもっとも不憫なのに卑屈にならず懸命・堅実に生きていて応援したくなった。待ち続けていたのに、いなくなってしまった浩二を憎く思うけど、あさひの心の内を知って一緒にいない方がいいと判断できる浩二だからこそ、あさひは心惹かれたのかなと。だからハッピーエンドなのだと思いたい。
月見坂:クレーマーの母に苛立ち、そんな母を止めもしない無責任で無関心な晴彦にも、そしてそんな晴彦とやすやすと結婚してしまう千春にも苛立った。でもクレームも愚痴も右から左に流せる晴彦のような人がこの社会には必要だよなあ。結局母を助けたのは晴彦の人生にとって良かったのだと思う。
トリコロール:和雄の心のうちを根本的には理解することができなくて、それを分かりながら一緒にいる桐子と和雄の関係性も含めて、とても繊細なものを扱う小説だなあとしみじみ思えた話だった。自分の「性分」と向き合う桐子とやや子とのお風呂のシーンが印象的で、桐子といて初めて泣き出すやや子の生命力を、美しいと思った。
逃げてきました:主人公の巴五郎自体は嫌い。自分の立場や名声に対するプライドと欲望ばかり感じる小説だったから。でもそんな人間味ある巴だからこそ、今まで全く読めなかった千春の、内に秘めたどこか暴力的な…荒削りな一面が際立って見えたからすごいな。
冬向日葵:寒さでこちらがかじかんでくるようなお話だった。「ひとりワルツ」では見えなかった咲子の良さがよく表れている。最後まで男と共に生きる人生だったんだね。チューさんが良い人でよかった。
「咲子への、よい土産になる。」と思って受け取り、「ポケットに入れた千春の本が、忠治の体に暖をくれているようでもあった。咲子が喜ぶだろう。それしか思い浮かばない。」と本を大事に持ち帰ったチューさんの優しさが、報われなかったことが辛くて仕方ない。でもこんな生活でも仕方ないのかもと傍目でも思うような、業を抱えた2人だから、最後咲子の亡骸の隣で春を待つチューさんの姿は慈愛に満ちたハッピーエンドなのかもね。
案山子:顔から硝子の破片を取り出す千春の描写が編集者の目を通じてとても神秘的に感じて、何度もじっくりと読んでしまった。取り出した後に眠ってしまうのも。
千春の容姿で胸に触れなかったのは保徳が初めてではなかろうか。この人の欲望があくまで千春の内面や来し方に向かっていったという編集者としての純朴さが表れているようでなんとなく、安心した。このお話が、千春のモデルがどこかにいるような感覚と不思議な現実味を与えている気がして好きだった。母の死を知らずに母を頼ろうとする千春が不憫で不憫で…
やや子:このお話で終わったことで暗い小説の中に希望が灯された感じがする。「薄情」と表現されているけど「かかとの後ろには、常に道がないのがいい。」と言い切る、やや子のあっけらかんな感じが読んでてとても気持ち良い。
そしてそんなやや子を認めてくれる昭彦やその母、そして知子の存在が全部未来への希望として繋がった感じがする。
長く書きすぎた!結果的に満足度の高い小説だったな。
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ネタバレ重くて心にのしかかるが一気読みだった。
結末がプロローグにあり、読み終えてまたプロローグに戻った。誰が通報したのかわからないが、わたしはやはりシンジなのではないかと思った。
毒ガス散布事件にとどまらず、死体遺棄も、戸籍売買にも関わり、育てられない子どもも産み、罪に罪を重ねる女だと思った。どうせそう生きるのならワンウェイと一緒になってほしかった。
まことは自分から近づいたから置いておくとしても、みどりとすみれは啓美に出会ってしまってよかったのだろうか。とはいえみどりも誰の子か分からぬ子を産むような人間だから啓美と変わらぬような人なのか。当てがないといっても、みどりとすみれに迷惑をかけたくないと啓美は思っているのに、しばらく居座り続けたのはなんだか所詮そういう人間なのだなと残念だった。自分のせいで他人の一生を狂わせるかもしれないのに、それがどれほど恐ろしいことか分からないのだな。啓美本人は、母親や教団、貴島によって人生を狂わされた身だから、他人の一生を狂わせることに抵抗や罪悪感はないのだろうか。
みんなどこか必ず毒を持って生きているのだな。人間ってそんなもんなのか?
啓美は確かに毒ガス散布事件の犯人ではないが、逃げたところから始まる罪は、やはりいくら逃げても罪で、罪からは逃れられない、いつかは見つかるのだと改めて思った。そういう人間は本当の幸せは味わえないのだろう。罪の世界で生きる者同士が関わり合い、罪を止められず、罪が連鎖し生き延びるしか生きる道はないのかな。
それから、すみれの退団で花束贈呈をした鈴木ルナちゃんという子は、鈴木真琴の娘では?という感想を読んでなるほどと思った。啓美の娘だもの、バレエの素質があるのか。
桜木紫乃さんの作品にはやはり北海道が出てくるのだなと思った。物語の主格ではないのでちょっとおまけ感が否めないが。 -
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昭和54年の銀行強盗事件をもとに書かれたフィクション。犯人や家族の生い立ち、新聞記者たちの心情を描く物語
■あらすじ
北海道から大阪に赴任してきた新聞記者の海原は、ある大きな事件の取材することになった。昭和54年、猟銃をもって銀行に立てもり、警察官や行員を殺害した強盗事件。
犯人は狙撃されて事件解決はしたものの、動機や背景が明らかにならず謎に満ちた事件でだった。海原と同僚の金子は、犯人の家族や恋人に取材を続け、ノンフィクションの書籍としてまとめることになる…
■きっと読みたくなるレビュー
現実に起こった事件をもとに書かれたフィクション。昭和54年、大阪で起きた三菱銀行人質事件です。
昭和の事件史の中でも大きな事件だったため、概ね内容は知ってましたが、今回より詳しく学ぶことができました。しかし今でも事件の被害に遭った皆さんや関係者のことを想うと、ほんと胸が痛いです…
ただ同じ歴史を繰り返さないために、まず知ることが大切です。かなり重い作品ではありますが、真摯な姿勢で読むべき作品だと思いました。
本作は銀行強盗の事件自体は詳しくは語れません、描かれるのは人間です。しかも特徴的なのは、犯人の花川を深ぼるのではなく、母親のカヨ、元恋人の亜紀に焦点が当てられます。
丸ごと彼女たちの息苦しい人生が切々と描写され、その一時一時について花川との間でどんなことがあったのが描かれるのです。カヨも亜紀も、地味で謙虚に生きているように見えるんだけど、なぜこんなにも不幸をまとわせてしまうのか。少なくとも希望の火種を灯していないと、本人も周囲の人たちにもネガティブな影響を及ぼしてしまうんだと思いました。
そして事件を取材し、ノンフィクション記事を書く新聞記者、海原と金子。彼らは取材を重ねていくうちに、深く深く人間を知っていく。誇り、意地、怒り、諦め、憐れみなどといった、様々な魂の叫びを目の当たりにしてゆくのです。
新聞記者ってカッコイイお仕事だけど、とてもじゃないけど私にはできない。他人の人生を理解するってのは、とてつもないパワーが必要なんだと思いました。
そして犯人の花川ですよ、彼が母に言い放ったセリフが記憶から消えません。
「貧乏ではなく、貧乏くさいのが腹立たしい」
全て他人が悪いという恨み節。しかしプライドが高く、負けは絶対に認めないんです。物語の終盤には、亜紀に対する行動が赤裸々にされますが… 愚かとしか思えず、もう何も言うことはありません。でも怒りよりも悲しさでいっぱいになるんすよ。
とってもとっても読み応えがある作品です、ぜひゆっくり時間をとって楽しんでください。
■ぜっさん推しポイント
こういう人が歪んでしまった犯人を描いた作品を読むと、いつも思うことがあるんです。犯人は自分だったかもしれない…と。
人間誰しもたくさんの欲望や願望がある。そのために様々な行動を起こすんだけど、パワーを吐き出す方向、量、方法を間違えないというのが重要なんだよなー
本作の犯人である花川も、ひょっとすると何かをやり遂げる人だったのかもしれない。もうすこし時代が良かったら、もう少し良い友人や先生に出会っていたらと思うと… ほんと残念でなりません。 -
Posted by ブクログ
桜木紫乃『ヒロイン』毎日文庫。
指名手配犯となった主人公の女性の数奇な運命を描いた逃避行小説。
主人公の岡本啓美は何処で道を踏み外したのか、それとも単に運が悪いだけなのか。タイトルの『ヒロイン』が虚しく感じる。
岡本啓美が指名手配犯となった事件のモデルは言わずもがなオウム真理教による地下鉄サリン事件であろう。本作では事件そのものについては深く描いておらず、主人公の17年間に及ぶ逃避行に焦点を当てている。
既にプロローグで指名手配犯となっていた岡本啓美が警察に捕まることが明らかにされている。
1995年3月、東京の渋谷駅で毒ガス散布事件が発生する。実行犯として手配されたのは宗教団体『光の心教団』の男性幹部の貴島紀夫と全く何も知らずに行動を共にしていた23歳の信者の岡本啓美だった。
この日から無実の啓美の長い逃亡劇が始まる。かつてバレエ教室を主宰する母親の勧めで、バレエを習っていた啓美は母親の強制と食べ物の制限が嫌になり、叔母の紹介で『光の心教団』の信者となり、教団の建物で暮らしていたのだ。一方、啓美の父親は若い女性と一緒に暮らすと言って、母親と離婚して新潟に住んでいた。
啓美は実の父親を頼り、新潟へと向かい、父親と妻のみどり、その娘で啓美の妹にあたるすみれの3人が暮ら家で約1ヶ月の間、身を潜める。その後、啓美はその家を出て、ライターの鈴木真琴の誘いにより、鈴木真琴に成り代わり、埼玉でスナックを経営する真琴の祖母の梅乃と暮らし始める。ライターの鈴木真琴は地下鉄毒ガス散布事件を取材するために啓美の他にあの貴島紀夫を匿っていたのだ。
永住の地も見付からぬまま、家族も作れぬまま、浮き草の如く駄目な男に翻弄されながら、微かな光を求めて啓美は長い長い旅路を続ける。
本体価格1,200円
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Posted by ブクログ
桜木さんの小説を読むのは多分初めて♪
桐野夏生さんっぽいかも!
ねっとり濃くてスリリング!
読む手がとまらなかった。
オウム真理教のサリン事件をモチーフにしたのだろう作品。
1人の信者が、自身は何も知らないのに ひょんなことから実行犯に巻き込まれて逃亡することに。
そんな女の17年にも渡る逃亡生活を描いた作品。
自分は無関係だと証明する術がなくても、私ならあっさり出頭するだろうな〜。
気づけば逃亡犯になっていた啓美だけど、ある意味とても逞しい。
隠れて逃げ回るというより、静かに周りに溶け込んで当たり前に暮らすを繰り返してた啓美。
よっぽど近くにいる人でないと 意外と気づかないものなのかも知れない。
1人の半生だけど、何人もの人生を歩んだような波瀾万丈さ。
梅乃おばあちゃんとの日々が一番平穏で幸せだったんじゃないかな。
啓美の3つの後悔が悲しかった。
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Posted by ブクログ
家族だからこそ難しい……どれだけの家族がいてもそれぞれの問題がある
そして面倒事は隠し、楽しいことだけふれ回るので、周囲の人間は気づきにくい
夫婦は離婚すれば赤の他人だが、家族はずっとついて回る
社会や行政も家族は一体と思っているので、生活保護申請では、2親等くらいまでに面倒を見れませんかと聞いてくるし、同居人がいると施設にも入りにくい
また、兄弟に親の面倒をみてもらっていると、それだけで肩身が狭く何もかもに目を瞑らなければならない。そうしないと、自分の方に無理難題が降りかかってくるのを避けるために……
いつから親の介護問題や少子高齢化、老老介護などが社会的に大きく出始めたのか
解決策はなく今のところ永遠に続いていく
2024/1/3 -
Posted by ブクログ
ネタバレ桜木紫乃さん流のシンデレラストーリーだと思った。
逃亡の中、心の寄る辺になる友人達が出来て、大好きな男に出会い、大好きな男の子供を産み、愛を注ぎ守ろうとしてくれる男に出会う。
流されるように逃げ続けた主人公が最後は留まることを決める。警察に見つかったあと、どうなったのか・・・・・・自分の人生を半ば諦めたような受け入れたような主人公の覚悟の中に強い気持ちが見え、決して最悪な最後になることはないと思った。
写真館での話では「もしかしたら」「もしも」の世界線を想像して泣いてしまった。
母親との電話のシーンや「まこと」との産む産まないの会話も良かった。
桜木紫乃さんの暗喩や表現がとても好きだが、今回はストーリー重視。それでも常に読者の想像をかきたててくれる。読んでいると脳みそが文字になっていない文章や場面を常に補完する作業に勤しんでくれる。それがとても心地いい。