吉村昭のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ・あらすじ
吉村昭先生の短編6篇が収録された短編集。
うっっすらと何となく繋がりがありそうでなさそうな作品たち。
単なる現実としての生と死と、超越した視点から描かれる生と死。
・感想
星3.8くらいかな。
鉄橋の轢死したプロボクサーは自殺なのか事件なのか、ミステリー風に周囲の人間の客観的視点を書いた後に本人視点での動機と背景。
周囲の人間はあーだこーだと己との関係性から彼の死に「理由」付けしてるけど、実際は今でいう迷惑系な動機だったんだ…。
己の限界を追い求めた結果ってことなのかな。
少女架刑は死んだ少女の自意識からの一人称視点の話。
解剖される様子、家族との関係。
死後の身体が単に「物体」として扱われることは不謹慎なのか?弄んで面白半分に損壊することは勿論問題外なんだけど、出てくる登場人物が研究者として、遺体を単なる「研究対象」として扱ってる。
今の倫理観だと中々受け入れられない言動も多々あるけど、今より死が身近なあの時代なら然もありなん、なのかな。
最後に火葬されてやっと死の静けさという安らぎの中でいれると思いきや、そこには無機物の奏でる音で満たされていた。
という何とも最後まで不幸な1人の少女の一生を書いた作品だった。
透明標本は少女架刑に出てきたあの老人とは名前が違うから別人だけど、人物像的には同じ。
限界の見えた老人男性が、最後に自分にしか作れない骨標本を作る話。
てっきり病気のお母さんがその餌食になるのかと思いきや…世の中って理不尽。
石の微笑はあらすじ紹介が難しい。結局お姉さんは執着心が消え去って死神である曽根とともに死への旅に出たのかしら。
星への旅。
人生に飽きた怠惰な若者たちの自殺の旅。
辿り着いた先の貧しい寒村の人々が欠乏から選ぶ死と全てが満たされた故の無気力さで選ぶ死の違いとかメンバーの中で醸成されていく「死ななければ」という逃げられない集団ヒステリーとかが怖かった。
白い道は戦時中、帰路にたまたま道程を共にすることになった男たちの話。
主人公の境遇とか妻子を見捨てて逃げた男とそんな男への絶望を通り越した奥さんの話とか、特段劇的なストーリー性があるとかじゃない。
解説にもある「徒労感」という言葉が適切な話。 -
Posted by ブクログ
大正12年9月1日に起こった関東大震災について詳細に描かれており、天災の恐ろしさを改めて感じた。地震による被害よりもその後の火災による被害の方が大きかったんだな。当時は木造建築がひしめき合っていて、上下水道も十分に発達しておらず火災が起こった後の消火能力が低いのが原因だけど、家財道具を多量に持って行ったり一つのところに被災者が集まりすぎたりと人災の側面もあったのが意外。地震後の社会不安もどの時代でも変わらないのか。この時代に限っていえば社会主義者に対する弾圧、朝鮮併合に伴う朝鮮人からの報復に怯える社会がとてもわかりやすかった。自警団による朝鮮人虐殺、大杉栄事件など混乱に陥った人たちの精神不安が今後の日本でも起こるかもしれない。歴史からしっかりと学んでいかないと。
-
Posted by ブクログ
一作目「仇討」
天保九年からの幕末期。叔父と父親を殺害された熊倉伝十郎。藩に許可を得ての作法通りに臨んだ仇討。
二作目「最後の仇討」
慶應四年から明治十三年という幕末から維新年間。周囲の反対を避け少年期から惨殺された父母のために密かに抱いた臼井六郎の仇討の道程。
約35年間の違いのある二件の仇討。
社会や法が変化しても葛藤や挫折を繰り返し仇討というものに臨む日本人の変わらない姿があった。日本人が長い江戸期に積んできた美徳というものは、一瞬一瞬に訪れる社会や法の変化では変えられない根強いもののように感じた。
さすが吉村昭と感服させられるような、歴史的事実をまざまざと感じられ、考えさせられる一冊。
-
Posted by ブクログ
高松凌雲の伝記。久留米に生まれた凌雲は医師となり徳川昭武らと共にパリの万国博覧会へ参加する。そこでパリにある神の館と呼ばれる病院を見学し、貧富に関わらず治療を行っていることに感銘を受ける。フランスで西洋医学を学ぶ中、日本では慶喜が大政奉還し変革の時期を迎える。凌雲は帰国後幕臣として戊辰戦争に参加し、榎本武揚らと共に箱館へ行き官軍と戦をする。凌雲はフランスで培った医術で多くの戦病者を治療することとなる。官軍が勝利したことで病院内に官軍が侵入し敵側であった傷病者を殺そうとするが凌雲は戦争において傷ついた兵士は敵味方関係なく手厚く扱うという西欧の考えに基づき患者の殺生を止めるよう説得する。官軍である村橋、池田は凌雲の意見に賛同し敵であった患者たちへの治療をするよう指示した。箱館戦争後、凌雲は町医者として活動しさらにパリで見た神の館のような活動をしようと動き同愛社を設立する。
彼のような志で医学を行うべきだな。ある意味日本の近代医学の礎を築いたようなもの。箱館戦争での榎本率いる海軍の拙さが酷いね、多くの軍艦を戦ではなく航海中に座礁させたりして結局2艘しか残らなかったから、当時の船の扱いはレベルが低かったんだろう。