吉村昭のレビュー一覧

  • 新装版 赤い人

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    北海道開拓に働いた囚人達の記録。
    北海道のインフラ開発が多くの人の犠牲の上にあったことを思い知る。
    囚人を人とも思わないような扱いの残酷さ。こういう感覚の麻痺はどの時代でも、どこにでもある。なぜだろう。

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    2024年02月25日
  • 三陸海岸大津波

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    もともと1970年の本だが、私が読んだのは2004年の再文庫化版。

    東日本大震災により津波の恐ろしさに対する認識は一挙に改まったが、別に過去に恐ろしい津波の被害がなかったわけではまったくない。1896年の津波は死者約2万6千名、1933年の津波は死者約3千名、1960年のチリ地震津波は死者約100名。チリ地震津波は規模が小さいとはいえ、警報や堤防などの対策により津波の被害を軽減できているようにも見えたのかもしれない。しかし2011年の津波は1896年に匹敵する犠牲者を出した。それを踏まえて読むとあらためて慄然とする。

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    2024年02月02日
  • 破獄

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    この夏、知床旅行をした際に網走監獄博物館に行った。庭は整備されて沢山のハーブが咲き天気に恵まれた事もあり写真映えする所だった。
    しかし、130年前の網走刑務所の建物、歴史は囚人、看守共に過酷な環境であったと博物館の記録で知った。そこで、脱獄を重ねた白鳥由栄をモデルにした小説がある事を知り本書を読む事にした。
    読み進めると、博物館で観た当時の模型や映像などが頭をよぎる。そして最後は模範囚となる話に引き込まれた。
    網走監獄博物館に行ってから読むか、行く前に読むか、取り敢えず、旅に一味加えてくれる小説であった。

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    2023年12月09日
  • 幕府軍艦「回天」始末

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    戊辰戦争において、北海道で新政府軍と戦いを続けた榎本武揚の旧幕府軍。彼らの主力というか強みは海軍にあり、その中の一隻が表題にある「回天」。始末とあるのは、榎本海軍の始末ですね回天一隻の話ではなく。その回天の一世一代の見せ場が「宮古湾海戦」。

    海軍主力だったはずの「開陽」が箱館攻略中に座礁沈没してしまったのが、ケチのつきはじめという気がします。そして、戦争している以上仕方がないとはいえ、無謀な出航が多かったようにも感じました。榎本海軍の作戦行動において、十全とは言わないまでも、全うしたのは回天だけなような気もしてしまう。天地人のうち、天を味方につけられなかった。これでしょうか。
    「甲鉄」が新政

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    2023年12月06日
  • 吉村昭の平家物語

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    ネタバレ

    刀剣乱舞好きなので、お勉強に…と思って読みました。
    だいぶ時間かかった。
    平家万歳!の話と思ってたんですが、平家が滅びてく話なんですね。
    あと誰がどっちの勢力なのかよくわからずページ戻って確認してました。
    ところどころ大河ドラマや学生時代どっかで聞いたなーみたいな話がありました。
    大河ドラマの影響で頼朝あまり好きじゃないんですが、やっぱり嫌いでした。
    なんて疑り深い人と思いました。
    ついでに梶原景時が嫌いになりました。
    解説で最初子供向けに書かれてたとあって、これ子供向けなんだわー…と思いました。

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    2023年11月03日
  • ニコライ遭難

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    読み切れるだろうか、と挫折前提でページをめくり、気づけばラストまで到着。吉村昭さんの本は毎度そのパターン。
    日本史で確かに知ってはいた、大津事件。
    それをタイムマシンで遡り、透明人間になってその場にいたかのような気にさせてくれる。
    お蔭様で、まるで体験したかのような気持ちに。
    艦船に乗り、桜島を眺め、人力車に乗り、琵琶湖を眺め、サーベルが振り下ろされるのを見て、眠れぬ天皇を見て、司法の誇りを感じ、北海道の刑務所の寒さを感じ、上野の小さな墓の前に立つ。
    読めてよかった。ニコライの最期も哀しい。

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    2023年10月04日
  • 冬の鷹

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    吉村昭さんのお蔭で、知らなかった、知っておくべき過去の有名無名の偉人の業績、人生を知ることができて本当に嬉しい。有難い。
    タイムスリップして、透明人間になって、その場にいたような気になれる文章が好き。
    ターヘルアナトミアを前に、絶望する前野良沢や杉田玄白の姿が見える。孤独、名声、期待、失望、怒り、悲しみ、喜び、安堵。
    彼らの生きた時代の空気を感じられた気がする。
    読めてよかった。

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    2023年09月23日
  • ニコライ遭難

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    明治時代に起こった大津事件に関する小説。
    大国ロシアの動向を気にすることで、行政府と司法府とが対立。
    両者は近代国家形成期の愛国心を違う観点から共有していたため対立することとなった。
    その後の日清戦争〜第一次大戦までの両国の動き、関係者のその後が物悲しい。

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    2023年09月18日
  • 彰義隊

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    戊辰戦争で朝敵となった皇族がいた。
    二十代前半の若さで、先の見えない中で奔走する宮と彼を守ろうと供をする人々の苦難。
    和宮との婚約を破棄させられた有栖川宮熾仁親王の怨念。
    日本史を学んでても、ほとんど理解していなかったあたりの歴史を、この機会に学び直すことができた。
    幕末に生きた方々のお蔭で今がある。感謝。

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    2023年09月08日
  • 大本営が震えた日

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    八月は日本の戦争の本を読む。

    昭和16年12月1日の御前会議でアメリカ、イギリス、オランダとの開戦が決定され、奇襲に向けての準備が秘かに開始された。
    12月8日の宣戦布告と同時に真珠湾奇襲とマレー半島上陸を成功に導くためにはそれまでの一週間の軍事行動を絶対に察知されてはならず完璧な秘匿が命ぜられた。
    そんな中で作戦を伝達する極秘命令書を持った将校が乗る飛行機が中国領内で行方不明に・・・。

    最初はミステリー仕立ての小説のようにハラハラドキドキの展開だが、すべては緊迫の一週間における日本軍に起こった事実の記録。
    エトロフ島単冠湾に集結した連合艦隊が秘かにハワイを目指すその緊迫感や、タイ国境マレ

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    2023年08月15日
  • 冷い夏、熱い夏

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    肺癌で死にゆく弟に告知をしないで隠し通し、見送った記録。
    時代を感じる。
    麻酔の打ち過ぎで廃人のようになった母の記憶。
    何度も持ち直し、疲弊する妻や付き添い人。
    死ぬ、死なない、死ねない、死なさない、死にたい、死にたくない。
    死生観を問われる小説。

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    2023年07月29日
  • 星への旅

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    死後解剖される少女の視点で描かれる、「少女架刑」。
    集団自殺を図ろうとする少年たちの姿を描く「星への旅」。
    透明標本づくりに熱中する男性。
    ありありと情景が浮かび、最後まで読み進めてしまう筆力に毎回圧倒される。
    また、戦争体験をされた方の文章にも触れておかねばという気にさせられる。

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    2023年07月28日
  • 島抜け

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    ネタバレ

    新橋の古書市で購入。
    吉村昭さんは肌に合うというか、するする読める。そして描写が秀逸。
    講釈を生業とした者が、その内容から幕府の怒りに触れ、種子島に島流し。
    そこでの生活と、島抜けしてから。
    ラストはモヤモヤ。

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    2023年06月22日
  • 花火 吉村昭後期短篇集

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    吉村氏の後期短編集。

    日常の中に淡々と描かれる死と別れ。
    一切の無駄を削ぎ落とし、テーマは重いが構える事なくスッと入り込める。

    「船長泣く」でグッと掴まれ「見えない橋」で救われる思いであった。

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    2023年06月16日
  • 光る壁画

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    胃カメラが日本で開発された様子が描かれる。
    途中苦労はあったものの、順調に開発は進んでいく。
    開発者の夫婦関係も興味深かったが、こちらは虚構らしい。

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    2023年06月10日
  • 三陸海岸大津波

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    短いが、明治・昭和と数回起こった津波の暴威を克明に纏めた一冊。
    作者の無感情な書き方が、津波を前にした人間の圧倒的な無力さを伝える。
    もう少し表情のあるドキュメンタリーが好みだが、3.11以降の日本にとってこの入りやすいボリューム感は大事かもしれない。

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    2023年05月23日
  • 破船

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    起こったことを丹念に積み重ね、感情を押し殺した文体。飽食の今では考えられない、食料事情。母のことば「人間には、心のたるみが一番恐ろしい。」
    「物というものは、いつかはなくなる。恵まれている時にこそ気持をひきしめなければ、必ず泣かねばならぬようになる」
    そうは言っても、知らないことは不幸な事でもあり、感染症は防げない。平穏な幸せは長くは続かない、ドラマも、人生も。

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    2023年05月05日
  • 破獄

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    実話に基づく小説。生涯で4回の脱獄を成功させた佐久間。中には、かの網走刑務所も含まれる。特製手錠を解錠したり、3.2メートル上の天井窓を破って逃げるなど、どのような技を使ったのか、興味深い。
    戦争の経過に伴う日本の状況と刑務所事情の厳しさが背景にあり、囚人よりも看守の大変さに驚いた。看守、所長より何枚も上手の佐久間。そんな佐久間に破獄を断念させたのは、厳重に拘束するよりも人間らしく尊重して扱う事だった。
    これほどの知恵と忍耐力があれば、まともに生きれば、何でもでき、大成功しただろうに、勿体無い。
    でも破獄にしか用いられなかったからこそ、この物語を面白く、彼をさらに魅力的にしている。

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    2023年05月02日
  • 破船

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    ネタバレ

    戦慄の感染症パニック時代小説(なんだそりゃ)。長引くコロナ禍に読み、ぞくぞく。
    最近、近未来のディストピアっぽい小説を読んでたけど、昔の貧しい時代の方がよっぽど地獄だなと思う。

    惜しむらくは、農村にしては口調が農民ぽくなくて、ちょい違和感が。昔の農民や侍の語り口とか、知らんけども。
    あと、最後にいろいろ種明かしする老人いたけど、そんな詳細に覚えているならもっと早く気付くのでは?と思ったり。

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    2023年04月22日
  • 天に遊ぶ

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    ネタバレ

    平瀬は犬が好き嫌い言う問題ではなく、綾子がその犬とあたかも一体化したように生活していることに、深い戸惑いを覚えている
    無言で自分を見下している警察官の眼の光に、私は不審者として疑われているのを感じた
    私は、気持ちの赴くままに10枚を限度にした短編を書き続け、十枚以下のものも書いた
    ここに収録された二十一篇には、男女の不可思議な邂逅、夫婦や家族の絆、友人とのつながり、などなど、様々な人間関係が開かれていて、それを通して人生の断面を垣間見ることができる

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    2023年04月13日